音楽学校へ 恐怖のオーケストラ
新学期、いよいよ音楽家になれる! 張切った。一時間目の授業はソルフェージュ。こんな言葉は初耳である。練習曲を歌うことだそう。真っ先に「ハイ、貴女」とさされ、狼狽ろうばいした私は蚊のなくような声で「あの、風邪ひいているんです」と言った。威風堂々の伊藤花子先生がこともなげにおっしゃる。「かぜ? あー声なんてどうでも良いの。はい歌って」その他にも旋律や和声の書取りあり。音というのは出したとたん、良し悪しがバレるのである。これは、とんでもない所に来てしまったと恐れをなしたが、弦楽科新入生が入るオーケストラの方はそれどころではなかったのである。指揮者である斎藤秀雄先生の、生徒に対するその真剣さと厳しさといったら……。難しい個所は皆の前で二人ずつ弾かされる。