2018.08.15
Bay Area Startup News Web Designing 2018年8月号
中小企業&スタートアップの管理業務をシンプルにデジタルで一元化する管理システム「Gusto」
海外で起こっている、あるいは起こりつつある新しいビジネスの潮流、近い将来に日本にやってくるであろうビジネストレンドなどを紹介・考察します。米国サンフランシスコ在住の筆者が、サンフランシスコおよびシリコンバレーの「ベイエリア」を中心に、イケてるスタートアップを中心とした会社、サービスを毎月1つ取り上げながら、その背景や目的、今後日本で起こりうるトレンドについて追究します。
紙による煩雑な管理業務を効率化
日本でも働き方改革が叫ばれる中、アメリカでもより従業員が働きやすい仕組みをつくることが企業にとっての重要な課題になっています。その一端を担うのが、人事管理システムです。これまでの紙ベースのプロセスは非常に効率が悪く、働く方も人事担当者も無駄な時間を強いてきたと言わざるを得ません。
そんな中、このあまりにも非効率的な、しかしどの会社も抱えている課題を解決するべく2011年に創立されたのが、サンフランシスコに本社を置くGusto社。Gustoはこれまで煩雑になりがちだった人事系の業務を効率化し、従業員にもより透明性の高いシステムを提供することをゴールに急成長を続けているスタートアップです。
もともと「ZenPayroll」と呼ばれていた同社の提供するサービス「Gusto」は、今やアメリカ中の多くのスモールビジネスで利用されており、顧客は現在までに6万社を超え、アメリカ国内のビジネスの約1%にのぼります。サービスローンチから1年以上が経った今も、その勢いを落とすことなく成長を続けている、まさに注目のユニコーン企業となっています。
小規模企業にも一元管理システムを
Gustoは、人事に関わる数多くの管理業務をデジタルで一元化し、スムーズなUXを通すことで、働きやすさの実現を目指しています。メイン顧客として、前述のとおり主にスタートアップや中小企業などのスモールビジネスをターゲットにしています。
今までスモールビジネスではなかなか高品質なソフトウェアやサービスに手が届かず、大企業との間に働く環境のギャップが広がっていました。
たとえばスタートアップにおいてもっとも重要と言っても過言ではないのは従業員であり人事で、まさに“人”です。社員が10人の企業があれば、お互いのことを必ず深く知っていますし、取引先も身近な人たちになるでしょう。しかし、人事系のサービスはまだまだ不十分でストレスの原因となっています。また往々にして担当者がおらず、人事業務を他の業務と並行して行わなければならないなんてことも多々発生しているのが現状です。
さらに、労務に関しての規制や、福利厚生は時代とともにどんどん複雑化し、担当者なしで物事を進めるのが非常に困難になりつつあります。外部サービスに委託する方法もありますが、コストがかさむ上に、日々のやりとりに時間がかかってしまいます。
そこで、Gustoがこのギャップをテクノロジーで埋めてくれようとしています。注目される理由はそれだけではありません。Gustoは、今まですべて紙で行われてきた福利厚生や採用などさまざまな人事や経理に関する管理業務を、シンプルかつ一元的にオンラインで管理することを目指しています。採用時などに起こる煩雑な書類手続きや確定申告、休暇の申請や社員情報の管理などがGustoで完結します。
働く環境は企業の成長の礎
働く環境の改善は、それだけでなく企業文化の発展にも繋がります。つまり、Gustoの目指すものは、職場の環境やシステムの改善だけではありません。その例として、Gustoに含まれる「Welcome Wall」というサービスは、新入社員を歓迎するメッセージボードで、初日から社員の1人として働ける環境づくりを後押しするユニークなサービスです。
Gusto社のCEO、Joshua Reeves氏は、2つの目標を掲げています。1つ目は“peace of mind”を提供するというもの。これは社員のネガティブな感情を生んでしまいがちな煩雑な作業を取り除くことを目指しています。そして2つ目は、コミュニティとしての企業に着目することで、企業を“great place to work”にするというもの。
また、同社は自社内でも働き方についてさまざまな挑戦をしており、カルフォルニアで初めて、LGBT(同性愛者や両性愛者など)やそのパートナーへ対応が認められた企業にもなりました。そして、このような保証を行なっているアメリカで初の中堅企業にもなりました。これに対し、働き方に関して他の企業の参考やインスパイアを与えられる存在であり続けたいとしています。Gusto社は今成長の第二段階ですが、その成長は企業の文化とともに、現在もその勢いは衰えません。
HR (Human Resource) というワードは、近年日本でも頻繁に使われるようになっています。しかしそんな中、CEOがインタビューで話した言葉は非常に印象的でした。
「人は資本ではない。そして人は資源(リソース)でもない。人は人だ」
このようにGustoが注目される理由は、そのサービスのよさだけではないようです。人を大切にし、それをしっかりと理解できているからこそ生まれてくるサービスなのです。次の働き方のモデルはGusto社かもしれません。