2015.11.19
月刊 店舗設計 Web Designing 2015年12月号
保護猫カフェ「ネコリパブリック」|思いやストーリーを伝えることで顧客の共感を呼ぶ 注目を集めるネットショップの集客術を知りたい
猫の殺処分ゼロを目指して、保護猫カフェなどの事業を展開する「ネコリパブリック」。代表の河瀬麻花さんは、SNSやネットショップ、クラウドファンディングなどを巧みに活用して愛猫家の支持を集めている。その感染力の秘訣をうかがった。
Photo:五味茂雄(STRO!ROBO)
自走型の保護猫カフェとは?
岐阜と大阪、東京に実店舗を構える猫カフェ「ネコリパブリック」は、普通の猫カフェとは運営理念が異なる。ボランティアが保護したのら猫や保健所に持ち込まれた猫を、来店客を迎えるスタッフ猫にし、店で里親との出会いの場を作っているのだ。同社代表の河瀬麻花さんは、昨年2月の会社設立のきっかけをこう話す。
「子供の頃から猫が好きで、のら猫を保護しては飼ってくれる人を見つけるなどしていました。数年前から地元の猫のボランティア団体のお手伝いをするようになって。子猫の里親はわりとすぐ見つかるけれど、ちょっと大人になった猫は一気に譲渡率が下がるんです。そうした猫たちはボランティアさんが自宅でお世話をすることになるのですが、自宅を開放するわけにもいかず、里親希望の人たちに見に来てもらう場所がなくて困っているという声が多くありました。それであれば、保護猫と里親さんが出会える場として猫カフェをやったらいいんじゃないかと考えたんです。で、みんなやれないなら、私がやろうと。そして、地元の岐阜県による、女性・若者起業支援プログラムの受託事業として採択され、起業しました」
これまで、猫の里親探しなどの活動は主にボランティアによって行われてきたが、ネコリパブリックでは、ビジネスとして自走できる経営を行っている。
「ボランティアのみなさんは仕事や家事の合間を縫って、身銭を削って猫を助けているんですけど、他の人たちには好きでボランティアをしているのだからタダで活動して当然だと思われることが多くて。ボランティアだとそうした周囲の理解力のなさに直面することもあります。でも、私の鈍感力がハンパないだけかもしれませんが、ビジネスですと割り切ってやっていると、何も言われないんですよ」
主に猫カフェの経営、店舗やネットショップで販売している猫関連商品の売り上げで事業を展開している。つまり、住宅事情などで里親になれない人でも、こうしたサービスを利用することで事業へ貢献することになる。
「たとえば自分の家の猫の餌を買う際にも、どうせなら活動に賛同するうちのネットショップで買おうと思ってもらえるように、価格などではなくて、思いに共感して選んでもらえるというお店にしていきたいと思っています。そうやって、無理をせずに猫を助けられる仕組みを作っていこうと。私はこれを“ハッピーネコサイクル”と呼んでいます」
目標は、2022年2月22日までに国内の行政による猫の殺処分をゼロにすることだという。
クラウドファンディングを成功に導くストーリーの発信
ネコリパブリックでは、これまでイベント開催や商品開発などのクラウドファンディングを行ってきた。そのほとんどで、「kibidango(きびだんご)」というサービスを利用している。
「kibidangoを選んだのは、購入型だからです。これからもクラウドファンディングは何度も利用していこうと思っているのですが、寄付型だとお客さんが寄付疲れしちゃうと思うんです。購入型であれば、応援する気持ちを持ってくれつつ、買い物を楽しんでいただけるので。そのため、リワード(支援者が購入できる商品)はお客様の顔を想像して、こういう物なら欲しいに違いないというものを毎回考えるようにしています」
?どのプロジェクトでも、当初の目標額の倍近い金額を集めている。特に今年5月31日にオープンした東京お茶の水店の改装資金を募った際には、半月ほどで目標額の200万円に達し、ストレッチゴールとして設定した400万円に達したら猫映画館を作るという目標もクリアした。どのようにして、これほどまでに支持を集めているのだろうか。
「これまでクラウドファンディングを5回行っていますが、回を重ねるごとに集まる金額もサポートしてくれる人数も増えていてありがたいです。クラウドファンディングで必要なのは、ストーリーや思いを語る力、感染力を持っていることだと思います。インターネットでは、語り尽くさないと伝わらないんですよ」
プロジェクトページ内には活動趣旨から今後の展望まで思いの丈が書かれている。猫の里親募集に際しても、このストーリーが重要になってくる。
「たとえば、20年飼った飼い主さんが引っ越しの際に保健所に持ち込んだという猫の背景を伝えることで、『あまりにも酷い』と、看取る覚悟で20歳の猫の里親さんが見つかったこともあります。知ってもらうということが、大事なのです」
SNSによる情報拡散と顔出しによる信頼の獲得
クラウドファンディングの成功には、SNSによる拡散力も大きく寄与しているという。実際に3つの店舗では、それぞれTwitter、Facebook、Instagram、ブログと主要な情報発信のツールを活用している。
「私たちの活動については、インターネットを通して知ったという方が圧倒的に多いです。クラウドファンディングにしても、保護猫を減らすための取り組みにしても、何かを書いたらそれをソーシャルを使って広げることが大事です。私個人のアカウントでもできるだけ拡散するのはもちろん、公開状態での投稿を多くしています。変なこともいっぱい書いていますが、私がこういう人だと知ってもらえればいいかなと。誰が何のためにやっているかを明確にし、プロジェクトの代表の顔がしっかりと見えないと成功しないと思うので。そのために、めちゃくちゃ顔出しをして、私という個人に支援してもらえるように心がけています」
ネットショップでも、オリジナル開発した人気商品「猫もぐらたたき」の購入者を対象に、自身の猫と遊ぶ動画を募ったり、ファンの猫に投票する「ネコリパ大統領総選挙」の投票権を販売したりと、話題化や情報拡散に繋がる参加型の企画を積極的に行っている。こうして精力的に動き続ける河瀬さんは、まだまだ多くの野望を持っているという。
「店舗を47都道府県全部に作り、猫を家族に迎えるならまずネコリパブリックへ行こうと思ってもらえる場所にしていきたいです。里親さんと常に繋がるアプリも開発したいし、新商品も開発したいし、あと20年以内にやらないといけないことが死ぬほどあって、どうしようという感じです」
こうした熱い思いと行動力が、ネット上でも大きな感染力を持ち、支持者を集めるのだろう。