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行動デザイン塾 Web Designing 2018年10月号

より効果的にカスタマーサクセスを実現する

顧客の本当に欲しいものを見つけ、難しい選択をサポートできれば、顧客は必ず対価を払ってくれる。それには、AI技術と人間との協調/協業が必要だろう。

人は “後悔したくない”だけ

手近にあるわかりやすい手がかり(店の前の行列や、権威者のお墨つきなど)を利用して簡単に意思決定する(01)。

もちろん、そうした簡易的な判断は時々間違えることがあるが、仮に外してもそれほど後悔はしないはずだ。なぜなら、店の前の行列や権威者のコメントを参照するのは、皆が採用する一般的な基準なので、外した時に自分を責めるには及ばないからだ。並んでいた客や権威者が間違っていただけなのだ。

逆に、「誰も人が入っていない店」や「権威者が推奨しない店」を自ら選び、それが外れだった時には、他人を責める余地がないので強い自責の念にかられる。それが嫌だから、我々はつい既存の手がかりを採用してしまうのだ。

生活者のインサイトは、「後悔したくないが、情報処理コストもかけたくない」という都合のいい思考がベースになることが多い。最高の結婚相手を見つけたくて婚活サイトに登録する人は「絶対失敗したくない」気持ちが強くなりがちで、多少気の合う人が見つかっても「この選択は正しいのか?」という不安を解消するために「もっと他の人も」と検索する。しかし選択肢を増やせば増やすほど、選べなくなりがちだ(02)。

01 顧客が感じる「メンタル・コスト」は意外に大きい
近年フィジカルなコストが技術の進歩で低下傾向にある。そのために、相対的にメンタル・コストが顕在化しているのではないだろうか
02 6種類と24種類、どちらが選びやすい?
人は複数の選択肢を一度に情報処理するのが苦手。米・コロンビア大学による実験調査では、ジャムの試食販売で、24種類から選ばせた場合、6種類と比べて売上が10分の1に減ったという。選択肢が4倍になったら、認知負荷が10倍になったわけだ。他にも、「AさんよりBさんが嫌い」「BさんよりCさんがもっと嫌い」と言っていた人が、「CさんはAさんよりもマシ」と言い出す状況はよくある

 

「カスタマーサクセス」とは後悔回避のサポートだ

では、AI技術はどこまで買い手の納得のいく選択を手助けしてくれるのか。実はAI活用の手前で考えるべきことがある。それは買い手(顧客)の認知負荷への耐性だ。行動デザイン研究所の直近のリサーチによる仮説では、耐性の高い人、情報処理に必要な手持ちのエネルギーが潤沢な人は、選択肢が多ければ多いほど満足する傾向がある。

逆に耐性の低い、エネルギー残量の少ない人は、選択肢が多いと思考停止して判断を放棄する傾向がある。そこで目の前の顧客がどちらのタイプかわからない時、「3択」の提示が実用的な解決策となる。前者は「本音はもっと選択肢が欲しいが、3択なら最低限許容できる」と考え、後者は「3択で十分、これ以上は無理」となる。両者の重なるところが3択なので、世の中の選択肢は3択が多いのではないだろうか(03)。

「選べないのなら、選ばなくてもいいようにする」設定も作戦だ。最近、多様なサブスクリプションモデルが注目されているが、「毎月、送り手が決めたものがサプライズで届く」タイプのサービスは、顧客の選択コストを0にしている。また「毎月定額で聴き放題/見放題の音楽/映画配信サービス」も顧客の「後悔」を解消するメリットがある(04)。

「カスタマーサクセス」という概念は、サブスクリプションモデルの成長と密接な関係があるが、顧客にとって「よりよい選択」のためのサポートはカスタマーサクセスの必須の要素になる。重要なのは、客観的に正しいが顧客の納得の低い選択肢を強いるのではなく、顧客の後悔という精神的コストを低減するサポート。AI技術と人間系の協調で、それは初めて可能になるはずである。

03 なぜ、世の中には「3択」の質問が多いのか?
「3の研究レポート」(行動デザイン研究所)では、「3は、多い/少ない、どちらの意味も持つ“曖昧な”数で、それが使い勝手の良さとなって人がよく“3”を使う」という仮説を立てている。選択肢を減らすことは、受け手のコスト(認知負荷)と、現場の送り手のコスト(認知負荷)両方の軽減となり、マーケティングを成功させる重要な要因にもなる。
参考:人はなぜ「3つの理由」と言ってしまうのか?
http://www.hakuhodo.co.jp/archives/report/45812
04 サブスクリプションモデルは顧客の後悔を減らす仕組み
サブスクリプションモデルは多様な領域に拡がっている。例えばシェアリングサービスは、顧客の後悔回避に役立っている。「所有しない」選択肢は、「所有(購入)する金銭的コスト」だけでなく「気に入らないものを家に置く精神的コスト」を大きく低減するからだ

 

Text:國田圭作
博報堂行動デザイン研究所所長。入社以来、一貫してプロモーションの実務と研究に従事。大手嗜好品メーカー、自動車メーカーをはじめ、食品、飲料、化粧品、家電などの統合マーケティング、商品開発、流通開発などのプロジェクトを多数手がける。2013年4月より現職。著書に『「行動デザイン」の教科書』(すばる舎刊)。 http://activation-design.jp/

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10月号特集内のP058におきまして、AI Startup Studio by LedgeのURLを誤って記載しておりました。以下に訂正するとともに、読者のみなさまならびに関係者のみなさまに深くお詫び申し上げます。

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