ベンチマーキングで市場を見ながら自社の評価を行う|WD ONLINE

WD Online

解析ツールの読み方・活かし方 Web Designing 2016年10月号

ベンチマーキングで市場を見ながら自社の評価を行う SimilarWebを利用した施策の考え方

Googleアナリティクスなどの一般的なアクセス解析ツールは、対象サイトのデータをくまなく調査できるすぐれた点があるものの、対象サイトのデータしかわからないため、相対的な判断が難しいという課題が残る。成長性の高い業界においては、市場成長率と比較しての目標設定、判断をしないと、せっかくの事業成長機会を逃してしまうことにもつながりかねない。こんな可能性があるときは、ベンチマーキング調査の併用がオススメだ。

視点:事業の伸びしろに着目できると、アクセス解析の意義が広がる
対策:自社のデータ推移だけでなく、市場≒競合の規模やデータ推移も見る
方法:全数調査だけでなく、サンプル調査もうまく活用する

 

何をもって成長と判断するのか

家電量販店業界の売上ランキング(図01)を見ると1位は一歩抜きんでているが、2位~5位の売上高は僅差の激戦だ。この中から2位のA社のアクセス数を見る(図02)と、115%の増加している(アクセス数の多くなる12月を昨対で比較)。

01 売上ランキング
02 A社のアクセス数

一方、EC売上(図03)でA社より上位のB社とC社のアクセス数を見ると(図04)、B社は154%、C社は129%と、ともにA社を大きく上回る成長を遂げていた。結果、A社の成長率は、家電EC業界内上位グループの中ではむしろポジションを落としていたことがわかる。

03 EC売上ランキング
04 B社、C社のアクセス数比較

このように、成長性の高い業界においては、市場成長率と比較して目標設定/判断をしないとせっかくの成長機会を逃してしまうことにもつながりかねない。そこで改めて考えてみたいのがベンチマーキングだ。

 

アクセス解析とベンチマーキング調査

ベンチマーキングが可能なツール「SimilarWeb」を参考に、まずはアクセス解析とベンチマーキング調査の違いを整理しておこう。「アクセス解析とSimilarWeb比較表」(図06)は、両者の特徴の違いを把握するための整理として考えてもらいたい。

05 SimilarWeb
PV数や訪問者数の推移、平均滞在時間や離脱率(直帰率)、リファラーによる流入元や検索キーワード、さらには出稿している広告クリエイティブの動向などがWebサイトのURLを入力するだけでわかる解析ツール。競合や市場の状況を理解するために用いられている
06 アクセス解析とSimilarWeb比較表
SimilarWebでよく勘違いされるのが、アクセス解析=全数データとの価値の混同。SimilarWebはモニター調査に近いものであり、誤差があることを前提として仮説の組み立てに利用できるかどうかが、活用の前提になると考えられる

アクセス解析のメリットは、データとデータを紐づけて線として分析できることだ。ブランドワードで検索して来訪したユーザーが、サイト内でどんな行動をしているのか。コンバージョンユーザーの獲得にもっとも貢献している広告はどれなのかなど、「行動」と「行動」を紐づけた分析はアクセス解析の大きな優位点である。

他方、SimilarWebのメリットは、検索キーワードや、比較されている他社サイト、他社の広告クリエイティブなど、モニター調査だからこそ取得できるデータの幅があることだ。さらに、同じデータを同条件で他社サイトと比較できる。アプリの分析までワンツールで行えることもマーケターにとっては利便性が高い。

上記を踏まえてベンチマーキング調査のメリットを整理すると、下記2点が最も特徴的となる。

①伸びしろはどこにあるのかがわかるので、攻めの計画を立てやすい
②改善施策を見つけやすい

ここからは、いくつかの業界の比較調査の事例を紹介したい。調査は、3つの視点(図07)で行っており、「良い集客」「良い行動」「良いコンテンツ」を通じてユーザーとの関係が深まり、広告に頼らないエコサイクル=真の消費者との関係の創出につながると考え、これ自体を分析の大きな目標と設定する。

07 比較調査の3つの視点
Googleアナリティクスの分析フォーマットは「ABC分析」と言われ、A=Acquisition(集客)、B=Behavior(行動)、C=Conversion(コンバージョン)となっています。この“C”を「Contents(コンテンツ)」に置き換え、中長期の事業目線にしている

 

自動車メーカーにみる「集客調査」事例

自動車メーカー上位3社の売上とWebサイトへのアクセスを比較してみる(図08)。すると、売上1位であるD社のアクセス440万(月平均)に対して、売上3位のF社は450万と僅差で上回っていることがわかった。D社はF社と比較して売上高は倍近く、広告宣伝費は1.5倍ほど。しかし、どのようにしてF社はアクセス数を集めているのだろうか。

08 自動車メーカーの売上とアクセス数比較

各社へのアクセス経路でおよそ半分を占めるのが検索エンジンだ。検索されているキーワードを調べてみると、宣伝費の大きいD社が「社名」「車種名」での検索ボリュームが多いが、F社は、ニッチニーズのある小さなワードを数多く集めている(図09)。

09 自動車メーカーの検索キーワード

このような状況は広告などで短期的に作り上げることが難しく、趣味性の高さや、ユーザーとの関係性など地道に取り組む必要があり、ここにF社の企業姿勢がうかがえるのではないだろうか。

次に、2社のサイト来訪者が、他にどの会社のWebサイトを訪問しているのかを調査した(図10)。

10 ユーザー重複/利用者の興味
企業は競合を同じ事業モデル範囲で考えがちだが、ユーザーからすれば事業モデルは関係なく、得たい価値を満たすかどうか、という視点になる。その意味で、この調査はユーザー視点の競合を知るためにとても参考になるはずだ

F社と重複している会社はオートバイメーカー。次いで軽自動車メーカーも比較上位に入っている。一方、D社の来訪者の多くは普通車メーカーとの比較が中心。F社は普通車メーカーとしてだけではなく、オートバイメーカー、そして軽自動車メーカーとしても同一ブランドで展開しており、商品戦略そのものがD社と異なっていたことになり、趣味性の高さや商品戦略の違いなどが、アクセス数の差異に影響しているのではないかと推測できる。

 

通販コスメ業界にみる「行動調査」事例

通販コスメ業界上位のG社とH社。WebサイトでのCVR=購入率(購入数÷来訪数)はどちらが高いのかを調べた結果、来訪数はG社が1.7倍ほど多いものの、CVRはH社が4倍ほど高く、CV数もH社が上回っていた。

CVRに差が出る原因はいくつか考えられる。同業界では商品の価格帯が異なっていたり、主力商品は同種でも、他の商品ラインナップなどが違えばサイト全体として大きな差が出てくる。このような要因を念頭に置きつつ、ここでは導線についてデータを見てみることとする。

SimilarWebの「人気コンテンツ」のデータをもとに、来訪から購入完了までの主な遷移を階層で追ったものを「コンバージョンファネル」と呼んでいる(図11)。

11 通販コスメ、コンバージョンファネル調査
SimilarWebProのエンタープライズ版では、ページやディレクトリ単位でのアクセス状況を調査できるため、このようなサイト内のファネル分析も可能となる。集客とサイト内行動はマーケティングの両輪であるため、片方のみでの判断は分析のミスリードにつながってしまう

これはファネル分析の一種で、主にステップごとに来訪者が離脱していくポイントに注視して整理をしている。ロスト率が高い箇所は離脱が多く、機会損失が高い可能性があることを示す、ということになる。

H社はカートイン後の離脱が少ないのと、来訪数に比較して商品詳細ページの閲覧数が多いところに特徴がある。これがG社と比較してCVRが高いポイントだと考えられる。しかし、サイトの指標としてはCVRが高ければそれで良いのだろうか。ECサイトの場合は、購入1回あたりの単価や再購入の頻度なども重要な指標になってくる。単価が上がるとCVRは下がる傾向が一般的にあるため、CVRだけで良し悪しを判断するのは難しい。何の指標を重視するのかは、事業戦略によるところが大きく、そこを見ていく視点が重要である。

 

百貨店にみる「コンテンツ調査」事例

某ターミナル駅のシンボル的な2つの百貨店。自社私鉄路線の始発駅直結など条件は近しく、Webサイトのアクセス数も同水準だ。そこで、Webサイトの中で催事コンテンツの人気があるのはどちらかを調べた(図12)。結果、I百貨店はJ百貨店と比較して、催事≒イベント系コンテンツのPVが3倍以上あった。逆に、フロアガイドのコンテンツはO百貨店が2倍以上のPVを集めている。

12 百貨店のコンテンツ調査
I社はイベントページの人気は高いが肝心のフロアページは閲覧が少ないのが課題で、J社はイベントによる集客効果があまり高くないことが想定される。このように他社との比較で「課題=消費者からの評価」が顕在化するケースがある

実は、I百貨店の催事は昔から沿線住人の根強い人気がある。他方、J百貨店は世界を代表するブランドショップが多数入っており、テナントの充実感はエリア随一な印象がある。

このように、条件の近しいWebサイトでもパフォーマンスが大きく異なることがあり、それも事業戦略の影響が大きい可能性があることがうかがえる。

 

事業成長に直結しやすいPDCAを可能に

複数社を比較できると、自社だけを見るよりも多くの気づき=課題発見につながる可能性がある。効果測定という意味では、全数調査でないという不確定要素が残るが、マーケティングの仮説を立てるためには大きな有用性があると考えられる。Webディレクターに対してネット事業を成長させる能力が益々期待される昨今、このような分析手法と視点は大きな武器になるはずだ。

最後に3つのポイントで整理して、締めとさせていただく。ぜひ、データをうまく活用してマーケティング力を高めてもらいたい。

1.競合と比較すると良し悪しが見えやすく、ディテールよりもアウトラインでつかみやすくなる
2.マネジメント層は、市場データを見ることでより早い意思決定ができるようになる。ディレクターも、先行している競合他社の施策を参考にできるので、より事業成長に直結しやすいPDCAが可能になる
3.何より重要なのは、市場全体の視座から自社をとらえられるので、顧客=消費者の声とトレンドをとらえやすい

 

 

Text:中川太((株)ジェネレイト プロダクト本部長)
ソフトバンクとオプトが共同設立した「ジェネレイト」にて、ICTとアドテクノロジーを融合したマーケティング施策のプロデュースを担当する。

 

Text:一般社団法人ウェブ解析士協会
事業の成果に導くWeb解析を学ぶ機会の創出、研究開発、関心を持つ人たちの交流促進、就業支援などで、Web解析を通じての産業振興やWeb解析の社会教育を推進する。

掲載号

Web Designing 2016年10月号

Web Designing 2016年10月号

2016年8月18日発売 本誌:1,559円(税込) / PDF版:1,222円(税込)

サンプルデータはこちらから

■ 特集:“小さく始める”オウンドメディアのつくり方

「ブランディング、集客、ひいては売上を伸ばすための施策としてさまざまな企業が実践している「オウンドメディア」。競合がはじめているから、いまの時流だから、自社の利益に繋がるならば、などとオウンドメディアをはじめようと思っている方も多いはずです。けれども「Webサイトをつくり、クオリティの高い記事を毎日更新していくのはムリ…」と思われている方、決してそんなことはありません。SNS、ブログ、自社サイトなど、すでにある“コンテンツ”を活かして自社の利益へとつなげることができるのです。オウンドメディアは、大きな会社だけのものではありません。予算をおさえながらも、大きな効果を生むオウンドメディアについてご紹介していきましょう。

第1部 効果的なオウンドメディアの制作→発信術

#新人まこちゃん、インターンとしてあのLIGブログに!
今さら聞けないオウンドメディア
#大事なのは「愛」と「戦略」
基礎の基礎から理解するオウンドメディア
#スピードこそが正義だ!
オウンドメディアは2週間で立ち上げよ!
#重要なのはアクションしてもらうためのスイッチ
“拡散”の秘訣は導きたい結果からの逆算
#スモールスタートで成果を出す
担当者ひとりでもできるオウンドメディアのはじめ方

#【座談会】担当者だから話せる“現場”の話
オウンドメディアの大変なこと、やってよかったこと

#構築後の改善アクションで、他社をリードする
「目標設定」と「効果測定」

#ふたたび新人まこちゃんが登場! 先輩オウンドメディアを紹介
あれも? これも!? オウンドメディア

第2部 事例から学ぶ“小さく始めて”成功する方法

【Case Study #01_河内屋】自社で運営するメリット
特殊印刷の事例で“魅せる”世界観を社内で発信

【Case Study #02_一俊丸】業界不振も、売り上げは2倍に
老舗釣船店メディア3つの掟

【Case Study #03 _Happy Maker!】自社の強みでユーザーとつながる
オタク向けに特化した婚活コンテンツ

【Case Study #04 _町田美容院の知恵袋】意外な手段で記事を量産
自前サイトで勝ち取った集客の極意

【Case Study #05 _SMASH WATCH】新たなコミュニケーション
ECサイトと連携したオウンドメディア
【Case Study #06 _箱庭haconiwa】Webのプロから学ぶ
共感を得る“好き”の気持ちとノウハウ
【Column】海外のSNSはいまどうなってる?
_オウンドメディア㊙記事“作成術”
_うまく活用したい補助金・助成金

■ WD SELECTION
マジョリ画/ Bascule Inc-βver. /ジムナストコロン/水曜日のカンパネラ OFFICIAL SITE/踏み台上等。dof のサマーインターンシップ/ユニコーンNEW ALBUM「ゅ 13-14」特設サイト/ ayanomimi /武蔵野美術大学 工芸工業デザイン学科/MIKIYA TAKIMOTOPHOTOGRAPH OFFICE - 瀧本幹也/ DeNARunning Club /ストリアクリニック/ illion"Water lily" Connected JamVideo / Gallery Site「SHINYA KIYOKAWA」/ ECHO 50V BATTERY SERIES

■ ビジネス・EC
□ ECサイト業界研究
「わさび式」記事作成法で集客力アップ!

□ モバイルビジネス最前線
MagicPrice:アドテクの活用でホテルの最適料金を予測

□ 知的財産権にまつわるエトセトラ
店内のBGMと著作権

□ Bay Area Startup News
ビットコイン技術で護るBlockai社の試み

■ マーケティング・プロモーション
□ データのミカタ
企業におけるクラウドの普及はどこまで進むか

□ デジタルプロモーションの舞台裏
面白法人カヤック:自らの強みを最大限アピールしたコーポレートサイト

□ 行動デザイン塾
オウンドメディアに求めたい「アクセシビリティ」

□ 解析ツールの読み方・活かし方
ベンチマーキングで市場を見ながら自社の評価を行う

■ コラム
□ One's View
今月のお題【オウンドメディア】
育てるための3つのポイント by 白井明子
オウンドメディアの副作用 by 土屋尚史
“リアル” な空間や体験の価値 by 峰松加奈

□ 未来食堂の「せかいと未来」
自ら発信するためのメディア

編集部よりお詫びと訂正のお知らせ

本誌P67「Case Study01 河内屋」記事内におきまして、誤記がありました。関係者の皆様にお詫び申し上げます。以下に正しい表記を掲載いたします。

× Web制作会社の(株)ナイルはコンサル事業を行っており
○ Webコンサルティング事業を行うナイル(株)が