2016.11.16
せかいと未来 Web Designing 2016年12月号
【未来食堂】インターネット広告
東京・神保町に位置する定食屋「未来食堂」をご存じでしょうか? エンジニアとして勤めた小林せかいさんが、オープンソースの概念を飲食業で実践する素敵なお店です。そんな小林さんの頭のなかをオープンにするこの連載。はたして、どこにたどり着くのでしょうか!
こんにちは。“あなたの「ふつう」をあつらえる”未来食堂のせかいです。
今回のお題は「インターネット広告」。ですが、未来食堂はネットでの広告はおろか広告自体を打っていないので、少し見方を変えて2つの視点からお話ししようと思います。
①未来食堂で広告をしている人々に伝えていること
自分の村で採れた野菜を持ち込む地域おこしの方、農家さん、自社製品を持ち込むメーカーさんなど、たくさんの方が宣伝場所として未来食堂を利用しています。お客様がちょうど目に留まるカウンターに、手書きのPOPで解説が並びます。特別感がありお客様も嬉しく、持ち込んだ方も、食べた感想を直接聞けるので嬉しそうです。
宣伝をしたい方にいつも伝えるのは「お客様が喜ぶことをまず考えましょう」ということ。例えば、帰り際にチラシを配られても、お客様にとっては迷惑なだけです。嬉しいことや驚きがあって初めてお客様の興味を得られる。宣伝はそこからの話です。
見た人が「自分だけへのメッセージだ」と感じられることも重要です。「今日未来食堂に甘夏を持ってきた南伊豆農家の石川と言います」のように始まる手書きPOP。書き方は問いませんが、気持ちが表現できるまで、何度も書き直してもらうこともよくあります。
②未来食堂は広告費に充てるお金を何に使っているか
いわゆる飲食店経営に必要な費用(食材費、家賃、光熱費など)の他に、未来食堂は月に2~3万円程度を「寄付」に充てています。広告を打ったことがないので分かりませんが、おそらく広告費は売上の数パーセントだと思うので、ちょうど「広告費」が「寄付」に替わっているのでしょう。
毎月最終火曜を「寄付定食」とし、この日の売上の半分を寄付しています。
お帰りの際に「今月は●●に寄付します。こうやって募金できるのも皆様のご来店あってこそです。いつもありがとうございます」と書き添えた手紙とお菓子をお渡しています。大勢の人が来店して下さり積み上がった資金の一部を寄付という形で、微力ながらも社会にお返ししているのです。
広告が、まだ知られていない“外側”に向けたアクションだとすると、寄付は、来ていただいている
“内側”に向けたアクションです。「寄付をしました、ありがとうございます」と伝えているのは来て下さっているお客様に向けてなのですから。
新しい人を呼び込むことは確かに大切ですが、来て下さっている方に対する気配りも、同じくらい大切です。来て下さっている方に対してどうやってお返しするか。私はいつもそれを意識しています。「広告」が上手く行った後、そこに充てていたお金で、すでに“中にいるお客様”に恩返しするのはいかがでしょうか(小さな店だからこそ許される贅沢な提案かもしれませんが)。
今日は客席にワックスを塗りました。ピカピカのカウンター、いい感じです。明日は秋のおでん。サツマイモや秋鮭を使って秋らしいおでんを作ります。

※この連載のネタ帳はGitHub Gistにて公開しています。
http://miraishokudo.com/neta/web_designing
内容についてご質問、アイデアのある方はお気軽に。

- Text:小林せかい
- 東京工業大学理学部数学科卒業後、日本IBM、クックパッドで6年半エンジニアとして勤めた後、1年4カ月の修行期間を経て「未来食堂」を開業。自称リケジョ。その他、詳しいプロフィールは公開されている情報をご覧ください。 https://goo.gl/XpwnMQ