仕掛人は大学生協。先輩から後輩へiPad活用の継承|MacFan

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仕掛人は大学生協。先輩から後輩へiPad活用の継承

文●神谷加代

鳥取大学医学部では、iPadによって先輩から後輩へノウハウを伝授する取り組みをスタートさせた。

医学生が自主的に持ち始めた

医学科の6年間は、とにかく勉強する量が多い。医学に関するあらゆる知識の質と量が求められ、新しい分野、専門的な内容を次々と学んでいく。4年生には病院実習を前にした全国共通の共用試験、6年生には医師国家試験にも挑まなければならず、単位をとるだけでなく試験突破に必要な能力も同時に備えていかねばならない。

鳥取大学医学部の生協で店長を務める片山徹也氏は、こうした医学生の勉強を見続ける中である変化に気づいた。

 

 

鳥取大学医学部(鳥取県米子市)は、医学科、生命科学科、保健学科の3科を設置している。全国的にも少子高齢化が進む地域であることから、その特性を活かした保健・医療・福祉の教授、実践に取り組む。

 

 

鳥取大学生協医学部店店長の片山徹也氏(左)と2015年の講座でメイン講師を務めた医学科4年の野内直子さん(右)。鳥取大学の医学科生にとって必要なiPad活用は何かを考え、先輩学生のノウハウが伝授できる学生主体の講座を実現した。

 

 

「2013年頃でしょうか。医学科の学生たちの多くがiPadを持って勉強しているのに気づいたのです。学生の勉強スタイルが変わってきたなと感じました」

当時、鳥取大学医学部では学生全員に対してウィンドウズPCを必携にしていたが、それに加えてiPadを保有する学生が増えてきたという。学生の学習環境全般を支える立場にある片山氏は早速、学生のタブレット保有状況を調査した。

「調査から分かったことは、医学部の中でも特に医学科の学生のiPad保有率が高いことでした。6年生にもなると約6割の学生がiPadを使用しており、そのうち91%の学生が“普段の学習に役立てている”と回答しました。医学科生の中でiPadが広く支持されていることを認識しました」

医学科の学生がiPadを利用していた理由は何か。学生たちは、これまでに学んだ内容をデータ化し、必要なときにいつでも見られるようiPadをビューアとして活用していたのだ。同科では、教科書やプリント、ノートなどの教材が膨大な量になり、おまけに画像データの使用も多い。学生たちは進級するにつれて、さまざまな病気の関連性を調べるために過去に学んだ授業の内容を振り返る機会も多く、必要な情報にいかに素早くリーチできるか、その課題解決のツールとしてiPadを活用していた。しかも、iPadミニであれば、白衣のポケットの中に入れることができ、実習中も使いやすいというのだ。

一方で、調査からは課題も見えた。さまざまなアプリを使いこなしてiPadを徹底的に活用する学生もいれば、PDFやブラウザの閲覧のみの利用にとどまる学生がいるなど、学生間で習熟度に偏りがあったのだ。こうした状況を踏まえて片山氏は、“鳥取大学医学科生”に焦点を当てたiPad講座を大学生協として開講することを決意。同科の新入生に対して、2015年は計5回、2016年は計8回のiPad講座をスタートさせた。

 

 

iPad講座は1回90分、計8回実施される。学生によるメイン講師に加えて、各班にグループアドバイザーを配置。進捗に合わせて受講生をフォローする形で進められる。講座で使用するスライドや資料はすべて学生の手作りで、そのほとんどをiPadで作成しているという。

 

 

医学科生に有効なiPad活用

“鳥取大学医学科生”に焦点を当てたiPad講座とは、どのようなものか。同講座を始めるにあたり片山氏は、同大学の医学科生にしか語れない内容こそが後輩にとっても価値ある情報だと考え、先輩の体験をベースにしたiPad活用や、“こうしておけばよかった”といった学習上のアドバイスを盛り込んだ講座を目指した。そのため、同講座の運営には学生スタッフも加わり、学生の生の声に耳を傾けながら、職員と学生が協力して講座の内容や準備を進めているのが特徴的だ。

講座の開催期間についても、新入生の大学生活が始まる4~5月の間で実施し、iPad講座を受講することで、新入生の勉強に対する不安を軽減し、良いスタートが切れるようにサポートしている。

「学生たちは目の前の課題には必死に取り組みますが、6年間を通した勉強については、どのように進めていけばよいのかわからないことが多いのです。iPad講座では、そんな学生たちに対して、6年間のカリキュラムに合わせて、これからの勉強を効率的に進めるためのアドバイスを提供することを大切にしています」

たとえば、医学部6年間で学ぶ膨大な知識量に関しては、1年生からコツコツとデータ化しておくことをiPad講座では提案している。オンラインノートの「エバーノート(Evernote)」を医学科生に必要なメインツールとして紹介し、授業で配布される膨大なプリントをスキャンで読み込み、科目ごとにノートにまとめて、いつでも取り出せるようにしておくことが大切だと受講者に伝えている。

しかも、医学科生の場合はエバーノートで画像やファイルを取り込む際には、あとから検索しやすいことを意識して、画像には体の部位や名称などの専門用語をテキストで付け加えたり、効果的なタグ付けをするなど工夫が必要だ。医学科では上の学年に進級するにつれて、横断的な知識が求められ、過去の授業の内容を振り返る機会が多いことから、iPad講座では、そうした医学部における学習の道筋を受講者にも共有することを大切にしている。

ちなみに、iPad講座を受講できるのは、医学科1年生のうち大学生協で講座を申し込んだ学生が対象になる。2016年度は新入生105名のうち、約半分の学生がiPad講座に参加したという。

 

 

鳥取大の医学科生、3年生までに配られるプリントや教材の量(右)。PDFで配布されることもあるが、紙で配られることが圧倒的に多いと学生たちは話す。これらのプリント類をいつでも取り出せるように、iPad講座では「エバーノート・ビジネス」(左)をメインツールとして紹介し、効率的な学習に活かしている(画像出典:標本.鳥取大学医学部解剖学講座)。

 

 

高額な医学辞書も、iPad用アプリではお手頃な価格で入手できる。もちろん、携帯性に優れ、どこにでも持ち運べることも魅力。

 

 

先輩のアドバイスこそ価値

iPad講座を運営する学生スタッフの一同にも話を聞いた。2015年にメイン講師を務めた野内直子さん(医学科4年)は、「自分も、1年生のときからiPadを使っていたら便利だっただろうと思うことがあります。iPad講座の受講生には、6年間使う大事なツールとして大いに活用してほしいですね」と話す。中でも、野内さんはエバーノートを使って、何年か前に学んだ授業の内容をいつでも大学で引き出せる環境にしておくことが、医学科では重要だと語った。

2016年にメイン講師を務めた高橋知也さん(医学科2年)は「医学辞書の電子書籍は、医学科生の強い味方です。紙の本と比べて楽に携帯できますし、検索もスムースです。電子書籍ビューアアプリとしては、しおり機能や共有機能に優れた『VarsityWave eBooks』をおすすめしています」と述べた。医学部に入りたての頃は、専門用語の量に驚いてしまうが、そうした際もストレスなく調べられることで、難しく感じる勉強も乗り越えていけると話す。

ほかの学生スタッフからも「エバーノートのノート管理には科目だけでなく、学年と先生の名前を入れておくほうがいい」「エバーノートの目次はリンクで作成しておくと便利」「暗記の勉強には『暗記マスター』のアプリを使ったり、キーノート(Keynote)で自作問題を作るのも効果的」など、自分がiPad講座を受けた際にも、学習に役立つ情報をたくさん先輩から教えてもらったと述べた。

先輩から後輩へ。実経験を伴う先輩学生が話す内容だからこそ、後輩学生も自分事として受け止め、次なるアクションへも移しやすい。鳥取大学医学科生のためのiPad講座は、学生が代々引き継いだiPad活用や学習のノウハウを集約する場としても、今後は機能していくだろう。

 

 

先輩の体験をベースにしたiPad活用は、学生アンケートの結果でも好評だ。「この講座に出なければ今後も知り得ないことがたくさんあった」「iPadを使いこなせるか不安があったが、先輩のサポートが受けられることで安心して参加できた」など、先輩の存在が後輩学生の満足度を高めているようだ。

 

 

2015年にiPad講座を開始して以降、講座の運営に携わってきた学生スタッフの皆さん。講座以外にもサポートセンターを設置し、iPadのトラブルや使い方の対応窓口として能力を発揮している。