2018.06.18
解析ツールの読み方・活かし方 Web Designing 2018年8月号
【PR】サポートコンテンツにおけるアクセス解析のあり方とは TC協会×ウェブ解析士協会?ワーキンググループレポート
製品やサービスの使用方法やFAQなど、ユーザーを助ける役割を持つ「サポートコンテンツ」。ここでもアクセス解析は不可欠だが、さまざまな要因により通常のWebコンテンツよりも浸透していない。マニュアルを扱う専門家の団体「一般財団法人テクニカルコミュニケーター協会(以下、TC協会)」は、現状を打破するためにワーキンググループを結成。「TC業界におけるWeb活用方法」についての勉強会を定期的に開催している。2018年5月9日に行われた勉強会では「サポートコンテンツにおけるアクセス解析の考え方」がテーマとなった。
Photo:黒田彰
TC業界がアクセス解析に苦戦する2つの要因
サポートコンテンツの制作にはテクニカルコミュニケーションの知見を持つ担当者が携わることが一般的だ。製品の仕様書やマニュアルの作成技術やユーザーに正しい情報を提供する術に長けている彼らだが、そこで用いてきた媒体は紙が主流であり、Webを通じた情報提供に慣れていなかった。そこでTC協会は、2012年頃からTC業界におけるWeb活用方法のあり方を考えるためにさまざまな取り組みをしてきた。
現在の重要取組事項の1つが「評価指標の定義」だ。サポートコンテンツという、直接的に売上アップにはつながりづらいページやコンテンツではどのようなKPI/KGIを設定すればよいのか、そのために必要なデータを取得・解析するための手法をどう身につけるか。この評価指標の定義のために、今、TC業界が力を注いでいるのがアクセス解析技術の習得だ。ユーザーの行動データを取得し、それをもとに問題点を洗い出し、改善につなげていく。こうしたサイクルを業界全体に浸透させていこうとしている。
だがその取り組みは、現在2つの要因によって苦戦している。1つはTC業界側にアクセス解析に関する知識を有した人材が少ないこと。Webにおける評価指標を定める文化がなかったため、どのデータに注目すればいいのか、データをどう扱えばいいのかといったことがわからず、せっかく取得したデータを効果的に活用することができていない。そして、もう1つの要因は、一般的なWebコンテンツとサポートコンテンツでは目標設定やユーザー定義が異なることだ。アクセス解析の知見を得るためにウェブ解析士の力を借りたとしても、「売上アップのためにデータを取得する」という観点に立つことが多いウェブ解析士と、「ユーザーの課題解決をするためにデータを取得する」という希望を持ったTC関係者の間に齟齬が生じ、話が前に進まないことが多かったのだ。
こうしたギャップを埋めていくために、今回のワーキンググループではウェブ解析士マスターの田所輝美雄氏を招き、サポートコンテンツにおいてどのような項目を、どのような切り口で見ればよいのかというテーマで講義の場を設けた。
複数のデータを掛け合わせることでユーザーの姿が浮かび上がる
今回のワーキンググループ開催に先立って、ヤマハの石川秀明氏より、同氏がサポートコンテンツの制作を手がけたアナログミキサー「MGシリーズ」のアクセスデータが田所氏に提供された。MGシリーズのWebサイトは、第一義的にはマーケティングを意識して制作されたものだが、製品の活用方法やドライバのダウンロード機能などがあり、サポートコンテンツとしての要素も持ち合わせているため、今回の題材として取り上げられた。このサイトのデータを事前に確認・分析した田所氏より、データが持つ意味や、それらを掛け合わせることで何が見えてくるのかが解説された。
田所氏がまず挙げたのが、MGシリーズのサイトを訪れるユーザーがどのようにしてやってくるのかという「流入チャネル」と、ユーザーが最初に閲覧するページである「ランディングページ」の関係性だ。
「Googleアナリティクス(以下、GA)では、ユーザーがどのような方法で自社サイトやコンテンツに訪れたのかを確認することができます。例えば検索サイトで何らかのキーワードを入力した場合は"Organic Search(自然検索)"と表示されますし、ブックマークやアプリ経由、もしくは直接URLを打ち込んで訪れた場合などには"Direct"と表示されます。例えばDirectで流入しているユーザーが多い場合、その製品やサービスをすでに知っている人が多いことが推測できます」(田所氏)
「MGシリーズのサイトの場合、Organic Searchで流入してきているユーザーが多くいました。そこからより細かく検索キーワードを見ることができればいいのですが、現在のGAはOrganic Searchにおいて検索されたキーワードをほとんど見ることができません。しかし、Organic Searchで来たユーザーがどのページにランディングしているかを併せて見れば、ユーザーがどのような意図を持ってコンテンツを見に来ているのかは推測できるのです」(同氏)
個別の製品ページがランディング先であればその製品に興味を持つユーザーである可能性が、製品一覧ページがランディング先であればブランドそのものに興味を持つユーザーである可能性が高いと推測できるというわけだ。
続いて田所氏は、製品概要ページにランディングし、その後ドライバのダウンロードページを閲覧したユーザーのセッションデータ(Webサイトに訪れてから離脱するまでの一連の流れ)について言及した。
「製品情報を求めて来たユーザーがその途中でダウンロード情報に興味を持つのかを見てみましょう。10ページ以上閲覧しているユーザーもいましたが、母数自体は非常に少ないことがわかりました。他方、別のデータではダウンロードページに直接訪れたユーザーもいました。この2つの情報から、“ダウンロードを目的とするユーザーは、『ダウンロード』というキーワードで検索するのではないか”という推測をすることができますし、“概要ページからダウンロードページへの導線を目立たせた方がいい”あるいは“ダウンロードページは、ドライバー、マニュアル、設計資料を別ページに独立させるべき”といった改善案の検討を進めることができるようになります」(田所氏)
一つひとつのデータは単なる数字にしか過ぎないが、このように複数のデータを掛け合わせていくことで、ユーザーの姿を浮かび上がらせることが可能になる。情報提供側が設定したユーザー像よりも実体に近いユーザーの情報を把握できれば、より良い施策や改善案を検討するための新たな切り口を見つけることができるのだ。
特定の指標を見続けることで知見は貯まる
田所氏の講義後、参加者の感想共有、質疑応答が行われた。まず、MGシリーズの事例を提供した石川氏。
「これまで1つの項目を見る単純な分析は実施してきましたが、今回のように複数のデータを掛け合わせると新たなものが見えてくることは非常に興味深かった。こうしたことができるようになるためにも、まずはそれぞれのデータの意味を理解することが重要であるとも感じました」
同様に、このワーキンググループの主宰者でもあるTC協会の黒田聡氏も、「TCに携わる人々がデータの意味を理解すること」の重要性を訴えた。
「TC業界の大多数は、ユーザーの行動をヒューリスティックに判断し、“このように読むはずだ”と定義しています。しかしWebの世界では、データに基づいてユーザーの行動を考えていく。つまり、データを取得し、それぞれの指標の持つ意味を頭の中に入れた状態で議論をしていくと、サポートサイトにおけるKPIやKGIが設定しやすくなるのではないかと思います。ただし、我々にはまだその知見が足りないので、ウェブ解析士の力を借りていくべきであるし、同時にウェブ解析士の方々が我々の目線に降りてきていただくことも必要なのではないかと思います」
さらに他の参加者からは「どのようにアクセス解析に取り組んでいけば知見が貯まるのか?」という質問が飛んだ。それに対して田所氏は「特定の指標を毎日GAで見続けていくこと」を推奨した。その指標とは、例えばPVだ(3)。ある月に1万PVを記録したサイトが、翌月には8,000PVになっていたとする。PVは「1回の訪問で閲覧したページ数」と「ユーザーの訪問数」という2つの要素からなる指標であるため、この2つの要素から減少の原因が見えてくる。
「1回の訪問で閲覧したページ数が減っているようであればコンテンツの力が落ちていると考えられますので、導線の改修やリニューアルの必要が出てくるでしょう。逆に、訪問者数が減っていれば、集客力が落ちているのでSEOの改善や広告施策の検討をする必要があります」(田所氏)
今求められる「データ解析カタログ」
最後に、参加者から田所氏に対して次のような要望が伝えられた。
「実際に会社でアクセス解析の重要性を説いても、必ずと言っていいほど“それをすることで何になるの?”と聞かれます。その問いに答えるためにも、“この数字をこのように分析していけば、こういうことがわかる”というデータ解析に関するカタログのようなものがあれば上層部を説得する強力な材料になります」
もちろん特定企業のデータをおいそれと世間に開示することはできないし、そもそもアクセス解析はその企業、そのサイトによって異なるため、そうしたカタログをつくることは簡単ではない。だが一方で、TC業界に限らず、思うようにデータを活用できていない企業やWeb担当者は多い。そうした人々もまた、「データ解析カタログ」のようなものを求めているだろう。現実的なハードルはあるものの、それができれば日本におけるデータ解析は一気に加速していくことになるかもしれない。
企画協力:一般財団法人テクニカルコミュニケーター協会