2016.11.10
解析ツールの読み方・活かし方 Web Designing 2016年12月号
SNSを活用した業務改善策と、その効果 事例をもとにした施策とビジネスモデルの変化
TwitterやFacebookといったSNSでは、一度運用に踏み切ったものの「売上に繋がらない」「管理や運用が大変」などといった理由で継続することができないまま、アカウントを放置してしまっている企業が散見される。今回は、SNSを利用した集客を軸として、お客様のニーズに応えていったある企業の事例を元に、効果的なSNSの運用方法と実施した施策の内容について、その効果とともに紹介したい。
目標:知名度の向上
課題:利益率の改善と新規商品開発
対策:SNSを利用した運用体制の構築とビジネスモデルの変化
積もった課題をITで業務最適化
今回の事例は、大分市の中心市街地から車で10分ほどの郊外にある洋菓子専門店「お菓子のありの子」。かわいらしいどうぶつクッキーや通常のケーキよりもやや小さめな“ありの子”サイズのケーキを販売している。近くに高校や中学校が3校あり、学生が多い街に店舗を構えている。
どの商品が売れているのかをデータとして収集しており、アンケートに回答したお客様にはケーキをプレゼントしたり、顧客の満足度を高めるために新商品を作るなど、マメな会社だ。
店舗から5キロ四方には、5店舗の洋菓子店がひしめくスイーツ店激戦地域にあるため、価格競争や見た目の美しさ、素材などについて顧客からの要望のレベルが非常に高い。一方で、洋菓子のベースとなる原材料の高騰が続いているほか、電気代といった燃料の値上げも追い打ちをかけ、利益率が低くなっているのが現状である。
さらに、コンビニにお客を奪われ売上が減少し、それを補うためにたくさんの商品をつくってみたものの、利益率が低下するという悪循環に陥っていた。
上記の課題を解決するためにまずは「知名度向上」を目標に掲げ、その実現のために「Webサイト構築」と「SNS運用」を2014年末から開始した。ITを活用した業務最適化へと踏み出すことになったのだ。
同社では、まず営業担当者がITを利用しは始めたものの、現場にいるシェフはデジタル施策へのアレルギー反応が強く、WebサイトやSNSでの情報発信ついてはかなり消極的。そこで、顧客情報をExcelに入力し直し、明らかに売り逃している月があることをデータとして提示した。つまり、それまで肌感覚で把握していた顧客のトレンドを「見える化」したことによって、ITへの信頼を促したのだ。その結果として、考えを改めてくれるに至り、ひいては、現場のシェフも巻き込んだSNS運用が行える基礎が整った。
円滑に運用するための棲み分け
正式な運用を開始する前に「ターゲット」について徹底的に話し合いを行った。これまで不明瞭だったターゲットは、近隣地域に通学している学生をメインに据え、定期的に若年世代が好むコンテンツをSNSに投稿するという施策を打つことにした。主なメディアはWebサイト、Twitter、Facebookの3つとなり、それぞれの役割は以下の通り。また、年間のスケジュールを作成し、いつどのような投稿をするかについても、あらかじめ社内全体で共有した。
(1)Webサイト
会社の情報や、焼き菓子といった通年販売する商品の紹介
(2)Twitter
毎日の商品の紹介、お客様とのコミュニケーション、新商品の案内などを毎日最低3回投稿(図04~07)
(3)Facebook
定休日のお知らせや、毎週土曜日にその週に作成したオリジナル商品の紹介(図08~09)
コンテンツの投稿は現場担当者、投稿内容の指示やお客様対応についてはSNS運用担当者が担当している(図_SNSの運用体制)。
また、SNS運用者が知らない顧客情報は、現場や営業が返信内容を指示する。うまく役割を分担することで、無理なく運用できるよう工夫を施している。
顧客接点の「見える化」
SNSを運用していく上で、思わぬ効果が見えてくるようになったので触れておきたい。
SNS導入前は、ポイントカードやアンケートを実施していたものの、そこから抽出したお客様の要望を具体的に商品やサービスへと落とし込む時間が取れずにいた。しかし導入後は、お客様の要望や、やり取り自体をリツイートや再投稿することで簡単に数値化が行え、会社全体の共通認識として把握することで、商品やサービスへ反映できるようになったのだ。
また、コメントや口コミツイートをリツイートやリプライすることで、その投稿や、やりとりを見た人がさらにファンになり、店舗へケーキを買いに来てくれる、という良い循環が生まれた。特に“祝いごとのケーキ”は顕著で、友人や知人による「満足した」という内容の投稿を見れば、失敗したくないという思いが強い顧客がそのお店に頼みたくなるのは自然なことだろう。
さらに、高校生にターゲットを絞ってコミュニケーションを活発に行ったことで、ニーズを拾いやすくなったこともあげられる。その結果、キャッチーなネーミングを考案すれば、認知度を上げることに一役買えることもわかった。
その他にも、新商品開発のプロセスをコンテンツ化することで、来店してもらうきっかけをつくれるようになるなど、顧客との接点がしっかりと見通せるようになることによる効果が徐々に生まれていった。
ビジネスモデルの変化
業務の最適化を図った結果、ビジネスモデルも変化していったので説明しておきたい。
以前のビジネスモデルは、顧客ターゲットが不明瞭だったため、提供するサービスもキャラクターケーキや焼き菓子といった一般的な商品がメインだった。また、顧客との接点も、店舗での接客やフリーペーパーといったアナログな手法であった。
それがSNS運用を導入することでターゲットが明確になり、そこに向けた商品について徹底的に考えることで、かわらしい動物のクッキーやケーキという「商品」とキャッチーな「商品名」をつけることがターゲットに刺さる条件だとわかった。また、顧客の接点が、リアルとインターネットがつながることで、顧客の友人・知人といった人にもリーチできるようになった。
ただし、商品に触れる機会がデパートの催事場や実店舗に行くことというチャネルの少なさが課題となっており、遠方地域にも届けられるよう現在はネットショッピングサイトを開発中である。その他にも、ネットショッピングサイトにあわせて、現金だけでなく多様な決済方法を導入すること、コスト構造を見直すことも今後の課題としてあげられる。
SNS運用を行った結果
まとめになるが、SNSの導入をきっかけにターゲットを見直し、商品を改善していった結果、どのようなことが起こったかを改めて考えてみたい。
それは「顧客が増え」「商品開発がしやすくなる」といった売り上げにダイレクトに繋がる要素だけでなく、「SNSで集客する」という良い仕組みを得られたことだった。
チラシやポスティングといったアナログな手法に掛けていたコストを、スマホで画像をアップするというSNSのひと手間に変換したことにより、大きな効果を見込めるようになった。
いつの時代も小規模事業者にとって、集客は最大の悩みである。今回の事例は、小規模な会社がSNSという身近なツールを使って自社の顧客と商品を見直した結果、良い循環が生まれたことを理解するには良いケースだと思う。
なお、ここでは詳しく触れなかったが、Twitter Analyticsはその日、その月(28日間)でどの内容が見られているかを確認するには素晴らしいツールだ。各月ごとによく閲覧されたツイートや「@ツイート」(自社アカウント宛)でどのツイートが閲覧されたのかを確認することができる。
細かく集計しなければ反応がわからなかったものが、SNSの解析ツールを使ってかんたんに出力できるようになったことも、非常に大きな武器になり得ると思う。