2016.12.23
データのミカタ Web Designing 2017年2月号
予測を超えるスピードで拡大するスマートフォン動画広告 データアナリスト萩原雅之氏による統計コラム
サイバーエージェントとデジタルインファクトが2015年11月に発表した推計によれば、2016年の動画広告市場は842億円で、2015年の535億円から57%も増加。2020年には2,300億円程度になる見通しだ。
このような推計値は、過去に出た予測を最新のものと比較することで「精度」を評価することができる。過去3年分の予測を一つのグラフにしたのが上図である。
面白いのは、最新推計が過去の予測から上方修正されていることだ。2020年の数字は、2015年発表の予測より300億円も増えている。スマホ向け広告に限ると、1,149億円が1,883億円に増えた。わずか1年で将来推計値がこれほど変わるのは異例である。精度の問題というより、この1年で事業者側の予想を越えるほどに拡大しているためだろう。逆にPC向け広告は、860億円から426億円とほぼ半分に下方修正されており、動画広告は拡大するが、スマホがその中心になるというメッセージが明快だ。
ただ急速なスマホ動画の拡大は諸刃の剣でもある。動画広告の一人あたり接触時間も再生頻度も増えるからだ。スマホはPC以上にパーソナルな空間であり、関心と配信のミスマッチも当然起こる。海外で問題になっているアドブロックの利用拡大にもつながりかねない。
また、ディスプレイやテキストに比べると、感情や共感の喚起やブランディングを目的とするものが多い。単に再生回数や誘導率ではなく、視聴ユーザーの感情や態度の変化をどう計測するかも課題になる。表現のクオリティも問われるはずだ。混沌としながらも確実に拡大する市場の開拓を目指す状況は、ネット広告黎明期の熱気に似たものがある。エージェンシー側にもブランド側にも楽しみな時代が始まったことは間違いない。
- Text:萩原雅之
- トランスコスモス・アナリティクス取締役副社長、マクロミル総合研究所所長。1999年よりネットレイティングス(現ニールセン)代表取締役を約10年務める。著書に『次世代マーケティングリサーチ』(SBクリエイティブ刊)。http://www.trans-cosmos.co.jp/