2016.03.18
ECサイト業界研究 Web Designing 2016年4月号
ファーストタッチポイント:リピーター獲得のポイントは「ダンボール」にあり
ECサイトで商品を選び購入ボタンを押して商品が届く。その時、顧客が一番最初に目に触れる・手にするのは商品そのものではなく梱包材です。ECサイト以外に、この「ファーストタッチポイント」にも工夫の余地が十分あります。実際に行われている「箱のアイデア」事例を紹介しましょう。
顧客との初めての接点
一般的にECサイトで商品を購入しようとした時、PCやスマートフォンなどから欲しい商品を検索して、見つけて、比較して、レビューを見て、この店は信用できる?などと考え、ようやく商品を購入します。購入した商品は、後日(なかには1時間で届くサービスもありますが)宅配業者によって届けられます。
この届けられた瞬間は、ネットというバーチャルな世界で購入した商品がリアルになった瞬間とも言えます。この瞬間、最初に目に入るもの、手にするものは、商品を梱包しているダンボール(箱や袋)です。このダンボールこそ、お客様とのリアルなファーストタッチポイントと言っていいでしょう。
今でこそほぼなくなりましたが、以前はダンボールに足跡が付いていたり、タバコの臭いが付いていたりしてクレームになることもありました。現在、この辺りはかなり改善されたのですが、一方で利便性を高めたり、エコを謳うばかりにこの大事なタッチポイントを台無しにしてしまっていることがあります。また、一度仕様を決めてしまうと改善がなかなかされない要素になってしまいがちです。
利便性を高めるために、ダンボールを輸入したそのままの状態、例えば中国から送られてきた箱で届いたりします。インテリアなどの大きな商品にはありがちです。ただ残念ながら、非常に汚れていたり穴が空いて破れていたりすることも多く、顧客からすれば届いた瞬間、「せっかく購入したのに‥‥」とガックリすることもあります。
また、大きなダンボールで届いたものの、開けてみると本が1冊しか入っていなかったということも多いと思います。箱の種類が用意できないほど余裕がないのかなと考えてしまいます。さらには、エコを謳うばかりにこのダンボールをないがしろにしすぎる場合もあります。手でちぎったようなダンボールの破片で商品の角だけ補強して、中身はビニール袋にしているという例も実際にありました。エコというより極端な経費削減だなと思われても仕方がないところです。
ECサイト運営者には、「お店の名前を覚えてもらえなくてリピートがない」という課題があります。そう言っているサイトに限ってモールのダンボールや宅配業者のダンボールなどを使っていて、お店の名前がどこにも書かれていなかったりします。ファーストタッチポイントである梱包用ダンボールには、実は売り上げ増やリピーター獲得につながる工夫の余地がたくさんあるのです。
工夫はデザインだけではない
一方で、このダンボールを工夫しているECショップは、すでに多くあります。ある子供服のお店ではダンボールにお店の名前を入れて、ガムテープも「くまちゃん」の柄が入ったものを使用しています。お客様からの声に、届いた時に子どもが「プレゼントが届いた!」と大喜びしてくれたというレビューも入ってきます。
ショップ名をダンボールに入れるのは、大手でもよく実施されています。LOHACO(01)などはショップ名だけではなく、資源削減に取り組む姿勢を文言として印刷しており、さらに接着部分を1カ所に絞って、少なめの接着剤で商品の保護をしています。最近、Amazonの箱はイラスト入りにしていますね。もともとロゴ自体が笑っているのですが、犬のキャラクターを全面に採用しています。

アスクル(株)が運営する、働く女性に向けた日用品のECサイト「LOHACO(ロハコ)」から届くダンボールには、「私たちは資源の削減のため、梱包材料の削減に取り組んでいます」と書かれており、実際に内容物にあわせた高さ調整をすることで緩衝材を減らす工夫がされています。接着剤も一カ所のみ使用されています
ピザハウスロッソ(02)は赤と緑を使用した箱でイタリアの暖かい家庭をイメージできるデザインを採用しており、届いた瞬間の高揚感をいっそう高めます。その箱はピザの大きさにぴったりなサイズに設計されており、運送時の衝撃を抑えるだけでなく、顧客層に主婦が多いことから、必要最小限の大きさで場所をとらないメリットがあります。さらに、必要最小限の紙資源の利用になることからエコの観点でも貢献していると考えられます。
このショップは「家庭用」がコンセプトであるため、フライパンサイズのピザを販売しているのですが、それを入れる箱がなかなか見つからなかったので専用箱を注文したそうです。もちろん、ピザ自体も美味しいのでリピーターが多いのも頷けます。

福岡県のピザ屋である「ピザハウスロッソ」の梱包には、側面四方に「イタリアの国旗」「ピザの誕生」といったピザのふるさとイタリアの雑学が書かれていたり、書かれた文字がイタリアの国の形になっているなど、箱を開ける前から目で楽しませてくれます。箱の上に「この面を上に」と宅配ドライバーへの配慮もされています
一方、インナー(下着)を販売している京都の(株)白鳩(03)では、何も書かれていないダンボールを使用していて、袋も無地のビニール袋を採用しています。これは女性がインナーを購入した場合、宅配ドライバーにインナーが入っているとはわからないようにするためです。もちろん、送り状にもインナーの文字はありません。無地のビニール袋を使用しているのはすぐにインナーとわからないようにしている工夫でもあります。そして、この白鳩のダンボールには接着剤が使われておらず、商品を取り出した後は簡単にたためます。ダンボールは、届いた後の処理がとても大変です。接着剤がたくさん使われていたり、ガムテープの補強も多すぎると片付けることが億劫になる人も多いはずです。白鳩のダンボールはものの5秒もあれば片付いてしまいます。もちろん箱を組み立てる時も簡単であり、利便性とエコを追求したダンボールになっています。

下着専門の通信販売会社(株)白鳩は、その商品の特性を考慮して、届いた品物が何か判別できない工夫をしています。ダンボール自体は簡単に組み立てられる設計のため、片付けるのも手間がかからず、同時に環境への配慮も行き届いています
箱の中も工夫の余地がある
工夫の余地は箱の外側だけではありません。米のさくら屋(04)の例を見てみましょう。商品が重量物のお米ですので、耐久性確保のため通常のダンボールを使用していますが、箱を開けるとダンボールの蓋の裏に顧客への手書きのメッセージが付いています。「今年の雪も~」といったちょっとしたメッセージはとてもうれしいもので、簡単な工夫でサプライズを起こすことができます。箱のデザインがしにくい場合には、このような工夫もあります。考え方のポイントとしては、「顧客目線でどこを見るか」をチェックするとよいでしょう。箱の蓋の裏側なんて、なかなか考えなかったパーツです。

北海道産のブランド米「ゆめぴりか」を専門に販売している(株)米のさくら屋の工夫は、箱の中です。蓋を開けると裏に顧客への手書きのメッセージが付いており、販売者の人となりが見える工夫がしてあります
澤井珈琲(05)から届く箱を開けると、コーヒーの香りがします。これは中身におまけのコーヒーの香り袋が入っているためです。この香り袋は靴箱や物入れの脱臭にも使えますので、その家庭に残ることになります。目にすれば澤井珈琲で買ったんだなと思い出しやすいですね。箱に香りをつけるのは、アロマオイルや化粧品でも工夫されていることもあります。
また、ダンボールの上には送り状を貼り付けるのですが、澤井珈琲の送り状は簡単に剥がすことができます。何カ所も個人情報が載っているとその度に剥がす作業が発生します。その点、澤井珈琲の送り状は簡単に1つ剥がせばよく、しかも粘着剤も剥がしやすく工夫が施されています。改善を繰り返していることがよくわかる例です。

鳥取県の(株)澤井珈琲から届くダンボールを開けると、コーヒーのいい香りが漂います。注文した品が届いた高揚感に、さらに商品に対する期待感を高め、同社が標榜している「あなたの笑顔溢れるコーヒータイムをご提案できる事が喜び」という想いを五感で感じさせてくれます。また、配送ドライバーへの労いの言葉が添えられているのが、企業のイメージアップにつながっています
ダンボールの課題
そんなダンボールの課題は、費用と保管場所の確保でしょう。たくさん注文すれば費用は安くなりますが、保管場所を大きく取る必要があります。
しかし、ここはある程度ダンボール業者と交渉することができます。ダンボール業者のなかには、カンバン納入してくれる企業もあるのです。「カンバン」とは、必要なものを必要な時に必要なだけ生産する「ジャストインタイム生産システム」で使われている生産の指示票のことです。また、デザインして箱に印刷をすれば、印刷の版代はかかってしまいますが顧客獲得一人あたりの支払額(CPA)を考えてみれば、いかに安いかがわかるはずです。
ダンボールのサイズの決定、印刷するデザインや色の数、納入数や納入頻度、保管方法や保管場所など考えることは満載ですが、専門業者と話をすれば積極的に相談に乗ってくれるはずです。大手のダンボール会社は安くていいのですが、近くに小回りが利くダンボール業者もあるはずです。自社の近くで検索してダンボールをつくっている現場を見て決めるのも手です。意外に工場を禁煙にしていなかったり、どのようなスタッフ教育をしているかも確認できます。営業マンだけで判断しないようにしたほうがよいでしょう。
このように、ダンボールを宅配ドライバーから手渡しされた時に「おぉー、届いた!」と感動できたり、ちょっとした工夫でサプライズを起こすことができれば、ショップ名を顧客に覚えてもらいやすく、リピートにもつながりやすくなります。ECショップがすぐに改善できる要素の一つです。また、決めた仕様は必ず顧客の立場になって実際に注文してテストをしてみてください。ダンボールのカラーがイマイチだったり、決めた仕様どおりになっていないこともあります。耐久性がよくなかったり、逆によすぎて過剰梱包になっていることもあります。
また、しばらくするとダンボールの仕様が勝手に変わることもあります。倉庫の担当者が変わってガムテープの貼り方や送り状の貼り方が変わってしまうこともあり、せっかくのダンボールのデザインが台無しということもあります。この辺りは定期的にチェックをして、よりよい改善を行っていくことが大事です。顧客が感動するようなファーストタッチポイントの工夫にぜひ取り組んでみてください。


- Text:川連一豊
- JECCICA(社)ジャパンE コマースコンサルタント協会代表理事。フォースター(株)代表取締役。楽天市場での店長時代、楽天より「低反発枕の神様」と称されるほどの実績を残し、2003 年に楽天SOY受賞。2004年にSAVAWAYを設立、ECコンサルティングを開始する。現在はリテールE コマース、オムニチャネルコンサルタントとして活躍。http://jeccica.jp/