シリコンバレー発「ハートに響くUI」を実践する「Goodpatch」の魅力を探る|WD ONLINE

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モノを生むカイシャ Web Designing 2015年9月号

シリコンバレー発「ハートに響くUI」を実践する「Goodpatch」の魅力を探る

同業他社も認める、Webのトレンド最前線。シリコンバレー発「ハートに響くUI」で爆進するグッドパッチの魅力はどこに?そのナゾを探るべく、私、塩谷舞がオフィスにうかがいました!
Photo:石塚定人

同業他社も認める集団

はじめまして! 大幅リニューアルした、15年目のWeb Designing。はじめまして、読者のみなさま。塩谷舞と申します。私がインターネットにハマったのも、まさに15年前。小学5年生の頃でした!

この15年で、Webデザインの歴史はめまぐるしく更新されました。その歴史を築いてきたのは、未踏の表現やビジネスモデルに斬り込んだ偉人や制作会社の存在があります。

そして今、もっとも前線へと斬り込んでいる会社はどこだろう? 多くのWeb制作者に聞いてみると、こんな答えが返ってきました。

「そりゃあ、Goodpatchでしょう」

グッドパッチ! 思わず声に出したくなる社名です。同業他社も認めてしまうトレンド最前線には、いったいどんな人物が‥‥? さっそく代表の土屋尚史さんに、会いに行ってきました!

Company Profile

(株)グッドパッチ
組織形態:株式会社
資本金:5,500万円 事業内容:UI(ユーザーインターフェイス)のデザイン、企画・設計、開発・実装。受託だけでなく、プロトタイピングツール「Prott」といった自社プロダクトの開発、運営も行う
スタッフ数:65名(2015年8月現在)
設立:2011年9月。2015年5月にドイツ・ベルリンに「Goodpatch GmbH」を設立

 

土屋尚史 TSUCHIYA Naofumi 株式会社グッドパッチ CEO Webディレクターとしてキャリアを重ねた後、2011年にサンフランシスコに渡り、コンサルティング会社にて日本企業の海外進出サポート。SFNewTech JapanNightなどのイベント企画に従事。2011年、帰国後UI設計・デザインに特化した株式会社グッドパッチを設立。大企業の新規事業開発やスタートアップのサービスにUIだけではなく、サービスデザインから関わりサポートしている。

——グッドパッチの設立は2011年と、つい4年前のことです。なのに、社員がすでに60名を超えています。いったい何が起こったんですか?

「僕は最初に、大阪のWeb制作会社でディレクターとして働いていました。でもそこは新しい技術に対して否定的な社風だったんです。そんな環境に対して悶々としていたとき、祖母の遺産500万円を手にしたんです。それを資本金にして、会社を設立しようと決めました」

——会社を設立される前には、シリコンバレーで働かれていたとのことですが。

「起業するとしても、旧態依然としたいわゆる『Web制作会社』は作りたくなかった。じゃあ、どんな会社にしよう? そう悩んでいるタイミングで聞いた、DeNA南場(智子)社長の講演に衝撃を受けたんです。『シリコンバレーには、アメリカ人だけの会社なんてありません。彼らは多国籍、多人種なチームで、最初から世界を相手にサービスを作り出している。対して日本のスタートアップは、国内の成功を経て世界に進出しようとするけど、それでは勝てる訳がない。起業するなら、多国籍軍を作りなさい!』という内容。それを聞いた次の日には、シリコンバレーに行くことを決めました(笑)」

——即決ですか! そこでUI(ユーザーインターフェイス。つまり利用者にとっての使いやすさのこと)との出会いがあったのですね。

「サンフランシスコでは会社に属して仕事をすることになりました。まず驚いたのは、UIに対する意識の高さでした。日本のWebデザインは装飾にこだわったり、画面の小さなスマホアプリにPCと同じ機能を詰め込んだりしている一方で、アメリカのスタートアップはとにかくユーザーにとっての使いやすさを洗練させるフェーズに入っていたんですね。『あ、この流れはすぐ日本にもやってくるな』と考えて、すぐに帰国。UIデザインに特化したデザイン会社『グッドパッチ』を立ち上げたんです」

——爆速! でも、「UIデザインに特化」と言っても日本のクライアントはピンとこなかったのではないでしょうか?

「そうなんです。仕事は全然こなかった。もちろん僕らの実績もなかったので、まずはWebでアプリ制作の仕事を見つけては、その都度問い合わせて、実績に加えていきました。ただ、報酬は少なかった。起業して1年、社員に給料を払えなくなりそうで、祖母から受け継いだ500万はいつしか30万くらいになっていましたね」

——やばい! それはピンチですね‥‥。

「そんな状態でしたが、シリコンバレーで出会った日本人学生たちのアプリが、内容はいいのに、UIがあまりにもひどくて。見かねて無償でデザインを提供したんです。そのサービスが『Gunosy』でした。彼らはたちまち注目され、同時に知り合いの編集者が『GunosyのUIデザインを手がけたのはグッドパッチだ』と記事にしてくれたんです。その記事がものすごく拡散されました。そのお陰で多くの人が「UI」という言葉を理解してくれたし、数えきれないほどの相談が舞い込むようになったんです」

OFFICE

Goodpatchのオフィスは自由な雰囲気に満ちあふれています
コミュニケーションしやすい、風通しのよさが印象的でした

 

 

全世界に向けたモノづくり

「日本にもUIの流れがやってくる」。そんな土屋さんの読みは見事に当たり、そこからのグッドパッチは大盛況。「新しいものが好き」「UIデザインが好き」という仲間が次々と集まり、たちまち60人を超えるデザイン会社へと急成長していったのです。現在、グッドパッチは日本、アメリカ、ドイツなど9カ国のメンバーで構成された、まさに多国籍軍となっています。

グッドパッチのオフィスからは、日本の会社とは思えない風通しの良さを感じます。席を自由に移動したり、手を動かすよりも頭を使うことに時間を割いたり、時には卓球で気分転換をしたり。そして、土屋さんをはじめ、20時頃にはみんなオフィスからいなくなります。そのためか、疲弊しているような人は見当たりません。

一人の社員が担当する案件は、必ず一つ。案件にかける時間と熱量がとても大きいのです。さらに驚くべきことに、クライアントがグッドパッチのオフィスに席を置いて、彼らの仕事ぶりを吸収していくようなシーンもあるのだとか。確かに「ここでちょっとでも働いてみたい!」と思わされるような、ポジティブな雰囲気でいっぱいでした。

 

2014年には自社プロダクト「Prott」をリリース。アプリの試作品が簡単に作れる、Web開発者のための便利ツールです。もちろん、ターゲットユーザーは「全世界」。受託制作もしながら、スタートアップのようにサービスも展開する。それがグッドパッチのスタイルです。 

CREATIVE

アプリのUIデザインや自社で開発したプロダクトなど、
Goodpatchの代表的な作品を紹介します

マネーフォワード(2014年) 個人の資産をすべて一括で管理、活用するパーソナルファイナンスのサービス「マネーフォワード」のiPhoneアプリをリニューアルデザイン。複雑な機能を親しみやすくまとめることで、KPIとして掲げていた金融機関登録者数が11%増加。UIデザイナーがクライアント社内に常駐して綿密なコミュニケーションを図るなど、クライアントと一体となって丁寧につくり上げられた作品 (画像は2014年5月時点でのデザインデータであり、現在の実装とは異なります)

 

Flat(2015年) 会社のみんなと完全匿名で雑談できるアプリ「Flat」。役職や部署に関わらずフラットに雑談することで、働く会社をもっと好きになってもらいたいというコンセプトメイキングから携わり、UIデザインを制作。匿名サービスでもネガティブにならず、気軽でポジティブな雑談ができる空気感を、色合いやアニメーション、ラベリングで表現している

 

Paidy(2015年) オンライン決済システム「Paidy」の管理画面UIを制作。管理画面に特有の情報量の多さを、ヒエラルキーや属性をしっかりと整理することでシンプルかつ直感的に理解できるようにデザインしている。デザインの一貫性を保つために色とアイコンを効果的に用いているほか、グラフのソート機能などもわかりやすさ、使いやすさが重視されている

 

Prott(2014年) グッドパッチが自社で開発・運用するUIのプロトタイピングツール「Prott」。思いついたアイデアを実際に動くUIとして確かめるための時間と難易度を可能な限り下げ、初心者でもプロトタイプが作れるように開発された。ユーザーがデザインしているプロトタイプのUIをProttのUIが邪魔しないよう、一つの画面に表示する情報や装飾を限りなく削り、直感的な操作を意図した配色がなされている。国内を代表するWebサービス企業が導入するほか、多摩美術大学ではUIの設計・デザインの講義で公式教材として利用されている

 

◎取材後記 Goodpatchは、可能性にあふれた会社!

「UI」を信じてブレずに爆進する、土屋尚史さん。インターネットの歴史が、今そこで生まれてるぞー!と感じながら、取材を終えたのでした。偉人です!

 

■Goodpatch取材メモ

・アプリマニアの土屋さん。「スマホのホーム画面を見れば、その人がUI好きかどうかわかる」らしい!
・自分たちのプロジェクトのようにクライアントワークを自主的に手掛けるのがグッドパッチのスタイル
・定時後に退社したあとは、とにかくインプット! 仕事以外の情報に触れて、脳みそを新鮮に保つそう
・大手事業会社から「グッドパッチで受託の仕事をやりたい!」と転職してくる人も多数いる模様

 

Text:塩谷舞(しおたん)
1988年大阪生まれ、京都市立芸大卒。PRプランナー/Web編集者。(株)CINRAにてWebディレクターとして大手クライアントのコーポレートサイトやメディアサイトなどを担当。その後、広報を経てフリーランスへ。お菓子のスタートアップBAKEのオウンドメディア「THE BAKE MAGAZINE」の編集長を務めたり、アートに特化したハッカソン「Art Hack Day」の広報を担当したり、幅広く活躍中。 ciotan blog:http://ciotan.com/ Twitter:@ciotan
 

掲載号

Web Designing 2015年9月号

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