アクセスログだけではユーザーの心理状態は測れない|WD ONLINE

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サイト改善基礎講座 Web Designing 2016年4月号

アクセスログだけではユーザーの心理状態は測れない 効果的なデジタルコミュニケーションを知るための分析と対策

今後10年間で最もセクシーな職業と言われている「統計家」。ビッグデータの解釈にあたって、統計解析に注目が集まっているようだ。筆者は統計家ではないが、データ分析に統計解析をよく用いている。今回は、Googleアナリティクスで得られるアクセスログデータに統計解析を用いて、ユーザー像を分析する手法をお伝えする。

Illustration:goo

行き詰まりがちなユーザー分析

Googleアナリティクスのレポート画面では、デフォルトで「ユーザー サマリー」が表示される。セッション、ユーザー、ページビュー数と、よく見慣れたあの画面だが、筆者は「ユーザー」というメニュー名がしっくりこない。また、「ユーザー」に含まれるほかの項目を見ると「アクティブユーザー」「コホート分析」「ユーザーの分布」などが続くが、どの切り口もあくまで事実として捉えられるユーザーの一つの側面を切り出しているにすぎない。ここで行われるユーザー像の分析は、デバイスやリピート回数、コンバージョンの有無をセグメントの切り口にして、閲覧コンテンツやコンバージョンをクロス集計し、セグメント間での閲覧傾向の違いを丹念に観察することで、ユーザーを推測するアプローチが多いだろう。

しかしながら、コミュニケーション戦略やカスタマージャーニーを検討する際に用いたいユーザー像は、デバイスやリピート回数で定義されるような断定的な切り口のものではない。興味関心の内容やコンバージョン意識の潜在か顕在かなど、人の心理状態を切り口にするものであり、所与のデータのみでは明確にしがたい非定型の要因である。ユーザーをサマライズ(要約)するならば、「どんなことに興味を抱いているユーザーが、どのコンテンツを見ていて、どれだけコンバージョンした」といったことが端的にわかればよいが、そういった切り口の項目はGoogleアナリティクスには存在しない。

 

ユーザー分析のイメージとステップ

統計解析は、集められた大量のデータの中に含まれているパターンや傾向を科学的に導き出すための手法だ。アクセスログに統計解析を用いることで、ユーザー像の分析に役立てられないだろうかと考えた。筆者は、実際に次のようなアプローチでユーザー分析に取り組んでいる。

<分析イメージ>

・閲覧コンテンツのパターンにより、検索来訪ユーザーを統計的に分類する
・グループごとに来訪時の検索キーワード、閲覧コンテンツ傾向、ボリュームシェア、閲覧・CVの状況をまとめ、各グループを解釈する

コンテンツの受容性や有効性を見るために、ユーザーをコンバージョンの有無でセグメントし、閲覧コンテンツの違いや傾向を分析する手法をよく行うが、結果が鮮明に出ることが多い。ユーザーによる閲覧コンテンツの違いは、結果的にユーザーの興味関心やコンバージョンへ向けた態度変容の状況を表すのではないかと考え、閲覧コンテンツのパターン化に着目した。

<分析ステップ>

1 検索フレーズ別にコンテンツ閲覧数を集計
2 コンテンツ閲覧パターンを検索フレーズ別に算出(クラスター分析)

01 検索フレーズ別にコンテンツ閲覧数を集計する。コンテンツがあまりに多いと処理に時間がかかるなどうまくいかないため、経験上30~50程度へ絞り込むのがいい(図はスペースの都合で8コンテンツのみ抜粋)。削除するコンテンツは、閲覧数がわずかなものやサイトとして重視しないものを対象とする。クラスター数の決定は、まずは3~5の複数パターンで分析を実施しクラスター別の閲覧状況を集計し、クラスター間の違いが最もわかりやすいものを選択する

3 クラスター別のコンテンツ閲覧数を集計し、グラフ化

02 クラスター別に閲覧したコンテンツを集計して、傾向を観察する。クラスター別の全訪問数を100%とし各コンテンツの閲覧割合を算出し、グラフを作成した。全体の閲覧割合とクラスター別の閲覧割合を、棒グラフと折れ線グラフのように変えると、比較しやすくなる

4 コンテンツと各クラスターの相関性をマッピングし、観察(コレスポンデンス分析)

03 クラスター・コンテンツのポジショニングマップ。クラスター別のコンテンツ集計結果(クロス表)を用いて、コレスポンデンス分析を実施する。青い点は各コンテンツを示す。クラスターとコンテンツとの相関関係が視覚的に見やすくなり、クラスター別のコンテンツ閲覧傾向が掴めるだろう。クラスターの周辺にあるコンテンツは、そのクラスターと相関関係が強い。02のグラフだけでは反応が小さい場合にわかりづらいため、併用するとよい

5 クラスター別の検索フレーズを集計し、反応の高い検索フレーズを観察

04 クラスター別に、検索フレーズを集計する。これには、上位20までの検索フレーズと各フレーズの訪問割合をまとめれば良いだろう(図はスペースの都合で上位5位まで)。検索フレーズの傾向を読み取り、何か分類できるカテゴリーがないか検討する。ここでは「病名」「施設・事業」「指名(クライアント名)」というカテゴリーを設けて、該当の検索フレーズを色分けした。ここから、クラスター別の傾向を読み取ることができる

6 クラスター別にセッション数、新規訪問率、直帰率、PV/訪問、CVRを集計し、全体状況を把握

05 クラスター別に、訪問割合、新規訪問率、直帰率、PV/訪問、CVRを算出した。コンテンツの解釈に加えて、これら指標の結果もあわせて検討すると、ユーザー像がより具体化する。訪問割合の違いはそのままクラスターごとの大きさを示すため、横棒グラフで割合を示すとわかりやすい。これまでの分析結果から、各クラスターはどのように表現できるか検討してまとめる。クラスター間で、コンバージョン意向は潜在か顕在か、また動機や目的の違いをイメージしていく。 クラスター1は病名を特定しないワードで来訪し、順繰りに病名の詳細説明を閲覧している。新規訪問率が高く、CVRも低いことから、「情報収集段階にあるユーザー」と考えられる。クラスター2は今後の対応を検討するワードで来訪し、手続き内容や入所後の詳細を閲覧している。CVRはクラスター間で最も高い。「入所検討段階にあるユーザー」と考えられる。クラスター3は特定の病名で来訪し、病名の詳細説明のみを閲覧している。新規訪問率、直帰率は最も高く、CVRは最も低い。「特定の疾患について詳細を調べているだけのユーザー」と考えられる。ターゲットとなり得るのはクラスター1、2であり、前者は潜在的、後者は顕在的であるといえる

クラスター分析やコレスポンデンス分析は、定量調査でよく用いられる分析手法だ。これは、データ全体から反応パターンを見出して対象をグループ分けする手法であり、ユーザー分類によく用いられる。コレスポンデンス分析は、項目や対象の相関性を視覚的に表す手法であり、ブランドのポジショニング分析によく用いられる。この二つを組み合わせることで、恣意的ではなく統計的に、ユーザー分類と項目との相関が可視化できる。統計解析の実施には、市販のソフトを用いるのが簡単でオススメだ。Excelのアドインでも、安価に試すことができる。

 

ユーザー分析事例

実例として、小児向け高度医療を専門に行う機関のWebサイトについて、アクセスログを用いて先のユーザー分析を行った(01~05)。分析結果として、「情報収集段階にあるユーザー層(約65%)」「入所検討段階にあるユーザー層(約25%)」「特定疾患について詳細に調べているユーザー層(約10%)」と、3種類のユーザークラスターの解釈を行うことができた。この分析結果からユーザー像が具体的にイメージできるようになり、より精緻なカスタマージャーニーマップの作成、クラスター別のUX改善に向けた具体的な検討へ進むことができた。

Webサイトを改善するには、来訪するユーザーとニーズを把握し、丁寧に応えていくことが求められる。以前にも伝えたが、恋愛術のごとく相手のことを詳しく知り、意中の相手をどのように導くのか、ひたすら妄想しイメージをブラッシュアップしていくことで、より良い改善へと進んでいく。Googleアナリティクスに提示されている切り口をそのまま使うのではなく、人の心理状態を切り口にするようなアプローチをあわせて、ユーザー理解を深めてもらいたい。

 

本連載は、今号で終了となる。これまで、Webサイト改善の取り組みについて網羅的に解説を行い、Webサイト改善プロジェクトの全体観となる考え方や進め方、また具体的な改善ポイントとして、流入・回遊・コンバージョン・リピート時点にフォーカスしてきた。読者のみなさんが携わるWebサイトにおいて、改善の糸口を探す時があれば、バックナンバーをご覧いただければ幸いだ。みなさまのWebサイトがより良く改善されることを、心より願っている。

 

Text:中川雅史
(株)アンティー・ファクトリー マーケティングリサーチャー&データアナリスト。前職の市場調査会社で身につけた定量・定性調査の経験をベースに、Webサイトのユーザー調査やデータ分析に携わる。また、一般社団法人 日本Web協会(JWA・旧JWSDA)Webアナリスト委員会委員長として、Webアナリティクスの手法や技術の発展に努めている。書籍『サイトの改善と目標達成のための Web分析の教科書』(弊社刊)を監修。 http://www.jwa-org.jp/

掲載号

Web Designing 2016年4月号

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2016年3月18日発売 本誌:1,559円(税込) / PDF版:1,222円(税込)

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