こんにちは。最近「山田かつてない」を連発して後輩を辟易させている編集部島田です。
ご存じの通り、私は将棋書籍の編集担当であり、ここは将棋情報局のブログなのですが、今日は隣の囲碁書籍の部署がとても興味深い本を出したので紹介したいと思います。
ネットで話題になっているのでご存じの方も多いと思いますが、王メイエン九段の「囲碁AI新時代」という本です。
本書はメディアを騒がせたアルファ碁VSイ・セドル戦、趙治勲VSDeepZen戦をトップ棋士が分析、今後の囲碁AIの可能性やプロ棋士の有り方について深い洞察を示した一冊です。
私は囲碁級位者なので、対局分析の方はなんとなくしかわからなかったのですが、考察の部分で非常に興味深いことが書いてあったので、紹介してみたいと思います。
「大きさ」という見出しで始まる一節です。
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囲碁は最終的に陣地を多く取ることを目的としますが、自分の打った一手によって、陣地をどれだけ確保したか、あるいは相手の陣地をどれだけ破壊できたか、それをはっきり数字で表すことができます。
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ふんふん。なるほど。
囲碁のプロ棋士は「この手は○○目」というように、数字を目安として頭に入れながら、打っていくのだそうです。
コンピュータ囲碁は人間に比べて死活や手の大きさの計算が(意外にも!)苦手で、アルファ碁VSイ・セドル戦を前にして、王九段は「死活や手の大きさが分からないものがセドルに勝てるわけがない」と思っていたとのこと。
しかし、結果はご存じの通り、アルファ碁の4勝1敗で終わりました。
王九段はこう言っています。
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ディープラーニングはアルファ碁をつれて、人間の頭上を飛び越していきました。碁は思ったよりもはるかに広く、アルファ碁にはあり余るほど計算力があり、欠陥を抱えたままでも、それを避けて回り込む余地が碁盤にはあったのです。
マスターも部分的な認識をしているように見えませんが、アルファ碁よりもさらにたくましい。弱点の穴を踏まないようにする印象から、足元の小石を力ずくで蹴飛ばしているように見えました。
碁を打つためには「死活」と「大きさ」の概念が必要という前提がそもそも間違っていました。以心伝心ができれば言葉はいらない。コンピュータは「死活」と「大きさ」を認識できないのではなく、部分的にそれを認識する必要がなかったのです。
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なんということでしょう。
私は今まで、コンピュータは(詰将棋などの)部分的な計算が得意で、序盤の構想には人間に及ばない、むしろそういった「構想力」や「創造力」と呼ばれるものこそが人間にしかないものだと思っていました。
しかし、ディープラーニングがもたらした現実は、むしろその逆ではないか、というのです。
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碁盤を一つととらえて処理するのが、碁の本質とマッチしたいい方法になったのでし
た。
人間はそのような処理ができないので、部分的に分かることから解明して、それらの情報を総合的に判断する。それ以外に方法がありません。これからコンピュータの打つ手は人間には大いに参考になりますが、人間は未知の局面に出会ったとき、部分をそれぞれ意味づけした上で、そのトータルで判断する。その図式は変わりようがありません。碁は意味の積み重ねである読みよりも、とらえどころのない形勢判断の方がずっと重要でした。それがいまコンピュータの得意分野となったのです。
世界は有理数で構築されていると信じてきたのに、それが無理数の海の上に浮かぶ藻屑にしかすぎないことに気づいた、と例えるのは大袈裟でしょうか。それでも人間には海の深さは計れず、目につく藻屑を眺めて過ごすよりありません。
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・・・碁盤は人間の理解をはるかに超えて広かった。
それが現実世界ならなおさらでしょう。
我々は自分のわかる「部分」を頼りに世界を「構築」するだけで、どこまでいっても世界を「全体」として捉えきることはできない。
ディープラーニングが新しい世界の捉え方を提示した今、人間がこれとどう向き合っていくかが問われている。
・・・う~ん。深い。
「囲碁AI新時代」は昨日から発売が始まっています。囲碁が分かる方ならもちろんですが、分からない人でも大きな視座を与えてくれる一冊だと思います。
井山裕太六冠、百田尚樹氏推薦!
「今話題のAI、そして人間とは何か、ということを考えさせてくれる、そういう1冊だと感じました。 メイエン先生の思いをご自身の言葉で語られた、大変な力作だと思います」(井山裕太)
「スリリングかつ知的興奮に満ちた本である。囲碁で人類を打ち破ったAI(人工知能)には「心」がある! 著者の王銘エン氏はその深層心理に踏み込んだ」(百田尚樹)
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