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清水幹太のQuestion the World Web Designing 2015年9月号

ヤンシー・ストリックラー(Kickstarter)|超文系こじらせ兄ちゃんがつくりたかった「道具」 共同創業者/現CEOのヤンシー・ストリックラーとしゃべりに行ってみた

世界中を席巻するクラウドファンディングサービス「Kickstarter(キックスターター)は、最近の人類がつくったもののなかでも、最もエキサイティングな「発明」だ。どんな人が、何に対してどう萌えるとこういうものができるのか。ニューヨークで、その秘密を探るべく共同創業者のYancey Strickler氏としゃべりに行ってみた。

新連載だ。こういった連載記事において、初回というのは、当然ながらとても重要だ。今後の連載を方向づけることになるわけで、まずはいま一番話を聞きたい人のところに行かなくてはと考えた。

Yancey Strickler(ヤンシー・ストリックラー)35歳。いまや、なにか新しいことを始める上で名前が出ないことはない巨大クラウドファンディングサービス「Kickstarter」の共同創業者であり、現CEOだ。普通に考えるとそうそう会える人物ではない。だが、ひょんなことから知り合った後、先日は彼の結婚式に出席し、泥酔して記憶をなくしたり、とても仲良くさせていただいている。彼はどんな人で、彼の何が刺激されて、Kickstarterができたのか。そんなことが知りたくて、新婚であることなど顧みず、ブルックリンにある彼の自宅まで押しかけてみることにした。

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Kickstarterは、何かアイデアがある人が、それに対して支援金を募って、資金を集めアイデアを実現するためのクラウドファンディングサービス。誰でも好きなプロジェクトに投資して、報酬を得ることができる https://www.kickstarter.com/

Yanceyはバージニア州で生まれ、大学時代までをバージニアで過ごした。ニューヨークの音楽フェスにちょこちょこ出かける音楽青年かつ、大学で文学・哲学を専攻する文学青年だった。

大学卒業後、Yancey青年は上京ならぬ「上ニューヨーク」して音楽ライターとして仕事をしはじめる。アメリカの有名音楽雑誌「Pitchfork※1」でレビューを書いたり(そしてすぐにクビになったり)しつつ、音楽情報サイト「eMusic ※2」の編集をやっていた。この頃のYanceyは自分がライターとして「たとえばNew York Timesに記事を書くような」すごい存在になれるとは思っていなかったらしい。いわゆる業界のパーティーに出て人脈をつくったりとか、そういうことにも興味がなかった。

 

聞いていて思ったのだけど、この人は恐らく超文系なのだ。私もそうだからわかるのだが、文系というのはこじらせると、いろいろなものに対して素直ではいられなくなってしまう。どうしたって、直面しているものを批評したくなる生き物なのだ。話が飛ぶけれど、Yanceyは「新技術っぽいスタートアップには興味がないんだよね。だからシリコンバレーとかで仕事しようとは思わない」などとサラっと言う。なんというか、いろんなところに文系っぽい「ヒネクレ感」を感じる。世の中いろいろあるけれど、この人はたぶんいちいち批評しているのだ。

 

じゃあそんな文系青年だった彼が、なぜKickstarterのようなものをつくり、運営することになったのか。もちろん他の共同創業者との出会いはあった。しかし彼なりの意思があった。「Kickstarterをつくるとき、何をつくりたかったの?」という質問に対して、彼ははっきりとこう答えた。

「道具をつくりたかったんだよ。いろんな人がいろんなものをつくれる道具」

Kickstarterは、文学青年が文系をこじらせた末につくった「道具」だったのだ。これは面白い。いろいろ考えて批評しているうちに、到達したのは批評の外にある構造、道具だったのだ。もしかしたらそれが彼にとって一番「苦しくない」制作物だったのではないか。筆者も文系出身のくせにプログラマーをやってきた人間だ。文系青年にとって、仕組みとか構造とか、そういうものって、実は結構「あんまり考えなくていいから楽なもの」なんじゃないかと思う。Kickstarterの強さは、文系をこじらせた青年がいろいろぐるぐる回った末に到達したシンプルな「道具」という割り切りなのかもしれない。

 

理系と文系のハイブリッドが時代をつくる、なんて話をよく聞く。だけど本当は、理系に逃げた文系難民や、文系に逃げた理系難民が新天地で生み出したものこそが大きなエネルギーを生み出すのではないだろうか。2009年に超文系青年がつくった「道具」は、2014年には世界中に20,000以上の新しいクリエイティブを送り出し、日本円にして500億円ものbackを集めている。もう世界は、Kickstarterなしではやっていけない。Kickstarterは「人類の道具」になっているのだ。

じゃあ、それをつくった彼は、人類に貢献したくて道具をつくったのか? 最後に、「人間のこと、好きですか」と聞いてみた。Yanceyは言った。

「うーん。人間についてはそんなでもない。だけど、人間同士でインタラクションする、刺激を受ける。それはとても面白い」

期待通りの文系っぽい答え。

だけど、開き直った文系ほど怖いものはない。それは世界のどこに行ったって同じことなのだ。

※1 http://pitchfork.com/
※2 http://www.emusic.com/

 

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Yancey宅前でダベるYanceyと筆者。絵に描いたようなブルックリンの住宅街。いいとこに住んでいる

 

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自宅内にはKickstarterでいろいろなクリエイターが実現した本やプロダクトがたくさん。この人がつくった「道具」のおかげで、世の中はいったいどのくらい面白くなったのだろう

 

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Yancey Strickler。気さくな35歳。いい人だけど、一癖も二癖もある「深い」文系こじらせ経営者だ

 

清水幹太のQuestion the World:
30代後半になってニューヨークに移住した生粋の日本人クリエイター清水幹太(PARTY NY)が、毎月迎えるゲストへの質問(ダベり)を通して、Webについて、デジタルについて、世界を舞台に考えたことをつづっていくインタビューエッセイ。
Photo : Suzette Lee (PARTY NY)

 

Text:清水幹太
Founder/Chief Technology Officer/PARTY NY 1976年東京生まれ。2005年より(株)イメージソースでテクニカルディレクターを務める。2011年、クリエイティブラボ「PARTY」を設立。企画からプログラミング、映像制作に至るまで、さまざまな形でインタラクティブなプロジェクトを手がける。現在はニューヨークを拠点に広告からスタートアップまで幅広い領域にチャレンジしている。http://prty.nyc/

掲載号

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