教育・医療・Biz iOS導入事例

 

「お役所仕事」の定義を変える佐賀県庁の変革

文●伊達千代

全国に先駆けて救急医療の現場にiPadを導入した佐賀県。県庁内の業務でも100台のiPadを導入し、仕事の効率化や職員のワークスタイル変革を行う。県民へのサービスの質の向上に直結する佐賀県の取り組みは、全国の行政・企業から大きな注目を集める。

 

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佐賀市中心部にある佐賀県庁舎。佐賀城跡内の北側のお堀端にある。手前が本館。奥にあるのが地上11階建て、地下2階建ての新行政棟だ。庁舎内には公衆無線LANも整備されている。

 

iPad導入で予想を上回る成果

「佐賀の県立高校で1人1台のタブレット端末を導入」「全国初の救急車でのiPad活用」「『恋するフォーチュンクッキー 佐賀県庁Ver.』が220万回再生!」など、ここ数年IT関連のメディアで「佐賀」の文字を見る機会が増えている。

佐賀県は有田・伊万里・唐津といった陶磁器、吉野ケ里遺跡に代表される歴史、“さがほのか”や佐賀牛などの農畜産業で全国に知られるが、九州地方の中では人口・面積ともにもっとも規模の小さな県でもある。その佐賀県が今、さまざまなメディアで取り上げられ、全国からこぞって視察に訪れる行政のICT最先端なのだという。我々はその取り組みの中心を探るべく、佐賀県庁へと向かった。

「私たちの取り組みは、そんなに高度なことではありません。仕事の現場でいかに効率を上げるか、困っている問題をどうやって解決するか、そのためにどんな環境を整えればいいかを考えて用意しているだけです。これは民間では当たり前の話ですが、同じことを行政ではあまりやっていなかったということでしょう。民間と違うのは、仕事の効率がそのまま県民へのサービスのスピードや質につながるということ、効率が上がれば使う税金も少なくて済むということです」(佐賀県 最高情報統括監・森本登志男氏)

現在、佐賀県庁が力を入れているのはテレワーク・モバイルワークだ。そのために試験的にiPadを100台導入し、この秋からはさらに1000台のタブレット端末を追加する。これらのiPadにはシトリックス(Citrix)社の仮想化クライアントソフトがインストールされており、ウィンドウズ環境が利用可能。外出先からも庁内のイントラにアクセスできる。

 

 

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シトリックス社の仮想化ソリューションを利用し、庁内のウィンドウズPCを仮想的にiPadに表示、ソフトウェアの操作やイントラへの接続を可能にしている。iPad上のウィンドウズ環境で作成したデータはイントラ上の共有スペースに保存され、ウィンドウズ環境と同期される。iPad導入の決め手は、他のタブレットと比較して環境の構築のしやすさと価格のバランスだった。

 

「県庁の仕事は意外と出張が多いんです。特に、土木事務所や県税事務所、農業改良普及センターといった現地機関では、土地所有者や農家さんの所へ行き事業の説明などを行うことがよくあります。もちろん全国への出張も。従来のやり方ですと、朝登庁してメールを見て出張先の地図をプリントアウト、移動して仕事をして戻って来てから写真や資料を取り込んで報告書を作る。残業して頑張っても終らないので、結果的に事業者や県民の方をお待たせしてしまうケースが増えてしまいます。iPadがあれば移動の空き時間にメールをチェックして返信したり、次の現場の情報を受け取ってマップを見ながら直接移動したり、外出先から庁舎内の人間とフェイスタイム(FaceTime)で仕事を進めることも可能です」(佐賀県 統括本部 情報・業務改革課 主査・円城寺雄介氏)

iPadを活用したテレワーク・モバイルワークの取り組みは、たったの1カ月で驚くほどの成果を見せたという。旅費の申請や休暇の届出、スケジュールの管理もすべてiPadから行える。議事録はその会議中にタイピングしたものが会議終了と同時にメールで配信可能。また、災害時や緊急の対応が必要な場合にも、登庁せずに情報の収集や発信ができる体制も整ったそうだ。

 

 

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佐賀県 最高情報統括監・森本登志男氏(右)と、佐賀県総括本部 情報・業務改革課主査・円城寺雄介氏(左)。森本氏は佐賀県の掲げる「全国最先端の電子県庁」を実現するために民間からの公募で採用され、佐賀県のICT化を推進する人物。一方の円城寺氏は99さがネットを実現した人物として知られ、その体験を「TED×Fukuoka」の壇上でプレゼンテーションしたほか、全国各地から招かれ講演も行っている。

 

やらされ感で人は動かない

何をするにも効率が悪く、時間がかかるうえに融通が利かない。一般人から見た「お役所仕事」にはそんなイメージが根強く残る。これを払拭するのに、ハードウェアやインフラを整えるだけではダメだと森本氏は考える。

「100台のiPadは公募によって配付先を決めました。各部署にどのように使いたいか、どんな成果が挙げられるかを考えて申請書を出してもらい、通り一遍のことしか書いていない申請は落としました。逆によく調べられ、独創的な使い方が提案されていた部署にはたくさん配付しました。このような方法を取ったのが重要なポイントだったと思います。なぜなら、真にiPadを渇望していた部署だからこそ、大きな成果を達成することができたと思うからです」

佐賀県庁では、このように「現場主義」を標榜する。テレワークの推進についても、まずは管理職に週一回の在宅・サテライト勤務の努力義務を課した。いくら制度を整えても一般の職員からは在宅勤務をいい出せない雰囲気があるため、管理職が実践してみることを勧めたのだ。

「iPadを救急車に配備してみて、成功のコツは現場の感動や共感だと実感しました。やらされ感では人は動いてくれません。現場でiPadを使って生き生きと業務をこなす姿を見ることでまた使いたい人が増え、それがまた次のステップへとつながります」(円城寺氏)

 

 

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県内すべての救急車にiPadを配備し、救急車内から病院の受け入れ状況をチェックできる「佐賀県医療機関情報・救急医療情報システム」(愛称:99さがネット)」。病院と救急隊が瞬時に共有できる「現場目線」の仕組みは2011年に導入された。

 

ICTを産業の活性化に

もう1つ、佐賀県庁のお役所仕事の定義を変えるのに大きな効果を上げているのが情報の発信だ。森本氏らは県庁内だけでなく、全国からの視察にも佐賀県のICTへの取り組みをオープンに見せ、他自治体との連携の輪を大きく広げている。今年4月に視察に訪れた消費者庁の森まさこ大臣は、佐賀県のテレワークへの取り組みにいたく感動し、「アベノミクス成長戦略の改訂版でもテレワークを打ち出したところだが、佐賀県ではすでに実施している。消費者庁でも採用する」と報道陣に語り、実際に7月から管理職からの試験運用を始めた。

全国の企業・自治体に先駆けて展開した『恋するフォーチュンクッキー 佐賀県庁Ver.』のユーチューブ動画も、ネットメディアをうまく活用した情報発信の好例といえよう。キレキレ!の県知事のダンスが話題となり全国に佐賀の活気をアピールしただけでなく、県庁の多岐にわたる業務を親しみを持って県民に知ってもらうことができた。

 

 

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佐賀県が取り組むさまざまな施策や事業を、これまでの行政の広報では届きにくかった層にも親しみを感じてもらいながら広く届けたいという思いから作成した「恋するフォーチュンクッキー 佐賀県庁Ver.」。2013年9月9日からAKB48の公式チャンネルにて公開されている。

 

また、佐賀県最高情報統括監室ではフェイスブックでの情報発信も活発に行う。プレゼン動画や各地からの視察の様子、ICT推進による業務の改善報告などが進行に合わせて発信され、その取り組みに刺激を受ける各自治体の行政職員からのコメントが寄せられる。それがネットで話題となり、またメディアで取り上げられることで、予算をかけることなく全国に最先端の電子県庁をアピールすることに成功している。

佐賀県のICTへの取り組みは、庁内の業務の効率化や県民サービスの向上だけにとどまらない。今後は佐賀県にしかない産業や工芸をICTの活用で全国の市場にアピールしたいと考えている。そのためにデータサイエンティストの育成、ITベンダーやWEBサービスのプロを誘致していきたいという。

「首都圏のIT企業に勤めた技術者にも、どんどんIターン/Uターンして来てもらいたいです。地方には、まったくIT化されていないエリアがたくさんありますから、そうした人に新たな事業を地方で始めませんか?と提案するのが次のテーマですね」(森本氏)

これから「最先端の電子県庁」との認知がいっそう広まれば、こうした経済活動にも大いに役に立つはずだ。1000台のタブレット端末導入の先も、まだまだ次の計画が進行中とのことから、既成概念に囚われない現場主導の「佐賀発」の新しい挑戦に今後も注目したい。

 

 

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50年に一度となる全国知事会議の佐賀開催を受け、各知事のアテンド役となる県職員はiPadで膨大な資料を共有・管理した。円城寺氏は舛添要一東京都知事に随行したそうだ。

 

 

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来年度の小学校5年生の社会科教科書。「くらしを支える情報」という項目が設けられ、佐賀県のICTへの取り組みが事例として解説されている。円城寺氏の話も掲載されている。

 

 

●佐賀県庁におけるタブレットの活用(一部)

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佐賀県 統括本部 情報・業務改革課の陣内清氏によると、左図のようにiPadの利活用は各部署で性格が異なる。業務でどのようにiPadを活用するかは、各部署や各職員が検討し申請を行う。

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【会議】
フェイスブックの佐賀県最高情報統括監室ページは、県民以外でも佐賀のICT活動を見ることのできる場所として活用されている。森本氏のタイムラインには、古川康知事とのフェイスタイム会議の様子もアップされ、大きな反響を呼んだ。

 

【アプリ】
配付されたiPadには現場で必要と思われるアプリを各自がダウンロードして活用することができる。基本になるアプリや不適切な使用の監視には、アイキューブドシステムズのMDM(モバイルデバイス管理)である「CLOMO」を利用している。

 

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