2017.03.25
【未来食堂】当店では、ロイヤルティ、特別感アピールは行っておりません。
東京・神保町に位置する定食屋「未来食堂」をご存じでしょうか? エンジニアとして勤めた小林せかいさんが、オープンソースの概念を飲食業で実践する素敵なお店です。そんな小林さんの頭のなかをオープンにするこの連載。はたして、どこにたどり着くのでしょうか!
こんにちは。“あなたの「ふつう」をあつらえる”未来食堂のせかいです。
今回のお題は「エンゲージメント」。
一般的に飲食店の“エンゲージメント戦略”と呼ばれるものは、例えば「来店回数や消費金額に比例したロイヤルティ」、「お客様の名前を呼ぶなど特別感アピール(○○様から生(ナマ)一丁注文頂きました!)」といったものが一般的でしょうか。
未来食堂では、このどちらも行っておりません。回数に応じたロイヤルティもないし、お客様の名前を聞き出すこともありません。というのも、未来食堂の理念は「誰もが受け入れられ、誰もがふさわしい場所」。一人ひとりを特別視するのは、理念からズレてしまうと考えるからです。しかしその一方で未来食堂は、毎日通うお客様が1割を越えるなど、高いエンゲージメント率を記録しています。「いかに顧客を特別扱いするか」に懸命な飲食店とは、異なるあり方で結果を出しているのです。
そんな未来食堂のエンゲージメント方針は、「特別扱いと感じさせない特別扱い」。
未来食堂では来店されたお客様に「ずっと使える100円割引券」をお渡ししていますが、何十回と通っている“常連”であっても、かならず会計時にはこの割引券を見せていただいています。“常連”や“顔パス”といった概念は未来食堂には存在しないのです。「顔パス」は、頻繁に通える間はいいのですが、ふとした拍子に来店の間隔が空いてしまうと、とたんに再来しづらくなる要因になります。「マスターはまだ僕のことを覚えてくれているだろうか?」と気を揉んでしまうのですね。
対して「顔パス」のない未来食堂は、毎日が記憶喪失のようなもの。割引券を持っているか・持っていないかで区別するだけなので、特別扱いもない代わりに、どんなに来店の間隔をおいても気安く通えます。2回目の来店であっても100回目の来店であっても“また来てくれた”という意味で等価なのです。
この形はある意味「コンビニ型接客」と言えます。機械的な接客の結果、初めてでも毎日でも利用しやすいのがコンビニ。未来食堂は、元気なときにやってきて「大将! 来たよ!」と声を掛け合うというよりも、元気がないときにこそひとりでひっそりと来て欲しいお店なので、極力コミュニケーション負荷の掛からない機械的な対応を取っているのです。
ただし、機械的な対応で始終するわけではありません。一度来て下さったお客様は大抵分かりますし、何かの食材を残した時は、何回か後からその食材を除いて食事をお出ししています(量を減らしながら様子を見ます)。口に出して「○○はお嫌いでしたか?」と聞くことはありません。そうやって確認されると「残して悪かったな」と窮屈に感じると思うからです。
“おもてなし”を代表する京都の接客は「分かる人だけが分かってくれたらいい」という考え方があるそうです。未来食堂もこれと似ています。口に出して“特別扱い”をアピールすることはありませんが、毎日気安く来店できるために裏ではいろんな工夫をしているのです。
コンビニ型×京都おもてなし型。
「今時の接客」と「古き良き接客」の掛け合わせが、未来の食堂の形なのかもしれません。

※この連載のネタ帳はGitHub Gistにて公開しています。
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内容についてご質問、アイデアのある方はお気軽に。

- Text:小林せかい
- 東京工業大学理学部数学科卒業後、日本IBM、クックパッドで6年半エンジニアとして勤めた後、1年4カ月の修行期間を経て「未来食堂」を開業。自称リケジョ。その他、詳しいプロフィールは公開されている情報をご覧ください。 https://goo.gl/XpwnMQ