2016.08.20
ECサイト業界研究 Web Designing 2016年10月号
ECのオウンドメディア:「わさび式」記事作成法で集客力アップ!
ほんの数年前にWebマーケティングの要だったSEO(検索対策)は現在、自社をどれだけの人の目に留められるかという点に焦点が当てられてきています。最近巷で目にするキーワード「オウンドメディア」は、ECの世界でも重要な役割を担います。とはいえ、掲載する記事内容を考えつかない…という人も多いことでしょう。そんな方は、ぜひ「わさび式」で人を惹き付ける記事を考えてみてください。
ECサイトにも必須な自社発信
今号の特集テーマは「オウンドメディア」ですが、ECにおいてもオウンドメディアは非常に大切です。ECにおけるオウンドメディアの定義とは、「ECサイト側が発信するWeb上のすべてのメディア」だと私は考えています。つまり、ECサイトのトップページや商品ページ、情報ページ、メルマガなど、ECサイト側が発信する情報はオウンドメディアです。極論を言えば、商品の梱包もお客さまが見ますからメディアと言えます。今回はその中でも「集客できる&転換率のよいコンテンツを提供するオウンドメディア(ECサイト含む)」を考えたいと思います。
「オウンドメディアをつくろう」という動きの背景には、Googleのアルゴリズムがどんどん変化して、従来のSEO(検索対策)ができなくなり、検索からの集客に小手先の手段が使えなくなったということが大きな要因としてあります。また、広告からの集客でランディングページを当ててコンバージョンしていくという手段も、雑誌や新聞といったマスコミだけでなく、ネット上でのレビュー、口コミ、SNSなどの情報が非常に多くなってしまったため、単純な顧客動線だけでは購買までのファネルが長くなり、転換が難しくなったことも挙げられます。
TwitterやFacebookといったSNSを活用している方ならわかると思いますが、せっかくアップした画像や記事といったコンテンツが流れていってしまい、ネット上の資産にならないというのも背景にあるでしょう。
効果的なコンテンツのつくり方
このため、ブログやニュースサイト、キュレーションサイトといったメディアがコンテツマーケティング、つまりオウンドメディアに向いているとされています。ECサイトの商品ページはネット上の資産になるのですが、その情報を補完してくれるメディアが企業側としては必要になります。商品完成の背景や、その企業のブランド、コンセプトの裏話、苦労話があれば情報の裏付け(エビデンス)として、ユーザーが認識しやすくなるからです。
ECサイトでは、検索からの集客を図るためにブログを使ってオウンドメディアとしているところが多くあります。また、最近ではブロガーやキュレーターを複数使って、他のニュースサイトやキュレーションサイトへ連携かつ拡散しやすい仕組みもできています。これらは、集客効果を見ると侮れないメディアになってきています。ただ、仕組みを使ったとしてもいいコンテンツがなければシェアはしてくれないので、どちらにしても良質なコンテンツが必要です。
ECサイトの商品ページのつくり込みは当然として、情報の補完としてオウンドメディアを考える場合、01のようなポイントを押さえてコンテンツをつくっていくといいでしょう。

その商品が何であるか、というテーマやコンセプトは基本ですが、その商品が世に出るまでにあった苦労話や製造過程、商品購入者の声や社員のホンネなど、その商品を通して関係者の思いやストーリーが語られると、読者は興味を持ちやすくなります
とはいうものの、すでにECサイトを運営している方にオウンドメディアのつくりかたを説明すると、多くが「難しい」と言います。これは、彼らが「販売側」の思考になっているため、オウンドメディアに必要な「第三者的な見方」ができない場合が見受けられます。これでは、もっともやってはいけない「製品の売り込みだけの記事」になってしまいます。
そこで、「記者のつもり」になって取材することをオススメします。例えば、自社の社長や工場長にインタビューするとか、お客さまに取材するのもいいでしょう。商品ではなく人に焦点を当てると、競合他社にはない差別化要素が見えてきたりします。
特に、一方的な話よりも、対話形式のコンテンツは読みやすくなります。テレビや新聞などで対談形式をよく見ると思いますが、視聴者が話に入り込みやすいという理由があります。これはネットでも同じです。対話形式のコンテンツは後で原稿としてまとめやすく、ユーザーにとってもイメージでき、頭に入りやすくなります。
記事内容に困ったら「わさび式」
また、競合他社のひしめく中で自社商品に目を留めてもらうためには、商品の情報だけでなく、なぜその商品を買った方がいいのか「商品を必要とする要因」を語らなければなりません。落ち着いて考えれば3つや5つはあるはずなんですが、ついついウケネタを欲しがるばかりに、イベントやキャンペーンをやりたいとか、新商品を紹介したいなどと考えがちです。このためECサイトの広告、商品ページ、メルマガ、ブログ、SNSなどさまざまなメディアに送料無料イベントやポイント10倍キャンペーンばかり掲載されてしまうという、企業にとってはとてもつらい状況になってしまうことが多く見受けられます。
そんな事態にならないために、「わさび式」コンテンツ作成法をご紹介しましょう(02)。これは、商品が少なくイベントやキャンペーンもできないけど、ブランディングをしたい場合に向いています。

ストーリーをつくる際に役立つのが「わさび式」発想法。お寿司のシャリを「商品」、ネタを「その商品を必要とする要因」とし、その間に挟み込むアクセント=わさびを加える形で考えてみましょう
まずお寿司を思い出してみてください。お寿司は、ネタとしゃりとわさびに分かれています。シャリは「売りたい商品」、ネタは「その商品を必要とする要因」とします。例えば、売りたい商品は「枕」で、記事のネタは「不眠」とします。ここにわさびを効かせます(03)。

例えばシャリ=「枕」/わさび=「新幹線」/ネタ=「不眠」で話をつくってみてください。どんなイメージがわくでしょうか?
わさびとは何か? 答えは「関連性のない何か」です。例えば「新幹線」をわさびとしましょう。シャリは枕、ネタは不眠、わさびは新幹線にしてコンテンツを考えると、「昨日、新幹線に乗ったはいいが、いつものようになかなか寝られなくて新大阪に着いてしまった。いつもの枕があればぐっすりなのに‥‥。」こんな感じです。同じ内容なのに、読み口が違ってきませんか?
新幹線に乗ったことのある方なら、うまく寝られなかったことがある方は多いはずですから、共感する人が出てくるはずです。結果から考えれば、新幹線に興味のある方、不眠の方に検索されやすくなります。コンテンツをつくる場合にはこの「誰に」は非常に大事ですが、こればかりを考えていると頭が固くなってしまいますので、わさび部分をブレーンストーミングである程度数を出すのがよいでしょう。
わさび部分は、「Yahoo!」のトピックスや「Googleトレンド」などで出てくるキーワードを使ったり、テレビや雑誌のキャッチコピーなどから考えてもよいでしょう。10個ぐらい用意しておくといいと思います(04)。


04 わさびはどこにでもある
わさびは商品とかけ離れたキーワードがいいですが、テレビや雑誌、Googleトレンドなどで出てくる単語をどれでもいいの1つ選び、物語をつくる練習をしてみましょう
このわさび式は、落語家の勉強で「3つの単語から落語をつくる」を参考にしています。ECサイトの場合にはシャリやネタは決まっていることが多いので、わさび部分だけを用意しておけばよいことになります。このわさび部分は、できる限りネタやシャリとはかけ離れた言葉を選ぶのがコツです。宇宙とか、動画とか、計算器とかでもいいでしょう。「枕」という商材とわさび部分のキーワード、ネタをあわせれば、いろいろなストーリーが広がるはずです。最初はストーリーが浮かばないかもしれませんが、何度か練習すると出てくるようになってきます。
コンテンツでブランディング
さて、オウンドメディアでコンテンツをつくる時に、一番悩むのは実はブランディングになります。ECでモノを安く提供するのもいいかもしれませんが、長く企業を続けていくためには安売り王ではなく、EC企業としての価値を高めなければなりません。
このためには、「誰に何を訴えるか」になってきます。一番の理想は、お客さまになってくれた方が、「あの商品(サイト)は、◯◯だよね!」と一言で表してくれるのが目標です。「あの商品、すごくいいよね。なんだっけ?」ではなく、その商品やサービスをズバリ◯◯!と口コミしてくれるかどうかになります。枕だったら、「あの枕、めちゃよく寝れる!」、私が参画しているJECCICAならば、「JECCICAならECの相談ができる!」などです。
ここであるサイトをご紹介したいと思います。三越伊勢丹ラグジュアリーオンラインストア「NOREN NOREN ISETAN MITSUKOSHI」は、2016年6月にソフトオープンし、10月にグランドオープンする予定です(05)。このサイトのブランディングは明らかに富裕層だけをターゲットにしていて、オウンドメディアとして「Peek-a-Noren(ピーク・ア・ノレン)」を立ち上げています(06)。サイトを見てみるとわかりますが、ラグジュアリーの世界観を大事にしていて、トップページからカートの終わり、マイページまでコンセプトが統一されていることがわかります。

このサイトはラグジュアリーの世界観を大事にしていて、トップページからカートの終わり、マイページまでコンセプトが見事に統一されています

オウンドメディアは言葉で訴えるだけではなく、ビジュアルも強力な武器になります。このサイトはほぼビジュアルイメージだけで演出しています
今までECサイトというと、いろいろ詳細なデータ、スペック、ベネフィットなどを入れなければならないと言われていたのですが、このサイトはまったく逆です。説明文すらない商品もあります。しかし、そこには他にはないラグジュアリーブランドの世界観をとても大切にしている、ビジュアルコンテンツがあります。
ビジュアルは言葉を超えることがあります。Instagramはまさにこの典型例です(08)。

雑誌みたいな感じに仕上がるところも若いユーザーを中心に人気があるInstagramは、Googleの検索を使わずにお店や商品を探すユーザーが増えています
英語や中国語、日本語などに翻訳する必要がありません。まして検索にひっかかる必要もないのです。好きな方が見に来て、購入するというサイトに仕上がっています。まさに他のメディアに影響されない自分たちだけのオウンドメディアと言えるでしょう。
三越伊勢丹といえば、「ファッションヘッドライン」というオウンドメディアが有名です。ファッションという文化を伝えるというスタンスで毎日情報をアップしています。この情報一つ一つがネット上の資産になっています。必要な時に検索してみると、古いコンテンツが検索上位にかかることがあります。よいコンテンツはよい資産になり、そこから集客が望めます。SNSではない魅力がオウンドメディアにあります。

オウンドメディア上のコンテンツは削除しない限りネット上に蓄積されるので、ちょっとしたきっかけで古いコンテンツが検索上位にかかることがあります。よいコンテンツはよい資産になり、そこから集客がのぞめます
ラグジュアリーオンラインストアサイトとファッションヘッドライン、そしてInstagramに共通していること、それは「文化」だと思います。伝えたい文化をオウンドメディアで、わかってほしい方にそれとなく伝えられたら最高です。この時、共感してくれた協力者、アンバサダーやインフルエンサーといった方々がシェアやキュレーションしてくれたら、間違いなくユーザーは爆発的に増えます。
とはいってもなかなかすぐにはできないと思いますので、まずはわさび式で練習しながらコンテンツをつくるところからスタートしてみてはいかがでしょうか。

- Text:川連一豊
- JECCICA(社)ジャパンE コマースコンサルタント協会代表理事。フォースター(株)代表取締役。楽天市場での店長時代、楽天より「低反発枕の神様」と称されるほどの実績を残し、2003 年に楽天SOY受賞。2004年にSAVAWAYを設立、ECコンサルティングを開始する。現在はリテールE コマース、オムニチャネルコンサルタントとして活躍。http://jeccica.jp/