2017.01.02
解析ツールの読み方・活かし方 Web Designing 2017年2月号
Web解析は新時代へ!? ウワサのAIの実力を検証 事例をもとにした施策とビジネスモデルの変化
Googleアナリティクス(GA)のスマートフォンアプリに、AI(人工知能)がWebサイトの現状を即時に分析する「アナリティクスアシスタント」の機能が搭載された。その実力を確認するとともに、実際の現場でどう活用するのかについて、事例を通して日ごろの改善取り組みに即した検証をしてみることにする。
目標:情報のキャッチアップで「経験」の幅を広げよう
課題:AIは人間と対立軸にあるのか?
対策:AIをうまく利用すればもっとPDCAが早く回せる可能性がある
日本語版Googleアナリティクス(以下、GA)のスマホアプリに「ついにきたか!」という機能が実装された。それが「アナリティクスアシスタント(以下、アシスタント)」だ。これはGAのアカウントデータを瞬時にAIが解析し、そのサイトについてアドバイスするという機能だ。これはスマートフォンとタブレットのGAアプリのみに公開されている機能だ(Android、iOS)。
しかし情報管理上、個人のスマホに企業アカウントのデータを反映できないことがある。その場合は、Googleが提供しているGAの「デモデータ」を利用する方法がある。手順は比較的簡単で、下記(01)を参照してほしい。
実際にデモデータでアシスタントがインサイトした内容を数点あげてみよう。
①ECのCVRが先週より上がっている
②複数の商品が先週より239%上がった
③リピーターのセッションが上がった
④モニタ解像度1,366×768のパフォーマンスが平均より下がった
このようにWebサイトの状況を把握できるが、AIでわかるのは残念ながらここまで。この情報をもとにみなさんならどう判断するだろうか。私なら現状維持だ。④については気になるかもしれない。しかし、デモデータはECサイトだ。ECサイトは一般的にスマホのパフォーマンスがいいとされるので、PCモニターのパフォーマンスが悪くても、先週より売上を上げているので、全体では現状維持と判断する。
さらにGAのタグを入れただけのWebサイトや、公開しただけで集客運用をしていないWebサイトの場合は、「Google Search Consoleと紐づけましょう」「『目標』を設定しましょう」などと分析される。
上記を見る限り、アシスタント機能は、アカウントをタップした「その時点」でのサイトの状態を判断し表示する。人がGAを使うときは、知識と時間を費やしてアクセス解析を行うが、AIはアカウント表示と「同時」にサイトを分析し、結果を「即時」に表示する。ということは、アクセス解析に詳しくないクライアントでも、すぐにWebサイトの状況がわかるのだ。
リスティング運用は手に取るようにわかる
現在、筆者は映像制作会社の(株)道洋行の新事業である「企業向けウェブ動画制作」のマーケティングを支援している。Webサイトは2016年9月にβ版を公開。現在、集客手段はGoogleとYahoo!のリスティング広告のみだ。では実際に、アシスタントがこのサイトをどう分析したのかを確認したい。今回は特に“気になった”リスティング広告のインサイト含めて4つを取り上げる。
①タブレットの数字が平均より低い、先週と比較するとセッション数が83%下降
リスティング運用の当初から、タブレットの「直帰率」と「滞在時間」が短かったため、入札価格をPCより下げ、さらに期間の最後にはタブレット広告配信を停止。同時期に、リスティング広告でクリック数が多かったキーワード「動画 編集」の全指標の数字が悪かった。そのため入札価格を下げることでインプレッションを下げ、クリック数を下げるという施策をしたので、この結果は想定の範疇である。
②Google Adwordsキャンペーン「動画20161007」が平均より低い
10月7日から運用を開始したこのキャンペーンはトップページをランディングページ(LP)にしていたものの、直帰率が高かった。さらにビッグワードの「動画」や「動画 編集」というキーワードは、スマホやタブレットで「誤クリック」を多く生むことも予測できていたため、キャンペーン全体で数字が悪くなることは予想できた。そこで直帰率や平均滞在時間、1回あたりのPV数という指標の数字を高めるため、LPを商品プラン別のキャンペーンを作り、「ユーザーの質を上げる」ための改善運用を日々行っていた。
③コンテンツターゲティングの結果が悪い
「ユーザーの質を上げる」運用施策の効果がまだ現れていないと判断している。これに基づき、以下は私が実際に行った追加施策とその結果だ。まず、リスティングの運用画面を確認した結果、ビッグキーワード「動画」単体のインプレッションやクリックの割合が高かったので、広告のクリック数を下げる=サイトのセッション数が下がる、ということを覚悟し、入札価格を下げた。逆に「動画」と専門的なキーワード(例えば採用、インタビュー、商品紹介、PRなど)との掛け合わせキーワードの単価を上げ、「ユーザーの質を上げる」施策を実行。結果、この施策で最終的な「問い合わせ」というCVへ結びつけた。
④Internet Explorerの数値が悪い
IEしか使えない企業がいまだ多く、ペルソナ像から考えてもIEユーザーはリーチしたい層であると考えている。アシスタントが示したこのインサイトは、ウェブ解析士である筆者の担当分野である。いままでは月1回のレポートぐらいしかブラウザ別の数字を確認していなかった。日々の業務の中では、まずCVに繋がりそうな指標を重点的に確認し、全体の数字を確認して、そこから異常値がないかのみを確認する。その点、「アシスタント」をタップしただけでこの結果へと導けるとは「さすがAI!」というほかないだろう。
以上、いろいろな形でAIの実力を検証した結果、AIは、ある期間の中でその指標の数字が「良くなった」「悪くなった」とシンプルに判断しているだけである。と同時に、その判断が人に「気づき」をもたらせてくれているのも事実だ。気づきを活かすも殺すもあとは人の腕次第。AIが示したなかから“選択”しているのは人間であり、選択の根拠になっているのはサイト運用者の“知識”や“経験”なのである。つまり、アシスタントが提示した内容を判断するためには、人の知識や経験が不可欠であるということだ。
リスティング広告はよりCV数に追われる!?
ここで、あえて警鐘を鳴らしたい。リスティング運用、特にAdWordsは運用状況をGAで簡単に確認することができる。アシスタントを使えば「このキャンペーンの数字が悪い」「このバナーの数字が悪い」とクライアント側でも日々確認できてしまうのだ。これまで、AdWordsとGAを紐づけてもどこを見ていいか迷うクライアントもいただろう。しかしアシスタントで表示されれば、分析結果で「良い」か「悪い」かがすぐにわかる。
月1回のレポート提出のみなら、CV達成だけしていればよかったものが、リスティング広告運用会社は、より深い運用を求められる可能性もでてくる。それは、極端なCV獲得目標が求められるということをも意味している。リスティング運用会社は運用の目的を説明できるようにならないといけなくなるだろう。
リスティング運用でいうと、アシスタントは道洋行のサイトについて「リマーケティングをした方がよい」と分析した。そのようなリスティング広告のアドバイスまで出るのかとも思ったのは正直なところだ。
ちなみに、パラメータをきちんと付与していれば、Yahoo!のリスティング広告の分析結果も表示する。今回はパラメータを「テキストバナー」として付与していたが、その結果も悪いと表示された(これは運用を開始して2週間で停止した)。もし、集客などの分析も行いたいならパラメータの付与などの知識や技術も必要となり、より技術と経験を持ったWeb解析が求められることになるだろう。
知識や経験が必要なのは先述の通り。では、Webの担当歴が短い場合はどうしたらいいのか? その答えは、引き出しの数を増やせばいい、ということだ。成功・失敗の事例を多くの方が紹介してくれているのは、Web業界が誇れる素晴らしい文化であり、そこから学ばない手はない。その学びこそが引き出しとなって、自然に経験が増えるのだ。セミナーやWebなどで情報をキャッチアップしていけば良い。
AIを上手く使うことは、PDCAを高速に回すことができるという可能性を秘めている。だからこそ、経験による素早い決断をWeb運用者は求められるだろう。私も事例をたくさん聞き、いろいろな方と意見交換をしながら今日も経験を増やしている。