2016.03.30
モバイルビジネス最前線 Web Designing 2016年4月号
monomy:日本のモノづくりを変えるかもしれない新しいスタイルのアクセサリー通販アプリ 目指しているのは「モノづくりのクラウド化」
「イノベーション」は、いまやスタートアップ企業の合言葉にもなっており、国家戦略にも掲げられている。これまでにない新しい価値を生み出すチャレンジと捉えてスマホを活用するチームもあれば、失われようとしている価値を復興するためにスマホの力を使うチームもある。今回は、後者の「イノベーション」事例を紹介する。
スマートフォンで「モノづくり」
モバイル物販の市場は2014年時点で約1.3兆円、前年比40%という成長を遂げている(※)。これは、スマホからの通販利用増が要因だと考えられる。一方、フリマアプリ人気を起点にモノの販売も活況を見せている。サービス競争、決済や配送などの関連サービスが整備され、ひと昔前と比較にならないくらい劇的に簡単・安全になったのだ。そしてモノの購買も販売も、スマートフォン抜きには語れない時代へと突き進んでいる。
この流れに、今また新しいサービスが加わろうとしている。スマートフォンを通じて「モノを作る」サービスだ。デジタルコンテンツ売買や印刷・プリントなどの話ではなく、リアルなモノづくりを提供し、販売・購入できるチャネルを作ろうという試みだ。「monomy」は、その可能性を鮮やかに示してくれるサービスだ。
作るのは、アクセサリー。手順はいたってシンプルだ。アプリ上の一覧からお気に入りのパーツを選択し、作成画面上でつなげ、完成品を自分専用のショーケースに飾って公開展示するだけだ。ここまでは画面の操作であり、誰もが無料で自由に、何点でも作ることができる。ほしいアクセサリーがあったら(自分で作ったものでも、他ユーザーのものでも)購入できるのがポイントだ。商品受注があった時点でmonomyが製作し、配送する。アクセサリーをデザインする楽しさ、作ったったモノが売れる楽しさ、選んで購入する楽しさをアプリ一つで提供している。
「ピアスとイヤリングのパーツを自由に交換できる、アレルギー対応素材などを選べるといったところも、既製品販売サービスにはない魅力です」(山口絵里氏)
※一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム(2015年8月発表)
楽しくて、やめられない!
作品作りを無料&無制限で楽しめる点が、このサービスのエンジンだ。他ユーザーの作品を見て刺激を受けながら、自分の内なる世界を形にし、発表するというプロセスは芸術・創造の楽しみそのものだ。
「時間を忘れて一気に何個も作ってしまったという声もいただきます。お一人で月に200以上もの作品を作ったユーザーさん、人気商品を作った8歳の小学生もいます」(山口氏)
スマホアプリなのに、まるで実際にパーツをいじっているように錯覚する動きも見事だ。
「現在、パーツは3,000種類以上あり、自社で写真撮影してデジタル加工を行って掲載しています。組み立て画面では各パーツに物理演算を施していて、実物みたいに揺れるんです。ゲーム開発をしてきた技術者たちががんばってくれました!」(山口氏)
「コロンブスの卵」的サービス設計
春からはInstagramなどで大勢のフォロワーを持つ女性インフルエンサーらによるオフィシャルユーザーショップを開設し、企業とのタイアップコンテストなど、本格的なサービス拡大企画も予定している。お小遣い稼ぎアプリとしても注目されるかもしれない。
「作った作品のインセンティブとして獲得したポイントが1万円分以上貯まったら、換金できるサービスも始めます」(山口氏)
受注生産通販だから製品在庫を持たない。また、製造直販なので、利益率が高いといったビジネスモデル設計のうまさも光る。有名ベンチャー企業の創業者でもある個人のエンジェル投資家ら、大手ファンドなどからの投資も獲得している。思わず「なるほど、こういうモノづくり通販の方法があったのか」と唸ってしまう、コロンブスの卵的なサービスだ。どういうきっかけから生まれたのだろうか?
モノづくりのイノベーションを起こす
「今はアクセサリーを作って、売買できるアプリです。でも、私たちが目指しているのは、モノづくりのクラウド化です。中間マージンや在庫で苦しんでいる現在の製造文化や商流を変えたいんです」(山口氏)
山口氏は、留学経験やさまざまな国々をバックパッカーとして旅してきた経験を持つ。多くの国の人と文化に触れる中で「日本のモノづくりは圧倒的にすごい!」と思い知ったという。
一方で、その日本のモノづくりが硬直的な商慣習に縛られ、明るい未来を描けない状態であることも知る。そこから、monomyにつながるモノづくりでの起業を目指した。「語りだすといろいろあって長い」と笑うのだが、実際、山口氏が夢を思い抱いてからサービスインまでに通算10年以上の人生とキャリアをかけている! 彼女のチャレンジ人生から、この迫力あるサービスが生まれたと言っていいだろう。
「仕事がしたい!」と駆け回った20代
山口氏のキャリアを見ると、2002年の専門学校卒業後に留学、1年間の世界一周旅行、英会話学校でのマネージャー経験、コンサルティング企業での商品仕入れと販売サイトの立ち上げ・制作・運用、広告代理店でのWeb制作、Yahoo! JAPANでのディレクション業、そして2011年の起業となっている。monomyのリリースは、独立から4年後の2015年だ。
「英会話学校のマネージャー職は、経営を学べる仕事をさせてほしいと当時の会社の社長に直談判して就き、さまざまな経験と学びの中で事業を成長させました。その後、雑貨ショップのEC事業を担当してWeb通販の可能性に気づき、25歳くらいからWebを独学して、広告代理店の制作職を経て派遣社員としてYahoo! JAPANに加わりました。そして、2011年の東日本大震災を契機に起業しました」
人の縁が作り上げたプロダクト
「起業後、とにかくいろんな人に会うと決めて、月50人をノルマにいろんな交流会に顔を出しました。その結果、1年間で目標を大幅に超える1,500人の方にお会いし、Webの企画やコンサルの仕事を紹介いただきました」(山口氏)
資金を貯め、2014年にサービス開発をスタートし、2015年8月にリリースした。この時点で社員は山口氏一人。エンジニアやデザイナーなどは、人を通じて縁を持った外部メンバーだったという。
「大企業の一線で活躍されているスーパーエンジニアさんに副業で参加いただき、Slackのやりとりで完成させました!」(山口氏)
山口氏の思いと取り組みへの迫力がなせる技だ。アプリ開発の先に、日本のモノづくりのイノベーション、作り手と受け手の新しいコミュニティがある。その夢に自分も参加したいと感じたのだろう。現在、総勢約30名が関わる。ファンアップの社員は3名で、うち2名はエンジニアだ。
宮尾健士氏は、リリースの直前に発覚したトラブル解決のために急遽開発に参加した、恩人ともいえるエンジニアだ。
「知人の紹介でバグ修正を担当し、その3カ月後に入社しました」(宮尾氏)
知って、わかれば、ファンになる
「今後は、靴や鞄などにも商品を広げたいと考えています。誰もが簡単にモノづくりに参加できる楽しみを知ってもらって、自分たちでファッションを作る世代を応援したいんです。そして、どんどん潰れてしまっている工場や職人さんたちとつなげたいです。購買だけでなく、存在を知ってもらうだけでも、ファンになる人たちがいると思います」(山口氏)
知って、わかってしまえば、きっとファンになる。モノづくりの職人たちについても、monomy自身にとっても、言えることだ。