2016.04.28
モノを生むカイシャ Web Designing 2016年5月号
最高の広告を求めるカイシャ「dot by dot Inc,」
世界中のネットユーザーは、こうつぶやきます。「これじゃ、テクノロジーの無駄使いだ!狂ってやがる!」そんな風評通り、彼らは本当に狂っている? いやいや、その風貌に騙されるなかれ。実は誰よりもストラテジスト。広告屋としてのプライドを貫く、dot by dotの流儀に迫ります!
Photo:合田和弘
“賞獲り”ではなく「課題解決の最短距離」
アドテックの会場にジェットコースターを設置したり、ロックの爆音でアイドルのスカートをめくったり、人の顔を分裂させるMVをつくったり、進撃の巨人をぜんぶ関西弁に翻訳したり。ネットに旬な話題を提供し、数々の広告賞を受賞してきたそれらはぜんぶ、dot by dotのしわざです。いざ彼らのコーポレートサイトにアクセスしてみると、うごめく水玉がものすごく邪魔でテキストがホントに読みづらい。ユーザビリティを最優先するこの時代に、なんてアナーキーな集団なんだ!と面食らうのです。が、アナーキー(=無秩序)な集団から、ここまで話題をさらう成功事例が次々と生まれるものなのでしょうか?
富永:メディアアーティストかと思われがちですが、決してそうではないんです。僕らは広告屋として、クライアントの課題解決ができる最短距離はどこにあるのか、いつも徹底的に議論しています。
ーーなるほど。でも華やかな実績があるからこそ、“今期の予算が余ったので、御社で好きなことをやってください! その代わりに、広告賞を狙いましょう!”というような自由度の高いオーダーもあるのでは?
富永:予算が余ってるなら、喜んで頂戴しますが、「ローバジェットですが、自由度高いので、賞狙いましょう!」という案件は受けないです。本当に好きなことやりたいのであれば、自社プロジェクトやるかアート作品を作れば良いかな。僕たちは広告屋で、クライアントの経済活動を良くするのが仕事です。規模は違えど、クライアント企業と、自社の経営を同じ視点から見ると、いわば“賞獲り案件”のような継続性のないものはお断りするべきだと思うんです。どんなにふざけたように見えても、僕らはプロジェクト単体黒字を目指しているんですよ。
ーー確かに、dotさんは同じクライアントのお仕事も多いし、過去の実績でしっかり利益を生んで、信頼を得ているということですよね。ただ、広告として最短で結果を出すには、過去の成功事例をある程度踏襲した方が安全圏なのでは、という声もあるかと思います。その点、Oculus RiftやChromeの拡張機能など、毎回使う技術が違いますよね。不安はありませんか?
富永:うーん、社員の持っている技術領域の中で何か作ろう、という考え方はしないですね。まず企画があって、その中でどの技術をチョイスするか、という順番で考えています。それも、CTOのSaqoosha(以下、クマ)に聞けば大体どんな技術領域でも答えてくれるし、つくってくれるし‥‥助かってるなぁ。
クマ:わからない時は、Googleで検索すれば出てきます。
ーーいや、ソフトからハードまで広く深く速く実装できて、かつ広告としての視点まで持っているエンジニアなんて、世界中探してもほとんどいないんじゃ‥‥。噂によると、「ヤフー トレンドコースター」の制作時には、言葉も通じないような異国のハードウェアメーカーにクマさんが乗り込んで、公開情報がないのに現場でゼロから機械言語で開発しちゃって、気難しいメーカーからの信頼を勝ち得たって聞きました。実話だったら武勇伝ですけど、合ってます?
富永:だいたいあってますよ。でも、もちろん社内で作れない専門的なところは、どんどん外部のクリエイターにお願いしてます。音楽周りのテクノロジーは松尾謙二郎さん率いる「invisible designs lab」や、國本怜くんに相談したり、そしてdotに所属クリエイターとして席を持つ衣袋宏輝くんとは、彼のハマりそうな案件ごとに組んでいる。最近は個人で音楽活動をしている、ながしまみのりさんも“所属クリエイター”になりました。
ーー社員ではなく、所属クリエイターという枠を持つ制作会社、というのも新しいですよね。衣袋さんとみのりさんは、もともとは制作会社にお勤めだったんですよね。
みのり:はい。前職はチームラボだったのですが、そこで作品づくりは一人でする時代じゃない、って実感していました。フリーランスの作曲家や演奏家にはなりたかったけど、一人でできることには限界がある。そこで働き方を迷っていたときに、東京藝大の先輩である衣袋さんと富永さんのインタビューを見つけて。ここにこそ理想的な環境がある! 思ったんです。
衣袋:僕はdotの仕事6割、その他の仕事が4割という感じで働いていますね。
富永:彼らは正社員になりたいのではなくて、自由に活動する時間も欲しいからフリーランスになったんですよね。そこを尊重しながら、彼らの技術や才能がハマる案件があれば、都度お願いしています。
ーー自由度もあるし、仲間にも恵まれるような環境。きっと所属したいクリエイターは沢山いるのでは?
富永:ありがたいことに応募は沢山いただくのですが、あくまで僕たちは広告業で、アーティストマネジメントが得意なわけではありません。だから大人数を囲うのではなくて、彼らのように互いのニーズがフィットした人たちと一緒にやりたい。社員も同様ですが、dotは面白い人が出入りして、みんなに個人としてオファーが届くような集団にしていきたいですね。dot by dotという社名は元々“1ピクセルを1ドットにそのまま対応させる”という映像用語なのですが、僕らの“個性を大切にする”というポリシーでもあります。
ーーなるほど。きっと、クリエイター個々人は自分にハマッた仕事が来たときにその能力が最大限に発揮されるし、案件そのものが良い関係性で進むし、広告としても成功しやすいんでしょうね。私も取材として進行中の案件を覗いたことがありましたが、厳しい局面でもみなさんすごく前向きでテンポも落ちず、本当にプロだなぁ、って。特に、いつも進行管理を行うプロデューサーの関賢一さん。関さんの進行管理能力と、彼がクライアントに与える信頼感も半端ない気がします。
富永:そうですね。dotの仕事は、全力疾走できる短距離走ばかりじゃない。中長期的なものが多いので、途中で水も飲むし、休憩も必要です。だから、ペース配分をしてくれる関くんの役割はものすごく大きいですよ。あと、プランナーの藤原愼哉くん。僕はフザけた案件ばかりやってる印象を持たれますが、藤原くんはまた別のプロジェクトを担っています。
藤原:最近は『MUJI 10,000 shapes of TOKYO』(P128)を手がけさせていただきました。2020年を迎えるにあたって、東京への旅行者誘致を行うべく、東京都と東京観光財団が無印良品とコラボレーションしたキャンペーンです。TASKOさんと一緒に無印良品の1万点の商品で東京の街並みを再現して、台北とNYで展示しました(NYは4月24日まで開催中)。
ーーこれは、テクノロジーを駆使する、というよりもクラフトの領域ですよね。案件によっては得意のテクノロジーを封印するというのも、最短距離を攻めるdotさんらしい手法だし、今はこういったクラフト仕事がネットでバズりやすかったりするし、案件ごとのプランニングが絶妙っす‥‥。これも、ネット上でかなり話題になっていましたが、パンチラ案件(スペースシャワーTVのステーションID『Rock ‘n’ Roll Panty』を制作。ロックの爆音でスピーカーから突風を起こし、アイドルのパンチラを実現した)のローンチ時に頻出していたような“テクノロジーの無駄遣い!”という野次は見られませんでした。
富永:ちょっとシオタン、そうやって君がパンチラ、パンチラって宣伝するから、変態会社だと誤解されてるんじゃないのかな。パンチラを出して以来、自分がいかに変態であるかを履歴書に書き連ねて応募して来る人が増えて‥‥でもパンチラはもう二度とやりませんよ。いや、そこに必然性があればやりますけどね。決して変態集団というわけではないので、誤解を生まないように、お願いします!
WORKS
テクノロジーと創造性で課題を解決へと導く、dot by dotの“仕事”を紹介します
OFFICE
渋谷の個性的なシェアオフィス「HOLSTER」がdot by dotのオフィスです