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ECサイト業界研究 Web Designing 2016年8月号

ソーシャルショッピング:近未来はSNSで買い物をする時代

Facebookが開催した開発者向けカンファレンスにおいて、ECに関わる興味深い発表をしました。それらは従来の「ステップ式」オンラインショッピングを否定する新しい買い物の形を提示しています。そこには、現在のユーザーが求めるオンラインショッピングの理想が反映されているのです。

Facebook Messengerで会話風にお買い物

Facebookは4月12、13日、米国サンフランシスコで年に一度の開発者イベント「F8開発者カンファレンス」を開催しました。今回は、Facebookの今までの10年間と、これからの10年間の方向性を示す内容となっており、すぐに実現できそうなテクノロジーとかなり未来的な内容も含まれています。動画はYouTubeで公開されています(01)。

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01 Facebookの開発者向けイベント「F8」で提示されたロードマップ。エコシステムにFacebook、プロダクトにMessengerやWhatsApp、そしてInstagramが並び、今後10年間のテクノロジーとして、「コネクティビティ」と「AI」「VR/AR」というキーワードが並んでいました
https://www.fbf8.com/

EC界隈に関係しそうなトピックはいくつかありましたが、特筆すべきはMessengerのチャットボットプラットフォーム「bots on Messenger」です(02~06)。bots on Messengerは、単純な文字やキーワードだけでなく画像やリンクでもユーザーとやりとりできます。このため、ECでの商品の質問やサイトでの買い方などの回答、カスタマーサポート、手続き説明などをリアルタイムで対話的なコミュニケーションができることになります。

Messengerの中で、どんな商品が欲しいかを説明して、botがオススメする商品画像とリンクを表示する。それをユーザーが比較し、商品を選んでクリックすれば、ECサイトのような画面が出てきます。そのまま購入完了するとMessengerに戻る仕様です。決済はFacebookで行い、配送先は自宅だったらそのままに、配送先が違うようであればMessengerで住所を入れればOKです。つまり、リアルの店頭で喋っている感覚で商品が購入できるのです。

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02 Messengerのチャットボットプラットフォーム「bots on Messenger」の紹介では、Facebook社CEOのマーク・ザッカーバーグ氏の基調講演において、花を購入しているデモで紹介されました
https://developers.facebook.com/videos/
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03 bots on Messengerでは、例えばシューズが欲しい場合、Messengerに「Shose」と入力すると「どんなシューズが欲しいの?」「どのくらいの価格帯?」などとすぐに質問が飛んできます
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04 質問に答えるとbotがそれに適した商品写真をピックアップし、ユーザーは横スライドで見ることができます
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05 欲しい商品が決まったら、その画像下に表示される「Buy It」のあるページヘリンクして、そのまま購入可能です
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06 レシートもすぐに表示されます。このあたりはテンプレート化されています

今まで、ステップ上で住所の確認をしたり、決済を選んだり、配送手段を選ぶようなことをしていたのですが、極力ユーザーの手間をなくそうとしていることがよくわかります。裏側のロジックがまだわからないので、どこまでECサイトのカスタマーサポートや営業の代わりになるのか現状ではわかりませんが、今までのECとは違う利便性の高いサービスになることは間違いないと思います。

仮にこのbots on Messengerでサービスを展開するのであれば、あらかじめ商品データベースをしっかり内部でつくっておくことと、カスタマーサポートのFAQを整えておくといいでしょう。商品データベースやFAQはECにとっては重要ですのでbots on Messengerがあってもなくても、整えておくことは重要です。

発表されたトピックで、もう一つECに関係が深そうなのは、「Facebook Live」のAPI公開です。こちらは簡単に言うとリアルタイム動画でやりとりができて、動画に映る友達を自動でタグ付けすることができます。つまり、誰でもコンシェルジュサービスが行えるということです。どのように使っていくかは商材やサービスによって変わりますが、使い方によっては非常におもしろい取り組みが可能です。ECで苦手とされる電話注文を受けて受注システムに取り込む、ネットスーパーで商品を見ながら買い物できるなどのアイデアはすぐに浮かぶでしょう。

ちなみに、F8では通信インフラ用の巨大な翼も紹介していました。大型ジェット機の翼よりも大きいから驚きです。全世界の人々にFacebookを使ってもらう、そのために通信インフラを用意する、この流れはAmazonもWikipediaも同様の動きをしていますので、ますますネットの世界はグローバルながらどんどんと狭くなってくると思われます。

 

中国と米国のSNS事情

グローバルと言えば、最近は「越境EC」というキーワードも多く見かけますが、ここでもソーシャルは大活躍しています。

特に中国向けとしては、テンセント社の「WeChat」が爆発的な伸びを示しており、中国の方とやりとりするにはとても便利です(07)。

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07 中国でもっとも利用されているソーシャルチャットサービス「WeChat」。米国のようにメール文化を通らずSMSでの会話に慣れている中国人や中国企業を相手にする際は、なくてはならないツールとなっています

使い方はLINEとほぼ同じですが、ビデオチャットが3拠点でも遅くならないため、ビジネスでも使えます。WeChatは同社の「QQ」というチャットサービスのスマートフォン版で、決済もできるようになっています。この決済で、おじいさんが孫にお年玉をあげるのにWeChat決済で行っているという具体例もあります。中国ではWeChat決済でJD(京東)モールなどでいろんな商品が購入できますので、孫にとっては現金よりうれしいのです。中国人や中国企業との取引をするには、このWeChatは必須になっています。中国人はメールをあまり見ませんので、このソーシャルチャットかSMSが有効です。

一方、米国はメール文化から始まっているのでメインで使われているのですが、ソーシャルでのやりとりも多いです。なかでもFacebookは圧倒的で、Facebook MessengerやInstagramが多く使われています。もちろん、TwitterやPinterestも有効ですが、シェアとしてはまだまだです。

そんな状況の中、日本のECを営む企業は米国と中国の両方と取引しているところも多く、米国プラットフォームのメールやソーシャルはもちろん、中国向けで専用のチャットやSMS対応が必要で、かつ日本国内の市場も伸ばしていくためLINEにも対応する必要があります。まだ商売でLINEをガンガン使っているという成功実例は少ないのですが、日本国内利用者数は5,800万人以上、実に人口の45%以上をカバーしており、そのうち毎日使用しているアクティブ率はなんと約70%です(LINE 2015年10月-2016年3月媒体資料 LINE株式会社コーポレートビジネスグループより)。このプラットフォームをビジネスにうまく使いたいという気持ちはよくわかります。

つまり、日本国内の企業はメールはもちろん、FacebookやFacebook Messenger、InstagramにTwitter、中国のWeChat、LINE、SMS、電話やFAXにも対応しなければなりません。この他にもいろいろなSNSやプラットフォームが登場していますので、サポートする現場は大変です。まとめて対応できるツールもありますが、英語版のみだったり、頻繁に仕様が変わるソーシャルになかなかついていけないのが現状です。ECのカスタマーサポートとしては、履歴も残す必要がありますので、英語や中国簡体字、繁体字、ハングルに対応したまとめツールがあると便利ですが、今のところはそれぞれのプラットフォームで対応するのが精一杯です。

 

プレミアムから利便性へ

このように、日本国内だけでなく世界的にSNSを使ったショッピングの仕組みはますます多様化し、拡大を見せています。それは当然、ユーザーの需要に応えた結果であることは間違いないのですが、では、なぜユーザーはショッピングにSNSを使いたがるのでしょうか。

まず、全国2万人のECサイト利用動向を見てみましょう。JECCICAとPayPal社がまとめた「中⼩企業向け2016年EC戦略白書」によると、モールを使っている方は87%、大手のECで購入している人は45%(08)。この利用動機を見ると、「商品数が多い」「すでに会員登録している」「使い慣れている」「有名だから」「普段使っている決済方法が使えるから」と、この5つが要因になっています(09)。

全国2万人のECOLOGYサイト動向調査

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08 中⼩企業向け2016年EC戦略白書(JECCICA&PayPal)より。ECサイトの利用状況は、楽天市場、Amazon、ヤフーに集中しています

モールや大手サイトの主な利用動機

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09 モールや大手サイトを利用する理由として目立つのは、以上の5点。「既に会員登録している」「使い慣れている」「普段使っている決済方法が使える」は、新規会員登録や使い方のマスターをする手間をかけずに簡単に買い物したいという気持ちの表れだと見ることができます

ここから読み取れるのは、ユーザーがいかに簡単に買い物できるかという「利便性」を求めているという点です。また、野村総合研究所の生活者1万人アンケート調査を見ても、ECに求めるのは、自分が気に入った付加価値には対価を払うというプレミアム消費が前回と同様の22%となっているのに対して、利便性消費は前回よりも8ポイントアップの43%となっています(10)。

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10 (株)野村総合研究所が発表した「生活者1万人アンケート調査」(第7回)を見ると、16年前の2000年には40%を占めていた「ただ安ければよい」という安さ納得消費は2015年には24%まで減少し、その代わり「安さよりも楽に買い物できるほうがよい」という利便性消費の割合が高まってきました

こうなってくると、簡単にわかりやく購入できて、すぐ届くようなプラットフォームの必要性が求められているのがわかります。ソーシャルが人に焦点を当て、友達とつながりを持ち、それがシェア(拡散)されるプラットフォームから、決済、購入までできるサービスにシフトするために、簡単でわかりやすく購入までできるAIやbotを開発することは非常にわかりやすく見てとれます。 

 

ショッピングカートの未来

こういった利便性を求める声に、冒頭のFacebookは一つの回答を提示したということになります。

現在ECで使われているショッピングカートは、ユーザーに1つずつステップを踏んでもらい、注文者情報や送り先住所、配送方法、決済方法、クーポンやポイントなどを確定して注文が完了するという、スタイルで購入完了する方式が主流です。これらのショッピングカートは「ステップカート」と呼ばれています。

しかし、Facebookが示したショッピングの方向性は、このステップカートを否定するもので、すでに登録してある個人情報や友人の情報、位置情報などをうまく使ってできる限りユーザーに手間をとらせないようにしています。とはいえ、日本のECと照らし合わせると代引きがないし、複数の人に送るギフトには対応できません。複雑な買い物をするにはまだまだです。

しかしながら、簡単に買いたい商品、例えば日用品やいつも購入する商品なら、煩雑なステップカートで購入するのではなく、メッセンジャーで会話するように買い物ができればこんなにうれしいことはありません。

ビジネスで考えると、ソーシャルショッピングは外せないと思います。とはいえ、ユーザーは接客を望んでいたり、プレミアム消費もされます。ギフトもありますし、じっくり比較検討して購入したいこともあるのも事実です。この需要も外せません。となると、簡単な買い物用にソーシャルショッピングを利用し、本店サイトは自社用にカスタマイズして接客できるようにする。また、ユーザー動向を見ながらAmazonや楽天、ヤフーといったモールを利用することは大切です。

本店サイトでカスタマイズするとなると、日本ではECCUBEがシェアを取っています。無料でダウンロードできカスタマイズができて便利ですが、ちょっとトラフィックが大きくなったり、SKUが多い場合には捌けなくなるという根本的な問題もあります。自社のサービスにあったショッピングカートを選び、どのようにカスタマイズしていくか。ベンダー選定も含めてしっかり検討する必要があります。

 

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Text:川連一豊
JECCICA(社)ジャパンE コマースコンサルタント協会代表理事。フォースター(株)代表取締役。楽天市場での店長時代、楽天より「低反発枕の神様」と称されるほどの実績を残し、2003 年に楽天SOY受賞。2004年にSAVAWAYを設立、ECコンサルティングを開始する。現在はリテールE コマース、オムニチャネルコンサルタントとして活躍。http://jeccica.jp/

掲載号

Web Designing 2016年8月号

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2016年6月18日発売 本誌:1,559円(税込) / PDF版:1,222円(税込)

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「SNSをビジネスで利用しよう!」そう思ってアカウントを取得し、意気込んで運用を開始した方も多くいることと思う。しかし、「時間と労力がとられるばっかりで疲弊してきた…」と実感している方も実は多いのではないだろうか。SNSをビジネスで有効活用するには、現場レベルでの「成功法則」があるのだ。ここでは、目標設定・運用体制・投資予算などさまざまな視点から実際に現場で運用する方たちが押さえておくべきポイントをSNSのプロたちに聞いた。

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 #04 _Instagram
  パンと日用品の店 わざわざ 小規模店舗がとにかく続けるための仕組みづくり
 
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