2016.04.19
月刊 店舗設計 Web Designing 2016年5月号
価格競争に参加せず、提案型コンテンツで「考え方」を売るショップ「収納の巣」 注目を集めるネットショップの集客術を知りたい
整理収納用品の専門店「収納の巣」では、特集記事やブログ、ワークショップの開催などで、商品の魅力を伝えるだけではなく、片付けに関する数々の提案を行っている。顧客の悩みに応え、「本当に必要とする収納用品」を伝えることも。そうした活動を通して価格ではない価値を創出し、ファンを獲得しているのだ。
スタッフが登場する提案型コンテンツの役割
「収納の巣」は2002年に自社サイトでショップを開店し、オリジナル開発したものからセレクトアイテムまで、整理収納用品を専門に扱っている。代表の宇野由紀子さんは、ライフオーガナイザーとクローゼットオーガナイザーという、整理収納に関する資格を有している。
「収納という言葉は、『収める/納める』という文字が並びます。それだと、スペースにどれだけたくさんキレイに収められるかが大切と捉えてしまいがちですが、弊社では活かすために収めるという意味で『収+活(しゅうかつ)』という言葉を使った提案をしています」
ショップ内の特集記事やブログでは、商品の説明はもちろんのこと、収納の考え方、数々の収納アイデアを紹介している。
「販売すること以前に、収納について伝えたいことありきだったので、自然とそうなりました。自分たちの商品を売らんかなの記事は、お客様に受け入れられづらいのかなと思います。収納の専門家としてニュートラルに情報を伝えていきながら、そのなかでうちの商品も役に立てばいいなというスタンスです」
特にブログでは、オリジナル商品の開発過程、利用者から寄せられた質問への答えなどを公開している。
「収納に関する悩みを検索した方が、ブログにたどり着かれることも多いです。お客様のリアクションから、けっこう読み込んでくださっているんだなと感じます。オリジナル商品については、商品一つひとつの開発過程やユニークな使用方法など、商品ページでは語りきれない情報を楽しくお伝えしたいと思っています」
こうした特集記事やブログでは、宇野さんをはじめとしたスタッフが、顔とニックネームを出して登場している。
「自分たちで考えて自分たちの言葉で紹介しているということが、顔が出ることでより伝わりやすいのではないかと思います。最近は、店長のハマグーがたくさん露出していますね。お客様からお問い合わせの電話やメールをいただいた際に、店長ですと名乗ると『サイトで見たあの人だ』とわかることで、親しみを持っていただけるということもあるのかなと思います」
目標は「購入」よりも「適切な活用」
宇野さんに話をうかがっていると、「モノと自分との関係」という言葉が多く出てくる。収納は、自分と好きなモノとの繋がりを整理していくためのものだというのだ。こうした考えを伝えるべく、ショップでは収納用品を選ぶ考え方の部分からレクチャーしている。
「もちろんお客様には商品を買っていただきたいのですが、購入後にうまく活用できなければ、お客様にとっても私たちにとってもメリットがないと思うんです。その人にとって適切な収納をしていただくために、収納の工程を4ステップで考えることを提唱しています」
その4ステップは、次のような流れになる。
「1ステップ目は、『ゴールを想定する』ということで、日々の生活空間の中でどんな課題を感じているかを書き出すため、ダウンロード配布している『収+活ウォーミングUPシート』を書いてもらいます。2ステップ目は必要なモノの分別をし、3ステップ目でやっと収納用品を選びます。そして4ステップ目で維持・見直しをします。こうした工程は、不定期に開催するワークショップでも、参加者の方に体験してもらっています」
これらの手順を踏むことで、収納がどのように変わっていくのだろうか。
「たとえば自分がどういうモノが好きで、安いからとか流行だからとかどんな動機でモノを買いがちで、どんなモノを手放せないかなどの傾向が理解できます。そうすると整理収納上手になるだけではなく、買い物の仕方も変わってきます。私たちは、商品というよりも収納についての『考え方』を売っているという感じがします。収納は面倒な作業ではなく、ワクワクをもたらすものだということを、あらゆる手段を使って伝えていきたいのです」
企業とのコラボとモール展開で新規顧客との接点を
収納の巣では、住宅や家具関連などの企業との共同企画も行っており、「アクティブクローゼッツ」という自社サイトでは、住宅メーカーの積水ハウスの研究施設である「納得工房」とコラボレーションをしている。
「クローゼット内のスペースをどのように快適に使っていただくかといった収納のヒントを、季節ごとに同一コンテンツで、双方のWebサイトに掲載しています。こうした企画は、新たなお客様に収納の巣を知っていただくきっかけにもなり、とても有効です」
また、2011年には楽天市場店を出店し、こちらでも新たな顧客を獲得している。
「うちの商品は、組み合わせて使うことで、より便利になるよう設計しています。それまでモールに出店していなかったのは、たとえば楽天市場内で『カバン収納』と検索されて、1つのアイテムにフォーカスされることを懸念したからでした。しかし自社サイトとは別のお客様との接点になるのではないかと思い、出店してみたところ商品を組み合わせて購入してくださる方が多く、楽天市場のお客様にも支持いただけている手応えがありました」
楽天市場での運営では、あるルールを設けているという。
「通常は購入額の1%分のポイントが付くのですが、ポイントアップは基本的にしないと決めています。アウトレット商品などをセール価格にすることはありますが、お得感を購入の動機にするべきではないと考えているからです。価格競争に参加せず、商品の良さを支持して買ってもらえることに徹していたいんです」
理念や考え方を通して真の商品価値を理解できれば、購入者にとってもそれは価格で判断するものではなくなっていくのだろう。