2016.04.19
ECサイト業界研究 Web Designing 2016年5月号
プラットフォーム:オリジナルのエコシステムが成功に導く
ECショップは、楽天市場などのモール、決済サービスなどさまざまなプラットフォームの上で展開するのが通常です。しかし、そのプラットフォームで提供されている機能だけに甘んじていては、ひしめく競合店舗の中で望んだ売り上げは期待できません。基盤たるプラットフォーム上で、自分たちの業態や強みを活かした自分たちのプラットフォームを作り上げることが成功につながるのです。
運営の基盤に商売の基盤
「プラットフォーム」と聞くと、なにか壮大なシステムを連想する方もいるかと思いますが、簡単に言えば基盤のことであり、ECではAmazonや楽天といったECモール、ECショッピングカートや決済サービス、物流などがプラットフォームに当たります。ただ、そのプラットフォームに乗っかるだけでは、幾多の競合店がひしめく中で売り上げをあげることは難しい時代です。「運営の基盤である」プラットフォームの上に立ちながらも、自らのビジネスにあった「商売の基盤となる」プラットフォームをつくり上げることが必要になっています。
このプラットフォームの上で自分たちにあったプラットフォームをつくることを、私は「プラットフォームonプラットフォーム」(以下PonP)と名づけています。ではECにおいて、自分たちにあうPonPをどうつくればいいのでしょうか。
こういったプラットフォーム戦略を提言するのは(株)ネットストラテジーの平野敦士カール氏です。平野氏は、関係する企業やグループを「場=プラットフォーム」に乗せることで、新しい事業のエコシステム(生態系)をつくることに言及しています。ポイントは、エコシステムになっているかどうかです。極端な話、「何もしないのに動いていくモデル」が理想のプラットフォームと呼べます。とはいえ、難しく考える必要はありません。まずは自社のビジネスの規模に沿って、小さくシンプルなところから考えてみましょう。今回は物販に限定して解説します。
つくる→売る→届ける
ECでプラットフォームを考えるとき、まずは商品がなくては始められません。企画し、つくり、販売し、顧客へ届けるといった、商品供給からお届けまでの仕組みづくりが必要です。まずは単一なフローから考えていきましょう。ECの物販で多いのは、「仕入れ型」と「手作り販売型」です。まずは仕入れ型を見てみます。
リアルのお店を持っている場合にはすでに仕入れルートがありますから、お店に並んでいる商品をECに載せていくことで始めることができます(01)。リアル店舗のECのメリットは、すぐにECで売ることのできる商品が目の前で確認できることですが、デメリットが3つあります。1つ目は「商品のデータがPOSデータしかなく、ECに必要な画像データや商品説明文がない」、2つ目が「商品の在庫数がわからない」、そして3つ目が「リアル店舗が忙しすぎてECに手が回らない」というところです。
まずは商品データをリアル店舗とECに供給できるようにして、両方で売れるようにしてみましょう。顧客データ、受注データ、在庫データを統一したいところですが時間がかかるので、徐々にスタートしていきます。商品データを自動的に反映できるようにしておけば、商品数をスムーズに増やしていくことができます。
仕入れ型で次に多いのが、リアル店舗は持っていない、またはショールームはあるが販売はECに限定する場合です(02)。問屋から仕入れることも多いので、ロングテール型の大量商品を扱うことが多くなり、競合店舗と取り扱い商品が同じになってしまうことが多いので、品揃えを充実させるのか、専門性を出すのか、顧客の利便性を高めるのかなど、顧客から見た差別化をする必要があります。このモデルは、売れるEC店舗だとわかるとさまざまな企業から提案が入るようになります。しかし、提案をすべて受けているとショップのコンセプトが崩れるので、都度コンセプトにあうかどうかを判断していきます。
仕入れ型のデメリットは、最終的には価格競争になってしまうことです。どんなに良い商品を見つけても、それが売れるとわかれば一斉に他のEC店舗でも仕入れて売り始めます。値崩れするのもこの段階です。そのため、仕入れ型は次のフェーズとして、セット商品で自社ブランド化、OEMでの生産や名前入れ、自社企画商品づくりを考えていくことになります。
ではここで、手作り販売型の基礎を見てみましょう(03)。手作り販売で多いのは、自分でつくったお米や農産物などを直販する場合や、アクセサリーや洋服などを手作りして販売するケースです。この場合、比較的簡単に始められるものの有名ではないので、ブランディングとマーケティングが必要になります。
CtoCで売るのであれば「メルカリ」や「minne(ミンネ)」などフリマサービスを利用して実際に売れるプラットフォームを利用してみるとよいでしょう。
手作り販売型は注文が来た場合にバックオフィスができていないので、在庫の確認や発送、お客様サポートといった接客ができないことが多く、せっかく来た顧客を手放すことになります。そこで、部分的に業務を請け負ってもらうといった判断をする必要があります。
手作り商品のプラットフォームでわかりやすいのは、デザインを募集する方法や同じような商品をつくっている人から商品の提供を受ける、テーマが同じ商品だけをECサイトに集めるようにするなどがあります。
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リアル店舗があるショップなら、その基盤にECサイトを追加する形で成り立ちます。仕入れデータや在庫データ、顧客データなど各種データをリアルとECサイトで共有する方法を考える必要があります
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販売チャネルがECサイトのみの場合、多数の競合ECサイトとの競争がポイントになります。どれだけ他店よりも魅力を出せるか、独自性が出せるかを検討する必要があります
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取り扱う商品はオリジナルになりますが、知名度の向上や売り方の工夫が必要になります。スタート時にはフリマサービスをうまく活用するのもいい作戦でしょう
自社商品の販売
商品仕入れ型も手作り生産型も、始めていくとなんらかの自社商品を販売するようになってきます。自社商品といっても、工場を建ててつくるには勇気と覚悟が必要ですので、まずは試作品の販売、オークションやCtoCなどでの販売などを考えてみましょう。
ひとつ例を挙げましょう。ソファを製造販売している奈良県のモーム(株)は中国の深センに工場をつくって、日本でデザインと設計を行い、中国で製造しています。木製部品もウレタンフォームも中国で仕入れて、工場で組み立てます。出荷された完成品は国内の自社倉庫に入れて全国へ配送します。工場を持つということは工場の資産や人件費も膨らみますので、中国工場のマネジメントができるかどうかが肝になります。同社では優秀なマネジメントができる人材をうまくつかむことができたのが成功の要因です(04)。
ちなみに、商品企画を行う場合、まずは違う会社の商品を組み合わせる、OEM生産を依頼してみる、現在の商品に対してカスタマイズを依頼する、名前を入れられるようにするなど、まずは自社商品化への第一歩を軽いスタンスで始めることも可能です。ラッピングやおまけを入れるだけでも違ってくるでしょう。
北海道のブランド米「ゆめぴりか」専門店の米のさくら屋は、OEM生産の形をつくっています。北海道の米作農家を周り、収穫時に雀の糞や石が混ざっていてそのままでは売れないものを精米して全国へ届けています。米作農家ができないことをECの販売側がフォローしているいい例です。今では噂を聞きつけた米作農家や北海道の生産家から、さまざまな野菜の提案が来ているようです(05)。
また、福岡県にある(有)畠中育雛場の卵販売店「筑前飯塚宿たまご処卵の庄」は、卵だけではなく、カステラやチーズケーキなどのスイーツも製造販売しています。さらに、近くの醤油メーカーから自社OEM生産としてたまごかけ専用の醤油やお米なども販売しています。OEM生産のプラットフォームをつくることができれば、卵に関係する商品ラインアップを増やしていくことができます(06)。
フェンスや縁台など庭用品を販売している大阪府のガーデンガーデンでは、自社商品を企画して中国やアジアでOEM生産をして輸入しています。自社工場を持たず、中国の知り合いの企業や工場からもさまざまな提案が入ってくるような体制を組んでいます(07)。工場の資産や人材を持たずにできるので経営としては比較的楽なのですが、生産会社に任せることになりますので、契約をしっかり行う、どのようにマネジメントしていくのかが課題になります。中国で材料の仕入れや加工、生産する場合、決められた仕様でできているかが重要です。
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日本でデザインと設計を行い、中国の工場でソファを製造します。木製部品もウレタンフォームも中国で仕入れて、工場で組み立てます http://www.momu-shop.jp/
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製造を受注した相手先のブランドで販売される製品を製造する「OEM」生産の形として、米を「製造する」米作農家から商品となる商品を「生産」して、「ゆめぴりか」というブランドで販売しています http://yumepirika.com/
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自社製品とともに、醤油メーカーから自社OEM生産としてたまごかけ専用の醤油やお米なども販売。このように他社との連携ができれば、卵に絡む新商品のアイデアも商品化できます http://www.rannoshou.jp/
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自社商品を企画して中国やアジアでOEM生産し、輸入します。自社工場を持たない形は、Appleなどが有名です http://www.garden-garden.biz/
シンプルなエコシステムを
一方、販売側のプラットフォームを考えると、前述した本店サイトで販売、モールで売る、多店舗展開するといった方法があります。ECで多店舗展開する場合には(08)、顧客がそこにいるかどうかです。顧客を無視したプラットフォームはすぐに崩壊してしまいます。
その他、生産した商品を他のEC店舗へ卸す、商品データを用意し他のEC店舗へ供給して販売するプラットフォームをつくっている場合もあります。まさにECのフランチャイズ化です(09)。ECのフランチャイズ化で有望なのは工事が必要な商材やクリーニングなどといった人との密着度が高い業態です。
このECのフランチャイズ化で課題になるのは、いわゆる「ささげ」です。「さいすん(採寸)」、「さつえい(撮影)、「げんこう(原稿作成)」の頭文字を取った業務のことで、このささげ業務が人的リソースを必要とするため、ここを突破できる体制をつくれると強いプラットフォームができます。
エコシステム、つまり仕組みが自動的に動き出すような仕組みを、さまざまな既存のプラットフォームの上に、プラットフォームをつくる「PonP」というイメージで検討するとわかりやすくなります(10)。
プラットフォームは出来上がると活発で非常に強いものがありますが、デメリットとして複数の関係者がステークホルダーとして登場しますので、中間に位置するマネジメントを誰がどのように行うかが重要な要素になります。
まずはシンプルな流れからどのようなエコシステムに持っていくかをシンプルに考えていくところから始めてみることがオススメな方法です。
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自社商品を企画して中国やアジアでOEM生産し、輸入します。自社工場を持たない形は、Appleなどが有名です
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自社商品を企画して中国やアジアでOEM生産し、輸入します。自社工場を持たない形は、Appleなどが有名です
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自社の基盤の上で、さまざまな仕組みが自動的に動き出すエコシステムがいかに作り出せるか、構図化して考えてみてもいいでしょう
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- Text:川連一豊
- JECCICA(社)ジャパンE コマースコンサルタント協会代表理事。フォースター(株)代表取締役。楽天市場での店長時代、楽天より「低反発枕の神様」と称されるほどの実績を残し、2003 年に楽天SOY受賞。2004年にSAVAWAYを設立、ECコンサルティングを開始する。現在はリテールE コマース、オムニチャネルコンサルタントとして活躍。http://jeccica.jp/