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ECサイト業界研究 Web Designing 2016年2月号

LTV(顧客生涯価値)顧客エンゲージメントを高め、収益につなげる効果指標

顧客との関係性を高めることは、安定した収益を上げるために欠かせない目的の一つです。顧客が自社商品・サービスにどれだけの愛着を持っているのかを測る成果指標として、「LTV」というキーワードがEC界隈でも盛んに取り上げられています。このLTVとはなんでしょうか。そして、どのように導きだせばいいのでしょうか?

LTVの計算式

顧客のデータからニーズや購買行動パターンを分析し、顧客との関係を高めながらビジネスを行うCRM(カスタマー・リレーションシップ・マーケティング)を実施していく上で、収益を上げるための成果指標の一つとして利用されるのが「LTV(Life Time Value)」です。ECの世界でもLTVはいくらか、期間はどの程度か、2回目の購入までの期間はどうかなどの話題が出てきます。

ところで、そもそもLTVとは何のことでしょうか? LTVは「顧客生涯価値」とも呼ばれ、一人の新規顧客が「他店へ浮気または卒業してお店から離脱してしまうまでの期間に得られる利益」のことを指します。初めてECショップで買い物をして、「どのくらいの期間そのお店で買い続けるか?」と「その期間内でいくら買い物をしてくれるか?」、この2つが大きなポイントになり、それらをもとにLTVを導き出す計算式があります。それが01です。

例えば、1万円(粗利率は60%)のズワイガニを販売しているAショップでは、初めてAショップで購入してくれた顧客は平均2年間、回数で2回は他店へ浮気も卒業せずに、そのAショップで購入してくれるというデータがあるとします。この場合、計算式は02となり、LTVとしての売上は2万4,000円となります。

 

LTVは最初にお話したとおり、収益が大切ですから、売上だけではなく新規獲得コストとお客様を維持するコストを意識する必要があります。式としては03のようになります。

 先ほどのズワイガニのAショップで考えると、新規顧客コストが4,000円、維持コストが2,000円とすると、04となり、一人あたりのLTVは1万8,000円となります。

 ECでの新規の顧客コストは、リスティング広告やリターゲティング広告などでよく使われる「CPA(Cost Per Action)」を使用することが多いです。CPAとは、顧客一人を獲得する費用のことです。商品によってCPAは変わることが多く、5,000円以上かかることもあれば1,000円以下になることもあります。

 最近では、FacebookやInstagramなどのソーシャル系の広告も行うため、1カ月でかけたプロモーション費用を月間新規顧客数で割ってCPAを出すことも多くなってきました。私が関わったある化粧品販売の案件では、客単価も高く購買期間も長いため、CPAを1万円にしても余裕があったので、さまざまな広告を試すことができました。この場合05となり、一人あたりのLTVは18万円です。先ほどのズワイガニに比べるとかなりの収益があります。

 

LTVの最大化

この計算式で考えれば、収益を上げるには06のように6つの要素を考えてLTVを最大化すればいいことがわかります。

つまり、継続的に顧客に自社の商品を何度も選んでもらえれば、顧客価値の向上が可能ということです。ここで言う商品とは一つの商品という意味だけではなく、フロントエンド商品(集客商品)からバックエンド商品(本命商品)の移行も含めて、自社の商品群を選んでもらうことを指しています。例えば、まずはお試しセット1,980円(集客商品)で、次は3,000円ぐらいの商品、そして5,000円のセット、できれば2年間の定期購入(本命商品)へと持っていければベストです。

LTVが高い場合、先ほどの化粧品のように2年間の利益を見込んで、新規顧客を獲得するための広告費用を多めに使用することも可能になります。ソーシャルゲーム会社や生命保険会社がTVCMをガンガン打つことができるのもLTVが高いためです。逆にLTVが低い場合には、新規顧客を獲得するための広告費用を抑える必要があります。最近では、新規顧客を獲得するために、リスティング広告やリターゲティング広告などを自動で管理するシステムも有効です。この場合には、このシステム費用もCPAに追加する必要があります。

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06  LTVを最大する施策
LTVの計算式に当てはめてみれば、どの数値を上げればいいか、逆に下げれば最大化ができるのか、という対策が立てやすくなります。LTVを最大化するには上の6要素がポイントになります

 

LTVの課題はシステムで解決

ECショップがLTVの算出を行う上で、課題になるポイントが2つあります。それは、「購買期間がわからない」「顧客維持コストが不鮮明」ということです。この問題に対処するには、既存のシステムを利用するのも手です。

購買期間については、今はいろいろなLTVのシステムがあるので、過去データを使って実際にどの程度の顧客が離脱しているかを一度調べたほうがよいでしょう。まったくわからない場合、例えば新規でつくったECショップやベンチャー企業の場合には、なるべく短めに設定しましょう。いきなり2年などではなく、半年や長くても1年以内の設定をお薦めします。

また、顧客維持のシステムにはいろいろあり、CRMやLTVに必要なシステムは07、具体的には08~11などが代表的です。当然ながらそれぞれ特徴がありますので、自社にあったシステムを選ぶ必要があるでしょう。

ちなみに、顧客維持コストは維持にかかるシステムと人件費を顧客数で割ります。例えば、システム費用が毎月10万円、人件費が2名(パートで福利厚生費を13.8%とすると約30万円)で計40万円になり、顧客が5,000人とすると一人あたり毎月80円となります。2年間で1,920円です。

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07 顧客維持のシステム
顧客が自社サービスを利用しなくなることを抑制するため、ポイントやメルマガ、サポートの強化などが考えられます。そのために役立つシステムにはさまざまあります。代表的なシステムには以下のようなものがあります
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08 Googleアナリティクス
分析システムの代表といえばGoogleアナリティクス。広告掲載、販売、商品やサービスの利用、サポート、顧客維持などあらゆる段階におけるユーザーとの関わりをより的確に把握できます
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09 Betrend
ビートレンド(株)が提供する、企業や店舗でのスマートフォンや携帯電話を活用した販促を支援するCRMツール。ECサイトなどの外部システムとAPIによって連携し、Betrend以外で発生した顧客の行動履歴も含めて活用できます
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10 Hybrid Satisfa
(株)ヴィンクスが提供する、顧客管理・ポイント管理・情報分析という3つのモジュールから構成されるCRMシステムです
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11 TEMPOSTAR
NHNテコラス(株)が提供する、多店舗をクラウドで一元管理できるEC運営統合プラットフォーム。顧客管理だけでなく、商品・在庫管理もお任せです

 

囲い込みは禁物!

LTVで平均購買客単価、粗利率、平均年間購買頻度、継続購買期間、新規獲得、顧客維持コストという6つの要素がわかったら、次にどうするかを考える必要があります。

まず、この6つの要素のなかですぐにでも対策を考えたい要素は、平均年間購買頻度や継続購買期間でしょう。自社のサービスや商品を選んでもらい、より長い期間に高い頻度で購入し続けてくれる顧客を増やせば、収益は安定します。

野村総合研究所の「生活者1万人アンケート調査」によると、「共働き世帯増加とスマートフォン普及を背景に『利便性』重視の消費スタイルが伸長」と述べています。これはAmazonやLohaco、ヨドバシ・ドット・コムなどの影響が強く、注文すればすぐに届くといった「購入する際に安さよりも利便性」を選んでいることになります。

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12 野村総合研究所「生活者1万人アンケート調査」(第7回)
インターネットの情報のみで商品を購入できると答えた人は、2012年には10%弱だったのに対し2015年には12.8%と広がっており、顧客が利便性を優先した選択をしはじめていることがわかります

 

ならば、と中小のECショップが資本力のあるモールと安さや利便性で真っ向から対抗しようとしても勝ち目がないのは火を見るより明らかです。となると、新規顧客を獲得したら囲い込みをして、何度も買ってもらいたいと考えるのは当然のことでしょう。

とはいえ、これには注意が必要です。例えば、受注データベースから顧客をセグメント抽出し、そのセグメントに対してそれぞれメールや電話をするといった行為は慎重になりましょう。例えば、3カ月間来店していない顧客を抽出し、購入を促すクーポン付きメルマガを出したり、セールスからの電話で顧客の都合も聞かずにベラベラ話したりといった行為は、顧客満足という名のもとに自社の都合を押し付けることにほかなりません。

「囲い込み戦略」や「客単価アップ」のキーワードを掲げ、それを目標とするECショップは非常に多いのですが、私の経験上、これだけでは成功しません。押しつけたようなアプローチで顧客との関係性を構築し、それを維持していくことははっきり言ってできません。では、どうすればいいのでしょうか? そのヒントは、顧客に対して「顧客視点に立って満足度を高め、長期的関係性を保つ」ことが本質であるということです。

ここで例を挙げましょう。私はこの冬、ダイソンの暖房機器を購入したのですが、試しに初めて訪れたECショップで購入してみました。その結果、どうなったと思いますか?

正直なところを言えば、購入したモールやECショップが何だったかは覚えておりません。しかし、ダイソンの商品には一目惚れしてしまいました。それは、ダイソンの商品がよいだけではありません。商品が入っているダンボール、送り状、納品書、保証書など商品に付随するさまざまなツールが一つひとつ素晴らしかったのです。

購入前からいろいろ検索・比較して購入したことは覚えておらず、購入後の素晴らしい体験だけが頭に残っているのです。本来ならば、購入前~購入~購入後~商品を使用~アフターケアまでがECショップにとって重要なことであり、それぞれの各ファクターのユーザー体験を戦略的に考える必要があるということです。

 

LTVの課題はシステムで解決

そしてもう一つ忘れてはいけないのが、最近のスマートフォンやSNSの成長で、顧客視点が変わってきているということです。

「中国のApple」とも言われるスマートフォンメーカー小米(シャオミ)の共同創業者である黎万強氏は、その著書『シャオミ 爆買いを生む戦略』で「今や『友達商売』の時代になった」と言います。つまり、SNSでユーザーと会話をしながら、商品企画からお試し購入、実際の購入、その後のフォローまでを行うということで、それはまるで友達のように接しているのです。これは超高速コミュニケーションや情報の透明化が後押ししていると言えます。価格や情報はネットで検索したり、ソーシャルメディアで聞いたり話題になっているのを調べるだけで、あっという間に知ることができます。

LTVはマーケティングのツールであり大きな武器ですが、その武器をどう使うのか、どのようにするとお客様が喜んでくれるのかとと考えるのではなく、あなたの友達に自分の商品を使ってもらう場合、どのようにすれば友達が「おっ!いいじゃん!」と喜んでくれてクチコミしてくれるのかが大きなポイントです。そのためにLTVをどのように使うかが重要なのです。

とはいえ、まずはLTVの計算式を使って現状を調べるところから始めてみてください。どこから改善していくのがよいのか、一つひとつ丁寧に実施してみてください。オススメは客単価、購入回数、購入期間がこちらの想定に合致した顧客です。きっと何人かいらっしゃるはずです。その顧客からまずは接触してみてください。親しき者にも礼儀ありで丁寧に接客しはじめて、徐々に友人のような気持ちで接してみてください。必ずあなたのEC事業の力になってくれるはずです。

 

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Text:川連一豊
JECCICA(社)ジャパンE コマースコンサルタント協会代表理事。フォースター(株)代表取締役。楽天市場での店長時代、楽天より「低反発枕の神様」と称されるほどの実績を残し、2003 年に楽天SOY受賞。2004年にSAVAWAYを設立、ECコンサルティングを開始する。現在はリテールE コマース、オムニチャネルコンサルタントとして活躍。http://jeccica.jp/

掲載号

Web Designing 2016年2月号

Web Designing 2016年2月号

2016年1月18日発売 本誌:1,559円(税込) / PDF版:1,222円(税込)

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