2016.09.02
解析ツールの読み方・活かし方 Web Designing 2016年10月号
ベンチマーキングで市場を見ながら自社の評価を行う SimilarWebを利用した施策の考え方
Googleアナリティクスなどの一般的なアクセス解析ツールは、対象サイトのデータをくまなく調査できるすぐれた点があるものの、対象サイトのデータしかわからないため、相対的な判断が難しいという課題が残る。成長性の高い業界においては、市場成長率と比較しての目標設定、判断をしないと、せっかくの事業成長機会を逃してしまうことにもつながりかねない。こんな可能性があるときは、ベンチマーキング調査の併用がオススメだ。
視点:事業の伸びしろに着目できると、アクセス解析の意義が広がる
対策:自社のデータ推移だけでなく、市場≒競合の規模やデータ推移も見る
方法:全数調査だけでなく、サンプル調査もうまく活用する
何をもって成長と判断するのか
家電量販店業界の売上ランキング(図01)を見ると1位は一歩抜きんでているが、2位~5位の売上高は僅差の激戦だ。この中から2位のA社のアクセス数を見る(図02)と、115%の増加している(アクセス数の多くなる12月を昨対で比較)。
一方、EC売上(図03)でA社より上位のB社とC社のアクセス数を見ると(図04)、B社は154%、C社は129%と、ともにA社を大きく上回る成長を遂げていた。結果、A社の成長率は、家電EC業界内上位グループの中ではむしろポジションを落としていたことがわかる。
このように、成長性の高い業界においては、市場成長率と比較して目標設定/判断をしないとせっかくの成長機会を逃してしまうことにもつながりかねない。そこで改めて考えてみたいのがベンチマーキングだ。
アクセス解析とベンチマーキング調査
ベンチマーキングが可能なツール「SimilarWeb」を参考に、まずはアクセス解析とベンチマーキング調査の違いを整理しておこう。「アクセス解析とSimilarWeb比較表」(図06)は、両者の特徴の違いを把握するための整理として考えてもらいたい。
アクセス解析のメリットは、データとデータを紐づけて線として分析できることだ。ブランドワードで検索して来訪したユーザーが、サイト内でどんな行動をしているのか。コンバージョンユーザーの獲得にもっとも貢献している広告はどれなのかなど、「行動」と「行動」を紐づけた分析はアクセス解析の大きな優位点である。
他方、SimilarWebのメリットは、検索キーワードや、比較されている他社サイト、他社の広告クリエイティブなど、モニター調査だからこそ取得できるデータの幅があることだ。さらに、同じデータを同条件で他社サイトと比較できる。アプリの分析までワンツールで行えることもマーケターにとっては利便性が高い。
上記を踏まえてベンチマーキング調査のメリットを整理すると、下記2点が最も特徴的となる。
①伸びしろはどこにあるのかがわかるので、攻めの計画を立てやすい
②改善施策を見つけやすい
ここからは、いくつかの業界の比較調査の事例を紹介したい。調査は、3つの視点(図07)で行っており、「良い集客」「良い行動」「良いコンテンツ」を通じてユーザーとの関係が深まり、広告に頼らないエコサイクル=真の消費者との関係の創出につながると考え、これ自体を分析の大きな目標と設定する。
自動車メーカーにみる「集客調査」事例
自動車メーカー上位3社の売上とWebサイトへのアクセスを比較してみる(図08)。すると、売上1位であるD社のアクセス440万(月平均)に対して、売上3位のF社は450万と僅差で上回っていることがわかった。D社はF社と比較して売上高は倍近く、広告宣伝費は1.5倍ほど。しかし、どのようにしてF社はアクセス数を集めているのだろうか。
各社へのアクセス経路でおよそ半分を占めるのが検索エンジンだ。検索されているキーワードを調べてみると、宣伝費の大きいD社が「社名」「車種名」での検索ボリュームが多いが、F社は、ニッチニーズのある小さなワードを数多く集めている(図09)。
このような状況は広告などで短期的に作り上げることが難しく、趣味性の高さや、ユーザーとの関係性など地道に取り組む必要があり、ここにF社の企業姿勢がうかがえるのではないだろうか。
次に、2社のサイト来訪者が、他にどの会社のWebサイトを訪問しているのかを調査した(図10)。
F社と重複している会社はオートバイメーカー。次いで軽自動車メーカーも比較上位に入っている。一方、D社の来訪者の多くは普通車メーカーとの比較が中心。F社は普通車メーカーとしてだけではなく、オートバイメーカー、そして軽自動車メーカーとしても同一ブランドで展開しており、商品戦略そのものがD社と異なっていたことになり、趣味性の高さや商品戦略の違いなどが、アクセス数の差異に影響しているのではないかと推測できる。
通販コスメ業界にみる「行動調査」事例
通販コスメ業界上位のG社とH社。WebサイトでのCVR=購入率(購入数÷来訪数)はどちらが高いのかを調べた結果、来訪数はG社が1.7倍ほど多いものの、CVRはH社が4倍ほど高く、CV数もH社が上回っていた。
CVRに差が出る原因はいくつか考えられる。同業界では商品の価格帯が異なっていたり、主力商品は同種でも、他の商品ラインナップなどが違えばサイト全体として大きな差が出てくる。このような要因を念頭に置きつつ、ここでは導線についてデータを見てみることとする。
SimilarWebの「人気コンテンツ」のデータをもとに、来訪から購入完了までの主な遷移を階層で追ったものを「コンバージョンファネル」と呼んでいる(図11)。
これはファネル分析の一種で、主にステップごとに来訪者が離脱していくポイントに注視して整理をしている。ロスト率が高い箇所は離脱が多く、機会損失が高い可能性があることを示す、ということになる。
H社はカートイン後の離脱が少ないのと、来訪数に比較して商品詳細ページの閲覧数が多いところに特徴がある。これがG社と比較してCVRが高いポイントだと考えられる。しかし、サイトの指標としてはCVRが高ければそれで良いのだろうか。ECサイトの場合は、購入1回あたりの単価や再購入の頻度なども重要な指標になってくる。単価が上がるとCVRは下がる傾向が一般的にあるため、CVRだけで良し悪しを判断するのは難しい。何の指標を重視するのかは、事業戦略によるところが大きく、そこを見ていく視点が重要である。
百貨店にみる「コンテンツ調査」事例
某ターミナル駅のシンボル的な2つの百貨店。自社私鉄路線の始発駅直結など条件は近しく、Webサイトのアクセス数も同水準だ。そこで、Webサイトの中で催事コンテンツの人気があるのはどちらかを調べた(図12)。結果、I百貨店はJ百貨店と比較して、催事≒イベント系コンテンツのPVが3倍以上あった。逆に、フロアガイドのコンテンツはO百貨店が2倍以上のPVを集めている。
実は、I百貨店の催事は昔から沿線住人の根強い人気がある。他方、J百貨店は世界を代表するブランドショップが多数入っており、テナントの充実感はエリア随一な印象がある。
このように、条件の近しいWebサイトでもパフォーマンスが大きく異なることがあり、それも事業戦略の影響が大きい可能性があることがうかがえる。
事業成長に直結しやすいPDCAを可能に
複数社を比較できると、自社だけを見るよりも多くの気づき=課題発見につながる可能性がある。効果測定という意味では、全数調査でないという不確定要素が残るが、マーケティングの仮説を立てるためには大きな有用性があると考えられる。Webディレクターに対してネット事業を成長させる能力が益々期待される昨今、このような分析手法と視点は大きな武器になるはずだ。
最後に3つのポイントで整理して、締めとさせていただく。ぜひ、データをうまく活用してマーケティング力を高めてもらいたい。
1.競合と比較すると良し悪しが見えやすく、ディテールよりもアウトラインでつかみやすくなる
2.マネジメント層は、市場データを見ることでより早い意思決定ができるようになる。ディレクターも、先行している競合他社の施策を参考にできるので、より事業成長に直結しやすいPDCAが可能になる
3.何より重要なのは、市場全体の視座から自社をとらえられるので、顧客=消費者の声とトレンドをとらえやすい