2016.12.19
ECサイト業界研究 Web Designing 2017年2月号
ECの動画ブランディング:ECに動画は必要不可欠なのか?
「動画の時代が来る!」と言われ続けて久しい昨今。いよいよ、本当にそんな時代が幕を開けようとしています。それは、技術的な環境の側面もありますが、スマートフォンおよびSNSのユーザーの行動自体が大きく変化してきているのが大きな要因です。ECにおいても、そんな「動画ファースト」な状況の中で、いかにブランディングをしていくかが今後の勝敗を大きく分けることになるでしょう。
動画の現状
ECにおける動画ブランディングについて語る前に、まずは2016年の特筆すべき動画関連の動きを見てみることにします。
ロイターは11月7日、「交流サイトの米Facebookは7日、放送局や出版社、オンライン出版社など50社と提携し、米大統領選のライブ動画を配信すると発表。ビデオストリーミング・サービス『Facebook Live』の人気を盛り上げるのが狙い」と伝えました。提携各社がそれぞれ全米50州のうち1つの州を受け持ち、8日に15分間のライブ動画を配信するというものです。このように、FacebookやTwitterは、ユーザー数やサービスの利用を押し上げる手段としてライブ動画サービスに力を入れています。
また、2016年はYouTuberがフィーチャーされた年と言っていいでしょう。はじめしゃちょーやHikakin、Kan&Aki'sは億単位で収入がありますし、私の知り合いで、小学校4年生の女の子がなんと今年だけで4,000万円も稼いだのです。
「PPAP」で一気に人気になったピコ太郎はいったいいくらの収入になるんだろうと考えてしまいます。YouTubeには「Content ID」という仕組みがあり(1)、アップロードされた動画をスキャンして同じコンテンツだと判断されると、コンテンツ所有者は自分の Content ID と一致するコンテンツに4種類の対応策を取ることができます。
このContent ID というシステムを利用して、非常に簡単に自分のコンテンツを管理することができるようになりました。このため、世界中の人がPPAPを歌い、さらにはトランプ次期米大統領の孫がピコ太郎の曲を大熱唱したことがニュースになったりして、世界中で拡散されたため、ピコ太郎の収入はとんでもない額になるだろうと思います。
一方、Facebookも前述のとおり動画には非常に力を入れており、2016年の同社のカンファレンス「F8」でもリアルタイム動画サービスのFacebook liveや360度カメラ対応などのサービスを発表しています。
YouTubeでもFacebookでも拡散する仕組みがあるので、この状況を考えれば、企業が動画を制作して拡散したいと思うことは当然であり、Googleが開発したコンテンツIDの仕組みがあれば、CMで大金をかけて制作したコンテンツでも著作権を守ることができるため、安心して動画をアップすることができる環境が整ってきました。
動画のメリット
動画の一番のメリットは、文章や画像では表せられないこと、つまり動きやニュアンスなどといったものをユーザーの視覚、聴覚に訴えて説明することができて、伝えたいことを伝え、ユーザーに意識付けをすることができるというところでしょう。例えば商品のレビューや口コミが文章で書かれているよりも本人が商品を動画で紹介していれば、信頼できるコンテンツとなりやすくなります。
「これからは動画の時代が来る」と言われてかなり久しいのですが、コンテンツIDで著作権が守られるようになり、各SNSで拡散しやすくなったため、安心して伝わりやすい、信頼できるコンテンツとして、動画がユーザーにとって大事な要素になったことは間違いないでしょう。
動画とSNS
ECにおける動画マーケティングで現在欠かすことができないのは、SNSでの配信です。現在のSNSの利用率と利用者数を見てみると(2)、延べ人数で約2億人が日本国内でSNSを利用していることになります。そして、動画だけに絞ったデータをみると(3)、SNSで動画を見ている人は延べで1億5,000万人もいることになります。
しかし、(株)JTB総合研究所の最新データを見ると(4)、SNSの利用について調査開始以来初めて減少(2015年44.8%→2016年37.9%)しています。Instagramは増加、Facebook、Twitterは減少傾向と言えます。SNSは「交流ツール」から「情報ツール」へと変化の兆しが見られます。また、「昔の知り合いとつながり再び交流するようになった(20.2%→15.2%)」が減少し「SNSで知った情報でいいと思ったものを購入した(11.6%→14.0%)」は増加となっています。
つまり、SNSはつながりから情報収集の場へ変わりつつあり、その中のコンテンツも比較的動画が見られているのです。これは非常に大きな市場が形成されていると見ていいでしょう。この状況下で取扱商品情報をSNSで配信しない理由はありません。では、どのようにSNS上で動画を活用し、自社ECのブランディングを図ればいいのでしょうか。
動画のブランディング
ECでも大切な要素の一つであるブランディングは、基本的に自社のコンセプトに沿っている必要があります。品質を謳っているのに安いコストを意識した動画が出たらユーザーは「?」になってしまいますよね。
ブランディングで一番大切なことは、自社および取り扱い商品が「◯◯の会社」「◯◯の商品」「◯◯のサービス」とたった一言で言えるかどうかになります。ちなみにJECCICAは「相談できる」をコンセプトにしてブランディングしています。
このブランディングについて、BrightRoll社は発表しているデータを見ると(5)、「視聴完了率」「コンバージョン」に次いで、「ブランドリフト」が重要指標として挙げられています。
ランディングページや商品ページで、そこに動画を取り入れるとアイキャッチ力や情報伝達力が上がるため、クリック率やコンバージョン率が上がると考えられていますが、動画はストーリー訴求力に特徴があるため、ブランディング施策としての動画広告活用にも注目が集まっていると言えます。では、ECでブランディングを行うとすれば何がいいのでしょうか? それは商品企画の舞台裏の光景、商品発表イベントをそのまま見せる、お客様の事例などを見せる動画が考えられます。
ここで、Facebookにアップした動画のデータを見てみましょう(6)。ある建設関係会社による、Facebookにおける動画を使ったプロモーションインサイトデータを見てみます。
3秒以上と10秒以上を比較してみると、3秒以上が2,558回再生で10秒以上では1,168回と約半分の再生回数になってしまいます。いかに最初の3秒が大事ということがわかります。そして、この動画は有料広告をかけているのですが、ページへのいいね!は747、リーチは45,346、ページのいいね!の単価は20円、リーチ単価は3円、広告費は11月23日までで1万4,936円で今も継続しています。今までのオンライン広告を考えてみたらかなりの効果だといえるでしょう。
さらに、Facebookでは「コールトゥアクション」という、広告を見た人に特定のアクションを促すボタンを設置することができます。動画がループ再生される場合も、動画にコールトゥアクションボタンが追加されます。動画の目的によってアクションボタンを変更でき、Webサイトへの誘導、Webサイトコンバージョン、アプリのインストール、アプリのエンゲージメント、近隣エリアへのリーチなどが可能です。ただし、30秒を超える動画はループ再生されません。動画の再生が終了すると、再生ボタンとともに動画のサムネイルが表示されるようになっています。
見せ方にもよりますが、SNSでの動画で大事なことは最初の入り口である3秒でユーザーの関心を引き寄せ、次へのアクションをどうしてほしいのかという出口の目的を明確にしておくことが必要です。
動画の有無で勝ち負けが決まる
Facebook社CEOのマーク・ザッカーバーグ氏は最近の決算発表で「Facebookはすべてのアプリを『動画ファースト(video first)』にしていく」と明言しています。また「誰もが簡単に動画で表現できるような新たなツールを開発している」とも述べています。
つまり、SNSで拡散したいと考えているECを行っている企業やお店からすれば、画像よりも動画にせざるを得ないという状態になっているということです。
もちろん、ストーリーをしっかり考えて動画の制作会社に依頼するのもよいでしょう。プロのつくった動画は素人がつくった動画よりも見やすく、伝わりやすいです。しかしながら、動画をつくったことがない方がいきなり動画の制作会社に依頼するのはオススメできません。それは動画をどうつくるのかがわからないからです。まずはスマホで動画を撮ってYouTubeやFacebookなどにアップするところからスタートすることをお薦めします。
動画は伝わりやすく、企業の信頼性を訴えるにちょうどよいツールと言えます。逆に言えば、動画の活用方法を知らなかったばっかりにブランディングが失敗することも考えられます。
これを防ぐには、自らスマホで撮影した「ぐらぐらして下手な動画」でもいいので、そこにある臨場感を伝える「本当の本物」であるコンテンツということが実は重要なのです。
動画をコンテンツとして見せる必要が出てきました。動画がないECサイトは見られなくなるために、集客が今後厳しくなり、動画のあるECサイトとないECサイトではコンバージョンも変わってくると十分予想できます。