シンプルを極めた「Amazon Dashボタン」IoT製品の成功は“一つにつき一つ”にある|WD ONLINE

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Bay Area Startup News Web Designing 2016年3月号

シンプルを極めた「Amazon Dashボタン」IoT製品の成功は“一つにつき一つ”にある

海外で起こっている、あるいは起こりつつある新しいビジネスの潮流、近い将来に日本にやってくるであろうビジネストレンドなどを紹介・考察します。米国サンフランシスコ在住の筆者が、サンフランシスコおよびシリコンバレーの「ベイエリア」を中心に、イケてるスタートアップを中心とした会社、サービスを毎月1つ取り上げながら、その背景や目的、今後日本で起こりうるトレンドについて追究します。

最近特に話題になっている「IoT」。モノがインターネットに繋がることで新しいタイプのサービスが提供可能になりました。携帯電話がネットと繋がることでスマホが生まれ、自動車がコネクトすることでテスラのようなコネクテットカーが生まれるなど、これまでには考えられなかった価値をユーザーに提供しはじめています。同時に、新たなビジネスモデルやエコシステムの構築も進んでおり、向こう数年間で大きな変化が訪れるのは間違いありません。

その一方で、さまざまなデバイスをインターネットに繋げてみたものの、実用性が低いプロダクトが生まれるケースも少なくありません。実際に買ってみたものの、使いにくい、ややこしいなどの理由もよく聞きます。長期的に使い続けられているIoT製品は非常に少ないのが現状です。

一方、ヒットする製品に共通しているのは、そのシンプルさとユーザーエクスペリエンスのクオリティの高さでしょう。特にアメリカでヒットしているIoT系プロダクトの多くは、一つの製品につき一つの機能が基本です。これは、多機能が売りだったこれまでの家電とは大きく異なり、シンプルさが成功の鍵となります。

その代表例でありもっともシンプルな商品が、「Amazon Dashボタン」です。Amazon社が提供するこのプロダクトは、大きさがフリスクの箱ほどで、ボタンとLEDの電球が一つずつ付いているだけ。このデバイスをWi-Fi経由でネットに接続し、ユーザーのAmazonアカウントと連動することにより、ボタンを押すだけで特定の製品に関して自動的にオーダーが入る仕組みです。

このDashボタンは、一つにつき一つの製品しかオーダーすることができません。最近の多くのデバイスの多機能化トレンドに反するような、極めてシンプルなデバイスです。このボタンの利用方法は、例えばボタンを洗濯機に貼り付け、洗剤が少なくなってきたと思ったときにボタンを押すというもの。すると自動的にAmazonにオーダーが入るので、なくなる前に洗剤が家に届きます。必要を感じたその場で注文できるので、注文忘れがなくなり、次に必要な時には届いているわけです。

Dashボタンは、洗剤以外にもお菓子やカミソリ、ジュースなど、日常生活で定期的な購入が必要な多くの商品専用のものが用意されており、その数は現時点で数十種類にもおよびます。このデバイスがすごいのは、使いやすさを通じてユーザーに便利さを提供、Amazonへのオーダーを増やすことでビジネスを拡大、そして消費材メーカーに対しての継続的なオーダーの提供と、すべての人々へのメリットを提供していることです。この“三方良し”を実現したAmazonは、やはりすごいですね。

Amazon Dashボタンは、アメリカのAmazonプライムメンバーを対象に開始されました。Amazonアプリを使ってWi-Fiに接続し、特定の商品を割り当てます。サービス開始以来急速に商品ラインアップが増えています Amazon Dash Button

 

Text:ブランドン・片山・ヒル
米国サンフランシスコに本社のある日・米市場向けブランディング/マーケティング会社Btrax社CEO。主要クライアントは、カルビー、TOTO、JETRO、伊藤忠商事、Expedia、TripAdvisor等。2010年よりほぼ毎週日本から米国進出を希望する企業からの相談を受け、地元投資関係者やメディアとのやりとりも頻繁。 http://btrax.com/jp/

掲載号

Web Designing 2016年3月号

Web Designing 2016年3月号

2016年2月18日発売 本誌:1,559円(税込) / PDF版:1,222円(税込)

デジタル時代の「リピーター&ファンを生む」新法則/SimilarWeb活用講座

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■ 特集:デジタル時代の「リピーター&ファンを生む」新法則
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「自社サービスのリピーターを増やしたい!」「自社商品のファンを生み出したい!」というのは、売上を安定して伸ばすためには欠かせない命題です。しかし、スマートフォンの普及でネットが当たり前になった「デジタル時代」の消費者動向は、以前とは明らかに変わってきています。では、この時代にリピーターやファンを生み出すには、どのようなポイントを押さえて施策を打っていく必要があるのでしょうか。リピーターやファンを生むために必要な「エンゲージメント」の仕組みから、実際の成功事例の考察まで、さまざまな切り口の「法則」を紹介していきます。

 Part1 デジタルサービスにおけるエンゲージメント向上とは
  なぜエンゲージメントを高めるのか?
  「エンゲージメントの高い顧客=リピーター」ではない
  顧客がそのサービスを仕方なく使っている「悪い売上」
  単なるリピーターではなく、ファンをつくる
  顧客からの愛着度を高めるためには?
  よい体験を生むための重要なポイント
  エンゲージメントを高める上での指標
 Part2 成功の理由はコレだ! エンゲージメント四賢人の事例分析
  Case Study 01 斬新なポイント制度でユーザーを巻き込むタイムズカープラスの戦略
  Case Study 02 LOHACOだからできるメーカーの垣根を越えた販売
  Case Study 03 顧客満足度を高め継続性を促進するOisixのECショップ戦略
  Case Study 04 ワイン特有の悩みを自社の強みで解決する京橋ワイン
  Case Study 05 稼働率の上昇プロセスを重視するスーパーホテルの徹底的“おもてなし”

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 競合Webサイトを徹底分析して、自社Webサイトの運用・施策を改善しよう

Webサイトの運用では、アクセス解析と時流に即した改善は成果を上げるために必須のポイントです。また、自社Webサイトの分析と同時に、競合他社や市場トレンドの動向についても目を配る必要があります。ここでは、そうした分析を効率的に行える「Web競合解析ツール」の効果的な活用法について紹介します。

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 □ Bay Area Startup News
 シンプルを極めた「Amazon Dashボタン」。IoT製品の成功は“一つにつき一つ”

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