2016.04.22
プロモーションの舞台裏 Web Designing 2016年5月号
“ぶっちゃけ精神”で勝負する森永製菓のWeb戦略
終売間近の商品を「崖っぷち」とストレートに打ち出したり、不思議なイラストの世界観を前面に本サイトと一線を画した商品サイトを用意してみたり。最近、森永製菓のWeb戦略が率直に“攻めて”いる。代表的な2つの施策の裏には、マーケティング担当者の真の狙いがあった。
ここで取りあげている施策の共通クレジット
□クライアント:森永製菓(株)
□企画/制作:(株)博報堂
□PR:(株)マテリアル
捨て身の施策で延命に成功?!
「美味しいのに崖っぷちキャンペーン」。そんな身も蓋もないような売り文句とともに、昨年11月10日に公開された「JACK」の裏サイト。JACKは、「焦がしキャラメルでアーモンドをコーティングした」お菓子。すでに2度のリニューアル発売を経ながら売上が伸びず、製品自体の社内評価の高さから、3度目のリニューアル発売は確定したが‥‥。
「本来なら即終売でもおかしくないラストチャンス。率直に危機的状況を意味する“崖っぷち”が伝わる企画化を希望しました」(森永製菓・倉重文子氏)
この状況に呼応した企画が実現、それがズバリ「崖っぷちキャンペーン」(01)。特に国内、ナショナルクライアントの試みとしては珍しい、自己卑下したテイストが全体に貫かれた世界観だ。
「絶対的に外さず目指したことが、『“売上増”という直接的な効果』『終売の阻止』『話題化や実売増の先にある定番化』といった目的の達成です。確かに食べるとおいしい。でも、手に取ってもらえなければ、おいしいこと自体がわからない。一人でも多くの人に手に取ってもらいたい‥‥そのためのエッセンスを注入しました」(博報堂・河西智彦氏)
崖っぷちが‥‥社内の空気に変化
誰にも知られていない商品だけに、認知向上は必至。注力したのがPR施策だ。
「まず“崖っぷち”キャンペーンの存在を知ってもらうために、『ねとらぼ』などのニュースサイトやまとめサイトに働きかけて、記事化の道を模索しました」(河西氏)
地道な働きかけは「え、森永製菓がこんなことをやっているの?」というインパクトにつながり、徐々にネット上で話題化。「やけくそ」「暴挙」などの言葉が並ぶニュースサイトやまとめサイトの記事が出現した。
「商品を知ってもらい、裏サイトに来たユーザーがさらにコンテンツに反応してくれることが狙いです。試しに一度買ってみようか、となっていただくことを期待しました」(倉重氏)
特に象徴的なコンテンツが、売れなかった変遷をまとめた「負の歴史」。
「失敗の歴史を積極的に表に出したことで、JACKに賭けるクライアントの本気度や企画の突き抜け方がユーザーにも伝わりやすくなりました」(河西氏)
1カ月で終了とも予想されていた試みは、大きな話題化を呼ぶことに成功。年を越しての商品販売の存続が決まった(02)。
商品の本音が語れるサイト
JACKの裏サイトで得た成果が、次に紹介する「ハイチュウプレミアム」の裏サイト公開にもつながった。裏サイトは、公式の商品説明とは違った「メーカー側の商品への本音」を企画化しやすい。しっかり戦略を持ってつくりあげることで、話題性を提供しながら、商品の本質も伝えられる効果が期待できる。
「JACKは売上の根本的な改善までには至れず、4月いっぱいで終売が確定しました。その点では手放しで喜べませんが、SNS上での関連ツイートの数は想像をはるかに超え、棚に置きたいという店舗側からの問い合わせが増えたりと、4月まで延長できた事実も残しました。社内に“こんなアプローチもあり”と思わせたことも何より大きい。限られた予算だからこそ出てきた知恵は、次への企画と展開につながりました」(倉重氏)
ハイチュウプレミアムは、3月のテレビCM放映にあわせて裏サイトも公開。JACKとはひと味違った、似て非なるユニークな展開が行われている(03)。
「多くのみなさんがハイチュウをご存じなことを念頭に、YouTubeの動画広告にも力を入れています。ブランド認知度が高いからこそ、プッシュ型広告もユーザーに届きやすいと判断しました。もちろんそれら動画は、コンテンツとして裏サイトにも用意し、いつでもユーザーのタイミングで楽しめます」(河西氏)
取材を通じてあらためて感じるのが、限られた予算の有効活用という観点。それも単純に面白おかしなことをしているのではなく、商品の売上増というはっきりした目的のもとで戦略的に施策を実行していることだ。あたかも開き直った、本音の表現が実行できるのは、それだけ商品に愛着があり、真摯に販売に取り組む企業だからこその現れといえる。
「クライアントの理解や英断のもと、今後も売上増や、店舗の棚の確保につながる企画を追求していきたいです。売上増の先に待ち受ける“商品の定番化”を引き出したいですね」(河西氏)
最後に、裏サイトで得た森永製菓の手応えをどう活かしたいかを質問した。
「“ぶっちゃけ、こう思っています”という本音が渦巻く場が裏サイトです。開発段階から商品コンセプト、パッケージに至るまで、裏サイト的な世界観を一気通貫で示した、新たな商品展開の可能性も見えた気がします(04)」(倉重氏)