【第1回】第1章 食べやすくする調理の基本

　高齢になると、歯の本数が少なくなり顎の筋力が落ちてきます。咀嚼力や嚥下力も低下してくるので、あまり噛まずに済むやわらかいものを好んで食べがちですが、食物繊維の豊富な野菜を避けると、排便に影響が出たり、栄養のバランスも偏ってしまいます。
　噛む回数が減ると唾液の分泌量も減少し、口の中が乾いた状態が続きます。唾液の量が少ないと、食べ物がのどを通りにくくなり、むせ込みやつかえが起こりがちです。
　また、唾液には消化酵素が含まれているため、分泌量が減少することで胃腸への負担も大きくなります。
　高齢者のための介護食を調理する際には、食材の切り方を工夫したり、料理にとろみづけをしたりと、できるだけ噛みやすく、飲み込みやすい状態で提供するようにしましょう。
　この章では、咀嚼力や嚥下力が低下した方でも食べやすい調理のポイントをお伝えします。

●噛みやすくする工夫

　野菜の繊維質は、口の中に残りやすく飲み込みにくいですが、排便を促す効果もあるので切り方などを工夫して、なるべく摂取するようにしましょう。
　例えば、葉物野菜のキャベツや白菜は、繊維に対して垂直に切ると食べやすくなります。葉の硬い部分はあらかじめ取り除いておくと良いでしょう。
　また、ふろふき大根やブロッコリーの茎には十文字に隠し包丁を入れ、トマトは湯むきをして皮を取り除くと格段に食べやすくなります。
　きゅうりの蛇腹切りや、ナスに格子状の切れ目を入れるのも効果的です。

　肉料理の場合も、筋切りをしたり、すりこぎで肉の繊維を叩いたりすると、介護食としては避けがちなステーキなどもやわらかく食べることができます。
　また、タンパク質分解酵素を含む果汁に漬け込んでお肉そのものをやわらかくするという方法もあります。パイナップルやキウイなどの果汁に含まれるタンパク質分解酵素は、消化を助ける働きもするので一石二鳥です。
　ひき肉などを使ったやわらかいお肉料理も食べやすくて良いですが、たまには下ごしらえに一工夫して、ステーキなどにも挑戦してみましょう。

●飲み込みやすくする工夫

　飲み込む力が弱い方に提供する介護食には、片栗粉やとろみ調整剤で適度なとろみづけをしましょう。

　片栗粉は、ジャガイモのでんぷんを乾燥させたものです。2倍の量の水で溶いた後、煮立てた料理の中に加えて加熱するとでんぷんが糊化してとろみがつきます。

　とろみ調整剤は、加工でんぷんなどからできていますが、液状と粉末状のタイプがあります。どちらも加熱せずに料理にとろみをつけることができるので、手間がかからず便利です。
ただし、時間が経つと粘性が強くなることがあるため、入れ過ぎには気を付けましょう。
とろみが弱すぎると誤嚥しやすくなりますが、強すぎても飲み込みにくくなるので注意が必要です。

　他にも、寒天やゼラチン、生クリーム等の油脂類や卵なども飲み込みを良くする食材です。料理によって使い分けると良いでしょう。

　飲み込みが悪くなる原因の一つとして唾液の分泌量の減少が考えられます。唾液の代わりにとろみをつけることで、スムーズな飲み込みができるようになります。

●食べやすい食材と食べにくい食材

　咀嚼、嚥下がしやすい食材には、「繊維が少ない」「やわらかくて噛み切りやすい」などの特徴があります。料理をなるべく残さず食べてもらうためにも、前もって、お年寄りが食べやすい食材と食べにくい食材を知っておくようにしましょう。

＜食べやすい食材＞

ひき肉、しゃぶしゃぶ用の肉
白身魚、マグロの赤身、シラス
はんぺん、豆腐、卵
大根、カブ、ナス、カボチャ、山芋、里芋
短く切った麺
桃、バナナ、スイカ
ヨーグルト

＜食べにくい食材＞

肩肉、モモ肉
エビ、タコ、イカ
ちくわ、かまぼこ、油揚げ、こんにゃく
ゴボウ、タケノコ、レンコン、キノコ類
ワカメ
長い麺、餅
きな粉

　酸味の強い料理や粉っぽい食材、またトーストのようなパサパサしたもの、とろみのない水分は、むせ込みを起こしやすくします。
　日常的にむせる状態が続くと、誤嚥性肺炎を起こしたり、窒息につながったりする恐れもあるので十分な注意が必要です。

　一方、咀嚼力がそれ程弱くない方には、適度に噛み応えのある食材を噛んでもらうことで唾液の分泌を促すようにしましょう。