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ECサイト業界研究 Web Designing 2015年12月号

動画コマース 近くて遠い、EC向け動画の作成・活用法

テキストや写真よりも多くの情報が伝えられる動画は、ECの世界でも注目されています。撮影機材も低価格&手軽になり、動画制作のハードルは下がったかに見えますが、ECサイトにおいて「動画で効果を上げる」成功事例がなかなか現れないのが現状です。では、効果的な動画制作はどのようなポイントを押さえておくべきなのでしょうか?

わかっちゃいるけど手が出ない!?

米国の動画専門企業Invodo社が公表した「Video commerce report 2014」の調査結果によると、ECサイトで動画を観た顧客は、動画を観なかった顧客より1.6倍も商品を購入するに至る可能性が高かったそうです。これを見ると、世の中は徐々に動画コマースの需要が高まってきていることがわかります。また、ECサイトのどのページに掲載されている動画が観られる可能性が高いかを調べたところ、製品の詳細を説明するページの動画が、トップページを含めた他のページより2倍近く高いことがわかりました。さらに、ECサイトにおける動画を62%の人がスマートフォンで閲覧しているといった結果も出ています(01~03)。

 

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01 動画視聴者と非視聴者の商品購入率
Invodo社の「Video commerce report 2014」の調査結果で、ECサイトの動画を視聴した人としていない人の購入率を比較したもの。これによると、動画を観た人は、動画を観なかった人より1.6倍も高い購入率だったという結果が出ています
http://www.invodo.com/wp-content/uploads/2015/02/Invodo-Video-Commerce-Benchmarks-Report-2014-Year-In-Review.pdf

 

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02 ECサイトの動画視聴率
同じくInvodo社の調査によると、ECサイト内における動画の視聴率は製品詳細ページが16.8%で、これは他のページ全体でも9.6%のところを大きく上回っており、購入の意思決定をするために動画を参考にしているということがわかるとしています

 

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03 ECサイトの動画閲覧環境
ECサイトの動画の62%はPCで視聴されており、スマートフォンは20%(Invodo社調査)。ただし、子ども向け商品のようにスマートフォンおよびタブレットで視聴する割合が50%というジャンルも出てきています

 

しかし、運営側にしてみると、ECにおける動画施策は期待されているものの、実際は思ったよりも活用できていないというのが正直なところではないでしょうか。TVショッピングやTV番組での紹介、CMなどで商品を紹介していることを考えると、「ECサイトで動画紹介を行えばコンバージョンが上がるはず」と普通は考えるところでしょう。ですがECサイトの店長や責任者のなかには、導入してみたもののイマイチだと感じている人が多いようです。

動画制作会社に依頼するにも費用がかかるし、かといって自分で動画をつくろうとしても、写真やテキストのように手軽に素材を用意できるわけでもなく、ある程度の知識がないとなかなか思いどおりの仕上がりにはなってくれない。その割に、効果のほどが正直わからない。では、どうすればよいのでしょうか? そこで今回は、ECサイトの動画を自分で制作、公開する際のポイントについてお話しましょう。

 

最初の3秒で勝負が決まる

ECにおける動画(動画コマース)の種類は、簡単に言えばほぼ3つに分かれます。1つ目は商品の詳細や実際の利用イメージを伝える「プロダクト動画」、2つ目は商品をご購入いただいた既存の顧客に対する「ユーザーサポート動画」、3つ目は、顧客が購入した商品についての意見や感想を語る動画「ハウル動画」です。基本はこの中から目的にあうものを考えます。

動画の種類を決めたら、構成とストーリーを考えていきます。構成といっても難しく考える必要はありません。①オープンニング、②本編、③エンドタイトル、これ以外は考えなくてOKです。ストーリーは、先述した3種類の中でどの動画をつくるのかによって変わります。本編で何を伝えるかをしっかり考えて、長くなるようであればテーマを絞った別々の動画にするのも手です。

では、具体的な動画の内容を考えてみましょう。まずオープニング。ここでは動画コマース独特の重要なポイントを押さえておく必要があります。それは顧客のECサイトでの滞在時間は非常に短く、3秒以内に伝わらなければ、サイトから離脱されてしまうということです。ECサイトで買い物をしようとするユーザーにゆっくり始まる映画を見せたら、まず間違いなく離脱します。動画コマースをやるのであれば最初の3秒、できれば最初の1秒間がとても大切。それで勝負は決まると言っても過言ではありません。とはいえ、最初は奇をてらった動画やおもしろい動画には挑戦せず、基本に忠実なものをつくり、コンバージョン率を確認するのが無難です。経験と知見を溜めてから徐々に挑戦しましょう。

本編については、参考になるデータがあるので紹介します。米国の事例でホワイトボードを使った動画、単に人がしゃべる動画、モデルが動く動画という3つのパターンでコンバージョン率を調べてみると、一番高いのはホワイトボードを使った動画でコンバージョン率が4.1%ともっとも高く、次いで人が喋るパターンが3.4%。モデルが動く動画はコンバージョン率が低くなった例もあるようです(04)。オープニングでつかみができたら、本編ではテキスト情報等も表示しながら伝えるべきことをしっかりと伝えることが大事なポイントということです。最後にエンドタイトルは、余計な情報を詰め込まずさっぱりと終わらせましょう。無理に動画素材を入れなくても、会社ロゴやエンドクレジットなどの静止画を貼り込むだけでも問題ありません。

 

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04 コンバージョンを高める動画スタイル
世界最大規模のECカンファレンス「IRCE(Internet Retailer Conference & Exhibition)」で発表されたConversion Sciences社の調査結果によると、ホワイトボードを使った動画、単に人がしゃべる動画、モデルが動く動画という3つのパターンのコンバージョン率(目的:商品購入)は、ホワイトボードを使った動画が4.1%、次いで人が喋るパターンが3.4%、モデルが動く動画は2.6%。オープニングでつかんだ後の本編では、内容を文字として表示するなどしてしっかり伝えるほうが効果があるようです
IRCE2015
Eye-Hacking Video The Video Tes3ng Secrets You Need to Know Brian Massey Conversion Sciences, LLC
 

 

これらを踏まえた全体の尺の目安は、オープニングが3秒、本編が30秒~1分、エンドタイトルが3秒。つまり全部で1分以内が目標です。長くても1分20秒ぐらいでしょう。あれも入れたい、これも言いたいなどとやっていると、いつのまにか30分の超大作になってしまった、ということはよくあります。動画で何を一番伝えたいか、よく見極めましょう。

繰り返しますが、動画コマースで一番重要なのは、オープニングの3秒です。ここで会社名を入れたり、商品名を入れるのはNGです。最初の1秒で咳き込むとか、「えー」とか言っている動画がありますが、もってのほかです。1秒も、1フレームも無駄にしてはいけません。

 

ちょっとした工夫で品質アップ

では、実際の制作について見てみましょう。構成とストーリーをつくる時、簡単な「絵コンテ」があるとイメージがつきやすくなります(05)。テロップ(文字)もこの時に決めておきます。フィリップ(説明画像)が必要であればこの段階で作成しておくといいでしょう。

 

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05 絵コンテでイメージの共有
映像の画角や登場人物の位置など、事前に簡単な絵コンテを描いて、イメージを具体的にしておきましょう。商品を中央に置くのか、人物をどちら側に寄せるのかなど絵コンテにより決定しておけば、編集時に映像が不自然につながるといったことが抑えられます

 

構成とストーリー、絵コンテが整ったら必要な素材はすべて用意しておきます。動画といえども最近ではHDで撮影・編集できますので、見せたい商品はできる限り状態のいいものを用意しておきましょう。カラーバリエーションがたくさんある場合には、バリエーションをすべて揃えた方がいいでしょう。色が白黒系の商品は、静止画と同様で、黒い物が黒くならず、白いものがハイライトで飛んでしまうこともあります。黒いペーパーや光を反射して明るさを調整(ディフューズ)できる小物があると便利です。

続いて、忘れてはならない大切な要素が、音楽です。ダラダラとナレーションを入れてしまうと、プロならともかく、素人が喋るので聞きづらいものです。ところが不思議なことに、音楽が入るだけであっという間にクオリティがアップします。著作権フリーの音楽もいろいろありますので、著作権侵害には十分気をつけて、ピッタリあうものを選んでみてください。

ストーリーができたら、撮影開始です。絵コンテどおり順番に撮影していきましょう。映画やTV番組などでは後撮りなどもやりますが、これをやると髪の毛や服装があわなくなる場合があります。順番に撮影するのがミソです。絵コンテの時に、商品や人物を中央にするのか左右に寄せるのか、アップにするのか俯瞰にするのかを考えておけば、撮影の時に迷うことはないでしょう。撮影時のおすすめは、複数のカメラで撮ることです(06)。音声もそれぞれのカメラで撮っておきましょう。

 

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06 カメラ複数台での撮影がおすすめ
ビデオカメラを複数台持っていたら、ぜひ活用しましょう。それぞれのカメラを違うアングルで設置し、同時に撮影しておくと、撮影後の編集時に映像のバリエーションを出すことができます。また、音声を同時に撮っておけば、聞こえやすく収録されている音声を選ぶことができます。ただし、カメラのメーカーやレンズによって色合いが違います。できれば同じ機種、同じレンズで撮っておいたほうが無難でしょう。特に赤色はメーカーによってかなり変わります

 

動画をデジタルで制作した場合に必ず必要なのがオーサリングです。内容にもよりますが、2分ぐらいの動画でもオーサリングに2時間や3時間かかることがあります。1カメで撮影してちょっとテロップが入るくらいならすぐにオーサリングは終わりますが、フリップやエフェクト等がたくさん入っている場合は想像以上に時間がかかります。休憩に行く前や寝る前にオーサリングを掛けておくとよいでしょう。

動画ができたら、SNSにアップしてみましょう。動画をアップロードできるサイトは多々ありますが、Google傘下だけにGoogle検索でもヒット率が有利な「YouTube」をまずおすすめします。ちなみに、動画のアップロードには非常に時間が掛かります。アップできたら動画を確認して、共有URLで本店サイトやブログ、Facebookなどでシェアしましょう。

 

オープニングは米国を参考に

最後に、一番重要だとお話してきたオープニングの映像を具体的にどのように考えたらいいかイメージがわきにくい場合は、米国の動画コマースの事例を観るととても参考になります。参考動画をいろいろ観て、自社のECサイトにあうものを考えましょう。

特に注目すべきサイトは2つ、「Joyus」(07)と「Zappos」(08)です。この2つをベンチマーク先としておけば確実でしょう。Joyusの創業者であるSukhinder Singh Cassidy氏は「ECサイトの動画はECサイト用につくるべき」と発言しているように、JoyusはもちろんZapposもコンバージョン率の向上を考えており、「オープニングの3秒で勝負が決まる」ということを非常に意識したつくりになっています。

ECサイトでの動画は今後、非常に重要になると考えられますが、単なる動画制作ではなく、ECの特徴にあわせた動画制作が必要になってきます。自分で制作するのであれば、今回の注意点に気をつけて制作しましょう。それが難しく、もし制作会社に依頼するのであれば、ECサイトの動画であることをしっかり伝えましょう。

 

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07 アパレル専門のECサイト「Joyus
動画コマースといえば「Joyous」を見るのがオススメです。すぐに説明が始まり、テロップの入れ方や音楽の入り方なども参考になります

 

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08 オンライン靴小売業「Zappos
Zapposの靴の動画を見ても、最初の3秒でオープンニングにあたる「つかみ」が終わっています。始まり方、本編のつくり方など必見です

 

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Text:川連一豊
JECCICA(社)ジャパンE コマースコンサルタント協会代表理事。フォースター(株)代表取締役。楽天市場での店長時代、楽天より「低反発枕の神様」と称されるほどの実績を残し、2003 年に楽天SOY受賞。2004年にSAVAWAYを設立、ECコンサルティングを開始する。現在はリテールE コマース、オムニチャネルコンサルタントとして活躍。http://jeccica.jp/

掲載号

Web Designing 2015年12月号

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2015年11月18日発売 本誌:1,559円(税込) / PDF版:1,222円(税込)

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