ついにヨーロッパヘ
一九六四年、日本悲願の大イベント、東京オリンピックが開催された。ついに戦後の復興は成し遂げられたのだ。国中が沸きかえっていた。
開会式の日、浜町のスタジオで仕事中ちょうど休憩で外に出ていたら、向こうの方から飛行機が飛んできて輪をえがき、その機から流れ出る鮮やかな五色のけむりは、みるみる内に交差して五輪の鎖になった。青い空に広がった大きな輪を見ていたら、大昔の父のスクラップ・ブックを思い出し、西洋かぶれが甦ってきた。あの大空の彼方、外国に行きたい! 私も行こうーっと。空想じゃない。今や実現可能だ。
この年、それまで一部の人しか行けなかった海外渡航が自由化になった。誰でも外国に行けるのだ。外貨の持ち出しワクは一人五百ドル。当時一ドルは三百六十円だから十八万円だ。