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サイト改善基礎講座 Web Designing 2016年3月号

売上拡大の近道「既存顧客のリピート率向上」の方法とは? 効果的なデジタルコミュニケーションを知るための分析と対策

新規顧客の獲得に力点を置いて施策を考えるのと同時に、既存顧客のリピート率向上に向けていったいどのようなアプローチをとるのが良いだろうか。Googleアナリティクスを用いた顧客の状況把握、市場調査を用いたアプローチについて紹介する。

Illustration:goo

既存顧客をテコに売上拡大をはかる

顧客と長期的に良好な関係性を築くことができれば、さまざまなビジネス効果が期待できる。顧客一人あたりの新規獲得コストと維持コストを比べると、維持コストの方がはるかに低く、一般的に3分の1から5分の1程度といわれている。また顧客によるSNSでの好意的なクチコミをはじめ、友人や知人間での直接的な紹介により、自然と新たな顧客が増えていくこともある。多くのWebサイトは、新規顧客の獲得と並行して、既存顧客との関係構築やリピート購入を目指してさまざまなコミュニケーションに取り組んでいる。会員登録による次回からの入力作業の簡便化、閲覧行動に基づくコンテンツのリコメンド、お気に入りページや商品のクリッピングサービス、メール配信サービスなど、多様な施策がある。

既存顧客に向けたコミュニケーション施策では、共通コンセプトとして「顧客の状況に応じたカスタマイズサービスの徹底」があることに気づく。その背景には、「One to Oneマーケティング」の考え方がある。顧客一人ひとりの属性や嗜好性、これまでの企業との関わり方に基づき、個別の顧客に対して最適と考えられる対応をとることで、顧客からの満足や信頼を高める。継続的に対応していくことにより、顧客と企業にとって長期的で良好な関係を構築することを目指していくという考え方だ。商店街にある八百屋の店主がお得意様にする接客術と似たイメージだ。店主はお得意様の家族構成や好き嫌いの傾向を世間話や購入履歴から把握しており、好みそうな食材をオススメし、必要であれば値引きもする。末永く店を利用してほしいと考えるからだ。既存顧客の購入率は新規顧客に比べて格段に高い。既存顧客は初回購入時よりも心理的なハードルが低く購入に移りやすいからだ。既存顧客のリピート率を高め、来店回数を増やしていくことが、売上拡大の近道になるといえる。

 

顧客定着状況や優良顧客を把握する

既存顧客に対して、One to Oneマーケティングを実施していくことが戦略や方針の大前提となるものの、多くの顧客に対してより良い対応をしていくためには効率化して考えていくことも必要だ。顧客の定着や購入状況を効率よく把握するにはどうしたら良いだろうか?

顧客の定着状況を測る手法にコホート分析※1がある。Googleアナリティクス(以下GA)の分析メニューにもベータ版で実装されていることから、ご存じの方も多いだろう。GAで行うコホート分析は、Webサイトへの初回訪問日を起点として、その後の再来訪や再来訪時のサイト内行動を時系列に把握することができる。

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Googleアナリティクスの「コホート分析」では、設定のためのプルダウンメニューとして「コホートの種類」「コホートのサイズ」「指標」「期間」の4つが用意されている。「コホートの種類」は「ユーザーを獲得した日付」のみが選択できる。設定上では抽出条件が日付のみとなるため、セグメントをあわせて設定し、絞り込んで活用するといいだろう
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Googleアナリティクスのコホート分析。表の左側に表示されている期間に、初回訪問となったユーザーについて、以後の再訪状況の凋落を時系列に表示している。ここでは、コホートのサイズを「週別」、期間を「過去6週」に設定した。背景色が濃いほど再訪の割合が高い。時期によって再訪の割合がどう変わるか、セグメントを併用しながら違いを観察する

 

セグメントを併用できるため、「キャンペーンをきっかけとした訪問者が何日後にどの程度リピートしたのかをデバイス別に把握する」といったことが、素早く集計できる。結果がわかればキャンペーン内容に立ち返り、原因と仮説を考えて次回に向けて改善していく。

また、購入状況をもとに顧客をグルーピングする手法にRFM分析がある。RFM分析とは、顧客一人ひとりを「最新の購入日(Recency)」「購入回数(Frequency)」「累積購入金額(Monetary)」でランク分けし、グループごとの施策を講じる考え方だ。

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RFM分析による顧客プロット。「最新の購入日(Recency)」「購入回数(Frequency)」「累積購入金額(Monetary)」を軸にとった場合の各ゾーンの顧客特長を記載した。たとえば、「最新の購入日」が直近であり(軸上は高い)、「購入回数」と「累積購入金額」が多い(軸上で高い)場合は、上段右奥の「優良顧客」だと考えられる。「購入回数」と「累積購入金額」は同様に多いが、「最新の購入日」がだいぶ以前である場合(軸上は低い)は、「休眠顧客」と考えられる

 

たとえば、優良顧客や安定顧客に対してはアップセルやクロスセル※2を強化、新規優良顧客に対してはWebサイト誘導の強化といった施策が考えられる。GAのセグメントを用いれば、RFM分析を念頭に置いたさまざまな顧客セグメントを作成することが可能だ。「最新の購入日」を集計期間、「購入回数」をユーザーのトランザクション数、「累計購入額」をユーザー収益で設定すればいい。顧客セグメントごとに購入商品やよく閲覧するコンテンツを観察することで、各顧客セグメントに対する訴求内容の案出しに活用できるだろう。また、外部ツールと連携して広告やメール配信、サイト内レコメンドに活かしていくことも可能だ。データベースを用いて顧客のグルーピングと実行策を連携させて自動化すれば、「マーケティングオートメーション※3」の原理となる。

 

リピート率の向上に向けて

健康食品や美容の通販で「初回限定トライアルキャンペーン」を通じて、より多くの人に実際に商品を試してもらうアプローチがよくある。事前のコミュニケーションで商品のコンセプトや価格が伝えられ、初回限定特典として割安で販売される。購入者は実際に商品を試してみて、商品に対する満足度が高ければリピート購入を検討する。リピート購入が起きるまでの流れをひもとくと、事前に伝えられるコンセプトや価格が初回購入を判断する根拠に、実際に商品を試した際の満足度がリピート購入を判断する根拠になっている。商品開発の市場調査でよく用いられる調査手法に「コンセプト・プロダクトテスト」というものがある。

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コンセプト・プロダクトテスト結果チャート。個別対象者の評価結果をチャートへ落とし込み、4分割した象限のうちどこに人数分布の高い象限が出るかにより、現状の課題を捉える。各軸のしきい値(軸の高低を判断する値)はなるべくシビアに考えた方がよい。よく売れる商品は、コンセプトもプロダクトもたいがい高評価である

 

はじめに商品コンセプトを調査対象者へ提示し購入意向を聴取する。次に実際に商品を試してもらい、再び購入意向を確認する。商品コンセプトと商品ともに高評価を与える調査対象者が多ければ、ヒット商品となる確率が高いといわれ、需要予測に役立てられている。トライアル購入やリピート購入において、さまざまなコミュニケーション施策を行ったがたいした成果が上がっていないような状況ならばコンセプト・プロダクトテストを行い、コンセプト力と商品力をチェックしてみることをオススメする。購入意向が低い理由はどこにあるのかを確認し、商品開発とコミュニケーションへフィードバックし、改良していけばよい。

リピート率は、商品自体の満足度も大きく影響しているため、コミュニケーションに絞って検討することには限界がある。「どのような顧客がどのような点を気に入ったから、その商品やサービスを継続購入している」といった事実をひもとき、コミュニケーションの手法と内容、そして商品やサービスの改良へと双方に反映していくことが、リピート率向上とへつながっていく。リピート率向上は売上拡大の近道ではあるが、マーケティングの総合力が試される難易度の高い問題でもある。商品を中心とするさまざまな関係者とともに取り組んでもらいたい。

 

※1 コホート(cohort)は「同一の性質を持つ集団」という意味で、時系列でどのような行動変化が起きたのかを分析すること。過去に行った施策の効果検証、またその知見を活かした未来予測に役立てる
※2 アップセル(up sell)とは、顧客が当初希望していた商品よりも価格の高い商品を勧めて販売すること。クロスセル(cross sell)とは、顧客が当初希望していた商品に加え、関連する他の商品もあわせて勧めて販売することをいう
※3 顧客の行動に適したマーケティング施策を自動で行う仕組みやプラットフォームのこと

 

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Text:中川雅史
(株)アンティー・ファクトリー マーケティングリサーチャー&データアナリスト。前職の市場調査会社で身につけた定量・定性調査の経験をベースに、Webサイトのユーザー調査やデータ分析に携わる。また、一般社団法人 日本Web協会(JWA・旧JWSDA)Webアナリスト委員会委員長として、Webアナリティクスの手法や技術の発展に努めている。書籍『サイトの改善と目標達成のための Web分析の教科書』(弊社刊)を監修。 http://www.jwa-org.jp/

掲載号

Web Designing 2016年3月号

Web Designing 2016年3月号

2016年2月18日発売 本誌:1,530円(税込) / PDF版:1,200円(税込)

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 WDが選ぶ注目のデジタルコンテンツ
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編集部よりお詫びと訂正のお知らせ

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