2018.09.10
行動デザイン塾 Web Designing 2018年10月号
より効果的にカスタマーサクセスを実現する
顧客の本当に欲しいものを見つけ、難しい選択をサポートできれば、顧客は必ず対価を払ってくれる。それには、AI技術と人間との協調/協業が必要だろう。
人は “後悔したくない”だけ
手近にあるわかりやすい手がかり(店の前の行列や、権威者のお墨つきなど)を利用して簡単に意思決定する(01)。
もちろん、そうした簡易的な判断は時々間違えることがあるが、仮に外してもそれほど後悔はしないはずだ。なぜなら、店の前の行列や権威者のコメントを参照するのは、皆が採用する一般的な基準なので、外した時に自分を責めるには及ばないからだ。並んでいた客や権威者が間違っていただけなのだ。
逆に、「誰も人が入っていない店」や「権威者が推奨しない店」を自ら選び、それが外れだった時には、他人を責める余地がないので強い自責の念にかられる。それが嫌だから、我々はつい既存の手がかりを採用してしまうのだ。
生活者のインサイトは、「後悔したくないが、情報処理コストもかけたくない」という都合のいい思考がベースになることが多い。最高の結婚相手を見つけたくて婚活サイトに登録する人は「絶対失敗したくない」気持ちが強くなりがちで、多少気の合う人が見つかっても「この選択は正しいのか?」という不安を解消するために「もっと他の人も」と検索する。しかし選択肢を増やせば増やすほど、選べなくなりがちだ(02)。
「カスタマーサクセス」とは後悔回避のサポートだ
では、AI技術はどこまで買い手の納得のいく選択を手助けしてくれるのか。実はAI活用の手前で考えるべきことがある。それは買い手(顧客)の認知負荷への耐性だ。行動デザイン研究所の直近のリサーチによる仮説では、耐性の高い人、情報処理に必要な手持ちのエネルギーが潤沢な人は、選択肢が多ければ多いほど満足する傾向がある。
逆に耐性の低い、エネルギー残量の少ない人は、選択肢が多いと思考停止して判断を放棄する傾向がある。そこで目の前の顧客がどちらのタイプかわからない時、「3択」の提示が実用的な解決策となる。前者は「本音はもっと選択肢が欲しいが、3択なら最低限許容できる」と考え、後者は「3択で十分、これ以上は無理」となる。両者の重なるところが3択なので、世の中の選択肢は3択が多いのではないだろうか(03)。
「選べないのなら、選ばなくてもいいようにする」設定も作戦だ。最近、多様なサブスクリプションモデルが注目されているが、「毎月、送り手が決めたものがサプライズで届く」タイプのサービスは、顧客の選択コストを0にしている。また「毎月定額で聴き放題/見放題の音楽/映画配信サービス」も顧客の「後悔」を解消するメリットがある(04)。
「カスタマーサクセス」という概念は、サブスクリプションモデルの成長と密接な関係があるが、顧客にとって「よりよい選択」のためのサポートはカスタマーサクセスの必須の要素になる。重要なのは、客観的に正しいが顧客の納得の低い選択肢を強いるのではなく、顧客の後悔という精神的コストを低減するサポート。AI技術と人間系の協調で、それは初めて可能になるはずである。