2018.03.03
ECサイト業界研究 Web Designing 2018年4月号
ECの「動画でおもてなし」 ネットショップの動画で一番なくてはならないもの
ECで動画は当たり前になりつつある状況で「動画でおもてなし」をするにはどのような内容を作ればいいのでしょうか。必ずしも多額の予算が必要ではありません。人手も必ずしも必要ではありません。可愛い女性が登場して、イケメンが商品説明する必要もありません。ECで本当に役立つ動画の作り方を説明したいと思います。
EC動画の主流は3種類
米国のフォレスター・リサーチが発行したレポートによると、電子メールに動画を埋め込んだ場合、クリックスルー率は200~300%上昇し、リンク先ページに動画を置くとコンバージョン率が80%向上すると報告しています。また、ユーザーの90%は、製品についてのビデオを見ることが決定プロセスに役立つと言っています。さらにニールセンの発表によると、オンライン消費者の36%が動画を信頼している、またコムスコアによれば、ビデオ視聴後、ユーザーの64%がオンラインで製品を購入する可能性が高いとのことです(01)。
このように米国の様子を見ると、動画での効果が高いことを示すレポートが非常に多くあります。日本でもユーチューバーがもてはやされたり、インスタグラマーやライブコマースの登場で動画を見る機会がかなり増えてきて、動画でのアピールはますますなくてはならないものになっています。
そんな中、ネットショップで現在よく使われている動画は、大きく分けて3種類あります。1つ目はTVCM。TVCMを打っている会社なら、そのTVCMをECサイトやSNSに投稿したりすることが多いです(02)。ただ、単にTVCMをそのままアップするよりも、そのTVCMのメイキングを加えたりして、より親近感を出していたりします。
2つ目は商品のスペックや使い方を紹介する動画です(03)。商品の全体像を見せて使い方を紹介するものが多くありますが、製造工程やどんな材料を使っているかを紹介することもあります。例えば、お米なら田植えや精米工程、アパレルなら歩いた時のシワや質感がわかりやすかったり、後ろ姿もチェックできます。
そして3つ目は、人が登場して説明する動画です。メインが人ですので、その人のキャラクター性やウリを全面に出すことが可能です。最近ではチャットでの質問にその場で応えるライブ動画も流行っています。
![](/files/user/img/brand/wdw/article/2018/04/a340949e84cef59d69ae6b81fdd3e2f0.jpg)
ユーザーの90%は、製品についてのビデオを見ることが決定プロセスに役立つ、オンライン消費者の36%が動画を信頼していると答えています。また、ビデオを視聴した後、ユーザーの64%がオンラインで製品を購入する可能性が高いというデータもあります
https://www.inc.com/gordon-tredgold/20-reasons-why-you-should-boost-your-video-marketing-budget-in-2017.html
![](/files/user/img/brand/wdw/article/2018/04/04a38083578054cea6024830607ec176.jpg)
![](/files/user/img/brand/wdw/article/2018/04/49fa642c7ff425a083a995732806fea2.jpg)
TVCM用に作成した動画をYoutubeにアップロードして拡散しています
![](/files/user/img/brand/wdw/article/2018/04/19495e1c1504d9579b3e69529353a3be.jpg)
![](/files/user/img/brand/wdw/article/2018/04/44055298aa1d9e1ffb0b560a54c34582.jpg)
![](/files/user/img/brand/wdw/article/2018/04/a6bd58cc5067d684e097d7814a1f6063.jpg)
商品説明用の動画をYoutubeとFacebookにアップロード。簡単な動画の組み合わせで商品を説明しています
EC動画に不可欠なもの
ところで、ECで動画を利用する場合にはどのような点に気を遣う必要があるでしょうか? それはズバリ「おもてなし」の心です。「おもてなし」というのは、これまたズバリ「不安を払拭する」ことです。
ネットショップの一番のデメリットは「不安」です。ネットショップの住所をGoogleマップで調べたり、会社名を検索しまくったりするユーザーも多いです。逆を言えば、不安をなくし安心感を醸し出すことができれば、お客様は買い物がしやすくなり、ショップ側もグッとお客様に近づいたことになります。
今まで日本のECでは文章量を増やし、画像をたくさん載せて商品がわかるようにしてきました。それは結果的に、長い長いWebページをつくることになっていきました。あるネットショップの店長さんは、説明の質よりページの長さが目的になってしまったぐらいです。「川連さん、楽天市場で一番長いページです。10メートルあります!」と堂々と言われた時には呆れてものが言えませんでした。
かたや画像や動画は伝わる情報量が比べものになりません。実際、米国の経営学者フィリップ・コトラーは、画像には2,000文字に匹敵する情報量があると言っていますし、フォレスター・リサーチの研究者ジェームス・マクウィベイ博士は「1分間のビデオは180万語に相当する」としています。そこまでの情報量が発信できるのなら、商品やサービス、店長さんやスタッフの思いや人となりも理解でき、不安を減らすことができるはずです。
例を挙げましょう。最近、いろんなネットショップで靴を探している方がいたので、ECサイトのページで何を見ているかを聞いたことがあります。すると、「靴の底を見たい」と言うのです。しかし、靴の底をアップで見せているサイトはほとんどなく、結局、かろうじて靴の底が見えたお店で購入されていました。こんなところに、販売機会の損失が起きたりするのです。この方にしてみれば、動画で靴をくるくる回して見られるだけでもよいですし、ライブ動画のチャット機能で「靴の底はどうですか?」とか「雪の道でも大丈夫ですか?」などと質問し、返答があれば多大な安心感とともに、親近感を得られたはずです。
安心感を出す一番の要素は、やはり「人」です。店長やスタッフが動画に出るということは重要なのです。祭すみたや(04)の「しんちゃん」のように前面的にその人を出すのもよいですし、そこまでしなくともさらりとスタッフが出るのもよいです。「コンバージョンを高める」と意気込んで動画をつくるより、フラッと立ち寄ったネットショップでたまたま動画を見たら、「なんか面白そうじゃん!」とか「よさそうだよね」と思わせることができれば、再訪問してもらえる確率が高まります。動画でコミュニケーションを取るイメージで撮影や編集に気を使うことがECでは大切です。そこで心理的な壁がなくなるだけで大きな一歩と言えます。
![](/files/user/img/brand/wdw/article/2018/04/a0ebf69c447646f74d395464fa6eb0ac.jpg)
![](/files/user/img/brand/wdw/article/2018/04/7b802812272d87f381ad85d1d1a83886.jpg)
店長の中川晋介さんが自ら出演し、祭り用品の選び方や着方、使い方を動画で説明しています
https://www.youtube.com/user/matsurisumitaya
https://www.youtube.com/watch?v=1nKDIzorvqk
制作・編集・公開のポイント
さてここからは、もう少し具体的な動画の制作・編集・公開について見てみましょう。
現在のECにおける動画の主流は3種類あると前述しましたが、いずれの場合にも、最近では動画の長さは1分以内がメインです。これはECだけではなく、他の業種であっても同様です。つくり慣れないと15分や20分といった超大作をつくってしまう方や、逆にTVCMを真似て15秒で収めようとしてハマってしまう方もいます。15秒動画をつくるには、クリエイティブの才能や無駄なものを省くことができるディレクションが必要です。
編集は、最近ではとても簡単にできるツールが出ています。イチオシなのが、「FastVideo」です(05)。 テンプレートを選んでドラッグするだけで動画ができてしまいます。プロが使うような動画編集ソフトを勉強して使いこなすより、簡単に作成してどんどんアップしたほうがECにはあっています。価格も格安ですし、その他ツールもいろいろ出てきているので自分にあった動画編集ソフトを使うといよいでしょう。
![](/files/user/img/brand/wdw/article/2018/04/9c5cac3e3d4fe95e0de559531f9ef0e2.jpg)
![](/files/user/img/brand/wdw/article/2018/04/cd61d1afd4059897b93986f16abd2943.jpg)
(株)LOCUSが提供するクラウド型テンプレート動画サービス「FastVideo」は、ドラッグ&ドロップするだけで動画編集ができます。ブラウザ上で作成し、完成した動画データを購入(1万円程度)し、ダウンロードして自由に使えるようになります
ECの動画をどこに公開するかも、とても重要なポイントです。公開する場所によって、サイズを決める必要があるからです。例えば、Instagramは正方形です。楽天市場も正方形のように見えますが、上下に黒枠ができるためで、実際は横長です。YouTubeやFacebookは4:3や16:9の横長になります。ECの場合を考えると、楽天市場やInstagramは簡単に編集できてアップロードすることができますから、撮影時にはできるかぎり正方形で収まるように考えておいたほうがよいでしょう。
最近のスマホはとてもキレイに撮影できますから、特にハイビジョン画質のカメラを用意する必要はありません。最新のiPhoneやAndroidのGalaxyあたりでしたら十分に使用可能です。スマホも横長で撮影することが多いので、正方形で最終アップされることを意識して画角を決めましょう。商品をアップにしたり、横にパンしたり縦に補足して見せたい場合には注意してください。
動画の公開に伴い、データのアップロードという作業が発生します。楽天市場は独自の店舗運営システム「RMS」からアップします。5,000ファイルまでOKで、お客様が見るサイズは320x240、480x360、640x480、320x180、480x270、640x360の6種類あります。動画データは100MB以下でアップします。
Yohoo!ショッピングは、YouTubeにアップした動画を使用できます。Facebookにアップする場合にはYouTubeの動画を共有するよりもFacebookに直接アップした方がタイムラインに出てくるサムネイルが大きく表示されるのでオススメです。ECで検索で有利な商材、再訪問時に検索で来られるようなサイトの場合には、YouTubeをお薦めします。これはYouTubeがGoogleグループであるからか、動画はYouTubeの方が検索した際に上位に表示される傾向にあるためです。
日本の動画施策が遅れた理由
日本で動画によるECが今まで流行らかなった理由はいくつかあります。「撮影や編集に手間がかかる」「ネットワーク代が高い」、そして、特にライブ動画において「誹謗中傷が多い」ことも挙げられます。メルカリやLINEライブでも誹謗中傷を止めるように伝えてはいますが、独特な文化ができてしまったこともあり、いまだに冷やかしの言葉も多いのは事実です。一生懸命喋っても、誹謗中傷が入ることでアーカイブにすることもできず、特にコンプライアンスやガバナンスが強い会社はライブ動画に対しては一歩引いた感じになるのは致し方ないところです。
しかし、技術革新により撮影や編集の手間がかからなくなり、インフラも通信技術の進歩で障壁ではなくなってきた今、この強力な手段を無視することはますますできなくなります。ユーザーとなる視聴者側のモラルの向上もありますが、提供側がいかに「おもてなし」の心を持って真摯に取り組み、伝えていけるかがEC動画施策の成否を左右すると言えるでしょう。
![](/files/user/img/brand/wdw/article/2018/04/cda6a1581ffac83477695fca63b8b54e.jpg)
![](/files/user/img/brand/wdw/article/2018/04/87278f82091c74272380aefa3cdc2d1d.jpg)
![](/files/user/img/brand/wdw/article/2018/04/7527ec2dd93978028ab6267505c17945.jpg)
![](/files/user/img/brand/wdw/article/2018/04/81b3bcb0fce70b4dd515e2d915446d18.jpg)
![](/files/user/img/brand/wdw/article/2015/09/b46fa161f66ff3b09da4b155d1a9f5f1.jpg)
- Text:川連一豊
- JECCICA(社)ジャパンE コマースコンサルタント協会代表理事。フォースター(株)代表取締役。楽天市場での店長時代、楽天より「低反発枕の神様」と称されるほどの実績を残し、2003 年に楽天SOY受賞。2004年にSAVAWAYを設立、ECコンサルティングを開始する。現在はリテールE コマース、オムニチャネルコンサルタントとして活躍。 http://jeccica.jp/