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Bay Area Startup News Web Designing 2017年6月号

サンフランシスコの会社訪問!【自動運転トラック OTTO】 自動運転トラックで 運送業界のドライバー不足を解消する

海外で起こっている、あるいは起こりつつある新しいビジネスの潮流、近い将来に日本にやってくるであろうビジネストレンドなどを紹介・考察します。米国サンフランシスコ在住の筆者が、サンフランシスコおよびシリコンバレーの「ベイエリア」を中心に、イケてるスタートアップを中心とした会社、サービスを毎月1つ取り上げながら、その背景や目的、今後日本で起こりうるトレンドについて追究します。

日本と同様、アメリカでも、運送業界はドライバー不足、ドライバーの労働環境の悪化が深刻化しています。それを「自動運転」という技術で解消しようとしているのがOTTOです。「物流を改革する」という理念のもと、自動運転トラックの実用化に向けた道をひた走っています。

 

運送業界の深刻な問題

朝から晩まで、ときには夜通し運転することも珍しくないトラックドライバー。生活の大半を車内で過ごし、ハイウェイ途中の駐車場のロットで夜を明かすなんてこともざら。そういった理由からもトラックは非効率で死亡事故が多く、ドライバーの数も年々減ってきています。

そんなトラックドライバーの問題、ひいては運送業界の深刻な課題を解決するべく、自動走行トラックの実用化をめざすスタートアップが、2016年1月に設立されたOTTOです。サンフランシスコからシリコンバレーをつなぐ高速道路の101を走っていると“OTTO”のロゴの入ったトラックを見かけることがあり、ついつい運転席を見てしまいます。

自動運転というと一般的には普通自動車のイメージを持ちがちですが、アメリカで最も早く自動運転の実用性が求められているのは、大陸を横断するトラックです。日本の約26倍の国土を有するアメリカでは、サンフランシスコからニューヨークまで車で移動するとなると約一週間はかかります。現在は陸路での輸送は大型のトラックが行い、運転も人間が行っていますが、長い直線をひたすら走るだけの旅路はかなりの重労働だということは想像に難くありません。その場面において、自動運転が活用しやすいという側面もあります。

 

バド缶5万本を運送成功

そんな背景もあり、OTTOは普通自動車に先駆けて自動運転技術を長距離輸送用トラックに採用しています。ちなみに、OTTOは創設者がGoogleマップの元製造責任者、リオー・ロン氏とGoogleの自動運転車部門元技術責任者、アンソニー・レバンドフスキ氏であるということでも注目されています。

共同設立者のうちの一人、リオー・ロンは、ミュージシャンのビヨンセやデイビット・ボウイ、IBMのCEOであるジニー・ロメティにならんで2016年のMost Creative People 50にも選ばれました。ちなみに、約50名ほどのOTTOのスタッフの中には元Apple、Google、Tesla、Uberで働いたことのあるエンジニアもいます。

OTTOの自動走行トラックは、2016年10月コロラド州にて、フォート・コリンズからコロラド・スプリングスまでの約200キロを、完全にドライバーの操縦なしで5万本のバドワイザー缶をトラック運搬することに成功し、大きくメディアに取り上げられました。また、同年8月には設立から1年足らずでUberに約6億8,000万円で買収され、サンフランシスコのSOMA地域にあるオフィスは、Uberの自動運転のラボとしての役割も果たしています。

OTTOは現在までにボルボのトラック5台に完全自動運転システムを搭載し、比較的道が単純で道路状況のよい高速道路を自動運転に任せるといった形でカリフォルニア州、アリゾナ州、ネバダ州で1日3回、週7日の走行テストを続け、実用化に向けてまさに奔走しています。

 

ITの力で死亡事故を減らしたい

もう1人の創始者であるアンソニー・レバンドフスキ氏によると、OTTOのミッションは社会貢献。交通事故を減らし、環境にも優しく、より多くの人々の生活を改善することが一番の目的であると語っています。

彼によると、現在アメリカでのトラックの量は高速道路を走る車両数全体のわずか5.6%であるのに対し、死亡事故の原因の9.5%を占めているとのこと。そしてトラックのドライバーは平均で200日もの間家から離れ、トラックの中で暮らしています。その状況を改善する必要があると強く感じたと述べています。

その目的を果たすために、新しい車両を開発するよりも、既存の車両に取り付け可能なレーダーやセンサ、カメラなどのハードウェアとソフトウェアを開発し、すでに走っているトラックにも実用可能になるような開発を進めています。それにより、通常は1,000~3,000万円ほどするトラック車両を新しく購入せずとも、トラックの自動運転化が実現するというわけです。もしトラックの自動運転化が可能になれば、現在米国の法律で一日11時間しか走行を許されていないトラックが、24時間走ることで倍以上の移動が可能になります。

OTTOが目指しているのはあくまで高速道路上での自動運転であり、トラックの運転すべての自動化ではありません。もちろん市街地に入ればドライバーがハンドルを握り、目的地までの運転を行います。しかし、長距離の高速道路では自動運転をオンにし、ドライバーはトラック後部で睡眠をとることができるのです。

今後は行政や自治体の自動運転に関する規制がどのように変化するによって、実現の可能性が変わってくると考えているそうです。

OTTO
元Google社のエンジニア2人が自己資金で立ち上げたスタートアップ企業であるOTTOは、2016年の創業からまもなく、同じく自動運転技術に取り組むオンラインタクシー配車サービスのUberに買収されました
OTTOの自動運転トラックにはセンサやレーダー、カメラなどが取り付けられています。それらは後付けで既存のトラックに搭載することができます
2016年10月20日、大手ビールメーカーのアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABインベブ)社の協力のもと、5万本のバドワイザー缶の自動運転による配送に成功しました。その距離約190キロ。ABインベブ社によると、自動運転での配送が実現すれば、年間約52億円の経費が削減できるそうです

 

Text:ブランドン・片山・ヒル
米国サンフランシスコに本社のある日・米市場向けブランディング/マーケティング会社Btrax社CEO。主要クライアントは、カルビー、TOTO、JETRO、伊藤忠商事、Expedia、TripAdvisor等。2010年よりほぼ毎週日本から米国進出を希望する企業からの相談を受け、地元投資関係者やメディアとのやりとりも頻繁。サンフランシスコ、シリコンバレーを中心に、スタートアップの魅力をデザイン、ビジネス、テクノロジー面から解説します。 http://btrax.com/jp/

掲載号

Web Designing 2017年6月号

Web Designing 2017年6月号

2017年4月18日発売 本誌:1,559円(税込) / PDF版:1,222円(税込)

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企業のIT推進担当者やネット運営者に向け、ネットビジネスの課題を解決するノウハウや最新情報をお届け。徹底した現場目線とプロへの取材&事例取材で、デジタルマーケティング施策に取り組む上での悩みや疑問、課題を解決するヒントを紹介します。

6月号のテーマは「AI」です。「え!?」と思った人、ぜひ本書ですでに直面している現実をご覧ください。

現在、ビジネスのキーワードとして飛び交っている「AI(人工知能)」。人間の脳の代わりとなり、さまざまな仕事をAIが賄ってくれる未来像がネット上でも飛び交っています。「人間の仕事を奪うのではないか」「人間を支配するのではないか」そういって煽るメディアも多々ありますが、果たして現在のAIとは、本当にそんなSFのような話なのでしょうか?
答えは「今はNO」です。
むしろ、AIはインターネット、そしてSNSといったものと同じ、現在のマーケティングを加速させる「新しいマーケティングツール」なのです。

一方、AIの導入は巨額の開発費を投資できる大手企業の話であり、自分たちのような中小規模の企業には関係ないと思っていませんか?
答えは「NO」です。
むしろ、時代の流れに少なからず影響を受ける中小企業こそ、大手との仕事のため、企業成長のため、正しい理解と認識が必要です。

AIは今すぐに、多額の投資をしなくとも活用できる状況がすでに作られています。
人工知能によってマーケティングにおけるあらゆるコミュニケーションが変わっていく可能性があり、そんな時代はもうすぐそこまで来ています。仕事の効率化、人件費削減など中小企業が抱える長年の課題に対する解決の道筋をつけてくれる可能性が大いに有り得ます。
御社の競合がAIを使った施策を行っている、そう聞いてからでは遅いのです。
本特集では、今、現場で活用できるAI技術を使ったWebマーケティングの方法と、それによるリソース面、予算面のメリットまで追求します。

第1部 【中小企業Web担こそ!】いますぐAIを検討すべき理由
●いますぐ使えるAIの基礎理解
●図解・AIがマーケティングで注目される理由
●AIの仕組み~要するに、何をしてるの?~
●AIをビジネスツールとして活かすには

第2部 AIを現場の即戦力にするメリット
●AI搭載型botでオペレーションコスト低減へ!スモールスタート可能なチャットボット活用法
●AIの機能は「分析」ではなく「分類」だ!AIの導き出す「答えの見方」
●実録・AIでFAQを作る
●こんな身近にある!AIツール

など