2016.09.05
何の前触れもなく、突如公開された日本向けに特化したアップルの事業がもたらす社会貢献度をデータ化した「雇用創出」WEBページ。公開されたその数字を単独で読み解こうとしてもその価値を評価するのは難しいが、分散する関連ページや過去の資料と組み合わせて読み解くと、アップルにおける国ごとの序列が透けて見えてくる。
異例の情報公開手法
8月2日、アップルはWEBページにおいて「雇用創出」を日本市場向けに集計したものを公開した。これは、自社の事業がもたらす社会貢献をデータ化して公開する取り組みの一環である。そもそもは2012年の3月に本家の米国サイトで公開が始まったものだったが、4年半経った今になってほかのエリアの情報公開を行ったという経緯だ。
これが恒例のIR(投資家向け状況報告)情報であれば、そのまま流されてしまっただろう。しかし、本誌を含め複数のメディアが注目しているのが、今回の情報はローカル、つまりその地域ごとに特化した内容での公開だったからだ。
アップルは通常すべてのオペレーションにおいて「グローバル」を標榜としており、どのエリアでも同じレベルでの情報公開を基準としてきた。過去公開された実績でも、環境やサプライヤー責任、プライバシーといった取り組みに関して見ると、アップル全体の取り組みとしてコンテンツを作成し、各国のページに翻訳されたものが載るというスタイルが一般的だ。その点でも、今回日本向けに特化した内容でページをローカライズしてくるというのは、これまでのルールとは異なった目的で掲載を行ったと考えることができるはずだ。
そもそもこれらの取り組みを公開するのは、われわれ一般消費者をメインターゲットにしているわけではない。先代のCEO、スティーブ・ジョブズが存命だった頃であればハードウェア、ソフトウェアともに技術面における革新の伸びしろも大きく、新製品を出し続けることで市場の注目も十分に得ることができた。しかし、成熟期に入った現代においては過去と同じようなインパクトを新製品のリリースだけで市場に与え続けるのは難しい。とはいえ、会社の成長(もしくは成熟)を常に示し続けなければいけないのも、資本主義における企業に与えられた使命だ。
ゆえにティム・クック現CEOは「社会貢献と多様化への対応」という新しい指標をもたらすことで、アップルの価値を引き続き高めようとしている。単なる「イノベーション企業」ではなく社会の一端を担う「大人の企業」という側面を持つための施策と捉えれば、これらのPR活動にも一貫性が見出せる。オープンで社交的な企業というのは誰から見ても社交的で、投資家にも新しい魅力が提供できるのは間違いない。