パラレルスで働く日下部さんを訪ねる|MacFan

アラカルト アップルのミカタ

“人々のやりたいことを実現する”がParallelsのメッセージ

パラレルスで働く日下部さんを訪ねる

文●栗原亮

なぜ、アップルのミカタをするのか? アップル製品を手厚くサポートするハード&ソフトウェアメーカーの担当さんに、その理由を聞いてみた!

 

日下部徳彦 (くさかべ・とくひこ)

パラレルス株式会社クロスプラットフォーム ソリューションズ事業部マーケティングマネージャー。神奈川県生まれ。慶應義塾大学大学院修了後、ヤマギワに勤務。ドイツ企業の事例調査から情報デザインの重要性を業務に取り入れることを実践する。その後、アドビ システムズでフィールド・プロダクトマーケティング、テクニカル エヴァンジェリストとして教育事業にも携わってきた。現在は、パラレルス日本法人でコンシューマ向け製品のブランディングや企業向け施策などを多角的に取り組む。個人的にもデザインなどクリエイティブなことに興味があり、ピンタレスト(Pinterest)にハマって2年半以上経つ。

 

ウィンドウズなどのMacと異なるOSや古いバージョンのOS Xを、普段使っている環境でそのまま動かせるのが仮想化ソフトだ。「パラレルス・デスクトップ(Parallels Desktop)」(以下、パラレルス)はその代表格で、企業ユースはもちろん従業員数名程度のスモールオフィスや個人でも利用者が増えている。だが、Macでウィンドウズを動かすことは手段に過ぎず、仮想化ソフト本来の目的は「自分のやりたいことを使い慣れたMacで実現すること」にあると語るのは、パラレルス社日本法人でPRやプロダクトマーケティングなどを一手に担う日下部徳彦さんだ。

「ユーザがコンピュータを使うのはプレゼン資料を作りたいとか、家計簿をつけたいといったような目的があるからです。Macを使っていて、もしウィンドウズでしか動かないような業務用システムやソフトがあった場合、そちらを使ったほうが効率的ならばMacの快適な環境で使えるようにすればいい…という実にユーザ目線の発想がパラレルスの誕生理由です。“RUN WINDOWS ON YOUR MAC”という製品メッセージが前面に出ていますが、目的実現のために各プラットフォームの良いツール(ソフト)を選べることこそがパラレルスの最大メリットだと思っています」

 

 

 

ビジネス用途のイメージが強かった仮想化ソフトというセグメントの中で、パラレルスがユーザ視点から目的ありきのメッセージを打ち出すようになったのは日下部さんのこれまでの歩みと無関係ではない。90年代に大学院で情報デザインの研究をしていた日下部さんは、そこでMacやNeXTをはじめ初期のフォトショップやイラストレータなどのクリエイティブソフトと出会う。大学院修了後は照明の製造・販売で老舗のヤマギワに入社し、ドイツのデザイン会社とのやりとりの中で情報デザインの知見を深めていった。

「ドイツでは内照式サインパネルの光の標識が夜になると膨らんで見えるという性質から、昼間はあえて細いフォントを選んでいる例があります。UI/UXと呼ばれる、どのように情報を人に伝えるかという情報デザインを当時からすでに実践していたのです。こうしたデザイン思考やヤマギワ時代に叩き込まれたブランディングの重要性は、その後の仕事の糧となっています」

 

 

 

アドビ システムズに転職した日下部さんはフォトショップやライトルームのローンチを担当するなどし、プロダクトマーケティングの経験も積んでいった。

「(アドビでは)学生時代に出会ったソフトを担当できたのですから感動モノでした。かれこれ20数年この業界に関わってきましたが、そもそもMacと出会わなければこうした仕事をすることもなかったでしょうし、現在パラレルスを通じてMac好きな皆さんと話ができるということもなかったでしょう。最初にMacを使ったときの“すごいんだよ”という感動を人に伝えていきたいというのは仕事の大きなモチベーションとなっています」

パラレルスの魅力は、Macという優れたUI/UXを持つ環境でシームレスにウィンドウズ用のソフトが使えることにある。しかも、それはコストや時間の節約にもつながると日下部さんは強調する。

「例えば、ブートキャンプでは環境を切り替えるために再起動する必要があります。ビジネスの現場では1日5~10回再起動することも珍しくないので、仮に切り換えに1回30秒かかるとして1日5分、1年で20時間、つまりほぼ1日が再起動するだけの時間になってしまいます。この時間は経営者でなくても無駄であるとご理解いただけると思います」

また、ブートキャンプではパーティションを切るためファイルを共有するのにコピーする必要が生じてしまうが、複数の環境を並列で使えるパラレルスであればウィンドウズ用ソフトで作成したファイルをドラッグ&ドロップでMacに素早く移動できる。さらにコヒーレンスモードにすれば、ウィンドウズのデスクトップを表示することもなくMac用のソフトと同じ感覚で利用できる。

「いまやコンピュータの業界でUXの重要性は当たり前になっていますが、本当の意味でのUXは情報が見やすくわかりやすいか、使いやすいかということにあると思います。言い換えれば、作業効率をいかに高めるかということでもあります。そのためパラレルスを紹介する機会があるときは、必ずUXの話をします。特にMacとウィンドウズではショートカットキーの割り当てからして違いますからね。そのプラットフォームの違いに戸惑わないようにパラレルスではどう工夫して簡単に操作できるかを話しています」

AUGMなどのアップルユーザイベントにも積極的に参加する日下部さんは、こうしたメッセージを地道に伝えていきたいという。

「パラレルスという会社自体はそこまで大きくはありませんが、こんな会社ですよ、こんな人がやっていますよ、仮想化にはこんなメリットがあるんですよということは伝えていきたいです。そもそもMacでウィンドウズが動くことをご存じないビギナーの方にも、Macの素晴らしさを伝えるのと同様に、パラレルスという選択肢があることを知ってほしい。イベントのあとに“パラレルスの良さがわかった”という一言をいただけると本当に感動します」

 

さまざまなシーンに使える仮想マシン

パラレルス・デスクトップ 10 for Macはシングルライセンスの通常版のほか、小規模事業者に便利な5ライセンス版がある。また、教育機関・学生向けのアカデミック版と大学生協版のほか、物理メディアが必要な人のためにUSBメディア版も用意されている。

 

情報デザインの原則に沿ったUI

複数のプラットフォームを扱うというソフトの性質上、ユーザインターフェイスの統一感が重視されている。仮想マシンの構成画面(上)は、従来バージョンよりも情報が整理されている。また、コントロールセンターの画面(下)も状況が直感的に把握しやすくなった。

 

リモート操作の常識を変える

OSデバイスからMacにリモートアクセスしてコントロールできる「パラレルス・アクセス(Parallels Access)」。これまでのリモートアクセスは一部の上級者向け機能という傾向があったが、誰でも必要なときに自宅やオフィスのファイルをiPhoneなどから取り寄せられる便利さを伝えたいと日下部氏は語る。特にiPhone 6プラスなどの大きな画面では、Macを快適に操作できる。ファイルマネージャやラウンチャーなどタッチパネルに最適化されたインターフェイスも備える。

 

日下部さんの鞄の中!

 

❶イベントでの講演や製品デモで飛び回る日下部さんは、Macも2台持ち。メールや書類作成など通常の仕事で使うのはMacBookエア。「荷物は多めです。TUMIのビジネスバッグはもう6年以上使っています」。

 

❷パラレルスのデモに使うのはMacBookプロ。パラレルス・アクセスのデモには、iPadの画面を「リフレクター(Reflector)」というアプリを使ってMacにエアプレイ出力、それをプロジェクタに出力しています」。

 

❸iPhoneは会社支給のiPhone 4SとプライベートのiPhone 6の2台持ち。モバイルルータやモバイルバッテリのほか、タッチペンも持ち歩く。海外とのスカイプ会議用にマイク搭載のB&O製イヤフォンも欠かせない。

 

❹アイデアを練るためにアナログなツールも活用する。名刺ケースやペンケースと一緒に持ち歩くのは方眼ノートとステッドラーの製図用シャープペンシル。「昔から考えながらグルグル回しています。2.0ミリの太芯で書きやすいですね」。ボールペンもポルシェデザインのものを愛用する。

 

【取材後記】
パラレルスの本社は米国シアトルのレントン、日下部さんによれば「野兎が出るような田舎」だという。米国は主にマーケティングとセールス、サポートの一部などの拠点で、メインの開発者はロシアのモスクワにいる。開発者は「とんでもないMacギーク」達ばかりとのこと。

 

【取材後記】
iPhoneやiPadなどモバイルが急速に普及しているが、Macが消えてなくなることはないと日下部さんは考えている。「5年後、10年後を想像するのは難しいですが、むしろパラレルス・アクセスのようなアプリからコンピュータの世界に入ってくる若い世代が登場するかもしれません」。