2016.04.09
サイト改善基礎講座 Web Designing 2016年4月号
アクセスログだけではユーザーの心理状態は測れない 効果的なデジタルコミュニケーションを知るための分析と対策
今後10年間で最もセクシーな職業と言われている「統計家」。ビッグデータの解釈にあたって、統計解析に注目が集まっているようだ。筆者は統計家ではないが、データ分析に統計解析をよく用いている。今回は、Googleアナリティクスで得られるアクセスログデータに統計解析を用いて、ユーザー像を分析する手法をお伝えする。
Illustration:goo
行き詰まりがちなユーザー分析
Googleアナリティクスのレポート画面では、デフォルトで「ユーザー サマリー」が表示される。セッション、ユーザー、ページビュー数と、よく見慣れたあの画面だが、筆者は「ユーザー」というメニュー名がしっくりこない。また、「ユーザー」に含まれるほかの項目を見ると「アクティブユーザー」「コホート分析」「ユーザーの分布」などが続くが、どの切り口もあくまで事実として捉えられるユーザーの一つの側面を切り出しているにすぎない。ここで行われるユーザー像の分析は、デバイスやリピート回数、コンバージョンの有無をセグメントの切り口にして、閲覧コンテンツやコンバージョンをクロス集計し、セグメント間での閲覧傾向の違いを丹念に観察することで、ユーザーを推測するアプローチが多いだろう。
しかしながら、コミュニケーション戦略やカスタマージャーニーを検討する際に用いたいユーザー像は、デバイスやリピート回数で定義されるような断定的な切り口のものではない。興味関心の内容やコンバージョン意識の潜在か顕在かなど、人の心理状態を切り口にするものであり、所与のデータのみでは明確にしがたい非定型の要因である。ユーザーをサマライズ(要約)するならば、「どんなことに興味を抱いているユーザーが、どのコンテンツを見ていて、どれだけコンバージョンした」といったことが端的にわかればよいが、そういった切り口の項目はGoogleアナリティクスには存在しない。
ユーザー分析のイメージとステップ
統計解析は、集められた大量のデータの中に含まれているパターンや傾向を科学的に導き出すための手法だ。アクセスログに統計解析を用いることで、ユーザー像の分析に役立てられないだろうかと考えた。筆者は、実際に次のようなアプローチでユーザー分析に取り組んでいる。
<分析イメージ>
・閲覧コンテンツのパターンにより、検索来訪ユーザーを統計的に分類する
・グループごとに来訪時の検索キーワード、閲覧コンテンツ傾向、ボリュームシェア、閲覧・CVの状況をまとめ、各グループを解釈する
コンテンツの受容性や有効性を見るために、ユーザーをコンバージョンの有無でセグメントし、閲覧コンテンツの違いや傾向を分析する手法をよく行うが、結果が鮮明に出ることが多い。ユーザーによる閲覧コンテンツの違いは、結果的にユーザーの興味関心やコンバージョンへ向けた態度変容の状況を表すのではないかと考え、閲覧コンテンツのパターン化に着目した。
<分析ステップ>
1 検索フレーズ別にコンテンツ閲覧数を集計
2 コンテンツ閲覧パターンを検索フレーズ別に算出(クラスター分析)
3 クラスター別のコンテンツ閲覧数を集計し、グラフ化
4 コンテンツと各クラスターの相関性をマッピングし、観察(コレスポンデンス分析)
5 クラスター別の検索フレーズを集計し、反応の高い検索フレーズを観察
6 クラスター別にセッション数、新規訪問率、直帰率、PV/訪問、CVRを集計し、全体状況を把握
クラスター分析やコレスポンデンス分析は、定量調査でよく用いられる分析手法だ。これは、データ全体から反応パターンを見出して対象をグループ分けする手法であり、ユーザー分類によく用いられる。コレスポンデンス分析は、項目や対象の相関性を視覚的に表す手法であり、ブランドのポジショニング分析によく用いられる。この二つを組み合わせることで、恣意的ではなく統計的に、ユーザー分類と項目との相関が可視化できる。統計解析の実施には、市販のソフトを用いるのが簡単でオススメだ。Excelのアドインでも、安価に試すことができる。
ユーザー分析事例
実例として、小児向け高度医療を専門に行う機関のWebサイトについて、アクセスログを用いて先のユーザー分析を行った(01~05)。分析結果として、「情報収集段階にあるユーザー層(約65%)」「入所検討段階にあるユーザー層(約25%)」「特定疾患について詳細に調べているユーザー層(約10%)」と、3種類のユーザークラスターの解釈を行うことができた。この分析結果からユーザー像が具体的にイメージできるようになり、より精緻なカスタマージャーニーマップの作成、クラスター別のUX改善に向けた具体的な検討へ進むことができた。
Webサイトを改善するには、来訪するユーザーとニーズを把握し、丁寧に応えていくことが求められる。以前にも伝えたが、恋愛術のごとく相手のことを詳しく知り、意中の相手をどのように導くのか、ひたすら妄想しイメージをブラッシュアップしていくことで、より良い改善へと進んでいく。Googleアナリティクスに提示されている切り口をそのまま使うのではなく、人の心理状態を切り口にするようなアプローチをあわせて、ユーザー理解を深めてもらいたい。
本連載は、今号で終了となる。これまで、Webサイト改善の取り組みについて網羅的に解説を行い、Webサイト改善プロジェクトの全体観となる考え方や進め方、また具体的な改善ポイントとして、流入・回遊・コンバージョン・リピート時点にフォーカスしてきた。読者のみなさんが携わるWebサイトにおいて、改善の糸口を探す時があれば、バックナンバーをご覧いただければ幸いだ。みなさまのWebサイトがより良く改善されることを、心より願っている。