2018.06.29
ECサイト業界研究 Web Designing 2018年8月号
ECにおける働き方 事業拡大・人材育成に必要な6つの報酬
ECショップの運営には、非常に多岐にわたる仕事があります。ゆえに事業規模が拡大するとスタッフの数も増やしていくことでしょう。では、彼らに気持ちよく、意識高く働いてもらうにはどうすればいいでしょうか。
売上が増えれば仕事も増える
まずは上の01、02をご覧ください。EC市場の急速拡大、さらにフリマアプリなどの新たな市場が膨らんでいく現状において、今回はECにおける働き方、そして人材採用をどうすべきかを考えてみます。
少し過去にさかのぼって、EC市場は2010年で7.7兆円でした。これが7年で2倍以上の流通額が生まれました。売上が2倍になれば、当然仕事量も2倍になります。そこでECショップはシステムで運用したり、合理化、効率化、改善を進めていくのですが、実態としては抜本的な改革はせずなんとかしてきたというのが実情ではないでしょうか。特に人海戦術かつアナログで戦っている現場は、「徹夜してなんぼ!」「3時間睡眠で乗り切れ!」みたいなノリで業務をこなしてきており、今なら確実にブラックなことをしてきました。現実に少し前までは、うまい棒1本を残業代にしていた大手のECショップもありました。ECの黎明期はどこでもこんな状態だったと思われます。
ECの仕事は多岐にわたります。工場からあがってきた商品を撮影、画像編集はもちろん、商品データを作成し、在庫データを入力。ECサイトのデザインやページの更新、ページの追加、メルマガの作成配信、注文が来たら受注処理して、在庫確認から製造確認、配送指示を出してピッキングして梱包して、配送。
お客様に商品が届いた頃にフォローメールを送信、全体の分析からPDCAを回し、集客をどうするか、検索対策やCPC広告、各広告をどうするかなどを考え、さらに最近ではSNS対策も増えてきています。やることは会社運営並みと言っても過言ではありません。当然ながら、キャッシュをどうするかとか、税理士との打ち合わせや銀行との交渉、もちろん人材採用や人材教育も考えなければなりません。
ECならではの人材獲得・育成
やることが増えるのなら人を雇えばいい…しかしそれも、簡単ではありません。というのも、最近ではフリマアプリなどの台頭で、一人で気楽に始められるようになってきましたので、少し能力のある方なら、家の中にあるものを探してきては売りまくっています。すると、能力のある方は企業に入らずに自分でECを始めてしまい、EC企業の求める人材が採用市場に出てこなくなってしまいます。
つまり、ECの流通額が2倍になり、フリマアプリの市場が5,000億円になったことで、ECに関わる人材が採用しにくくなって、市場に働き手が不在という状態になり、この傾向はさらに続くということになります。
この、人材そのものがいなくなっている現状をどうすればよいのでしょうか? 私は、EC業界ならではの特徴があるため、ここをうまく活かして人材を確保し、人材を育てて行けばよいと考えています。
そこで紹介したいのが、「6つの報酬」(03)です。 マーケティングの神田昌典氏の先生にあたる前田出氏は、報酬には6つあると定義しています。
(1)お金、(2)ポジション、(3)やりがい、(4)スキルアップ、(5)仲間、(6)人間性
私は、この6つの報酬を組み合わせることで、EC業界の人材育成とECの事業拡大ができると考えています。
給料・役職・やりがい
まずひとつ目の「お金」。当然ですが標準的な給料は必要です。ただし高給である必要はありません。経験上、お金で来る人はお金で去っていきます。実際にここ数年で高給や転職で一時金を出していた企業が今どうなっているかを調べればすぐにわかります。
お金は、たくさんあったほうがいいに越したことはありません。ですが給料が10万円から20万円になれば、今度は30万円が欲しくなり、30万円貰えれば50万円欲しくなります。100万円もらっても同じです。どんどん欲しくなります。お金については何をやりたいかによって変わってくると思いますし、資本主義である以上、やったことの結果で給料が変わると言っても過言ではありません。給料は信用のスコアだと私は考えています。
また、福利厚生もお金の一部ですが、今の日本の法律では福利厚生に費用が掛けられない税務上の問題が大きくあります。福利厚生だけに目を向けることは経営側も働く側も止めたほうがよいです。
2つ目の「ポジション」は組織上の立場のことで、よくある名称は課長や班長などですが、ECの場合には店長や店舗運営責任者となります。仕事が多岐にわたりますから、システム班長や受注カスタマーセンター長などさまざまなネーミングがあります。ポジションの名前だけでモチベーションが上がることもありますので、うまく使ってください。
3つ目の「やりがい」。ECではコツコツの積み重ねが結果的に売上につながっていきますので、 爆発的な売上が出た時やお客様のうれしい声が集まった時には、すごくやりがいを感じるのです。特にお客様のレビューやメールなどでのお客様の声は特にうれしいものです。うれしい声が届いたら、ぜひ社内で共有しましょう。
しかし、注意しなければならないのが、悪口やクレームです。感情的にならず、事務的に処理するのがベストです。たまに朝礼で昨日のクレームを発表する店長さんがいますが、止めてください。モチベーションが下がるだけで何もよいことはありません。
このお客様の声の集め方ですが、サイトなどに「レビューを書いてください」「厳しい声をお待ちしております!」などと書くと、本当に厳しい声が集まってきます。商品の品定めから配送ドライバーの汗の匂いまで重箱の隅をつつくような細かいところまで書いてきます。これはこれで改善としてはうれしいのですが、人材や働き方を考えれば「うれしい声」「よかった声」というモチベーションを上げてくれる声を貰えればいいのです。店舗運営の厳しい点は、家族や親友に依頼したほうがよほど鋭いところをついてきます。
スキル・仲間・コミュニケーション
4つ目は「スキルアップ」です。EC業界に入ってくる方は勉強したいとか、EC全体のノウハウを持ちたいという方が多くいます。実際にECショップを運営するとさまざまな知識が必要であり、それは人生においても非常に役立つことばかりです。スキルアップがしやすい環境づくりを用意してあげることが大事です。あるECショップでは人材採用がうまく行っていて、1回の採用で200人ぐらいの応募があるそうです。スキルアップも認めていて、業務もどこまでやるか、何をやっていくのかを明確にしています。スキルアップできる環境ができていれば、勉強熱心な方はすごくやりがいを感じます。
5つ目の「仲間」についてです。仲間という報酬は仕事での達成を一緒に喜べる体制をつくることが大切ということです。バーベキューをしたり、どこかへ飲みに行くことが仲間の報酬ではありません。「苦しかったけど何とか目標をクリアした」とか、「クレームのお客様に対して 何とかリカバリーできた」といった共通の目標をクリアした時の「仲間」というのは心に残るものです。
しかし、いきなりこの目標達成だけに絞るのは実際には厳しいです。特に後から入ってきた人材からするとどんな会社なのか、一緒に働く人はどんな方なのか、雰囲気は? 風土は? と、とても気になることが多いです。このため一緒にプロジェクトを行う上でまずは、ボウリング大会やバーベキューといったイベントを企画するところを考えて動くようにすると、その後の会社での動きがまるで違います。任せるのではなく、従来の社員と新人が一緒になって企画します。結果だけではなくプロセスも大事にします。ちなみに、複数人で企画から考えると声の大きな人がリーダーになって、服従ばかりする人や反対する人なども出てきます。ここはこういう役割が出てしまうことをあらかじめ伝えることで、お互いに意識してもらえるようになります。
そして、最後の「人間性」についてです。これもよく勘違いする方が多いのですが、人ですからミスもすれば、得手不得手もあります。そんな時に罵声を浴びせても何にもなりません。人間性を大事にしてあげて、叱る時には1対1で、1分以内で行うのがオススメです。褒める時には大勢の人がいるところで思いっきり褒めてあげるのがよいですね。
ECショップ運営のモチベーション
ECショップを運営していくのは、たしかに大変なことです。なんと言っても店舗運営は時間との戦いで業務の数は半端なくあり、かつ品質がよくなければすぐに顧客クレームになってしまいます。こんなに大変な仕事なのに、なぜ皆さんはECショップを続けられるのでしょうか?
それは小さなお店でありながら、すべてが経営であり、歯車ではなく「ECショップを運営している」という実感があるからなのです。そして、うれしいお客様の声が集まってくるのも非常に特徴的です。お客様と直接向き合うからこそ、喜びの声をダイレクトに聞くことができるのです。この醍醐味は他の小売業でもなかなかありません。
6つの報酬をうまく使って、経営側も働く側も楽しいECショップをぜひつくっていただければ、お客様もそれを感じて、よりよい流れをつくり出すことができます。