2016.02.02
モノを生むカイシャ Web Designing 2016年2月号
魔法のような映像体験を生むカイシャ「NAKED Inc.」
「プロジェクションマッピングの会社」というだけでは語り尽くせない。水族館やタワー・展望台といった既存施設に新しい演出を加えた体験やイベントの新潮流を生み出し、老若男女の記憶にキラキラを刻み込むNAKED Inc.。そんな魔法を生み出す彼らの思想ってどんなもの?
Photo:合田和弘
記憶や現象を“体験”へ 純粋さが育むクリエイティブ
このインターネット時代、相手に最初の印象を決めさせるのは、悲しくもたった3つの情報なのです。顔写真、プロフィール、そして代表的な経歴。それだけで、第一印象を決めてしまう。話したこともない、記事も読まない、たった3つの情報を見ただけのどこかの誰かに良し悪しを下されてしまうのが、情報蔓延時代のおそろしい評価システムなのです。
そして今回の取材先の情報は以下の通り。「社長がガチなイケメン」で、その経歴には「俳優」と書いてあり、あの「東京駅のプロジェクションマッピングを手がけてお洒落カフェまでプロデュース」している。どうですか?
「チャラい‥‥」
はい、そう思ったすべての方にこの記事を読み進めて、誤解を解いていきたい。これほどにピュアで純情で、つくることに対して真摯な方々に出会えて、私は涙がこぼれそうなほど心から喜んだのです。彼らの社名は「NAKED Inc.」。代表の村松亮太郎さん、プロデューサーの大屋友紀雄さんにお話を伺いました。
Company Profile
(株)ネイキッド
組織形態:株式会社
資本金:4,300万円
事業内容:テレビ番組の企画・制作/映画制作・CG/テレビ番組映像計画およびプログラミング/グラフィックデザインの企画・制作/映画宣伝企画立案、運営業務/映画、テレビ広告の立案およびプロダクション全般業務
スタッフ数:80名(2015年11月現在)
設立:1997年10月
ーーあの、まず社名のNAKEDを直訳すると「全裸」なんですが‥‥。
大屋:まずそこですか(笑)。まぁ迷惑メールにフィルタリングされたり、海外に行って「映像つくってます」って自己紹介すると、「ニヤリ」とされたりしますけどね。
村松:でも、NAKEDを設立した90年代の終わり頃は突飛な名前だって言われましたけど、いまは随分と過ごしやすくなりましたよ。時代も変わりましたね。
ーーえっ、そんなに古い会社なんですか?
大屋:実はもう、設立18年になるんです。当時はパソコンで映像を作ることすら一般的じゃなかったし、デジタル映像では第一世代でした。ただ、この18年の歳月のうちに、IT起業ブーム、VJブーム、ミュージックビデオから着火した映像ブームなんかが短いスパンで到来しては、静かに終結していって。僕らは会社として承認欲求もあまりなかったし、世間の波には揉まれずに地道にやってましたね。でも、2012年の東京駅のプロジェクションマッピングが話題になりまして‥‥。
ーー確か、クリスマスシーズンで混雑がすごすぎて話題になったやつですよね! わたしもあの件でNAKEDさんのことを知りました。
大屋:一度世間に名前が出てしまったのであれば、今度は「一発屋だった」と言われないように定期的に露出しなきゃいけなくなった(笑)。それで最近は広報活動も比較的活発なんです。
村松:出たくないのに前に出されるようになりました‥‥。
ーーあれ、そうだったんですか。すみません、イケメンで、俳優さんで、あの、ちょっと勘違いしてました‥‥。でも、そもそも俳優だった村松さんが、どうしてクリエイターに?
村松:僕が役者をやり始めた10代の頃、映画監督は監督業、役者は役者業というふうに、まだ明確にわけられていました。そんな中で、役者のショーン・ペンが自身で監督をした映画『インディアン・ランナー』は、有名な俳優はおろか、自分すら出ていない。でも素晴らしい映画だったんです。そのスタンスに大きな勇気をもらって、つくる側にシフトしていきましたね。
ーーなるほど。制作の欲求がすごく純粋なところから湧き出てるように感じるのですが、いざクライアントワークとなると、違和感も抱かれるのでは?
村松:いや、ないですね。
大屋:会社としてアート的なのか、商業主義であるべきかというのは重要ではなくて、むしろ両立できると思っています。メジャーなものを否定しながら居酒屋でクダ巻いてても仕方ないし、新しい価値は形にして初めて生まれるものなので、とにかくつくって実証したいです。
村松:それよりも、僕らの仕事を通して、いかに作品を見る人に憑依していくか、世界と一体化できるかということの方がもっと重要です。一つの映像作品をつくることより、現象や、記憶や、シーンとして残していきたい。時間軸や作品単体で切り取れないものをつくっていって、世界と一体化したいんですよ。でも、やってもやっても、満たされない。
OFFICE
さまざまなクリエイティブをこなすNAKEDのオフィスは、
あらゆる作業が行える環境が整っていました
——すごい言葉をいただきました。なんだか村松さんの創造力の源泉みたいなものをひしひしと感じるのですが、一方で組織としてどのように実現していくのでしょう?
村松:あ、最近組織図をつくったのですが、見てください。(放射状にグラデーションで色分けされた円。「赤=映像」「青=Web」といった明確な色に役割が振られているものの、グラデーションのため境目がない)
ーーなんだか、食品栄養一覧表みたいな組織図ですね(笑)。明確に区切りがないし、円だから上下左右もなくて。
村松:今の時代って、組織のあり方が野球的なものからサッカー的なものに変わっていると思うんです。「はい出番です」とバットを持たされるのではなく、各々が自発的に動く中で自分で判断してキラーパスを出す。時にはディフェンダーがゴールを決めることもある。NAKED内でも、映像、Web、デザインと区切るのではなく、穏やかなグラデーションの中でそれぞれが領域をまたぎながら、動いていってほしいので、このようにしています。
大屋:実は、組織化して上手く機能しそうになると村松が解体して、またバラバラにされるんです(笑)。組織分けって、一時的には効率的なのですが、実はどんどん活性化しなくなる。
村松:自分の仕事はこれだ!って思いに捉われてほしくないし、NAKEDでいろいろと挑戦していきたいんです。頭の中を星空だと思えばいいんですよ。星座だって人が決めたことだから、自分自身が浮遊して視点を変えれば、別の星座を組むことだってできるじゃないですか。
CREATIVE
見るのではなく、“体験”するNAKEDの映像世界を紹介します
◎取材後記 NAKEDの根源にあるのは承認欲求ではなく、生存欲求だ!