2016.02.15
IT業界を取り巻く環境の急激な変化に多くの企業が翻弄される中、アドビはクラウドとビッグデータ、モバイルの時代に追随するスピードを身につけ、クリエイターを魅了し、記録破りの売上を達成し続けている
大胆な路線変更
2013年にアドビが同社のビジネスモデルをソフトウェアのパッケージ販売から月額制で利用料金を徴収するサブスクリプション型(購読型)に移行すると発表したとき、多くのアナリストが長期にわたる停滞を予想した。ソフトウェア産業ではクラウドの利用が広がっていたものの、クリエイティブのプロ向けソフトの販売で頂点に立っていたアドビが、創業以来続けてきたソフトウェアビジネスを変革するのは容易なことではない。それはたとえるなら、トヨタ自動車がある日突然、自動車販売を止めてリースに完全移行すると宣言するようなものである。失うものがあまりにも大きく、それを埋めるのは容易ではないと見られていたのだ。
ところが、そうした予想に反して、アドビの大胆な路線変更はすぐに売上高、ユーザベースの伸びとなって現れ、同社は新たな成長フェーズへと突入した。ここ数四半期は決算発表のたびに記録を塗り替える快進撃を続けており、2016年度はさらに成長ペースが加速する見通しだ。
IT分野の大企業がビジネスモデルを根本的に変革させた例というと、インターネット時代の到来を見越して2000年代にIBMがハードウェアを切り捨ててソフトとサービスの企業へと転換を果たした。近年では、ソフト販売を基盤にしていたマイクロソフトがクラウドとサービスの企業へと移行を進めている。どちらも再生を果たしたが、転換に至る前に業績が低迷しており、移行期間と合わせて長い停滞を経験している。そうした時代の変わり目に苦闘した大企業に比べると、アドビは一時代を築いた大企業でありながら、次の時代を先取りするようにビジネスモデルを転換させて成功した希有なケースである。