2015.12.21
ECサイト業界研究 Web Designing 2016年1月号
カンバセーションコマース Facebookを利用した会話によるEC
Facebookをはじめとするソーシャルメディアが浸透し、顧客になりうるユーザーへの影響力も日に日に強まっている昨今、このソーシャルメディアの中で購入の意思決定をしてもらおうという施策がEC業界で広がってきています。そのキーワードは、「会話」です。ソーシャルメディアでの「会話によるEC」とはどのようなものでしょうか。
「実名ソーシャルメディア」の浸透
2015年を振り返ると、Facebookに代表されるソーシャルメディアが広く人々に、完全に定着した年でした。
思い返せば2011年、Facebookを主体とした「Fコマース(あるいは「ソーシャルコマース」)」という言葉がEC業界を席巻しました。要するにFacebookをプラットフォームとして販促活動をするのですが、1年も経たずにこの言葉を口に出す人は見かけなくなりました。それもそのはずで、いきなりタイムライン上で「これ買ってよ!」と言われても、何のつながりもない人の誘いに乗ることはできません。何かを買う意志を持ってソーシャルメディアを見るのと何気なく見るのは明らかに違います。
こういった“試行錯誤”を経て、ソーシャルメディアにおいてユーザー行動の一つの傾向が見出されました。それが、ある商品が気になっている人がそれに関連するソーシャルメディアを見た際、「ソーシャルメディアで会話をして」購入の意思決定をするということです。米国では、「カンバセーションコマース(Conversation Commerce)」と呼ばれ、現在非常に注目されているキーワードの一つとなっています。今回は、この「会話によるEC」について解説しましょう。
カンバセーションコマースとはいっても、ECにおいて顧客と店舗が会話をする場は以前から用意されていました。そう、掲示板です。全盛期には掲示板をオープンにして会話をする店舗も多かったのですが、掲示板が荒れたりするとクローズドにせざるをえない、ということも起きていました。Twitterが流行った時は、匿名やイニシャル、ニックネームが多く、顧客も店舗もお互い本人かどうかわからないやりとりになってしまいました。そういった背景もあり、直接店舗と話をするのであればメールのほうが信頼性があり都合が良いという流れになっていきました。
そこに台頭してきたのがFacebook。このソーシャルメディアは実名での登録が基本です。今まで匿名で会話をするWebサービスに慣れていた日本では、当時、ネット上に実名をさらすことに抵抗を感じる人が少なからずいました。それが時を重ねるごとに少しずつ、いつの間にかFacebookのような“実名ソーシャルメディア”でのやりとりに慣れてきて、オープンの場で会話することに慣れてきました。とはいえ個人情報の流出を恐れる人もまだまだ多いですが、実名ソーシャルメディアの土壌は耕されてきたと言っていいでしょう。
お互いにその人なりの生活感がわかる実名ソーシャルメディアは、会話する場合に有効です。会話を始める前にお互いのタイムラインをチェックすれば、イメージが湧きやすくなります。そんな中で、Facebookページでファンになり、ページの写真や文章に興味が出てきて、コメントをするうちに、商品についての問い合わせが出てくることがあります。
「この商品はもう売り切れですか?」「いつ頃入荷しますか?」「いくらぐらいですか?」などという質問に答えるなどの会話をするうちに、顧客にとって商品購入の意思決定材料が用意されていくのです。
Facebookは人を追う
この「会話」を発生させるのに、実名ソーシャルメディアの力が活かされます。では、その力とはなんでしょうか。
たとえばGoogleは、PCやスマホを使って検索結果からいろいろなWebサイトを閲覧するデータ(Cookie)を追っています。一方、Facebookは「人」を追っています。人の情報を取得し、その人を中心に友達がいて、何に興味を持っているのか、何をやっているのかを解析しています。これは実名だからこそ、より正確に把握できることです。
この違いは非常に大きいと言えます。たとえばFacebook広告を出すとして、「35歳の女性、東京・銀座から50km圏内に住んでいる人」とFacebook広告マネージャーアプリで設定すると、約15万人いることがわかります。これをGoogleアドワーズで行おうとしてもほぼ不可能です。
他にも小売業を営んでいる(働いている)、iPhoneを持っている、映画「StarWars」に興味があるなど、人に関するデータをもとにプロモーションを実施することができます。たとえば、女性が顧客層であるECサイトでは、ターゲットの年齢がよくわからなかったため1歳刻みで広告キャンペーンを実施したところ、49歳がピンポイントで良かったそうです。また、あるインテリアのお店では年齢が35歳から40歳がベストということで、この年齢と、特定の雑誌を購読しているユーザーだけに絞ってプロモーションを実施しています。「人」というデータから割り出して、ピンポイントに狙うことができるのは、小売業としてはピッタリのプロモーションです。
Facebookでは既存の顧客とマッチングができますので、その顧客との会話もできますし、新たな顧客の開拓、営業活動が可能です。既存の顧客との会話では、商品のフォローや試作品、新製品についてヒアリングすることもできます。そのようなロイヤリティの高い顧客との会話を公開できれば、新規の顧客も店舗の安心感を感じてくれますので、新しい取引につながりやすくなります。まずはFacebookによるプロモーションから、購入動機につながる「会話」へ導いていくことが大事になってきます。
●会話の機会を増やすプロモーション
とはいえ、すべての商材でこのプロモーション手段が有効なわけではありません。やってみてはじめてわかる場合が多いのです。Facebookは1日100円から広告が打てるので(実際には1日100円で5日間、計500円)、少ない金額で試してみて反応がいいかどうかを確認することをおすすめします。反応がなければ止めればいいので、他のプロモーションに比べると気が楽です。
ただし、注意しなければならないのが広告規約に違反した画像です。違反した画像はタイムラインに反映されません。たとえば刃物の画像や文字が20%以上入っている画像などです。また、新聞記事はフェイスブック社の広告審査に通ることがありますが、雑誌の表紙はほぼ不可です。Facebookはアルゴリズムで自動判別されていますので、文句を言ったところで変更することはほぼありませんから、すみやかに広告審査に通る画像を作成してプロモーションを実施しましょう。
そして最近は、動画のほうがタイムラインで表示されることが多いので、できれば動画がベター。次にユーザーが好きそうな画像。グルメ系の食材だったら食べる瞬間がいいですし、革の鞄ならその質感、建築物なら細かいところまで撮影した画像がオススメです。いずれもファンになった方にどのような画像を送れば見てくれるかがポイントです。
投稿内容が顧客層の興味にマッチした「内容の良い」ものだと、オーガニック(自然表示)にも影響がありますので、できる限り顧客とのエンゲージを意識した画像やテキストを用意しましょう。筆者の経験上、あからさまに宣伝だなと思うような投稿はリーチすらできないことが多く、そんな投稿では真に大事な会話の発生など期待できません。
ある店舗のFacebookページで広告を打ってみたところ、6万9,149人にリーチができました。オーガニックで4万1,656人、有料の広告で2万7,493人です。この広告費は5,000円で、1人あたり5.50円でリーチできたことになります。このFacebookページでは新規の顧客であっても気軽にコメントできるような雰囲気をつくるように心がけていました。すると、投稿するとコメント欄に既存の顧客から「いいですね~」や「いくらなんですか?」などとコメントが寄せられたのです。こうなると“ひと気”が出てきますので、Facebookページ自体が賑やかになってきます。
この「コメントしやすい雰囲気」は店舗側のFacebookへの投稿内容が大きく左右します。具体的には商材のイメージや顧客層にあわせた対応が必要ですが、顧客との会話が発生した際にまず覚えておいた方がいいのは、顧客からのコメントが入ったらできる限り早めに返信することです。顧客や新規ユーザーからもっとも嫌がられるのは、「無視」されることなのです。以前は20分、30分待ったほうがいいと言われることもありましたが、今はできるだけ早く返信するべきです。なぜなら、コメントであってもそれが「会話」だからです。会話するようにコメント返しができると、お客様とのエンゲージ(つながり力)が上がります。こうなるとなかなか他のお店へ流れることがなくなってきます。
ソーシャルメディアとECの今後
さて、このような会話の力、カンバセーションコマースが米国でも話題になっていると冒頭でお伝えしましたが、この会話の中で生まれる購買意思決定の行動が、ソーシャルメディアのプラットフォーム側に強く影響をおよぼしています。
2014年から2015年夏にかけて、メジャーなソーシャルメディアはすべて購入ボタン(BuyButton)をつけることを発表しました。この背景としては、やはりソーシャルコマース、特に購買意思を持ったユーザーとの会話とその流れを見ているユーザーからのECの売上がしっかり上がっていることが調査でわかっているためです。
Pinterestの発表でも約6割の人がPinterestを見た後に購入していることがわかっています。これはプラットフォーム側から考えれば利用機会損失になってしまうため、ソーシャルメディアプラットフォーム側でそのまま購入できるようにしたいというのは、経営的に見ても妥当な流れでしょう。
このソーシャルメディアでの購入ボタンは、まだ日本に入ってきていません。私の予測では2016年の春から夏ではないかと予測しています。これはECにとっても、Webサイトを運用している企業や制作会社にとっても大きな動きです。たとえば画像の上にそのまま購入ボタンがあることは衝撃的でしょう。本当にそれで買うのか、買えるのかどうかは現段階でわかりませんし、送料とか決済とかどうなるのか、配送日時指定はどうするのかなど疑問は残りますが、間違いなく2016年のエポックメイキングな話題になりそうです。今の段階からチェックしておくことをお勧めします。
04 続々と「Buy Button(購入ボタン)」実装を発表したWebサービスプラットフォーム