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雨宮編集長のコゴト

2014.06.21 | 週刊将棋編集部

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 まだ駆け出しだったころ、対局の取材では写真の撮影に苦労した。当時はデジタルカメラが普及する前なので、使っていたのはフィルムのカメラ。撮った写真をその場で見ながら、なんていうことはできない。フィルムを現像に出し、あがってきたプリントを見て「ありゃ~」とがっかりする。そんなことを繰り返していた。
 
 特に分からなかったのが、撮影するポジション。どこなら対局者の表情が撮りやすいのか、封じ手の受け渡しはどこから狙うのか。下手な場所から狙っても、人の背中ばかりが大きく写るなんてことになる。
 
 ふと、思った。プロのカメラマンは、どこから撮るのだろう。棋士を撮り続けてきたベテランなら…。そこで、ベテランのそばにくっついて撮ることにした。真後ろ、というわけにはいかないので、やや斜め後方で、ベテランがレンズを向ける方向に自分のカメラを合わせた。なるほど、と思わされたことが何度もあった。
 
 ある日、撮影が一段落したときに、そのベテランが振り返ってニッコリ。「邪魔じゃなかったですか」と声をかけてくれた。確かに、姿勢によってはベテランの体が被写体にかぶってしまうこともあったが、もちろんこちらはそれ以上の恩恵を受けている。小うるさく側にくっついていたのは自分のほうだから、恐縮してしまった。あるいは、こちらの安直な意図を承知の上で、下手なカメラさばきを気遣ってくれたのだろうか。
 
 中野英伴さんは、そんな人だった。
 
 6月16日に83歳で死去。
 ご冥福をお祈りします。

 



※写真は2008年の竜王戦第7局(奥中央が英伴さん)と、2011年の大山康晴賞授賞式