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Bay Area Startup News Web Designing 2016年12月号

サンフランシスコの会社訪問!【Pixar Animation Studio】 社員に安定と心の余裕を ピクサーの企業文化が想像力を生み出す

海外で起こっている、あるいは起こりつつある新しいビジネスの潮流、近い将来に日本にやってくるであろうビジネストレンドなどを紹介・考察します。米国サンフランシスコ在住の筆者が、サンフランシスコおよびシリコンバレーの「ベイエリア」を中心に、イケてるスタートアップを中心とした会社、サービスを毎月1つ取り上げながら、その背景や目的、今後日本で起こりうるトレンドについて追究します。

1986年創立当初ハードウェアとソフトウェアの会社だったピクサー・アニメーション・スタジオ(以下ピクサー)は、チーフ・クリエイティブ・オフィサーのジョン・ラセターが自分達の技術をアピールするため、短編映画と広告をつくったことがきっかけで映画製作を始めました。もともと技術が強い事業にアートを加え、イノベーションを起こすという考え方は日本企業に欠けているポイントであり、ピクサーの企業文化を知ることは、「社員の想像力を伸ばす」という点において大いに参考になるはずです。

 

社員は家族のようなもの

ピクサーの社員は毎朝、おなじみの「pixer」と大きく書かれたゲートをくぐり抜け、映画の冒頭にいつも出てくる電気スタンドの巨大モニュメントを横切り、自分の個室へと向かう。この個室は入社初年度から与えられ、自分の好きにアレンジすることができる。昼になり、オープンカフェテリアで無料のランチを食べ、屋上のテラスから緑で囲まれたキャンパスを見渡しながらコーヒーで一息つく。そこからはキャンパス内にあるアトリウムや600人座れる円形劇場を見ることができる。

キャンパス内には他にもプール、バスケットボールコート、サッカー場とさまざまな設備が整っている。退社する前には庭に植えられたハーブや果物を採って持ち帰ることもできる。

グラント・アレクサンダー氏にピクサーとは何かと聞いたところ、「家族のようなもの」との答えが返ってきました。キャンパス内には誰も急いでいる人はおらず、カフェで社員がどうすれば良い映画をつくれるか話し合っていたり、外でスポーツをしたりしています。そうすることで、社員はほとんどの時間を同僚と過ごすことになり、チームを超えた家族のようにお互い感じるようになると言います。

 

ストーリーこそがキング

グラント氏は何がピクサーをそこまで特別な映画スタジオにしているのかという質問に対し、ただ「ストーリーこそがキング」と語ります。物語、キャラクター、そしてそれらを作り出す世界観がピクサーにとってもっとも重要であり、彼らのつくるコンピュータアニメーションに革命的な最新技術を導入してきてはいるものの、それは最重要事項ではないようです。だからこそ、キャンパスに遊び心を入れ創意工夫を凝らし、どのようなストーリーが技術にマッチするのかを正しく選択できるようにすることを日頃から重要視している、というピクサー全体のフィロソフィーを感じることができるのです。

ピクサーは明らかに他の映画会社とは違います。ほとんどの映画会社がロサンゼルスのハリウッドに拠点を置き、短期的にプロジェクトベースで採用を行います。その不安定な環境ゆえに、社員は強いプレッシャーを感じることが多いそう。一方でピクサーは、敢えてロサンゼルスから遠く離れたエメリービルに拠点を置き、長期的な視点で社員を雇います。そうすることで社員は安心して働くことができます。日本でもクリエイティブなことをやるならば、東京から少し離れて落ち着いた場所で、リラックスしながら働ける環境づくりが大切とのこと。

 

社員を退屈させてはいけない

なんと驚くべきことに、アニメーターとして最高峰とも思えるピクサーですら、特にテクノロジー部門では辞める人がいるのだそうです。ピクサーはサンフランシスコからもシリコンバレーからも近いので、エンジニアはより高給なオファーがたくさんあるんですね。

ピクサーは優秀な社員を繋ぎ止めるために、敢えて企業らしくない文化をつくっています。例えば、社員は「ピクサーユニバーシティ」という教育を受けることができます。このプログラムでは、絵の描き方や彫刻の仕方から、映画の撮り方まで無料で学ぶことができます。クリエイターが進行中のプロジェクトがない時期に、このプログラムで新しいスキルを身につけることができるというわけです。今まで経験したことのない分野の学習が推奨されており、社員の視野を広げているようです。忙しくない時にもピクサーユニバーシティで勉強させて雇用し続けるアメリカの人事制度は、日本のアニメーション業界とは異なって余裕に溢れているといえるでしょう。

 

世界で認められるには異文化を知る

ピクサーが想像力を維持しているもう1つの秘訣は、世界中の異なる文化を深く理解しているところにあります。ピクサー本社のクリエイターは各国にあるローカルチームから、その国の笑いのツボは何なのか、よくある名前は何なのか、トレイラーを公開するタイミングと見せ方などといった細かいアドバイスを受けるそうです。例えば、イギリスでは週末が晴れた場合には誰も映画館に行きません。そのまま試写会をしたら誰も見に来ないので、天気が悪い日まで試写会の日を伸ばしたほどです。

また、「カーズ」の制作では、クリエイターはカーレースに参加したりしています。この経験で車を運転することの難しさを知るだけでなく、車体の形がどのように見えるかなどをより正確に知ることができ、車オタクですら「この映画、車のことよくわかってるじゃん」と言わせるほどのクオリティとなりました。その国や分野の文化を理解することで、本物とそっくりな描写ができるようになり、アメリカ以外の国の視聴者でも、ホームのような感覚で映画を観ることができるのです。

Pixar Animation Studio
http://www.pixar.com/
グラント・アレクサンダー(Grant Alexander)
Pixar Animation Studio スケッチアーティスト/キャラクターデザイナー。ディズニー・ピクサー映画「カーズ2」をはじめ、「インサイド・ヘッド」「アーロと少年」など長編、短編問わずさまざまな作品に参加しキャラクターデザインを手がけています
もともとは小さな工場があるだけだった、カリフォルニア州エメリービルという街にピクサーは位置しています。ピクサーをより革新的にし、最先端の技術を毎年生み出せている秘訣の1つは、キャンパスのレイアウト。広々とした空間で、競争を感じさせず、リラックスできる雰囲気で溢れています。例えば、メインオフィスであるスティーブ・ジョブズ・ビルディングでは、ジョブズは意図的にエンジニアとアニメーターが交流できるようにしています。これにより部門を超えてお互いの知識を共有するようになり、新しいアイデアが生まれると言います

 

Text:ブランドン・片山・ヒル
米国サンフランシスコに本社のある日・米市場向けブランディング/マーケティング会社Btrax社CEO。主要クライアントは、カルビー、TOTO、JETRO、伊藤忠商事、Expedia、TripAdvisor等。2010年よりほぼ毎週日本から米国進出を希望する企業からの相談を受け、地元投資関係者やメディアとのやりとりも頻繁。http://btrax.com/jp/

掲載号

Web Designing 2016年12月号

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2016年10月18日発売 本誌:1,559円(税込) / PDF版:1,222円(税込)

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