2015.09.18
集中企画一覧 Web Designing 2015年10月号
Instagramをビジネスに活用する(1/3) フィード広告開始で本格化するビジュアルマーケティングの現在
ビジネス分野で急速に脚光を浴びる写真投稿サービス「Instagram(インスタグラム)」。このInstagramを今、プロモーション手法として採用する企業が増えている。広告配信ビジネスの強化が発表されたことで、マーケティングツールとしての注目度が高まっているのだ。では、どんな施策で効果があり、どのように使えばいいのだろうか。
Instagramの“今”を知る8つの数字
スマートフォンがあれば、誰でも手軽に始められるInstagram。サービス開始からわずか 6年で、世界有数の写真・動画共有コミュニティに成長した。まずは現在の規模を知るために、公表されている代表的な数字から見ていこう。
Instagramって何?
全世界で3億人が利用する「Instagram(インスタグラム)」は、創業者であるケヴィン・シストロム氏とマイク・クリーガー氏が2010年にリリースした米国発の写真・動画共有アプリ。当初はiPhone版のみで登場したが、2012年にAndroid版もリリースされている。現在では毎日7,000万枚以上の写真や動画が投稿される人気サービスだ。
投稿される写真の内容は多岐にわたるが、ユーザーのパーソナルな日常を印象的に切り取ったものや、セレブやアーティストの作品などビジュアル的に洗練されたものが多く、若い世代や女性を中心に人気が広がり続けている。全体的にクオリティの高い写真や動画が多い理由としては、スマートフォンに搭載されたカメラ性能の向上に加え、あらかじめアプリ内に用意された写真・動画用のフィルタの存在が挙げられる。細かな画像調整機能もあるが、基本的にはこのフィルタを選ぶだけで誰でもプロ顔負けの写真に仕立てることができるというのが大きな特徴だ。さらに、2013年6月からは動画機能も追加され、最大15秒までのマイクロ動画を撮影・編集・加工から投稿まで手軽に行えるようになった。
写真や動画を手軽に公開・共有
Instagramで撮影、あるいはカメラロールから読み込んだ写真や動画には解説のキャプションを追加したり、写り込んでいる友人のタグ付け、位置情報などを付与できる。投稿に際しては、FacebookやTwitter、Flickrなど主要なSNSとの連携設定により同時投稿ができる点もポイントだ。
フォロワーに対して公開・共有された写真や動画は、フォローしているユーザーの投稿とともにホーム画面のフィードに時系列で表示されるが、Facebookのようにエッジランク(ユーザーにあわせたコンテンツ表示)による並び替えは行われない。そして、投稿を見たユーザーは写真や動画に対して「いいね!」やコメントを追加することでコミュニケーションが図れる(ただし通知はされない)。
また、キャプションやコメントに追加できる「#」で始まる「ハッシュタグ」と呼ばれるキーワードも重要で、近しい嗜好を持つユーザーの写真を検索する手がかりとなる。
「シンプルさ」こそが本質
Instagramのビジネス利用においては、これらの基本的な機能や特性をしっかり理解した上で取り組むようにしたい。2012年のFacebookによる買収以降もいくつかの機能が追加されたが、Instagramというサービス自身のコンセプトは、良質な写真や動画を手軽に共有するという「シンプルさ」が常に重視されてきた。それはユーザーのクリエイティビティに訴えるメディアでもあり、瞬時に好き嫌いや興味のありなしを判断されるため、ビジネス利用にはコミュニティの雰囲気をつかむ必要もある。まずは、他社がどのような施策を実施しているか、次ページからInstagramビジネス導入の成功事例を見ていくことにしよう。
成功事例にみるマーケティング・ツールとしてのInstagram
なぜ、多くの企業がマーケティングの施策としてInstagramに注目しているのか、そしてビジネスアカウントはどのように運営されているのか、国内での実例もあわせて見ていこう。
ブランディングが先決
美しい写真や動画を手軽に投稿して世界中のユーザーと共有するという、シンプルなコンセプトに基づいたサービスを提供してきたInstagramには、ビジュアルに対する感度が高いユーザーが多く集まる傾向にある。そのため、消費者として目が肥えていると同時に、企業ブランドに対するエンゲージメント率はほかのSNSと比べても格段に高い。
グローバルでフォロワー数の多い企業アカウントのランキングを見ると、ビジュアルイメージを重視するアパレル、アクセサリー、コスメなどのファッション業界とフード業界が強いことがわかる。個人アカウントでもモデルや芸能人などファッションをリードする人物がランキング上位を占める。規模感の違いこそあれ日本国内でも同様の傾向だが、これに加えて若年層に対するプロモーションを重視している自動車メーカーの健闘が特徴的だ。
こうしたInstagramのメディア特性を踏まえると、一般的な企業アカウントは製品やサービスの宣伝をそのまま投稿のみで実施しても、投入コストに対する効果は上がりにくい。むしろ、自社の個性や日常的な活動の周知、ブランドの世界観を洗練されたビジュアルを通じて発信していくことに適しているといえる。次ページで紹介する「ことりっぷ(@cotrip_official)」「音羽山 清水寺(@feel_kiyomizudera)」「土屋鞄製造所(@tsuchiya_kaban)」は、いずれもブランディングイメージを伝えることに成功している事例だ。
ハッシュタグを利用したキャンペーン
また、企業のプロモーション手法として「ハッシュタグ」を利用してイベントやフォトコンテストなどを実施するのも効果的だ。外部にキャンペーン用のWebページやFacebookページを用意して、ユーザーが特定のハッシュタグをつけて投稿した写真をカタログ風に表示するというパターンが散見される。
成功事例としてよく挙げられるのがメルセデス・ベンツUSA(@mbusa)が実施した新型SUVのフォトコンテスト「GLA Packed Contest」だろう。
通常であれば製品が写り込んだ画像を製品名のハッシュタグと絡めて考えるかもしれないが、自動車という特性上、写真に制約が生まれる。そこで、GLAの荷物を積むスペースに載せたいアイテムを並べた写真を「#GLApacked」というハッシュタグで参加するキャンペーンを実施。アイデアやクリエイティビティをアピールできることで若い参加者が増え、サイト訪問者は大幅に増加してブランド認知に貢献した。もちろんこれには、キャンペーンサイトの設置やイベントを盛り上げる施策など、綿密に設計された結果であることは見逃せない。
いずれのケースも、ブランドの魅力をビジュアルの力でライフスタイルと関連づけて伝えることで顧客のロイヤリティを獲得している。
インフィード広告とは
Instagram広告の手法として今話題なのが、ホーム画面にフォロー外の企業からの投稿が表示される「インフィード広告」だ。日本国内でも2015年5月より開始されていて、写真の右上に「広告」と表示されていることから識別可能だ。このアイコンをタップするとフィードバックメニューが現れ、非表示にもできる。現状は外部へ誘導するリンクなどは実装されていないが、これは10月以降の「セルフサービス(運用型)広告」の開始で大きく変わる。
とはいえ、このインフィード広告の配信は非常に慎重に行われていて、フィードが広告で埋まるということはなく、FacebookのユーザーID情報などを利用して、極力ユーザーが関心のあるターゲティング広告が出される仕組みになっている。現状ではごく限られた広告パートナーのみとなっていて、最初に配信された日本国内の企業アカウントとして「土屋鞄」「ランコムジャパン(@lancomejapan)」「チキンラーメンひよこちゃん(@chikinramen_hiyoko)」がある。いずれも質の高いクリエイティブな写真を投稿をしている、SNS運用に長けたビジネスアカウントだ。
これから日本で提供される広告配信形式
さらにインフィード広告の応用形態として、複数枚(3~4枚程度)の写真をスワイプで切り替える「カルーセル広告」や、最大30秒までの「動画広告」が海外で提供されている(今後日本国内でも提供される予定)。投稿に広告表示がなされる点や、配信ターゲットをユーザー属性(年齢、性別、地域)から判定して絞り込んでいる点などは共通だ。
動画広告は「ディズニー(@disney)」が新作映画のプロモーションとして利用しているほか、放送局やゲーム会社など動画コンテンツ制作のノウハウがある企業が参入している。
※各アカウントの投稿数、フォロワー数は2015年8月現在