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永原康史の「デザインにできること」 Web Designing 2015年10月号

「社会デザイン」 メディアとデザインについて考える

ブックデザインやWebプロジェクト、展覧会のアートディレクションなどを手がけ、メディア横断的なデザインを推進しているグラフィックデザイナー、永原康史氏によるメディアとデザインに関するコラム。

数年前から「ソーシャルデザイン」ということばをよく聞く。イメージとしては、プランナーやデザイナーが地域のプロジェクトづくりをする、これまでの「町おこし」のようなものだろうか。ぼくの場合、「社会」といえば都市を連想するが、舞台は地方のほうが多いようにも思う。

「ソーシャルデザイン」ということばはいつ頃から使われ出したのだろうか? 気になって調べてみた。調べ方は簡単、ネットで検索である。ただし、はじまりは日本ではないと仮定して「social design」で検索する。もうひとつは、Amazon.comで social design とタイトルのついた本を探す。このふたつである。

 

ざっと調べてみると、英語圏のサイトが意外に少ない。が、ウィキペディアにはあった。そこには、「人間の生活に寄与する社会的なデザインは、デザインプロセスとして定義され、それはヴィクター・パパネックのアイデアに触発されたものだ」と書いてある(意訳です)。なるほど、そういえばパパネックの主著書である『生きのびるためのデザイン』の原書名は『Design for the Real World: Human Ecology and Social Change』であった。パパネックは社会を変えていくデザインを「レスポンシブルデザイン(責任を持つデザイン)」と呼んでいた。それは、人々の欲求(wants)よりも必要 (needs)のためのデザインである。だからこそ、そのための資材やつくりかたにも気を配るデザインプロセスが重要になってくるのだ。

しかし、どうも腑に落ちない。その源流が1960年代末にパパネックが提唱したデザインプロセスにあったとしても、それを今に伝え、ソーシャルデザインと名付けた何かがあるはずだ。

 

本の検索結果に移ってみる。「social design」を含む題名の本は見事に出てこない。目につくのは「Design for Social Change」、「Design for Social Innovation」ということばである。日本語にすれば「社会を変えるためのデザイン」となるだろうか。

欧州のデザイン教育事情に詳しい人から、欧米ではソーシャルデザインとは言わないと聞いたことがあるのを思い出した。「社会をデザインするなんてできないからね。社会のなにを、社会のどこを、というように、社会を変えうる方法をもう少し具体的に考えてるんだよ」という話だった。本のタイトルを見る限り、事実そのようだ。そういえば、米国のデザインファームIDEOにも「Design for Social Impact」というプログラムがあった。「社会に影響を与えるデザイン」ということだ。

念のため、日本のアマゾンで「ソーシャルデザイン」を調べてみると、『ソーシャルデザイン』というそのもののタイトルを筆頭に、かなりの本が出てくる。『ソーシャルデザインの教科書』まであって、すでに定着している概念や手法があることをうかがわせる。ぼくは一冊も読んだことがないので、中身についてはわからない。Social ChangeやSocial Innovationと同じことが書かれているのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。

 

ここまででわかったのは、ソーシャルデザインということばは和製なのかもしれないということ。そうでなかったとしても定着しているのは日本だけのように思える。もちろんまったく使われていないわけではない。ウィーン応用芸術大学のマスターコースにはSocial Designという名称のプログラムがある。しかし副題が「Arts as Urban Innovation(都市革新としての芸術)」となっており明快だ。

ここからは想像である。どこかが「Design for Social Change (Innovation)」の考え方を輸入するにあたり、日本語になじむように「ソーシャルデザイン」のことばを充てたのだろう。そしてそのことばがひとり歩きして「社会をかたちづくるデザイン=町おこし」のようなイメージが定着してきたのだ。それによって、本来の「社会を変化させる」あるいは「社会に影響を与える」という側面が薄まったように思える。

ぼくが、Social Changeと聞いて一番に思い浮かべるのは、ヨーゼフ・ボイスの社会彫刻である☆。「ソーシャルデザイン」とは少し開きがある。いっそ「社会デザイン」としてはどうだろう。

☆ ウィキペディアのヨーゼフ・ボイスの項で社会彫刻の代表的プロジェクト「7000本の樫の木」を見ることができる
https://ja.wikipedia.org/wiki/ヨーゼフ・ボイス

201509172119_1.jpg
写真は今年かかわった森林保全のソーシャルデザインプロジェクトから。まずは林を歩くことからはじまる。
Text:永原康史
グラフィックデザイナー。多摩美術大学情報デザイン学科教授。2005年愛知万博「サイバー日本館」、2008年スペイン・サラゴサ万博日本館サイトのアートディレクターを歴任。現在「あいちトリエンナーレ2016」の公式デザイナーを務める。本コラムの10年分をまとめた『デザインの風景』(BNN新社)など著書多数。 http://www.nagahara.gr.jp/

掲載号

Web Designing 2015年10月号

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2015年9月18日発売 本誌:1,559円(税込) / PDF版:1,222円(税込)

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