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行動デザイン塾 Web Designing 2017年2月号

「ストーリー」でターゲットを動機づけする

マーケティングにとどまらず、企業の経営戦略のキーワードとして今、「ストーリー(物語)戦略」が注目されている。今回は行動視点でストーリーの活用を考察する。
illustration:石川マサル(mi e ru)

どうして11月1日は、「紅茶の日」になったのか?

新しい習慣を定着させたいなら、ある一日を記念日にしておくと「脳内フレーム」に記憶されやすく効果がある。以前にもこのことは解説してきた(01)。例えば、11月1日は「紅茶の日」として紅茶関連のプロモーションが各所で展開される。紅茶はスイーツとの相性がいいので、10月31日のハロウィンと重ねて、「ハロウィンパーティを盛り上げるアレンジティー」を提案する企業もある。日本ではコーヒーの伸びに比べると紅茶の需要はまだまだ潜在的だ。こうした提案を地道に継続していくことは重要だ。

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01 「記念日マーケティング」の有効性
記念日マーケティングは、「周期的に巡ってくる」存在は脳の記憶のフレームに定着しやすく、生活習慣として受容されやすい脳の特性を活用したもの。ただし、直感的に理由が解読できない記念日は、生活サイクル内での定着が難しい。11月11日は「串カツの日」など、わかりやすさが必要

日本紅茶協会のWebサイトには、「紅茶の日」の由来が記載されている。江戸時代後期に難破・漂流してロシアに辿りついた船頭、大黒屋光太夫が1791年の11月に女帝エカテリーナ二世に謁見、その後茶会に招かれ、日本人で初めて紅茶を飲んだことを記念した、という。大黒屋光太夫の物語は小説や映画にもなっているので、ご存じの方もいると思うが、その壮大な歴史ロマンと重ね合わせて聞くことで、「紅茶の日」のストーリーが胸に迫ってこないだろうか。こうした記憶に残る深い感動が「ストーリー戦略」には不可欠だ。

ルイ・ヴィトンの「沈まないトランク」のストーリーも歴史ロマンである※1。タイタニック号が遭難した際、ルイ・ヴィトンのトランクだけは沈まずに浮いていたという逸話のことだ(真偽は不詳)。当時、タイタニック号のような豪華客船を利用できた人は富裕層で、通例、大量の衣装を詰めた何個もの大型トランクとともに旅をしていた。道中で破損しない耐久性がトランクの価値であり、この物語は「富裕層に高く信頼された旅の道具」というブランディングに貢献する。

 

「行動の連鎖」をつくり出すストーリー戦略を立てよう

沈まないトランク」のストーリーしかり、「思わず人に話したくなる物語」(シンボリック・ストーリー)をブランドの事業戦略の中核に置くことによって、「顧客への提供価値」「競争優位性」「儲けの仕組み」という事業戦略の3要件が、バラバラにならずに有機的に統合されると考えるのがいいだろう(02)。

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02 ルイ・ヴィトンの「ストーリー戦略」
「沈まないトランク」話は、このブランドの「顧客への提供価値」「競争優位性」「儲けの仕組み」を巧みに統合している(このイメージは、『物語戦略』掲出のフレームワークを参考に筆者が作成)

ブランディングにおいても「その価値が、人の口から口へと人づてに伝わっていく」ダイナミズムを確保することが重要になる。デジタルマーケティングで重視される「シェア」の発想をもっと積極的にブランド・コミュニケーションに導入していくことが必要だろう。 

例えば、長尺のWeb動画は感動型のコンテンツに向いており、シェアもされやすい。「シンボリック・ストーリー」を動画コンテンツ化することで、その“感動力”がクチコミの連鎖反応を引き起こし、結果的にブランドの物語戦略に寄与することが期待できる。

ただし、「シェアされやすいから、感動するエピソードを探ってコンテンツにする」という短絡的なアプローチは、得てして手段の目的化になりがちだ。行動デザインの発想に立つと「行動の連鎖をつくり出す」という「目的意識」が必要なのだ。つまり、Web動画などを通じて語られるストーリーは、それを聞いた人に何らかの行動を動機づけるものでなくては意味がない、ということだ。

例えば、高額ブランドであれば、あるブランドの物語を聞いたときの感動がそのブランドを所有することの高揚感を生み出し、所有行為を正当化させることで、試用・購買行動の高い障壁を緩和する。これが行動デザイン視点での「ストーリー戦略」である(03)。

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03 行動デザイン視点の「ストーリー戦略」(ロイヤルブルーティー)
写真の商品は、皇室献上茶園の生産者が手塩にかけ育てた茶葉の先端部分(一芯二葉)のみを手摘みしたというもの(※2)。こうした背景や事実(ストーリー)に価値を見出し、行動の連鎖へとつながっていく

(参考:拙著『行動デザインの教科書』)

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「ロイヤルブルーティー」(ワインボトル入りの高級水出し茶)のストーリーは、「一本(750ml)30万円のお茶」(数量限定・完売)

 

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Text:國田圭作 Keisaku Kunita
博報堂行動デザイン研究所所長。入社以来、一貫してプロモーションの実務と研究に従事。大手嗜好品メーカー、自動車メーカーをはじめ、食品、飲料、化粧品、家電などの統合マーケティング、商品開発、流通開発などのプロジェクトを多数手がける。2013年4月より現職。著書に『「行動デザイン」の教科書』(すばる舎刊)。 http://activation-design.jp/

掲載号

Web Designing 2017年2月号

Web Designing 2017年2月号

2016年12月17日発売 本誌:1,530円(税込) / PDF版:1,200円(税込)

Web動画マーケティングの[最新]勝ちパターン

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企業のIT推進担当者やネット運営者に向け、ネットビジネスの課題を解決するノウハウや最新情報をお届け。徹底した現場目線とプロへの取材&事例取材で、デジタルマーケティング施策に取り組む上での悩みや疑問、課題を解決するヒントを紹介します。

2月号の特集テーマは「Web動画マーケティング」です。

「いまは動画の時代である」と言われはじめてはや数年。インターネットで見られるコンテンツのうち、動画の割合が増えてきたことは言うまでもありません。SNSはもとより、コーポレートサイトなど、目にする機会が多くなった動画は、すでにマーケティングのツールのひとつとして考えるのが当たり前になっています。とはいうものの、いまのビジネスに動画がどんなメリットを与えてくれるの? という方も多いのでは。そんな方のためにも本特集では、利益を伸ばすためのポイント、トラフィックを増やす方法、SNSやYouTubeとの連携など、ビジネスに動画を活用するための知識や方法を、費用対効果に沿った形で解説します。大手企業のマネをするのではなく、自社のビジネスにあった動画の活用方法をお伝えします。


第1部「ここだけはおさえたい! 動画マーケティングの基礎知識」

_実録「マーケティグ動画のできるまで」
実際に中小企業が動画マーケティングのプロに仕事を依頼した一つの案件について、ヒアリングから動画制作、納品、その後の分析/解析まで時系列で紹介。
動画施策の一連の流れを疑似体験してみましょう。

_やさしく解説する「動画マーケティング」
動画マーケティングについて、その考え方、ポイント、留意点などさまざまな点から、動画とマーケティングの関係についてわかりやすく解説します。

_“動画マーケティング”その背景を考える
なぜいまマーケティングに動画が利用されるのでしょうか。写真ではなく、動画であることの理由はたくさんありますが、スマートフォンの普及、それに応じた縦型動画の利用などなど、いま動画がマーケティングとして利用される背景について考えます。

_マーケティング視点で考える動画
動画をマーケティングに利用するということは、単に写真を動画に入れ替えるということではありません。動画にすることの目的は、あくまでも自社の課題を解決するためです。
課題を見つけ、それに応じたKPIを立て、PDCAを回していくという基本的な考え方が必要であることを改めて考えます。

_Facebook、Twitter、Instagram…SNSで展開する動画について
SNSで動画はどのように扱われ、いかにマーケティングに利用できるのでしょうか。各SNSがプラットフォームとして用意する動画との親和性はもとより、利用する側が知っておきたいさまざまな知識について解説します。

_Youtubeで公開する動画について
SNS同様、動画プラットフォームとして確立しているYouTube。広告としてだけでなく実際に動画を配信することで得られるメリット、マーケティングとして利用するための方法についてなど、あらかじめ知っておくべき基礎知識をまとめます。

_動画の効果を測定する方法、その考え方
動画を利用したマーケティングでは、動画つくって終わりではありません。公開した動画がどのように見られているのか、アプローチしたい層に届いているのかなど、その効果を測定しながらさらなる改善が必要になってきます。そのための効果測定について、解説します。


第2部「事例集」
_5つの事例から学ぶ、動画マーケティングの現場からの視点

コラム
_費用対効果で考える自社の動画制作(予算と規模感の相関)
_中小企業が実践すべき動画マーケティング10か条

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