2017.02.22
ECサイト業界研究 Web Designing 2017年4月号
ECショップのエンゲージメント:顧客・スタッフそれぞれを測ってこそ意味がある
ECはアクセスや離脱率など、来訪したお客様の行動データが取得できるのが大きな特徴です。しかし、そのお客様が自分のショップに対しどのような感情を持っているか、リピート客になってくれる可能性はあるのかといったところまでは測れません。ではそれらを測定しショップの改善に反映するにはどうすればいいでしょうか。
いいね!=エンゲージメント?
ECの大きな特長の一つにユーザーデータが取れることがあります。後からでもデータを取り出して分析・解析、次の行動に対する仮説や計画を立て、実行したかのチェックが可能です。このデータには主な種類として、アクセス数、ページビュー数、離脱率、平均滞在時間、リファラーなどを見ることができます。
しかしながら、顧客とのつながり(エンゲージメント)を確認するにはどうすればよいのでしょうか? 「いいね!」の数ではないですよね? SNSでいいね!をいくら集めたところで売れるわけではありません。では、いいね!でつながりがあると思っていいのでしょうか? 例えば友人にお願いして集めたかもしれませんし、得意先からの要望で無理矢理いいね!を押したかもしれません。いいね!の種類がわかるといいのですが、今の段階ではわかりません。では、ECショップにおいてエンゲージメントはどのように考えればいいのでしょうか。
エンゲージメントを考えるにあたり、ECにおいてのステークホルダー(利害関係者)はお客様、従業員、株主、仕入先、倉庫、物流、金融、地域社会、行政機関などに分かれますので、これをお客様と内部スタッフ、外部スタッフに分けて考えてみましょう。現在のECでは、1人ですべてできるとは言えません。必ずチームをつくる必要があります。このため、内部スタッフと外部スタッフをチームとして考えておく必要があります(01)。
では、まずお客様のつながりはどうやって見るのがいいでしょうか?
方法としては、NPS(ネットプロモータースコア、Net Promoter Score)やレビュー解析、メルマガやHPでのアンケートの3つが挙げられます(02)。
NPSは顧客ロイヤルティ(企業やブランドに対する愛着・信頼の度合い)を数値化する指標のことで、「あなたは○○を友人にすすめたいと思いますか?」という質問に対して0~10点で評価してもらいます。ECでは2002年頃から神田昌典さんの『口コミ伝染病』の本に掲載された「私達の商品◯◯をぜひあなたの友人や知人、隣人に紹介してください」というフレーズで口コミを進めていた時期もあります。これはこれで効果があったと思いますが、ECでは評価がしにくいのです。NPSの評価方法は今回の特集でも取り上げられていますのでぜひご参考にしてみてください。
レビューから満足度を測る
一方、ECではお客様のレビューがあります。お客様は購入したECサイトで直接ショップレビューや商品レビューで点数、評価を書き込むことができます。これはエンゲージメントを評価するにはピッタリの仕組みです。レビューの傾向としては、非常によかった場合と悪かった場合に書き込むことが多くなります。例えば、商品がすごくよかった、スタッフの応対に感謝したなどの場合です。こういった場合にはお客様がそのお店を推薦していると考えることができます。
逆に、商品の誤配送やスタッフの応対が悪い場合には、悪い点数や評価が書き込まれます。楽天市場では星5点満点で星1つや2つが付くと店舗に対して罰点が付いたり、検索やランキングに影響することもあります。楽天市場の管理画面RMSのトップページには、レビューの状況が表示され、店舗チェックシートで見るとレビューに対しての評点が付いています。これは、商品レビュー件数のうち、星1または星2の割合で評価されています(03)。
また、レビューを一生懸命書いている人の中には、店舗の応援をしたい、レビューの点数をもっと上げたいという方もいらっしゃれば、アフィリエイターの方もいらっしゃいます。レビューを書いてそこから商品購入につながれば、アフィリエイトのポイントが貯まる仕組みです。この仕組みはアフィリエイターにとっても、店舗にとっても、お客様にとってもWin-Winになりやすい反面、ちょっと悪くてもアフィリエイトポイントが欲しいばかりに釣りの言葉を発したり、よいことを書いてしまうこともあります。
レビューの中身を分析するために、モールの場合には自動的に収集してくれるソフトもありますし、本店サイトのASPでしたら評価をまとめてくれる機能もありますので、それらを使って評価することをお薦めします。ただ、このレビューは顧客満足度に近いため、今後他の方へ推薦してくれるか、リピートしてくれるかはよくわからないのがデメリットです。
レビューの点数は5点満点ですのでNPSのように1~3点を付けた人を「批判者」、4点を付けた人を「中立者」、5点を付けた人を「推奨者」と分類して、「推奨者」の割合から「批判者」の割合を引いた数値を出すこともできます。
例えば、「推奨者」が45%、「中立者」を40%、「批判者」を15%とすると、45%-15%で30点となります。評価方法はNPSにあわせるのをお薦めしますが、ECショップのカテゴリや業種によって自社評価を変えてもかまわないと思います。
また、レビュー内容を見て自社の改善につなげることもできます。レビューの評価は、主に6つの要点に集約されます(04)。
例えば、スタッフの応対が悪かった場合には、対応したスタッフの言い分をしっかり聞いて、その背景も確認し、改善すべきことは改善しましょう。
改善する場合には双方の意見をしっかり聞くことが大事です。一方の意見だけを重視することは、間違った改善になってしまうこともあり、組織の壁が厚く高くなってしまうこともあります。仕事内容がブラックボックス化することもあり、改善ではなく改悪になってしまいます。
遊びを入れたアンケート
最後に、ECではメルマガ内やサイト内でアンケートを実施することも多くあります。お客様に「どれくらい満足していますか?」と点数と評価をお聞きすることで「顧客満足度」を計測しています。
この顧客満足度アンケートは、何度もECショップに来ていただき、既存顧客のリピート率を向上させたい、口コミや紹介などを通じてブランドを広めてもらって、新規顧客獲得につなげたい目的で使うことが多いです。リピート率が高まり、新規顧客獲得ができれば売上や利益が上がります。ECの場合には、リピート率がカテゴリや業種によって違いますが、毎月新規顧客獲得を目指さなければ、衰退してしまいます。
例えば、リピート率50%の珈琲屋さんでしたら、毎月新規顧客獲得が50%以上なければ、翌月は売上が下がってしまうことになります。このため、新規顧客獲得をいかに行うか、リピート率をいかに上げるかはECにとってとても大事なことです。
そう考えると、顧客満足度アンケートは定期的に行う必要がありますが、このアンケートは声の大きいお客様に左右されやすいというデメリットがあります。とってもよい体験をした場合と非常に悪い体験をしたお客様は、先ほどのレビューと同様に強烈なアンケートを書いてきます。店長やスタッフは、この声の大きいお客様に精神的に左右されやすくなります。特に悪い体験をしたお客様は暴言を書くことも多々あり、慣れていないスタッフは、この文章に右往左往していまい、場合によっては仕事にかなり影響が出てしまいます。
また、購入回数は頻繁でなく、そこそこ満足したお客様はどちらかと言うと無口で、大多数いる可能性が高く、実はこの普通のお客様を見失っている可能性が非常に高いです。ですので、こういうお客様をどうやって見つけるかがポイントです。そのために、単純な顧客満足度調査というよりも、遊びを兼ねたアンケートやクイズなどを行い、非常によかった体験をしたお客様と悪い体験をしてしまったお客様以外の普通のお客様の回答を引き出すのがよいでしょう(05)。
このアンケートやクイズなどを行うことで、ふだん無口なお客様を引っ張り出すことができるので、その回答を見て社内での評価方法を決めていくのもよいでしょう。
売上向上のラストピース
冒頭に述べたように、お客様とのつながりと、もう一つの内部スタッフや外部スタッフというチームへのエンゲージメントをどう見ていくかも重要です。ECの場合、クレームのメールが熾烈になりやすいこともあり、レビューや評点が悪くなってしまうことで内部スタッフや外部スタッフのモチベーションが下がりがちです。
スタッフに対してアンケートやNPSを実施することも考えられますが、一番効果的で簡単なのは、よいレビューだけを回覧、閲覧するようにして、悪いレビューやクレームは事務的に処理することをお薦めします。朝礼や会議などで徹底的にクレーム根絶のために担当部署や担当者を責めることをするECショップは非常に多いのですが、モチベーションは下がるだけです。よいレビューを回覧することで、やりがいを強く感じ、仲間や人間性に対しても良い方向になることが多いのです。
ECにとって、内部スタッフと外部スタッフのチーム力の結束は、今後ますます重要になってきます。それはEC業界が成長していて、変化のスピードが速いからです。とても内部スタッフだけでは厳しくなるでしょう。チーム力を高めるためには、やはりお互いを信用して仲間としてやっているという意識が必要です。ECのチーム力が強いお店はお客様とのつながり(エンゲージメント)も非常に強くなります。
お客様のレビューが悪い、最近少ない場合には、いったんチーム内のエンゲージメントを確認しましょう。普段から気にしている店長はこのあたり敏感ですが、自分だけよければいいと考えていると足元すくわれます。店長やマネージャークラスの方は6つの報酬(06)を頭に入れて、チーム内のエンゲージメントを考えてみましょう。