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モノを生むカイシャ Web Designing 2016年5月号

最高の広告を求めるカイシャ「dot by dot Inc,」

世界中のネットユーザーは、こうつぶやきます。「これじゃ、テクノロジーの無駄使いだ!狂ってやがる!」そんな風評通り、彼らは本当に狂っている? いやいや、その風貌に騙されるなかれ。実は誰よりもストラテジスト。広告屋としてのプライドを貫く、dot by dotの流儀に迫ります!
Photo:合田和弘

“賞獲り”ではなく「課題解決の最短距離」

アドテックの会場にジェットコースターを設置したり、ロックの爆音でアイドルのスカートをめくったり、人の顔を分裂させるMVをつくったり、進撃の巨人をぜんぶ関西弁に翻訳したり。ネットに旬な話題を提供し、数々の広告賞を受賞してきたそれらはぜんぶ、dot by dotのしわざです。いざ彼らのコーポレートサイトにアクセスしてみると、うごめく水玉がものすごく邪魔でテキストがホントに読みづらい。ユーザビリティを最優先するこの時代に、なんてアナーキーな集団なんだ!と面食らうのです。が、アナーキー(=無秩序)な集団から、ここまで話題をさらう成功事例が次々と生まれるものなのでしょうか?

 

 

富永:メディアアーティストかと思われがちですが、決してそうではないんです。僕らは広告屋として、クライアントの課題解決ができる最短距離はどこにあるのか、いつも徹底的に議論しています。

ーーなるほど。でも華やかな実績があるからこそ、“今期の予算が余ったので、御社で好きなことをやってください! その代わりに、広告賞を狙いましょう!”というような自由度の高いオーダーもあるのでは?

富永:予算が余ってるなら、喜んで頂戴しますが、「ローバジェットですが、自由度高いので、賞狙いましょう!」という案件は受けないです。本当に好きなことやりたいのであれば、自社プロジェクトやるかアート作品を作れば良いかな。僕たちは広告屋で、クライアントの経済活動を良くするのが仕事です。規模は違えど、クライアント企業と、自社の経営を同じ視点から見ると、いわば“賞獲り案件”のような継続性のないものはお断りするべきだと思うんです。どんなにふざけたように見えても、僕らはプロジェクト単体黒字を目指しているんですよ。

ーー確かに、dotさんは同じクライアントのお仕事も多いし、過去の実績でしっかり利益を生んで、信頼を得ているということですよね。ただ、広告として最短で結果を出すには、過去の成功事例をある程度踏襲した方が安全圏なのでは、という声もあるかと思います。その点、Oculus RiftやChromeの拡張機能など、毎回使う技術が違いますよね。不安はありませんか?

富永:うーん、社員の持っている技術領域の中で何か作ろう、という考え方はしないですね。まず企画があって、その中でどの技術をチョイスするか、という順番で考えています。それも、CTOのSaqoosha(以下、クマ)に聞けば大体どんな技術領域でも答えてくれるし、つくってくれるし‥‥助かってるなぁ。

クマ:わからない時は、Googleで検索すれば出てきます。

 

ーーいや、ソフトからハードまで広く深く速く実装できて、かつ広告としての視点まで持っているエンジニアなんて、世界中探してもほとんどいないんじゃ‥‥。噂によると、「ヤフー トレンドコースター」の制作時には、言葉も通じないような異国のハードウェアメーカーにクマさんが乗り込んで、公開情報がないのに現場でゼロから機械言語で開発しちゃって、気難しいメーカーからの信頼を勝ち得たって聞きました。実話だったら武勇伝ですけど、合ってます?

富永:だいたいあってますよ。でも、もちろん社内で作れない専門的なところは、どんどん外部のクリエイターにお願いしてます。音楽周りのテクノロジーは松尾謙二郎さん率いる「invisible designs lab」や、國本怜くんに相談したり、そしてdotに所属クリエイターとして席を持つ衣袋宏輝くんとは、彼のハマりそうな案件ごとに組んでいる。最近は個人で音楽活動をしている、ながしまみのりさんも“所属クリエイター”になりました。

ーー社員ではなく、所属クリエイターという枠を持つ制作会社、というのも新しいですよね。衣袋さんとみのりさんは、もともとは制作会社にお勤めだったんですよね。

みのり:はい。前職はチームラボだったのですが、そこで作品づくりは一人でする時代じゃない、って実感していました。フリーランスの作曲家や演奏家にはなりたかったけど、一人でできることには限界がある。そこで働き方を迷っていたときに、東京藝大の先輩である衣袋さんと富永さんのインタビューを見つけて。ここにこそ理想的な環境がある! 思ったんです。

衣袋:僕はdotの仕事6割、その他の仕事が4割という感じで働いていますね。

富永:彼らは正社員になりたいのではなくて、自由に活動する時間も欲しいからフリーランスになったんですよね。そこを尊重しながら、彼らの技術や才能がハマる案件があれば、都度お願いしています。

ーー自由度もあるし、仲間にも恵まれるような環境。きっと所属したいクリエイターは沢山いるのでは?

富永:ありがたいことに応募は沢山いただくのですが、あくまで僕たちは広告業で、アーティストマネジメントが得意なわけではありません。だから大人数を囲うのではなくて、彼らのように互いのニーズがフィットした人たちと一緒にやりたい。社員も同様ですが、dotは面白い人が出入りして、みんなに個人としてオファーが届くような集団にしていきたいですね。dot by dotという社名は元々“1ピクセルを1ドットにそのまま対応させる”という映像用語なのですが、僕らの“個性を大切にする”というポリシーでもあります。

ーーなるほど。きっと、クリエイター個々人は自分にハマッた仕事が来たときにその能力が最大限に発揮されるし、案件そのものが良い関係性で進むし、広告としても成功しやすいんでしょうね。私も取材として進行中の案件を覗いたことがありましたが、厳しい局面でもみなさんすごく前向きでテンポも落ちず、本当にプロだなぁ、って。特に、いつも進行管理を行うプロデューサーの関賢一さん。関さんの進行管理能力と、彼がクライアントに与える信頼感も半端ない気がします。

富永:そうですね。dotの仕事は、全力疾走できる短距離走ばかりじゃない。中長期的なものが多いので、途中で水も飲むし、休憩も必要です。だから、ペース配分をしてくれる関くんの役割はものすごく大きいですよ。あと、プランナーの藤原愼哉くん。僕はフザけた案件ばかりやってる印象を持たれますが、藤原くんはまた別のプロジェクトを担っています。

藤原:最近は『MUJI 10,000 shapes of TOKYO』(P128)を手がけさせていただきました。2020年を迎えるにあたって、東京への旅行者誘致を行うべく、東京都と東京観光財団が無印良品とコラボレーションしたキャンペーンです。TASKOさんと一緒に無印良品の1万点の商品で東京の街並みを再現して、台北とNYで展示しました(NYは4月24日まで開催中)。

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MUJI 10,000 shapes of TOKYO
(株)良品計画は、台北とニューヨークにある旗艦店にて 、外国人旅行者に人気の東京タワーや渋谷スクランブル交差点など、東京をイメージする観光 地や街並みを無印良品の約 1万点におよぶ商品を使って再現したインス タレーションを公開。東京観光財団の「&TOKYO」とコラボレーションし、東京の魅力をPRしている。Webサイトでは、再現された建物などのパーツを紹介しており、dot by dotは企画と制作を担当した

ーーこれは、テクノロジーを駆使する、というよりもクラフトの領域ですよね。案件によっては得意のテクノロジーを封印するというのも、最短距離を攻めるdotさんらしい手法だし、今はこういったクラフト仕事がネットでバズりやすかったりするし、案件ごとのプランニングが絶妙っす‥‥。これも、ネット上でかなり話題になっていましたが、パンチラ案件(スペースシャワーTVのステーションID『Rock ‘n’ Roll Panty』を制作。ロックの爆音でスピーカーから突風を起こし、アイドルのパンチラを実現した)のローンチ時に頻出していたような“テクノロジーの無駄遣い!”という野次は見られませんでした。

富永:ちょっとシオタン、そうやって君がパンチラ、パンチラって宣伝するから、変態会社だと誤解されてるんじゃないのかな。パンチラを出して以来、自分がいかに変態であるかを履歴書に書き連ねて応募して来る人が増えて‥‥でもパンチラはもう二度とやりませんよ。いや、そこに必然性があればやりますけどね。決して変態集団というわけではないので、誤解を生まないように、お願いします!

 

WORKS
テクノロジーと創造性で課題を解決へと導く、dot by dotの“仕事”を紹介します

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Lyric Speaker 
音楽と同期して歌詞が表示される次世代型のIoTスピーカー。モバイル端末で音楽を選曲して再生すると、スピーカーが自動で楽曲の雰囲気や構成を分析し、データベースから取得した歌詞を透過型スクリーンにモーショングラフィックで浮かび上がらせる。SIXとの共同開発プロジェクトで、dot by dotは、Saqooshaが全体のテクニカルディレクションとソフトウェア開発などを担当。第7回サウス・バイ・サウス・ウェストのアクセラレーター・コンペティションで「Best Bootstrap Company」を受賞した。6月から三越伊勢丹でプレオーダー受付開始
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「進撃の巨人展」360° 体感シアター “哮”
上野の森美術館を皮切りに大分、大阪、台北、札幌などを巡回している「進撃の巨人展」。同展のエキシビションの一つとして公開されたのが、ヘッドマウントディスプレイ「Oculus Rift」を 装着して360°進撃の巨人の世界へと没入できる3D 体感シアターだ。巨人を前にした仮想現実のなかで 360°見渡せるだけなく、自身が調査兵団の一員となり、同作に出てくる「立体機動装置」を身につけた浮遊感をも体感することができる ©諫山創・講談社/「進撃の巨人展HMD」製作委員会
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SUUMO SOUND VIEW 
街歩きを音楽体験に変えるWebサービス。スマートフォンのGPSで取得した現在地情報から、移動速度や混雑度、周辺環境、天気など6つのデータから音楽を自動生成。場所を移動したり周辺環境が変化することで、ビート、コード、楽器の音色、サウンドエフェクトが変化し続け、その日その場所だけで奏でられる音楽を体験できる。In collaboration with The Zoo (Google)

 

OFFICE
渋谷の個性的なシェアオフィス「HOLSTER」がdot by dotのオフィスです

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Text:塩谷舞(しおたん)
1988年大阪生まれ、京都市立芸大卒。PRプランナー/Web編集者。(株)CINRAにてWebディレクターとして大手クライアントのコーポレートサイトやメディアサイトなどを担当。その後、広報を経てフリーランスへ。お菓子のスタートアップBAKEのオウンドメディア「THE BAKE MAGAZINE」の編集長を務めたり、アートに特化したハッカソン「Art Hack Day」の広報を担当したり、幅広く活躍中。 ciotan blog:http://ciotan.com/ Twitter:@ciotan

掲載号

Web Designing 2016年5月号

Web Designing 2016年5月号

2016年4月18日発売 本誌:1,530円(税込) / PDF版:1,200円(税込)

Web戦略のプロが教える問題解決法100

サンプルデータはこちらから

■ 特集:Web戦略のプロが教える問題解決法100

業績向上、業務改善‥‥その必要性は十分感じているものの、どうもうまくいかない。他 部署の連携をはじめ、プロジェクトがうまく進まない。その理由には時間や予算、体制など のリソースや業界動向なども影響していますが、そもそも今、課題として掲げているポイントは、本当の課題なのでしょうか? 課題の設定が間違っていれば、望まれる改善は期待できません。本特集では、「解決すべき課題」へのたどり着き方やデジタルツールを利用した「気付き」発見法などを、実際に手がけた仕事をもとにWeb制作・企画のプロたちが実践している「今日から使える」問題発見・分析・解決法を紹介します。

 第一部 成果を上げたデジタル施策の問題【発見】【分析】【解決】術
 【Introduction】問題解決のための正しい「課題設定」
 #01 _Case Study   Yahoo!映画│Kaizen Platform KPIツリーとグロースハックによる定番サイトの変化
 #02 _Case Study   SPACE DESIGN COLLEGE│DONGURI シナリオを組み立てて学校の有益性を伝える
 #03 _Case Study   博報堂コンサラクション│博報堂アイ・スタジオ 発掘した「ゴールデンルート」で課題解決
 #04 _Case Study   カトウファーム│LIG “らしさ"を設計するための思考と施術
 #05 _Case Study   森工芸社│パイプライン 自社事業をアピールするための強みの見つけ方
 #06 _Case Study   VITALISM│ベースメントファクトリープロダクション 商機と成果を生み出すユーザー目線の商品設計
 #07 _Case Study   Benesse│ takram プロトタイピングが変えたものづくりの現場
 【Column】
  偉人たちの金言20   課題解決のための地頭を鍛える10冊

 第二部 「数字」が教える本当の課題
 【Introduction】 課題解決のためのデータ分析の3つのポイント
 #01 _Case Study   VASILY データ取得の重要性とその活用法
 #02 _Way of Thinking   アクセス解析ツールだけで「課題」は見つかるのか
 #03 _Case Study   アルク│Ptmind アクセス解析+ヒートマップで「見える化」する
 #04 _Case Study   ギャプライズ│Wantedly、Peach John ツールを組み合わせて課題発見から解決へ
 【Column】
  導入のためのデジタルマーケティングツール マップ   Excelを使ってデータを「見える化」しよう

■ 集中企画:セルフサービス式Twitter広告のススメ
 予算数万円からでも今日から結果が出る!

ユーザーの趣味嗜好にあわせて配信できるソーシャルメディア広告の重要度が高まっているが、何から始めればよいかわからない人も多いはず。そこで、お手軽・安価・その日から始められる「セルフサービス式Twitter 広告」を紹介しましょう。

■ WD SELECTION
TURN/ISETAN MITSUKOSHI KIDS In Style/Kastane A.I Girls/TOKYO MUSIC ODYSSEY 2016/ソードアート・オンライン ザ・ビギニング Sponsored by IBM/2017 Tokyu Agency Recruit /廣榮堂採用サイト/プロスタイル井上のホメスタジオ&ヘアスタイル総選挙/久原 本家 茅乃舎ブランドサイト

■ ビジネス・EC
 □ ECサイト業界研究
  プラットフォーム~オリジナルのエコシステムが成功に導く

 □ 月刊店舗設計
  収納の巣:価格競争に参加せず、提案型コンテンツで「考え方」を売る

 □ モバイルビジネス最前線
  Eight:スタートアップ企業の新規事業もたらすイノベーションと価値創造

 □ 知的財産権にまつわるエトセトラ
  法改正で広がる「商標」の世界

 □ Bay Area Startup News
  「UXが最も大きな企業価値」Airbnb CTO、Nathan Blecharczykが語る

■ マーケティング・プロモーション
 □ データのミカタ
  メッセージングアプリがビジネスを変える

 □ デジタルプロモーションの舞台裏
  “ぶっちゃけ精神”で勝負する森永製菓のWeb戦略

 □ 行動デザイン塾
  “行動フレーミング”で習慣化を狙え

 □ 解析ツールの読み方・活かし方
  データに基づいた戦略的Twitter 広告の実際

■ コラム
 □ One's View
  今月のお題【課題解決】
  オンラインゲームで培われたネットのあれこれ by 白井明子
  サービス開発は自らの課題から始める by 土屋尚史
  がんばらないシステムでゆるく課題解決 by 峰松加奈

 □ モノを生むカイシャ
  dot by dot Inc,:最高の広告を求めるカイシャ

 □ 未来食堂の「せかいと未来」
  オープンソースな定食屋はじめました

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