“行動フレーミング”で習慣化を狙え|WD ONLINE

WD Online

行動デザイン塾 Web Designing 2016年5月号

“行動フレーミング”で習慣化を狙え

どうしたら行動を一回限りで終わらせず、日常的な習慣として定着させることができるのだろうか? ここでポイントとなるのが、脳の中にある既存の「フレーム」を活用することである。
Illustration: 石川マサル(mi e ru)

私たちは「フレーム」で世界を認識している

「1年」「1月」「1日」、あるいは「朝昼晩」といった時間の意識は、人がものごとを把握するための認識の枠組み(フレーム)の一つだ。このような時間軸のフレームを共有できなければ、社会生活は成立しない。つまりフレームというのは記憶も含む認知活動を支えるプラットフォームのようなものだ。

01 猫というフレーム
ミンスキーによれば、私たちは過去の経験や知識(この場合は「猫」に関する属性データ)を脳の中で構造化している。このフレームは、新しい知識や経験によって書き換え/更新が可能であるとされる。それを利用してフレームを拡張していくのが「行動フレーミング」だ

フレームという用語は、マーヴィン・ミンスキー(人工知能の父と言われる米国の科学者。2016年1月逝去)が提唱した、人がこの世界をどう認識するか、という認知理論からきている。例えば、私たちが猫に出会ったときに「猫」という認識ができるのは、過去に「猫」に関して自分が持っている知識のレファレンスを呼び出しているからだ(01)。

人は自分が持っている既存のフレームを手がかりに、新しい言葉や行動を解釈し、理解していく。育った環境や時代が変われば、構成されるフレームも変わってくる。他者とのコミュニケーションが難しいのは、同じ言葉で表される内容に関して、それぞれの人が持っているフレームが微妙に違うからなのだ。

02 ランチパスポート(高知版)
一冊で3カ月間、掲載店のランチ(通常700円以上)をサービス価格で楽しむことができる。行動デザイン研究所は発行元のほっと高知と協業し、巻頭に10店舗分のヘルシーランチ(ローカロリー・減塩)を掲載した

時間のフレームが有効なのは、そのサイクルが誰にも同じように訪れるからだ。「毎日」のサイクルを活用したビジネスは鉄板だ。例えば、毎日のランチ行動、つまり「今日はどこで食べようかな?」という選択行動をうまく捉えたのが「ランチパスポート」(02)だ。

このように、既存のフレーム(「毎日」の周期など)を活用して新たな行動を誘発する手法を「行動フレーミング」と呼んでいる。

 

なぜ私たちは真ん中を選んでしまうのか?

時間フレームのほかに、空間を認識するフレームも存在する。人は「両端」を認識することでその中間を把握する。サイズで言えば最小(S)と最大(L)があるから真ん中(M)が識別できるのだ。

コーヒーのMサイズは、SサイズとLサイズ(両端)があることで初めて認識される、相対的なサイズだ。しかし、多くの人は「中央」があって、初めてその左右が成立する、と考えがちだ。この「認識のバイアス(思い込み)」を利用して、売り手は「真ん中」のサイズを一番多く売ろうとする

「上」「中」「下」も同じような空間のフレームだ。この空間フレームには時間を把握するフレームも重なっている。重力軸に添って上から下に雨などが落下してくるので、そこに時間経過の認識が組み合わさっているのだ。時代を下る/遡る、という表現もそこから来ている。本を上巻/下巻に分割するのもそこに「時間的な順序」の認識があるからだ。

行動フレーミングで考えるなら、まず「上巻」を読んだら「下巻」も買わないと気が済まなくなる意識を活用しない手はない。「Vol.1、Vol.2」では達成感は弱い。「前編」「後編」(前/後)は順序のフレームとしては明解だが、「上/下」に比べると即物的でエモーションに欠ける。「時の流れ」が伝わらないからだ。「読破した」という達成感のためには「端(上)から端(下)まで」という全体像(コンプリート感)の提示が重要なのだ(03)。

03 「時間」軸の行動フレーミング
時間は、上から下にゆっくりと流れていく。上と下が両端になるので、「上・下」、あるいは「上・中・下」を買い揃えることは、人の“コンプリート欲”をわかりやすく満たす行為になる

両端というフレームがあると、その中間は「ちょうどいい」と心地よく感じられるという意識も押さえておきたい。端は外界(フロンティア)=リスクに直面しているが、真ん中は安心できる。日本人は比較的、「中間」を好む性向がある。

04 「3サイズ」という行動フレーミング(「空間」フレーム)
鰻重では、真ん中のサイズを「中」ではなく「上」と名づけたのは秀逸な工夫だ。「松」ではなく「梅」を一番上に位置づけているお店もある。売りたいのは真ん中の「竹」なので、「梅」と「松」の序列が曖昧なことは問題ではない

みなさんも、つい真ん中を選びがちではないだろうか。鰻重もたいてい3サイズだが、真ん中が売れ筋になるように上と下が品揃えされている(04)。古典的な「行動フレーミング」の例だろう。

 

Text:國田圭作
博報堂行動デザイン研究所所長。入社以来、一貫してプロモーションの実務と研究に従事。大手嗜好品メーカー、自動車メーカーをはじめ、食品、飲料、化粧品、家電などの統合マーケティング、商品開発、流通開発などのプロジェクトを多数手がける。2013年4月より現職。 http://activation-design.jp/

掲載号

Web Designing 2016年5月号

Web Designing 2016年5月号

2016年4月18日発売 本誌:1,559円(税込) / PDF版:1,222円(税込)

Web戦略のプロが教える問題解決法100

サンプルデータはこちらから

■ 特集:Web戦略のプロが教える問題解決法100

業績向上、業務改善‥‥その必要性は十分感じているものの、どうもうまくいかない。他 部署の連携をはじめ、プロジェクトがうまく進まない。その理由には時間や予算、体制など のリソースや業界動向なども影響していますが、そもそも今、課題として掲げているポイントは、本当の課題なのでしょうか? 課題の設定が間違っていれば、望まれる改善は期待できません。本特集では、「解決すべき課題」へのたどり着き方やデジタルツールを利用した「気付き」発見法などを、実際に手がけた仕事をもとにWeb制作・企画のプロたちが実践している「今日から使える」問題発見・分析・解決法を紹介します。

 第一部 成果を上げたデジタル施策の問題【発見】【分析】【解決】術
 【Introduction】問題解決のための正しい「課題設定」
 #01 _Case Study   Yahoo!映画│Kaizen Platform KPIツリーとグロースハックによる定番サイトの変化
 #02 _Case Study   SPACE DESIGN COLLEGE│DONGURI シナリオを組み立てて学校の有益性を伝える
 #03 _Case Study   博報堂コンサラクション│博報堂アイ・スタジオ 発掘した「ゴールデンルート」で課題解決
 #04 _Case Study   カトウファーム│LIG “らしさ"を設計するための思考と施術
 #05 _Case Study   森工芸社│パイプライン 自社事業をアピールするための強みの見つけ方
 #06 _Case Study   VITALISM│ベースメントファクトリープロダクション 商機と成果を生み出すユーザー目線の商品設計
 #07 _Case Study   Benesse│ takram プロトタイピングが変えたものづくりの現場
 【Column】
  偉人たちの金言20   課題解決のための地頭を鍛える10冊

 第二部 「数字」が教える本当の課題
 【Introduction】 課題解決のためのデータ分析の3つのポイント
 #01 _Case Study   VASILY データ取得の重要性とその活用法
 #02 _Way of Thinking   アクセス解析ツールだけで「課題」は見つかるのか
 #03 _Case Study   アルク│Ptmind アクセス解析+ヒートマップで「見える化」する
 #04 _Case Study   ギャプライズ│Wantedly、Peach John ツールを組み合わせて課題発見から解決へ
 【Column】
  導入のためのデジタルマーケティングツール マップ   Excelを使ってデータを「見える化」しよう

■ 集中企画:セルフサービス式Twitter広告のススメ
 予算数万円からでも今日から結果が出る!

ユーザーの趣味嗜好にあわせて配信できるソーシャルメディア広告の重要度が高まっているが、何から始めればよいかわからない人も多いはず。そこで、お手軽・安価・その日から始められる「セルフサービス式Twitter 広告」を紹介しましょう。

■ WD SELECTION
TURN/ISETAN MITSUKOSHI KIDS In Style/Kastane A.I Girls/TOKYO MUSIC ODYSSEY 2016/ソードアート・オンライン ザ・ビギニング Sponsored by IBM/2017 Tokyu Agency Recruit /廣榮堂採用サイト/プロスタイル井上のホメスタジオ&ヘアスタイル総選挙/久原 本家 茅乃舎ブランドサイト

■ ビジネス・EC
 □ ECサイト業界研究
  プラットフォーム~オリジナルのエコシステムが成功に導く

 □ 月刊店舗設計
  収納の巣:価格競争に参加せず、提案型コンテンツで「考え方」を売る

 □ モバイルビジネス最前線
  Eight:スタートアップ企業の新規事業もたらすイノベーションと価値創造

 □ 知的財産権にまつわるエトセトラ
  法改正で広がる「商標」の世界

 □ Bay Area Startup News
  「UXが最も大きな企業価値」Airbnb CTO、Nathan Blecharczykが語る

■ マーケティング・プロモーション
 □ データのミカタ
  メッセージングアプリがビジネスを変える

 □ デジタルプロモーションの舞台裏
  “ぶっちゃけ精神”で勝負する森永製菓のWeb戦略

 □ 行動デザイン塾
  “行動フレーミング”で習慣化を狙え

 □ 解析ツールの読み方・活かし方
  データに基づいた戦略的Twitter 広告の実際

■ コラム
 □ One's View
  今月のお題【課題解決】
  オンラインゲームで培われたネットのあれこれ by 白井明子
  サービス開発は自らの課題から始める by 土屋尚史
  がんばらないシステムでゆるく課題解決 by 峰松加奈

 □ モノを生むカイシャ
  dot by dot Inc,:最高の広告を求めるカイシャ

 □ 未来食堂の「せかいと未来」
  オープンソースな定食屋はじめました