2016.02.04
国境を越えたECは日本でも定着するか データアナリスト萩原雅之氏による統計コラム
急成長がつづくECビジネスにおいて、とりわけ注目を集めているのが「越境EC」だ。聞き慣れない言葉だが、「borderless e-commerce」の訳語として定着しつつある。消費者が自分の国以外のECサイトで商品を注文、購入することをいう。
オンライン決済サービスのPayPalが大手調査会社のIpsosと共同で、日本を含む世界29カ国 2万3,200人のネットユーザーを対象に、越境ECの利用状況を調査している。直近1年間の利用経験者は36%で、1年前に実施された前回調査の25%から大きく伸びたという。うち主要18カ国についてまとめたのが下図。ほとんどの国で3割から6割が経験者だ。商品分類としては「洋服・靴・アクセサリー」や「電気製品」が人気なのだそうだ。
ところが、日本はわずか12%にとどまっており、29カ国の中で最低である。国内のECが充実していて、越境ECへの関心や必要性をあまり感じないからかもしれない。米国も22%と低いが、世界共通語である英語で世界中のショッピングができるのにもったいない話だ。
もちろん言語や送料、サポートの心配がなければ、日本では手に入らない海外ブランドの衣料や雑貨などを購入してみたいと思う日本のユーザーは多いだろう。海外のEC事業者が日本語のサイトや安心できるサポートを準備できれば、需要が増える可能性もある。昔に比べると海外からの送料も安くなっているように思う。
一方、国内のEC事業者にとっては、海外顧客という新しいビジネス機会への期待につながる。特に「爆買い」で有名になった中国の富裕層、中間層は日本の化粧品や日用品への関心が高く、直接注文するようになっている。中国に販売会社をつくって販売するのではなく、日本から直接商品を届ける事業者も増えている。
多言語対応のサイトや迅速な配送、決済方法が充実すれば、越境ECとして流通する商品は増えつづけるだろう。あらゆる国の消費者が、どの国の商品でも直接注文し手元に届く時代になったということだ。
- Text:萩原雅之
- トランスコスモス・アナリティクス取締役副社長、マクロミル総合研究所所長。1999年よりネットレイティングス(現ニールセン)代表取締役を約10年務める。著書に『次世代マーケティングリサーチ』(SBクリエイティブ刊)。http://www.trans-cosmos.co.jp/