ECの動画ブランディング:ECに動画は必要不可欠なのか?|WD ONLINE

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ECサイト業界研究 Web Designing 2017年2月号

ECの動画ブランディング:ECに動画は必要不可欠なのか?

「動画の時代が来る!」と言われ続けて久しい昨今。いよいよ、本当にそんな時代が幕を開けようとしています。それは、技術的な環境の側面もありますが、スマートフォンおよびSNSのユーザーの行動自体が大きく変化してきているのが大きな要因です。ECにおいても、そんな「動画ファースト」な状況の中で、いかにブランディングをしていくかが今後の勝敗を大きく分けることになるでしょう。

動画の現状

ECにおける動画ブランディングについて語る前に、まずは2016年の特筆すべき動画関連の動きを見てみることにします。

ロイターは11月7日、「交流サイトの米Facebookは7日、放送局や出版社、オンライン出版社など50社と提携し、米大統領選のライブ動画を配信すると発表。ビデオストリーミング・サービス『Facebook Live』の人気を盛り上げるのが狙い」と伝えました。提携各社がそれぞれ全米50州のうち1つの州を受け持ち、8日に15分間のライブ動画を配信するというものです。このように、FacebookやTwitterは、ユーザー数やサービスの利用を押し上げる手段としてライブ動画サービスに力を入れています。

また、2016年はYouTuberがフィーチャーされた年と言っていいでしょう。はじめしゃちょーやHikakin、Kan&Aki'sは億単位で収入がありますし、私の知り合いで、小学校4年生の女の子がなんと今年だけで4,000万円も稼いだのです。

「PPAP」で一気に人気になったピコ太郎はいったいいくらの収入になるんだろうと考えてしまいます。YouTubeには「Content ID」という仕組みがあり(1)、アップロードされた動画をスキャンして同じコンテンツだと判断されると、コンテンツ所有者は自分の Content ID と一致するコンテンツに4種類の対応策を取ることができます。

01 YouTube「Content ID
YouTubeでは、コンテンツ所有者に対し「Content ID と一致する音声をミュートする」、「閲覧できないよう動画全体をブロックする」「動画に広告を表示させて動画を収益化し、場合によってはアップロードしたユーザーと収益を分配する」、「その動画の再生に関する統計情報を追跡する」と言った対策を打てる機能を提供しています

このContent ID というシステムを利用して、非常に簡単に自分のコンテンツを管理することができるようになりました。このため、世界中の人がPPAPを歌い、さらにはトランプ次期米大統領の孫がピコ太郎の曲を大熱唱したことがニュースになったりして、世界中で拡散されたため、ピコ太郎の収入はとんでもない額になるだろうと思います。

一方、Facebookも前述のとおり動画には非常に力を入れており、2016年の同社のカンファレンス「F8」でもリアルタイム動画サービスのFacebook liveや360度カメラ対応などのサービスを発表しています。

YouTubeでもFacebookでも拡散する仕組みがあるので、この状況を考えれば、企業が動画を制作して拡散したいと思うことは当然であり、Googleが開発したコンテンツIDの仕組みがあれば、CMで大金をかけて制作したコンテンツでも著作権を守ることができるため、安心して動画をアップすることができる環境が整ってきました。

 

動画のメリット

動画の一番のメリットは、文章や画像では表せられないこと、つまり動きやニュアンスなどといったものをユーザーの視覚、聴覚に訴えて説明することができて、伝えたいことを伝え、ユーザーに意識付けをすることができるというところでしょう。例えば商品のレビューや口コミが文章で書かれているよりも本人が商品を動画で紹介していれば、信頼できるコンテンツとなりやすくなります。

「これからは動画の時代が来る」と言われてかなり久しいのですが、コンテンツIDで著作権が守られるようになり、各SNSで拡散しやすくなったため、安心して伝わりやすい、信頼できるコンテンツとして、動画がユーザーにとって大事な要素になったことは間違いないでしょう。

 

動画とSNS

ECにおける動画マーケティングで現在欠かすことができないのは、SNSでの配信です。現在のSNSの利用率と利用者数を見てみると(2)、延べ人数で約2億人が日本国内でSNSを利用していることになります。そして、動画だけに絞ったデータをみると(3)、SNSで動画を見ている人は延べで1億5,000万人もいることになります。

02 国内のSNSの利用率と利用者数
SNS利用者は国内で約2億人。その中でもLINEとTwitterのユーザーが多いのはかねてからの日本の特徴です
デジタル市場調査のコムスコア 日本の動画サイト利用動向(2016年4月版)
03 国内・ユニークビューワーランキング
SNSの利用者が約2億人なのに対し、その中で動画を見ている人は1億5,000万人。SNS利用者のおよそ75%が見ている計算になります
総務省「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」 (2016年8月発表)の調査結果報告書/LINEの媒体資料 (2016年10月-2017年3月)/FacebookとInstagram2016年4月に行われたFacebookのイベント内での発表数字/2016年2月に行われたTwitterの記者発表会での数字/YouTube デジタル市場調査のコムスコアより

しかし、(株)JTB総合研究所の最新データを見ると(4)、SNSの利用について調査開始以来初めて減少(2015年44.8%→2016年37.9%)しています。Instagramは増加、Facebook、Twitterは減少傾向と言えます。SNSは「交流ツール」から「情報ツール」へと変化の兆しが見られます。また、「昔の知り合いとつながり再び交流するようになった(20.2%→15.2%)」が減少し「SNSで知った情報でいいと思ったものを購入した(11.6%→14.0%)」は増加となっています。

04 SNSの利用用途が変化してきている
(株)JTB総合研究所の「スマートフォンの利用と旅行消費に関する調査(2016)」によると、「昔の知り合いと再び交流するようになった」よりも、「SNSで知った情報で購入した」という用途が目立ってきています

つまり、SNSはつながりから情報収集の場へ変わりつつあり、その中のコンテンツも比較的動画が見られているのです。これは非常に大きな市場が形成されていると見ていいでしょう。この状況下で取扱商品情報をSNSで配信しない理由はありません。では、どのようにSNS上で動画を活用し、自社ECのブランディングを図ればいいのでしょうか。

 

動画のブランディング

ECでも大切な要素の一つであるブランディングは、基本的に自社のコンセプトに沿っている必要があります。品質を謳っているのに安いコストを意識した動画が出たらユーザーは「?」になってしまいますよね。

ブランディングで一番大切なことは、自社および取り扱い商品が「◯◯の会社」「◯◯の商品」「◯◯のサービス」とたった一言で言えるかどうかになります。ちなみにJECCICAは「相談できる」をコンセプトにしてブランディングしています。

このブランディングについて、BrightRoll社は発表しているデータを見ると(5)、「視聴完了率」「コンバージョン」に次いで、「ブランドリフト」が重要指標として挙げられています。

05 米国企業が掲げる動画キャンペーンの重要指標
米国の企業が「ブランディング」の成否を判断する重要な指標を何においているかという調査によると、最も多いのが「視聴完了率(Completed views)」、ついで「コンバージョン(Conversion)」「ブランドリフト(ブランディング広告への接触グループと非接触グループの割合を比較し、後者が前者より上がったことを示す指標)」「ビューアビリティ(広告掲載インプレッションのうち、実際にユーザーが閲覧できる状態にあったインプレッションの比率)」と続きます
BrightRoll社「Key FindingsFrom theBrightRoll 2015 Advertising Agency Survey

ランディングページや商品ページで、そこに動画を取り入れるとアイキャッチ力や情報伝達力が上がるため、クリック率やコンバージョン率が上がると考えられていますが、動画はストーリー訴求力に特徴があるため、ブランディング施策としての動画広告活用にも注目が集まっていると言えます。では、ECでブランディングを行うとすれば何がいいのでしょうか? それは商品企画の舞台裏の光景、商品発表イベントをそのまま見せる、お客様の事例などを見せる動画が考えられます。

ここで、Facebookにアップした動画のデータを見てみましょう(6)。ある建設関係会社による、Facebookにおける動画を使ったプロモーションインサイトデータを見てみます。

06 建設関連ECの動画におけるFacebookインサイト(1)
有料プロモーションで一気に1日400回程度の再生へ
06 建設関連ECの動画におけるFacebookインサイト(2)
ほぼ自動再生で動画が見られています
06 建設関連ECの動画におけるFacebookインサイト(3)
圧倒的にユニーク(新規)ユーザーが多くなっています

3秒以上と10秒以上を比較してみると、3秒以上が2,558回再生で10秒以上では1,168回と約半分の再生回数になってしまいます。いかに最初の3秒が大事ということがわかります。そして、この動画は有料広告をかけているのですが、ページへのいいね!は747、リーチは45,346、ページのいいね!の単価は20円、リーチ単価は3円、広告費は11月23日までで1万4,936円で今も継続しています。今までのオンライン広告を考えてみたらかなりの効果だといえるでしょう。

さらに、Facebookでは「コールトゥアクション」という、広告を見た人に特定のアクションを促すボタンを設置することができます。動画がループ再生される場合も、動画にコールトゥアクションボタンが追加されます。動画の目的によってアクションボタンを変更でき、Webサイトへの誘導、Webサイトコンバージョン、アプリのインストール、アプリのエンゲージメント、近隣エリアへのリーチなどが可能です。ただし、30秒を超える動画はループ再生されません。動画の再生が終了すると、再生ボタンとともに動画のサムネイルが表示されるようになっています。

見せ方にもよりますが、SNSでの動画で大事なことは最初の入り口である3秒でユーザーの関心を引き寄せ、次へのアクションをどうしてほしいのかという出口の目的を明確にしておくことが必要です。

 

動画の有無で勝ち負けが決まる

Facebook社CEOのマーク・ザッカーバーグ氏は最近の決算発表で「Facebookはすべてのアプリを『動画ファースト(video first)』にしていく」と明言しています。また「誰もが簡単に動画で表現できるような新たなツールを開発している」とも述べています。

つまり、SNSで拡散したいと考えているECを行っている企業やお店からすれば、画像よりも動画にせざるを得ないという状態になっているということです。

もちろん、ストーリーをしっかり考えて動画の制作会社に依頼するのもよいでしょう。プロのつくった動画は素人がつくった動画よりも見やすく、伝わりやすいです。しかしながら、動画をつくったことがない方がいきなり動画の制作会社に依頼するのはオススメできません。それは動画をどうつくるのかがわからないからです。まずはスマホで動画を撮ってYouTubeやFacebookなどにアップするところからスタートすることをお薦めします。

動画は伝わりやすく、企業の信頼性を訴えるにちょうどよいツールと言えます。逆に言えば、動画の活用方法を知らなかったばっかりにブランディングが失敗することも考えられます。

これを防ぐには、自らスマホで撮影した「ぐらぐらして下手な動画」でもいいので、そこにある臨場感を伝える「本当の本物」であるコンテンツということが実は重要なのです。

動画をコンテンツとして見せる必要が出てきました。動画がないECサイトは見られなくなるために、集客が今後厳しくなり、動画のあるECサイトとないECサイトではコンバージョンも変わってくると十分予想できます。

 

Text:川連一豊
JECCICA(社)ジャパンE コマースコンサルタント協会代表理事。フォースター(株)代表取締役。楽天市場での店長時代、楽天より「低反発枕の神様」と称されるほどの実績を残し、2003 年に楽天SOY受賞。2004年にSAVAWAYを設立、ECコンサルティングを開始する。現在はリテールE コマース、オムニチャネルコンサルタントとして活躍。http://jeccica.jp/

掲載号

Web Designing 2017年2月号

Web Designing 2017年2月号

2016年12月17日発売 本誌:1,559円(税込) / PDF版:1,222円(税込)

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企業のIT推進担当者やネット運営者に向け、ネットビジネスの課題を解決するノウハウや最新情報をお届け。徹底した現場目線とプロへの取材&事例取材で、デジタルマーケティング施策に取り組む上での悩みや疑問、課題を解決するヒントを紹介します。

2月号の特集テーマは「Web動画マーケティング」です。

「いまは動画の時代である」と言われはじめてはや数年。インターネットで見られるコンテンツのうち、動画の割合が増えてきたことは言うまでもありません。SNSはもとより、コーポレートサイトなど、目にする機会が多くなった動画は、すでにマーケティングのツールのひとつとして考えるのが当たり前になっています。とはいうものの、いまのビジネスに動画がどんなメリットを与えてくれるの? という方も多いのでは。そんな方のためにも本特集では、利益を伸ばすためのポイント、トラフィックを増やす方法、SNSやYouTubeとの連携など、ビジネスに動画を活用するための知識や方法を、費用対効果に沿った形で解説します。大手企業のマネをするのではなく、自社のビジネスにあった動画の活用方法をお伝えします。


第1部「ここだけはおさえたい! 動画マーケティングの基礎知識」

_実録「マーケティグ動画のできるまで」
実際に中小企業が動画マーケティングのプロに仕事を依頼した一つの案件について、ヒアリングから動画制作、納品、その後の分析/解析まで時系列で紹介。
動画施策の一連の流れを疑似体験してみましょう。

_やさしく解説する「動画マーケティング」
動画マーケティングについて、その考え方、ポイント、留意点などさまざまな点から、動画とマーケティングの関係についてわかりやすく解説します。

_“動画マーケティング”その背景を考える
なぜいまマーケティングに動画が利用されるのでしょうか。写真ではなく、動画であることの理由はたくさんありますが、スマートフォンの普及、それに応じた縦型動画の利用などなど、いま動画がマーケティングとして利用される背景について考えます。

_マーケティング視点で考える動画
動画をマーケティングに利用するということは、単に写真を動画に入れ替えるということではありません。動画にすることの目的は、あくまでも自社の課題を解決するためです。
課題を見つけ、それに応じたKPIを立て、PDCAを回していくという基本的な考え方が必要であることを改めて考えます。

_Facebook、Twitter、Instagram…SNSで展開する動画について
SNSで動画はどのように扱われ、いかにマーケティングに利用できるのでしょうか。各SNSがプラットフォームとして用意する動画との親和性はもとより、利用する側が知っておきたいさまざまな知識について解説します。

_Youtubeで公開する動画について
SNS同様、動画プラットフォームとして確立しているYouTube。広告としてだけでなく実際に動画を配信することで得られるメリット、マーケティングとして利用するための方法についてなど、あらかじめ知っておくべき基礎知識をまとめます。

_動画の効果を測定する方法、その考え方
動画を利用したマーケティングでは、動画つくって終わりではありません。公開した動画がどのように見られているのか、アプローチしたい層に届いているのかなど、その効果を測定しながらさらなる改善が必要になってきます。そのための効果測定について、解説します。


第2部「事例集」
_5つの事例から学ぶ、動画マーケティングの現場からの視点

コラム
_費用対効果で考える自社の動画制作(予算と規模感の相関)
_中小企業が実践すべき動画マーケティング10か条