2016.09.08
せかいと未来 Web Designing 2016年10月号
【未来食堂】オウンドメディア=家の中から書く手紙 未来食堂とオウンドメディア
東京・神保町に位置する定食屋「未来食堂」をご存じでしょうか? エンジニアとして勤めた小林せかいさんが、オープンソースの概念を飲食業で実践する素敵なお店です。そんな小林さんの頭のなかをオープンにするこの連載。はたして、どこにたどり着くのでしょうか!
こんにちは。未来食堂のせかいです。
今回のお題はオウンドメディア。前号で、SNSは「一人にあてた手紙」のようなイメージだとお話しましたが、自社媒体メディア(以下自メディア)は「家の中から書く手紙」のようなイメージがあります。
と、まずは最初に未来食堂が持っている自メディアを整理しますね。自メディアは、Webサイト、ブログ、Facebook、Twitterの4つ。手が回らないためTwitterはほとんどお休み状態。Webサイトは固定の情報しかありませんが、サイト内のカレンダーに当日のメニューを載せているので、近隣のお客様がランチタイム前に見られるのだと思います。こんな未来食堂が特に大事にしているメディアは、
“ブログ”。ブログは自分側発信であり、自分の考えを自分の言葉で伝えることができます。このありがたさを感じたのは、メディア、特にテレビが未来食堂を放映して大反響を受けた時でした。
「取材される」というのは、どんなに上がってきた原稿を手直ししても、完全に自分の思いと重なることはありません。他社発信である分、どうしてもズレがあるのです。かれこれ20回以上取材を受けていますが、どんなに回数を重ねてもズレがなくなることはありません。さらにこのズレは、テレビなど“原稿の直し”ができないマスメディアの方が大きく、困ったことに反響もそちらの方が大きいのです。
テレビやネットで大きく反響があった時は独特の辛さがあります。もちろんありがたいのですが、でもコントロールできないものに振り回されている感じがして、「違う! そうじゃないんだ!」と叫びたい心持ちになります。そんな自分の寄る辺となったのが、“ブログ”でした。「現在お店も乱気流ですが、自分自身も真っ暗な海で漂っているようで辛いです」と、そんな内容を書くだけでも、すっと気持ちが楽になりました。
ある日、あなたの会社が、全く意図しない方面で反響を呼んだとしたら、その反響に圧倒されて声が出なくなるかもしれません。私はそうでした。そんな時に逃げ込める“家”が、そこから手紙を送る手段が、あると良いと思うのです。
いつまでも家の中にいるのもダメなんでしょうけれどね。“ファン”に向けての発信は、肯定してくれるという確信があるが故に、甘く気持ちのいいものです。とはいえ、暗く冷たい外海に漕ぎ出さないと、より多くの人に伝播することはできません。楽ではありませんが、どんな嵐を迎えても帰れる“家”があるという思いだけで、ぐっと背筋を伸ばしていられます。
最近は本を書いています。本も“オウンドメディア”ですよね。執筆は大変ですが、自分の言葉でまったく自分のことを知らない世界に考えを伝えられる貴重な機会です(このコラムも!)。“オウンドメディア”がネット発の言葉だからといって、ネットにこだわる必要はきっとありません。オフィスビルの壁に壁新聞を貼ってみるのはいかがですか? 不器用でも、自分の言葉で発信する内容は、きっと誰かの心に響きますよ。
※この連載のネタ帳はGitHub Gistにて公開しています。
http://miraishokudo.com/neta/web_designing
内容についてご質問、アイデアのある方はお気軽に。

- Text:小林せかい
- 東京工業大学理学部数学科卒業後、日本IBM、クックパッドで6年半エンジニアとして勤めた後、1年4カ月の修行期間を経て「未来食堂」を開業。自称リケジョ。その他、詳しいプロフィールは公開されている情報をご覧ください。 https://goo.gl/XpwnMQ