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プロモーションの舞台裏 Web Designing 2016年5月号

“ぶっちゃけ精神”で勝負する森永製菓のWeb戦略

終売間近の商品を「崖っぷち」とストレートに打ち出したり、不思議なイラストの世界観を前面に本サイトと一線を画した商品サイトを用意してみたり。最近、森永製菓のWeb戦略が率直に“攻めて”いる。代表的な2つの施策の裏には、マーケティング担当者の真の狙いがあった。

ここで取りあげている施策の共通クレジット
□クライアント:森永製菓(株)
□企画/制作:(株)博報堂
□PR:(株)マテリアル

 

捨て身の施策で延命に成功?!

「美味しいのに崖っぷちキャンペーン」。そんな身も蓋もないような売り文句とともに、昨年11月10日に公開された「JACK」の裏サイト。JACKは、「焦がしキャラメルでアーモンドをコーティングした」お菓子。すでに2度のリニューアル発売を経ながら売上が伸びず、製品自体の社内評価の高さから、3度目のリニューアル発売は確定したが‥‥。

「本来なら即終売でもおかしくないラストチャンス。率直に危機的状況を意味する“崖っぷち”が伝わる企画化を希望しました」(森永製菓・倉重文子氏)

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森永JACK 美味しいのに崖っぷちキャンペーン

01 森永製菓の裏サイトについて
今回、ここで取り上げているアーモンド菓子「JACK」やチューイングソフトキャンディ「ハイチュウプレミアム」は、商品紹介サイトが存在する一方で、企画性にあふれたサイトも用意。そこで、本稿では本サイトを「表サイト」、キャンペーンサイトを「裏サイト」と名づけ、それぞれの裏サイトの役割を紹介する

この状況に呼応した企画が実現、それがズバリ「崖っぷちキャンペーン」(01)。特に国内、ナショナルクライアントの試みとしては珍しい、自己卑下したテイストが全体に貫かれた世界観だ。

「絶対的に外さず目指したことが、『“売上増”という直接的な効果』『終売の阻止』『話題化や実売増の先にある定番化』といった目的の達成です。確かに食べるとおいしい。でも、手に取ってもらえなければ、おいしいこと自体がわからない。一人でも多くの人に手に取ってもらいたい‥‥そのためのエッセンスを注入しました」(博報堂・河西智彦氏)

 

崖っぷちが‥‥社内の空気に変化

誰にも知られていない商品だけに、認知向上は必至。注力したのがPR施策だ。

「まず“崖っぷち”キャンペーンの存在を知ってもらうために、『ねとらぼ』などのニュースサイトやまとめサイトに働きかけて、記事化の道を模索しました」(河西氏)

地道な働きかけは「え、森永製菓がこんなことをやっているの?」というインパクトにつながり、徐々にネット上で話題化。「やけくそ」「暴挙」などの言葉が並ぶニュースサイトやまとめサイトの記事が出現した。

「商品を知ってもらい、裏サイトに来たユーザーがさらにコンテンツに反応してくれることが狙いです。試しに一度買ってみようか、となっていただくことを期待しました」(倉重氏)

特に象徴的なコンテンツが、売れなかった変遷をまとめた「負の歴史」。

「失敗の歴史を積極的に表に出したことで、JACKに賭けるクライアントの本気度や企画の突き抜け方がユーザーにも伝わりやすくなりました」(河西氏)

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02 JACKを例に、裏サイトを取り巻く状況
キャンペーンやPRによって、裏サイトに誘導。裏サイトは話題化の状況にあわせてコンテンツをプラス。例えば、SNS上の話題拡散の反響ぶりが大きいことから、「Twitter署名」を追加。約2,300以上の署名が集まった

1カ月で終了とも予想されていた試みは、大きな話題化を呼ぶことに成功。年を越しての商品販売の存続が決まった(02)。

 

商品の本音が語れるサイト

JACKの裏サイトで得た成果が、次に紹介する「ハイチュウプレミアム」の裏サイト公開にもつながった。裏サイトは、公式の商品説明とは違った「メーカー側の商品への本音」を企画化しやすい。しっかり戦略を持ってつくりあげることで、話題性を提供しながら、商品の本質も伝えられる効果が期待できる。

「JACKは売上の根本的な改善までには至れず、4月いっぱいで終売が確定しました。その点では手放しで喜べませんが、SNS上での関連ツイートの数は想像をはるかに超え、棚に置きたいという店舗側からの問い合わせが増えたりと、4月まで延長できた事実も残しました。社内に“こんなアプローチもあり”と思わせたことも何より大きい。限られた予算だからこそ出てきた知恵は、次への企画と展開につながりました」(倉重氏)

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ZEN ZEN CHIGAUキャンペーン

ハイチュウプレミアムは、3月のテレビCM放映にあわせて裏サイトも公開。JACKとはひと味違った、似て非なるユニークな展開が行われている(03)。

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03 ハイチュウプレミアムの裏サイトはなぜ生まれた?!
ハイチュウブランドの認知は高いが、プレミアムの売上はもっと伸ばしたいという本音もある。そこで、JACKの裏サイトで培った商品に対する本音をハイチュウプレミアム風に企画化し、新たな話題化を意図した。商品認知の有無で、裏サイトの運営にどう違いが出てくるか、今後の検証も待たれるところだ

「多くのみなさんがハイチュウをご存じなことを念頭に、YouTubeの動画広告にも力を入れています。ブランド認知度が高いからこそ、プッシュ型広告もユーザーに届きやすいと判断しました。もちろんそれら動画は、コンテンツとして裏サイトにも用意し、いつでもユーザーのタイミングで楽しめます」(河西氏)

取材を通じてあらためて感じるのが、限られた予算の有効活用という観点。それも単純に面白おかしなことをしているのではなく、商品の売上増というはっきりした目的のもとで戦略的に施策を実行していることだ。あたかも開き直った、本音の表現が実行できるのは、それだけ商品に愛着があり、真摯に販売に取り組む企業だからこその現れといえる。

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04 表サイトと裏サイトの補完性
表サイトが公式に商品説明をする場であるなら、裏サイトは企画/テーマに基づき、商品に抱くメーカー側の本音に迫ろうとする場と言える。実際、JACKは実情を“ぶっちゃけた”姿勢が支持を集め、ユーザーや販売店の新たな反応を引き出した。オーソドックスな伝え方とは違う表現(補完)を通して、顧客の気づきに働きかけている

「クライアントの理解や英断のもと、今後も売上増や、店舗の棚の確保につながる企画を追求していきたいです。売上増の先に待ち受ける“商品の定番化”を引き出したいですね」(河西氏)

最後に、裏サイトで得た森永製菓の手応えをどう活かしたいかを質問した。

「“ぶっちゃけ、こう思っています”という本音が渦巻く場が裏サイトです。開発段階から商品コンセプト、パッケージに至るまで、裏サイト的な世界観を一気通貫で示した、新たな商品展開の可能性も見えた気がします(04)」(倉重氏)

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Interview with>>
右から、森永製菓(株)マーケティング本部 広告部で2施策のマーケティングを担当する倉重文子氏と、プランナーを務める(株)博報堂の河西智彦氏

掲載号

Web Designing 2016年5月号

Web Designing 2016年5月号

2016年4月18日発売 本誌:1,559円(税込) / PDF版:1,222円(税込)

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業績向上、業務改善‥‥その必要性は十分感じているものの、どうもうまくいかない。他 部署の連携をはじめ、プロジェクトがうまく進まない。その理由には時間や予算、体制など のリソースや業界動向なども影響していますが、そもそも今、課題として掲げているポイントは、本当の課題なのでしょうか? 課題の設定が間違っていれば、望まれる改善は期待できません。本特集では、「解決すべき課題」へのたどり着き方やデジタルツールを利用した「気付き」発見法などを、実際に手がけた仕事をもとにWeb制作・企画のプロたちが実践している「今日から使える」問題発見・分析・解決法を紹介します。

 第一部 成果を上げたデジタル施策の問題【発見】【分析】【解決】術
 【Introduction】問題解決のための正しい「課題設定」
 #01 _Case Study   Yahoo!映画│Kaizen Platform KPIツリーとグロースハックによる定番サイトの変化
 #02 _Case Study   SPACE DESIGN COLLEGE│DONGURI シナリオを組み立てて学校の有益性を伝える
 #03 _Case Study   博報堂コンサラクション│博報堂アイ・スタジオ 発掘した「ゴールデンルート」で課題解決
 #04 _Case Study   カトウファーム│LIG “らしさ"を設計するための思考と施術
 #05 _Case Study   森工芸社│パイプライン 自社事業をアピールするための強みの見つけ方
 #06 _Case Study   VITALISM│ベースメントファクトリープロダクション 商機と成果を生み出すユーザー目線の商品設計
 #07 _Case Study   Benesse│ takram プロトタイピングが変えたものづくりの現場
 【Column】
  偉人たちの金言20   課題解決のための地頭を鍛える10冊

 第二部 「数字」が教える本当の課題
 【Introduction】 課題解決のためのデータ分析の3つのポイント
 #01 _Case Study   VASILY データ取得の重要性とその活用法
 #02 _Way of Thinking   アクセス解析ツールだけで「課題」は見つかるのか
 #03 _Case Study   アルク│Ptmind アクセス解析+ヒートマップで「見える化」する
 #04 _Case Study   ギャプライズ│Wantedly、Peach John ツールを組み合わせて課題発見から解決へ
 【Column】
  導入のためのデジタルマーケティングツール マップ   Excelを使ってデータを「見える化」しよう

■ 集中企画:セルフサービス式Twitter広告のススメ
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■ ビジネス・EC
 □ ECサイト業界研究
  プラットフォーム~オリジナルのエコシステムが成功に導く

 □ 月刊店舗設計
  収納の巣:価格競争に参加せず、提案型コンテンツで「考え方」を売る

 □ モバイルビジネス最前線
  Eight:スタートアップ企業の新規事業もたらすイノベーションと価値創造

 □ 知的財産権にまつわるエトセトラ
  法改正で広がる「商標」の世界

 □ Bay Area Startup News
  「UXが最も大きな企業価値」Airbnb CTO、Nathan Blecharczykが語る

■ マーケティング・プロモーション
 □ データのミカタ
  メッセージングアプリがビジネスを変える

 □ デジタルプロモーションの舞台裏
  “ぶっちゃけ精神”で勝負する森永製菓のWeb戦略

 □ 行動デザイン塾
  “行動フレーミング”で習慣化を狙え

 □ 解析ツールの読み方・活かし方
  データに基づいた戦略的Twitter 広告の実際

■ コラム
 □ One's View
  今月のお題【課題解決】
  オンラインゲームで培われたネットのあれこれ by 白井明子
  サービス開発は自らの課題から始める by 土屋尚史
  がんばらないシステムでゆるく課題解決 by 峰松加奈

 □ モノを生むカイシャ
  dot by dot Inc,:最高の広告を求めるカイシャ

 □ 未来食堂の「せかいと未来」
  オープンソースな定食屋はじめました

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