「平成27年版将棋年鑑」より巻頭特集4「森下卓が電王戦を語る」 | マイナビブックス

価値ある情報を幅広く紹介。将棋の「知りたい」はここで見つかる

マイナビ将棋編集部BLOG

新刊案内

「平成27年版将棋年鑑」より巻頭特集4「森下卓が電王戦を語る」

2015.07.14 | 島田修二

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

みなさんこんにちは。
今週末のチャレンジマッチが楽しみな編集部の島田です。

今日は久しぶりに将棋年鑑でいきます。

先日、我らが哲っちゃんこと藤原が書いていた「戦型分類の難しい棋士ベスト3」がうらやましいくらい面白かったのでそれに負けないように頑張ります。

と、いうわけで本日ご紹介いたしますのは巻頭特集その4
森下卓が電王戦を語る」です。



森下先生といえば第3回電王戦に出場し、年末にリベンジマッチも行った棋士。
電王戦にかなり深く関わったプロ棋士が今回の電王戦ファイナルをどう見たか。気になるところですが、期待に違わずめちゃくちゃ面白い内容となっております。

今日はこの中からわたし的に印象深かったところを幾つか取り上げてご紹介したいと思います。


では早速。


まずは「イベント開始前」です。
電王戦ファイナルが始まる前、森下先生がこの戦いをどう予想していたか。

その答えはなんと驚きのプロの全敗です。本文をみてみましょう。


===========================
第1回の米長先生もそうだったが、私も含め、プロ対コンピュータの対局を観ていると、「いい将棋を逆転されてしまった」展開が多いことに気付く。
人間としては「序中盤の有利を保ったままいかに勝ち切れるか」が大きなポイントなのだが、それが非常に困難であることがコンピュータと戦っての偽らざる結論だった。
今回の電王戦ファイナル、正直に言わせていただければ、誰が出てきても、まともに戦ってはプロ側の全敗だと思っていた。
私が戦ってからさらにコンピュータの棋力は上がっているはずで、そもそも序、中盤で良くできるのかさえ分からない。良くできなければ勝てる可能性は皆無だ。
プロ側に勝機があるとしたら、コンピュータの穴を探し当てられたときだが、果たしてどうなるか─。
平成27年3月14日、人類VSコンピュータの最終決戦、電王戦ファイナルが始まった。
==========================



ポイントは「まともに戦ってはプロ側の全敗」というところですね。それが森下先生の本心ということでしょう。


さて、全5局それぞれ紹介したいところですが、ここは見出しだけで。
詳しくは年鑑でお読みくださいませ。

第1局 最強最速の1勝
第2局 不可解な一局
第3局 稲葉七段が自ら倒れてしまった
第4局 驚愕の構想
第5局 急転直下の終局


見出しを読んだだけで内容が読みたくなりましたね?
ええ、それが私の狙いです。

って、第5局まで終わっちゃったじゃん!と思ったかもしれませんが、私が紹介したいのはこのあとのまとめの部分「電王戦を振り返って」ということろです。

ちょっと長いですが、非常に面白いので紹介します。

=====================================
私は将棋の総合力という点ではコンピュータに比べて人間が劣っているとは思っていない。
ただ、一局の勝負をする場合、コンピュータは疲れない、恐れない、そして錯覚をしない。この三つが非常に大きく、人間があまりにも不利だと考えている。
もしプロ棋士に特殊な薬を投与して、対局中は疲れず、感情も揺れず、見落とし錯覚もしないということになれば、間違いなく互角以上の結果になるだろうが、それはあくまで空想の話だ。
今回は事前貸し出しのルールにのっとって、コンピュータのクセを探し出した結果、プロ側の勝利に終わったわけだが、もし第2回電王戦のような事前貸し出しなしのルールでやったとすれば、タイトルホルダーも含めたプロのトップ5名が出てきたとしても私はコンピュータが勝つ方に乗る。確かに将棋では勝つかもしれない。しかし勝負に勝つのはコンピュータだろう。
ちなみにツツカナとのリベンジマッチで私が提唱したルール、つまり継ぎ盤の使用ありで一手10分の持ち時間が与えられるなら逆にプロが全勝するだろう。一度有利に立てば逆転を許すことはないだろうから。ただしこのルールは勝負として全く面白くないのが難点。スリルという勝負の最も重要な要素を欠いてしまうからだ。
======================================



第2回のようなルールではトッププロ5人相手でもコンピュータが勝つ。
しかしリベンジマッチのルールなら逆にプロの全勝。

なるほど~。勝敗はルール次第ということですか。

でも正直この森下先生の「将棋の総合力という点ではコンピュータに比べて人間が劣っているとは思っていない」という命題について、みなさんどう思いましたか?

これまでの電王戦の結果によってコンピュータ将棋が人間を凌駕したのは誰の目にも明らか、まだ人間のほうが上回っているなんて、負け犬の遠吠えじゃないの?と、思った方も中にはいらっしゃるんじゃないでしょうか。

しかししかし、ここで思い出した私。将棋年鑑の巻頭特集その2は「糸谷竜王ロングインタビュー」ですが、そのインタビューの中でコンピュータ将棋に触れて糸谷先生はこう言っていたのでございます。

=====================================
─今回の電王戦を観ていかがですか?
「やはり一番話題になったのは第5局だと思います。アンチ・コンピュータ戦略を取らざるを得なかったということで」
─まともにやっては勝つのは難しいということでしょうか?
「そんなこともないと思っています。例えば森下先生がリベンジマッチでやっていたような持ち時間(一手10分)であれば普通に勝てるのではないかと考えています。秒読みというルールは、人間に終盤で間違えることを強制しているものですので、持ち時間が長ければ長いほど人間が有利になるでしょう」
=====================================

「秒読みは人間に間違えることを強制している」という考え方が非常に面白いです。
秒読みというルールは人間VS人間で対局する分にはスリルの要素が加わって大変面白いわけで、今まではそれが当然のルールだと思ってきたのですが、それをそのまま人間VSコンピュータに適用した瞬間にそれは人間にとって余りにも不利なルールになってしまう、というわけです。

もし、最初から人間VS人間の対局が一手10分の持ち時間で行われていたとしたら、人間VSコンピュータにも当然それが適用されていたわけで、そうだとしたらまだ「コンピュータは人間の相手にはならない」という結論のままだったかもしれません。

巻頭特集その2とその4、糸谷先生と森下先生は全く別の場所で発言されたわけですが、くしくも同じことを言っている、という結果になりました。いやー、興味深い。

みなさんはどう思いましたか??

コンピュータ将棋についてはいろんな意見があると思うんですが、今回私は「ルール次第でまだまだ楽しめそうだなー」とのほほんとした結論に至りました。



と、いうわけでこんな面白い巻頭特集が読めるのは「平成27年版 将棋年鑑」だけ!

発売日の8月1日が近づいてまいりました。

予約するとプロ棋士のポストカードがついてきますから、購入される方はお早めにご予約を。